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伍 いにしえの誓約【前】
あなたに逢えたから【二】
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ナビに従い、しばらくは運転に集中していたのだが、街灯もまばらな山中に入り、瞳子はいったん車を停めた。
そのタイミングで、思い立ったようにセキが口をひらく。
「オレは、『マザコン』じゃないからな」
「は? ……って、ああ、あれね」
「かなり不本意だから、訂正させてくれ」
「……分かってるわよ、あの時は、ちょっと言ってみただけ」
道、間違えてないわよね、と、瞳子は電柱にある現在地を確認しながら笑う。
運転を再開しようとシフトレバーに置いた手に、セキが手を重ねてきた。
突然のことに驚いて見返せば、月と街灯に照らされた薄明かりのなか、まっすぐな眼差しが向けられていた。
「仮に、どちらかを選ばなければならない局面を迎えたら、迷うことなくオレは瞳子を選ぶ」
セキが告げる、残酷なほどに一途な想いが向けられた言葉の裏側。そこに彼の優しさがあることを、瞳子は知っている。
(私が、“陽ノ元”を選んだから?)
瞳子の孤独をセキはどこまで解っていて、この非情な決意を口にしたのだろうか?
この世界においても“陽ノ元”においても──寄る辺のない自分を『選ぶ』と告げる意味。
(だからこそ私も、“花嫁”としてセキに寄り添ってあげたいって、思えるんだ)
「──ありがとう、セキ」
「ん。……ま、そんな事態にならないよう、あらゆる手は尽くすけどな」
こつん、と。セキの額が瞳子の額に寄せられた。
「忘れないでくれ。オレの一番は、瞳子なんだってこと。他の、何を差し置いても、瞳子が大切なんだ」
額から伝わる体温が、優しい熱をもって瞳子に触れる。そのぬくもりが甘い痛みを伴って、瞳子の胸をしめつけた。
「私も。……アンタが一番大切。身体、本当に大丈夫よね……?」
思わず確認の意味でセキの胸の辺りに手を伸ばす。すると、ちょっと笑ってみせたセキが、伸ばした瞳子の手首をつかみ自らに引き寄せた。
「……そんなに心配なら、今晩、試してみるか」
「──は? って、えっ……!?」
耳もとで吐息まじりにささやかれ、ぎょっとなった瞳子に、くくっ……とセキが笑いだす。
「……冗談だ。一葉殿が待ちくたびれてるだろうから、そろそろ行くか。
あ、ちなみに瞳子。この道の折れた先が、もう白河家の私有地らしいぞ」
「なっ……! そういうことは早く言いなさいよ!」
「……悪い。瞳子に構って欲しくて、つい……」
「なにそれ、犬じゃあるまいし!」
「残念ながら、狼だしな」
「もうっ……バカじゃないの!」
助手席で大きな身をよじって笑い続けるセキに、何度目か分からぬ悪態をつき、瞳子は今度こそ目的地に向かい車を走らせた。
そのタイミングで、思い立ったようにセキが口をひらく。
「オレは、『マザコン』じゃないからな」
「は? ……って、ああ、あれね」
「かなり不本意だから、訂正させてくれ」
「……分かってるわよ、あの時は、ちょっと言ってみただけ」
道、間違えてないわよね、と、瞳子は電柱にある現在地を確認しながら笑う。
運転を再開しようとシフトレバーに置いた手に、セキが手を重ねてきた。
突然のことに驚いて見返せば、月と街灯に照らされた薄明かりのなか、まっすぐな眼差しが向けられていた。
「仮に、どちらかを選ばなければならない局面を迎えたら、迷うことなくオレは瞳子を選ぶ」
セキが告げる、残酷なほどに一途な想いが向けられた言葉の裏側。そこに彼の優しさがあることを、瞳子は知っている。
(私が、“陽ノ元”を選んだから?)
瞳子の孤独をセキはどこまで解っていて、この非情な決意を口にしたのだろうか?
この世界においても“陽ノ元”においても──寄る辺のない自分を『選ぶ』と告げる意味。
(だからこそ私も、“花嫁”としてセキに寄り添ってあげたいって、思えるんだ)
「──ありがとう、セキ」
「ん。……ま、そんな事態にならないよう、あらゆる手は尽くすけどな」
こつん、と。セキの額が瞳子の額に寄せられた。
「忘れないでくれ。オレの一番は、瞳子なんだってこと。他の、何を差し置いても、瞳子が大切なんだ」
額から伝わる体温が、優しい熱をもって瞳子に触れる。そのぬくもりが甘い痛みを伴って、瞳子の胸をしめつけた。
「私も。……アンタが一番大切。身体、本当に大丈夫よね……?」
思わず確認の意味でセキの胸の辺りに手を伸ばす。すると、ちょっと笑ってみせたセキが、伸ばした瞳子の手首をつかみ自らに引き寄せた。
「……そんなに心配なら、今晩、試してみるか」
「──は? って、えっ……!?」
耳もとで吐息まじりにささやかれ、ぎょっとなった瞳子に、くくっ……とセキが笑いだす。
「……冗談だ。一葉殿が待ちくたびれてるだろうから、そろそろ行くか。
あ、ちなみに瞳子。この道の折れた先が、もう白河家の私有地らしいぞ」
「なっ……! そういうことは早く言いなさいよ!」
「……悪い。瞳子に構って欲しくて、つい……」
「なにそれ、犬じゃあるまいし!」
「残念ながら、狼だしな」
「もうっ……バカじゃないの!」
助手席で大きな身をよじって笑い続けるセキに、何度目か分からぬ悪態をつき、瞳子は今度こそ目的地に向かい車を走らせた。
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