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帝都編
似た者同士
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リックに語ったデュラーンの計画の目的は概ね二つだった。
1.帝都での情報源の確保。
2.戦力の増強。
「君達の意思を尊重せずこんなところまで連れてきたのは本当にすまない。とはいえ君ら二人を無理やりにでも勧誘しようと思ったわけではない。ただ我々も少々……焦っていてね」
デュラーンは堂々としながらも、多少申し訳なさそうにリックに告げた。
どうやら御者が
『カスガさんがどうしても我々の協力を拒む場合、それなりの手段で協力せざるを得ない状況を作る必要がある』
なんて思わせ振りな言い方したのも何てことはない、リックを人質として監禁するといった乱暴な手段ではなく、恋人であるリックがカラカリ自由軍に参加すれば、カスガも自然と協力的になるだろうというだけの事のようだ。
間違った情報は、修正した方が良いと思いリックは言った。
「恋人ではありません」
「えーリッくんひどい! リッくんは照れ屋なんです、二人きりの時は子供六人は欲しいねって言ってます」
「言って無いです」
「盛りました、四人です」
「数じゃなく、そもそも言って無いです、恋人じゃあるまいし。今も僕をからかっているのを見てわかるように、カスガは情報源には不向きだと思いますよ」
「ふーむ、帝都までの同行をかって出る位だから将来を約束した仲だと、情報から私は分析したのだが……」
「ご明察です、素晴らしい分析力です」
そう言ってカスガはぱちぱちと拍手する。
「あのさぁ……」
情報を修正することも、暴走するカスガを止める事も諦めてリックは話を変えた。
「そもそも、何故僕を勧誘しようと? 僕がカラカリ自由軍を支持してるなんて情報はないでしょう?」
「正直に言おう。有名だからだ。ご両親が、だが。特に君のお父上ザック殿は同じ剣士としてその武術は見習うべき点は多い。とはいえ直接拝見したことはなく全て伝聞だが」
この世界では魔力には主に三つの使い方がある。
魔力を神との交信に使う神学術。
世界を解析し、望む事象を発現させる魔術。
そして魔力を使用した武術。
武術と魔術の一番の違いは、「武術」の発動には「認知」や「解析」は必要ない。代わりに体内で魔力を「練り上げる」必要がある。
大技を出すにはより大量の魔力を練り上げる必要があるが、武術の発動自体は通常の肉体の感覚の延長線上で行使が可能だ。
攻撃に魔力を込めて威力を上げたり、魔力そのものを飛ばして攻撃したり、防御に使用する。
魔術が認知範囲や解析を訓練するのに対して、武術は魔力の操作を訓練する。
学者を目指して勉強するか、アスリートとして訓練するかと言えば少し想像しやすくなるだろうか。
当然武術の使い手も魔術師に対抗するために最低限認知や解析を訓練するが、訓練の方向性がまるで違うため、両方を等しく極める事はかなり困難なこととされている。
「まぁ、あんな父ですが武術の使用能力では普通に世界最高峰の一人だと思います、残念ですが」
「残念? あと君の母上も、強力な魔術師だと聞いている。まぁ先程の魔術を見れば、君は母上から魔術の手解きを受けることの方が多かったようだが」
「手解かれてないです」
「えっ」
「完全に独学です」
「えっ」
「父も母も、僕に何も教えてくれませんでしたよ」
「……そうか」
実際、リックは二人から魔術も武術も習っていない。巻き込まれただけだ。
二人はそれぞれの分野で世界最高峰の使い手だが、だからと言って人に教えるのも同じように得意かと言えば別問題だ。
二人に共通している事がある──
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
リックが五歳の時、風光明媚で名が高かったガーレン山に家族でハイキングに出掛けた。
その評判通り美しい景色の中での昼食中、両親はリックの外見を話題にしはじめた。親バカ'sは、リックが将来とても外見に恵まれ、とても女性にモテるだろうという意見で一致した。
そこまではとても平和だった。
「何てったって、私に似てるし!」
寿命の長いエルフと竜神族の血をそれぞれ引いたベルルスコニは、今とほとんど変わらない外見で、エッヘンと腰に手を当てて言った。
「いやいや、俺にそっくりだろ」
ザックが言った。
「私よ」
「俺だ」
「目とかマジ私、顔の印象って目で決まるからつまり私」
「いや、眉毛が俺。目の印象って眉毛の形に結構引っ張られるからほぼ俺」
「私の眉毛がおかしいってこと?」
「コニー、君は大陸一、いや大陸史上最高の美女だから眉毛も完璧だけど今は似てる似てないの話だから」
「あなたもとてもかっこいいけど男の子は、母親似の方がかっこいいの、だから譲りなさい」
「真実とはつまり、理不尽に対して譲る必要がないことだって名言が今誕生したから、譲らん」
「素晴らしい名言だけど、とてもウザいわ。まぁ遺言として覚えといてあげる」
私の眉毛がおかしいってこと? あたりからリックはまた災害が起きるな、と予兆を感じていたが、その通りベルルスコニが認知と解析を始めた。
解析が終わり、高密言語を使用した彼女の独自魔法を使う。
呪文が完成し、彼女は世界に命令を与えた。
「星屑道標」
ベルルスコニはその膨大な魔力と解析力によって、過去の召喚を命じた。
彼女の召喚魔法『星屑道標』は大陸で起きた七大災害の一つ、アーソ地方に今も残る大規模クレーターを産み出した、隕石落下の再現だ。
隕石そのものが落下してくる訳ではなく、落下によって産み出された破壊のみが召喚された。
とはいえ、認知範囲を絞っているので実際破壊が起こるのはザックの周辺で、小さな集落が壊滅する程度だ。そしてちゃんと自分とリックを認知範囲外に設定した。
ザックはベルルスコニの術の発動の瞬間、練り上げた魔力を全身に行き渡らせる。
凄まじい爆音と共に破壊が起きる。
破壊は暫く続き……クレーターの中心に、腰まで埋まってはいるが全く無傷のザックがいた。
ベルルスコニとリックの周囲には破壊が起きていないので、クレーターの中に土でできた奇妙な塔のようになっている。
塔の上からクレーターを見下ろしながらベルルスコニは感心した顔でザックに声をかける。
「へえ、これも耐えちゃうんだ、過去あなたに使用した災害の中でも純粋な破壊力なら一番なのに」
「まぁ、前の三つよりはマシな攻撃だったよ、肩こりがほぐれた」
「肩なんて凝らないくせに」
「ふん、次は俺の番だな」
「良いわよ、楽しみ」
二人は似た者同士だ。
つまり強すぎて、全力を出せるのがお互いにしか存在しない。そして全力を出せるのがお互い楽しくてしょうがないのだ。
幼いリックはその後、土の塔の上から暴れ回る両親を見ながら、二人だけ楽しそうでズルい、僕も一緒に遊べるようになりたい、と思った。
二人の魔力が尽きたのを最後に、ガーレン山を風光明媚と表現するものは居なくなった。
1.帝都での情報源の確保。
2.戦力の増強。
「君達の意思を尊重せずこんなところまで連れてきたのは本当にすまない。とはいえ君ら二人を無理やりにでも勧誘しようと思ったわけではない。ただ我々も少々……焦っていてね」
デュラーンは堂々としながらも、多少申し訳なさそうにリックに告げた。
どうやら御者が
『カスガさんがどうしても我々の協力を拒む場合、それなりの手段で協力せざるを得ない状況を作る必要がある』
なんて思わせ振りな言い方したのも何てことはない、リックを人質として監禁するといった乱暴な手段ではなく、恋人であるリックがカラカリ自由軍に参加すれば、カスガも自然と協力的になるだろうというだけの事のようだ。
間違った情報は、修正した方が良いと思いリックは言った。
「恋人ではありません」
「えーリッくんひどい! リッくんは照れ屋なんです、二人きりの時は子供六人は欲しいねって言ってます」
「言って無いです」
「盛りました、四人です」
「数じゃなく、そもそも言って無いです、恋人じゃあるまいし。今も僕をからかっているのを見てわかるように、カスガは情報源には不向きだと思いますよ」
「ふーむ、帝都までの同行をかって出る位だから将来を約束した仲だと、情報から私は分析したのだが……」
「ご明察です、素晴らしい分析力です」
そう言ってカスガはぱちぱちと拍手する。
「あのさぁ……」
情報を修正することも、暴走するカスガを止める事も諦めてリックは話を変えた。
「そもそも、何故僕を勧誘しようと? 僕がカラカリ自由軍を支持してるなんて情報はないでしょう?」
「正直に言おう。有名だからだ。ご両親が、だが。特に君のお父上ザック殿は同じ剣士としてその武術は見習うべき点は多い。とはいえ直接拝見したことはなく全て伝聞だが」
この世界では魔力には主に三つの使い方がある。
魔力を神との交信に使う神学術。
世界を解析し、望む事象を発現させる魔術。
そして魔力を使用した武術。
武術と魔術の一番の違いは、「武術」の発動には「認知」や「解析」は必要ない。代わりに体内で魔力を「練り上げる」必要がある。
大技を出すにはより大量の魔力を練り上げる必要があるが、武術の発動自体は通常の肉体の感覚の延長線上で行使が可能だ。
攻撃に魔力を込めて威力を上げたり、魔力そのものを飛ばして攻撃したり、防御に使用する。
魔術が認知範囲や解析を訓練するのに対して、武術は魔力の操作を訓練する。
学者を目指して勉強するか、アスリートとして訓練するかと言えば少し想像しやすくなるだろうか。
当然武術の使い手も魔術師に対抗するために最低限認知や解析を訓練するが、訓練の方向性がまるで違うため、両方を等しく極める事はかなり困難なこととされている。
「まぁ、あんな父ですが武術の使用能力では普通に世界最高峰の一人だと思います、残念ですが」
「残念? あと君の母上も、強力な魔術師だと聞いている。まぁ先程の魔術を見れば、君は母上から魔術の手解きを受けることの方が多かったようだが」
「手解かれてないです」
「えっ」
「完全に独学です」
「えっ」
「父も母も、僕に何も教えてくれませんでしたよ」
「……そうか」
実際、リックは二人から魔術も武術も習っていない。巻き込まれただけだ。
二人はそれぞれの分野で世界最高峰の使い手だが、だからと言って人に教えるのも同じように得意かと言えば別問題だ。
二人に共通している事がある──
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
リックが五歳の時、風光明媚で名が高かったガーレン山に家族でハイキングに出掛けた。
その評判通り美しい景色の中での昼食中、両親はリックの外見を話題にしはじめた。親バカ'sは、リックが将来とても外見に恵まれ、とても女性にモテるだろうという意見で一致した。
そこまではとても平和だった。
「何てったって、私に似てるし!」
寿命の長いエルフと竜神族の血をそれぞれ引いたベルルスコニは、今とほとんど変わらない外見で、エッヘンと腰に手を当てて言った。
「いやいや、俺にそっくりだろ」
ザックが言った。
「私よ」
「俺だ」
「目とかマジ私、顔の印象って目で決まるからつまり私」
「いや、眉毛が俺。目の印象って眉毛の形に結構引っ張られるからほぼ俺」
「私の眉毛がおかしいってこと?」
「コニー、君は大陸一、いや大陸史上最高の美女だから眉毛も完璧だけど今は似てる似てないの話だから」
「あなたもとてもかっこいいけど男の子は、母親似の方がかっこいいの、だから譲りなさい」
「真実とはつまり、理不尽に対して譲る必要がないことだって名言が今誕生したから、譲らん」
「素晴らしい名言だけど、とてもウザいわ。まぁ遺言として覚えといてあげる」
私の眉毛がおかしいってこと? あたりからリックはまた災害が起きるな、と予兆を感じていたが、その通りベルルスコニが認知と解析を始めた。
解析が終わり、高密言語を使用した彼女の独自魔法を使う。
呪文が完成し、彼女は世界に命令を与えた。
「星屑道標」
ベルルスコニはその膨大な魔力と解析力によって、過去の召喚を命じた。
彼女の召喚魔法『星屑道標』は大陸で起きた七大災害の一つ、アーソ地方に今も残る大規模クレーターを産み出した、隕石落下の再現だ。
隕石そのものが落下してくる訳ではなく、落下によって産み出された破壊のみが召喚された。
とはいえ、認知範囲を絞っているので実際破壊が起こるのはザックの周辺で、小さな集落が壊滅する程度だ。そしてちゃんと自分とリックを認知範囲外に設定した。
ザックはベルルスコニの術の発動の瞬間、練り上げた魔力を全身に行き渡らせる。
凄まじい爆音と共に破壊が起きる。
破壊は暫く続き……クレーターの中心に、腰まで埋まってはいるが全く無傷のザックがいた。
ベルルスコニとリックの周囲には破壊が起きていないので、クレーターの中に土でできた奇妙な塔のようになっている。
塔の上からクレーターを見下ろしながらベルルスコニは感心した顔でザックに声をかける。
「へえ、これも耐えちゃうんだ、過去あなたに使用した災害の中でも純粋な破壊力なら一番なのに」
「まぁ、前の三つよりはマシな攻撃だったよ、肩こりがほぐれた」
「肩なんて凝らないくせに」
「ふん、次は俺の番だな」
「良いわよ、楽しみ」
二人は似た者同士だ。
つまり強すぎて、全力を出せるのがお互いにしか存在しない。そして全力を出せるのがお互い楽しくてしょうがないのだ。
幼いリックはその後、土の塔の上から暴れ回る両親を見ながら、二人だけ楽しそうでズルい、僕も一緒に遊べるようになりたい、と思った。
二人の魔力が尽きたのを最後に、ガーレン山を風光明媚と表現するものは居なくなった。
応援ありがとうございます!
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