夫婦喧嘩で最強モード!

長谷川凸蔵

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帝都編

平和な朝、呑気な二人

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 帝都に日が昇ってしばらく経っても、石畳の上は澄んだ空気に覆われている。その空気を撹拌かくはんする役目にでも任命されているかのように、帝都の住人たちがせわしなく、各々の目的地へ向かう、そんな朝の時間。

(まぁ、こうなるよなぁ)

(まぁ、こうなるわよね)

 学校までの道を、寄宿舎とネイトの屋敷の中間地点で待ち合わせ一緒に登校しながら、リックとカスガは同じことを考えていた。

 並んで歩く二人を、多くの生徒が遠巻きに見ている。なかにはリックやカスガと同じように待ち合わせして登校する友人同士なのだろう、ヒソヒソと明らかにこちらを見て話している。

 さすがに注目されてるのがわかる。

(カスガが何時もより待ち合わせに遅刻したと思ったら、髪を珍しくキチンと櫛で整えて来た。きっと寝癖が少なかったのだろう。みんなも注目しているし、いつもそうすれば良いのにもったいない。そうだ、寝癖の付きやすいカスガの為に、今作ろうと思ってる物のついでに髪をかし易くなる櫛でも考えようかな)

(昨日の食堂でのことが噂になってるのね、あのアイロン? さんもなかなかのものだったけど、やっぱりリッくん次元が違ったわ。ネイトさんくらいじゃ無いのかなぁ、帝都でも張り合えるの。学校行ったら色々聞かれるのかなぁ、ちょっと面倒だなぁ)

 能天気にズレた事を考えるリックの横で、カスガが思う。

 カスガは幼い頃からリックに魔術について聞いたり、たまにこっそり習ったりしていたので、実はそこそこ魔術が使える。もちろん高密言語や、その紋様化については、ちんぷんかんぷんだったが。

 大学の魔術のエリート達に混ざっても、まぁ授業には難なく着いていけるレベルだ。

 逆に言えば、大学のエリートと言ってもその程度だ。

 だから彼らにリックが与えたカルチャーショックが想像できる。

「今日だけだったらまだ良いけど、毎日だと面倒だなぁ」

 そう呟くカスガ。

「何とかするよ」

 答えるリック。

「ほんとに? 流石リッくん」

「任せて」

 朝からとりあえず、平和な二人だった。

 学校の門についた頃、恒例行事となりつつある出来事に遭遇した。

 ミルアージャの登校だ。

 ミルアージャの登校を待っている物もいるのだろう、門の前には何時も数人が待機している。

 馬車が開き、まず執事が降りてくる。次にミルアージャが執事の手を取り、静かに降りてくる。

 さっきまでリックやカスガの事をチラチラと見ていた生徒達もそちらを見る。注目が薄れ、カスガがほっとする。

 しかしそれは、早計だった。

 馬車から降りたミルアージャが、周囲の追従への返答もそこそこにリックの方へ歩いてきて、話し掛けた。

「あなたの魔術の実力を、見せて頂けないでしょうか?」

「ここでですか?」

 リックが一応聞く。法律で禁止してる訳ではないが、街中での認知や解析は無用なトラブルを招くため、控えるのがマナーだ。

 そういう意味では昨日の食堂での出来事は、マナー違反とも言える。

「いえ、そうね……あなた、今日の授業は?」

「武術の授業が午前中だけです」

「ふむ、わたくしは午後まで授業がありますので……夕方、城に訪ねて来ては頂けないでしょうか」

「夕方ですか~う~ん」

「何か、ご予定が?」

「いや、家族で夕食を取るのが、ルールというか……」

 そう言うリックに、まさかそのような理由で断られると思わなかったミルアージャは少し驚き……

「ふふふ、面白い方ね、いいわ私がお伺いします」

「ええっ!? わざわざ? そんなに急ぎなんですか?」

「私は気になると、すぐにでも確かめたくなるのです。確かネイトの家に下宿なさってるのよね?」

「よくご存知ですね」

「私は聞いた話を忘れません。どんな細かなことでも。ではこれで」

 そう言いながら、話は終わったとばかりに振り返り、歩きだしたが……

 ふと止まり、カスガの方を向く。

「カスガさん、今日の髪、いつものメロンのひび割れみたいなのと違って、お似合いですわ、それじゃ」

 そう言って歩くミルアージャに向かって

「ははは、それじゃカスガじゃなくて果実!」

「ちょ、カスガ……」

 カスガが言い、リックが嗜める。

 すると、聞こえたのかミルアージャがピクッと反応して戻ってくる。さすがに失礼だったとリックが心配していると……

 とても嬉しそうに、笑顔でカスガの肩を平手でバンバン叩き出した。

「ちょ、え、なに、痛った」

 結構本気で痛がるカスガ。

 ひとしきり叩くと満足したのか……

「では、ごきげんよう」

 そう言って軽くスキップで去っていく。

「何なの? あれ……なんかちょっと腹立つ」

「さぁ……?」

 一部始終を見ていた執事がカスガに近寄って来て……

「あのように嬉しそうなお嬢様は初めてです、よろしければ、ちょくちょくお城に叩かれに来ていただいてよろしいでしょうか」

 と頼んだ。

「行きませんけど!?」

 カスガが半ギレで答える。

「……残念です」

 そう言って執事は立ち去った。

「何なのよ……もー」

 せっかくとかした髪は、叩かれた時の勢いで、もうボサボサだった。
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