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7sideサーシャ
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「皇帝陛下、サーシャ・ブライドです。」
アイザック・フィルア・ルディスラ皇帝陛下に直々に呼び出され、私はああ、この時が来てしまったと思った。
実家ブライド公爵家から帰還を命じる書簡が届いたのはリリアナ様がヴァイン王国から帰ってくる一か月前のことだった。
私の実家は今は亡き、亡国フェデナント王国の筆頭公爵家だった。
軍家としても、有名で、代々フェデナント王国の王室の妃を輩出していた。
軍家と聞くと脳筋のようなイメージがあると思われるが、ブライド公爵家にはそれは当てはまらない。
剣も使え、計算もできる、それがブライド公爵家の子に求められる才能だった。
しかしごく稀に片方の才能を持たずに産まれてくる子もいた。
その場合、残酷なことだけれど、その子は秘密裏に殺される。
それがしきたりだった。
ブライド公爵家は軍家ではあって、フェデナント王国に仕えてはいたけれど、忠誠心が高かったわけではなかった。
忠誠心がないものをそばに置くのは危険だという考えは、その通り。
けれど、歴代の王は必ずブライド公爵家の者をそばに置いた。
ブライド公爵家は忠誠心はない。
ただし自分たちに危害さえ加わらなければ、裏切ることは決してない。
そう、あの異変が起こったとき、国の対応が遅れた理由の一つはブライド公爵家がフェデナント王国を見捨てたことだった。
自分たちに危険さえなければいつまでも国を守ってくれる、その定義に誤りはない。
ブライド公爵家は国に異変が起こるのを見て、自分たちがまきこまれる前に早々に国を捨てたのだ。
そのあとに頼ったのがルディスラ帝国だった。
その時には私は既にルディスラ帝国にいたから、ブライド公爵家は私を頼ってきたも同然だった。
私がいるのだから当然助けてくれるだろうと、軽い気持ちで来て、撃沈した。
私はリリアナ様にお仕えしていて、軍にもハル殿下の部下ですらない。
護衛騎士ではあるが軍所属ではない私を頼ったところではっきり言って意味がなかった。
私が軍に所属さえしていれば、私の実家は軍家として認められたかもしれない。
でも私はただの護衛騎士。
ブライド公爵家が軍家として認められることはなかった。
私は国を見捨てて逃げて来た家族が許せなかった。
恥ずかしかった。
それでも軍家か、と問い詰めてやりたかった。
でも、私はそうしなかった。
私が、そんな恥だらけの家の出身だとリリアナ様に知られたくなかった。
でも、ある日、実家から私宛に書簡が来て、ついに来たかと思った。
私が軍に所属していない以上、ブライド公爵家がこの国にいる意味はない、そう考えているらしかった。
私は一か八か皇帝陛下にその書簡を見せて、それでお願いをしようと思っていた。
『私が、ブライド公爵家と縁を切れるように助けてください。』
でも、その書簡はまだ見せてない。
だから今日、なんの話で呼ばれたのか私にはわからなかった。
だから謁見の間の扉を開けて、絶句した。
そこにはブライド公爵家の面々と、皇帝陛下、そしてサラサ様とシスム殿下がいた。
「サーシャ、君に聞きたいことがあるんだ。」
そう口を開いたのは皇帝陛下。
「君の実家はブライド公爵家で間違いないね?」
そう聞かれて、はい、そういうほかになかった。
そして、サラサ様の心底悲しそうな目を見て違和感を覚えた。
どうしてサラサ様がそんな表情をしているのか分からなかった。
一体・・・どうして・・・?
「ねえ、サーシャ、あなたが私を引きずり落そうと思っていたというのは本当なの?」
なにを言っているのか理解ができなかった。
「どういうことでしょうか?」
「あなたのお姉様がシスム殿下の正妃になるために私が浮気をしたという冤罪をかけて来たの。問い詰めたらサーシャの名前が出てきて。驚いたわ。まさか、サーシャが私を恨んでいただなんて。」
意味が全く分からない。
どうして私がサラサ様のことを恨むの?
敬愛することはあっても、恨むことはない。
不意にブライド公爵家の面々、父、母、姉、兄、弟の顔を見てすべてを悟った。
ブライド公爵家の汚点を全て私にかぶせる気なんだと。
ブライド公爵家は国を捨てた裏切り公爵家と揶揄されている。
けれど、そこに私を連れ戻すために国を離れざる負えなかったという理由をつければ?
悪いのは最初に国を離れた私になる。
そして、私を連れ戻しに来たブライド公爵家、その中でも姉イレイナがシスム殿下に恋をしてしまった。
けれどシスム殿下の正妃の座は既に埋まっている。
過激な姉の考えることだからサラサ様を殺せばいいと、それか引きずりおろせばいいと思ったのではないだろうか。
そこで出てくるのがまた私だ。
サラサ様を引きづりおろそうとした理由にシスム殿下への恋心(真実)をさらけ出し、そしてその思いに悩んでいた時に私からサラサ様に冤罪をかければきっと引きずりおろせる、そう聞いた。
サラサ様はそう話した。
「私は、この国に来てからブライド公爵家とやり取りしたことは一度もありません。会ってすらいません。」
私が言うと、イレイナ姉様が泣き出した。
「サーシャ!どうしてそんな嘘をつくの!私にあんなことを言ったのはサーシャなのに・・・。」
泣き出すイレイナ姉様を慰めるように兄のマーカスが優しくイレイナ姉様の頭を撫でた。
「サーシャ、そんな嘘をつかないで。もう、嘘をついてイレイナをこれ以上貶めないで。」
お母様の言葉に私は絶望した。
昔からそうだった。
お母様もお父様も何かあればすぐにイレイナ姉様のところにとんでいく。
転んで足を擦りむいた、風邪をひいた、虫に刺された。
笑えないような些細なことで姉様は騒いで、そのたびにお母様もお父様もお兄様も弟も。
皆が姉様のところに行った。
私が熱を出したら体調管理がなっていない、と怒るばかりで。
こんな人たち、家族なんかじゃない。
ずっとそう思っていることで、何とか正常で、まともでいられた。
「サーシャ、本当のことを言って。私はサーシャの言葉を信じるわ。貴女が私に仕えてくれた時、あなたは私に尽くしてくれた。嘘じゃない忠誠を向けてくれた。貴女の言葉に嘘はないわ。」
サラサ様そう言ってくれて、私は驚いた。
「どうして、そんなに私を・・・信じてくれるのですか?」
「だって私達、友達でしょう?」
その言葉に涙があふれた。
「大丈夫だから、本当のことを言って?」
サラサ様は私を優しく抱きしめた。
「私は・・・やっていません。リリアナ様が戻る前にこれを受け取って、近日中に陛下にお話ししようと思っていたのです。」
私がサラサ様に書簡を渡すと、中身を読んだサラサ様は驚きと怒りの感情がごちゃ混ぜになったような表情で私を見た。
「サーシャ、どうしてもっと早くに私に見せてくれなかったの!?見せてくれたら、こんな茶番、私が許さなかったのに。」
その一言に皇帝陛下がたち上がり、サラサ様に近づいた。
「サラサ、私にもその書簡を見せて。」
サラサ様は皇帝陛下に書簡を渡した。
それを見て、ブライド公爵家の面々は顔色を変えた。
まさか私がこの場に持ってくるとは考えすらしていなかったらしい。
そして、書簡を読んだ皇帝陛下は無言で書簡をシスム殿下にまわした。
「これは!?」
内容を読んで、シスム殿下は驚愕の声をあげる。
その表情を見て、ブライド公爵家の面々は青ざめた。
それぞれの顔色がだんだんと悪くなっていく。
「ルディスラ帝国を捨てる?サーシャが軍に入ってないからという理由で?君達正気なの?」
読み終わったシスム殿下が冷たい表情でブライド公爵家の面々を見る。
「ええと、それは・・・。」
返事に窮するお父様にシスム殿下がため息をついた。
「父上・・・。」
「ああ、もちろんだ。」
シスム殿下から声をかけられた皇帝陛下はうなづくと、ブライド公爵家の面々に向かって言い放った。
「その様子だとサーシャがやったというのも嘘だろう。」
信じてもらえた・・・。
その日、私はブライド公爵家と縁を切った。
そしてその日をもってブライド公爵家は没落、そして一族郎党処刑となった。
理由は第一皇子シスム殿下の正妃であるサラサ様を貶めようとしたからだった。
どこにも私の名前はのっていない。
皇室の皇帝陛下とシスム殿下、そしてサラサ様の優しさがとても嬉しかった。
アイザック・フィルア・ルディスラ皇帝陛下に直々に呼び出され、私はああ、この時が来てしまったと思った。
実家ブライド公爵家から帰還を命じる書簡が届いたのはリリアナ様がヴァイン王国から帰ってくる一か月前のことだった。
私の実家は今は亡き、亡国フェデナント王国の筆頭公爵家だった。
軍家としても、有名で、代々フェデナント王国の王室の妃を輩出していた。
軍家と聞くと脳筋のようなイメージがあると思われるが、ブライド公爵家にはそれは当てはまらない。
剣も使え、計算もできる、それがブライド公爵家の子に求められる才能だった。
しかしごく稀に片方の才能を持たずに産まれてくる子もいた。
その場合、残酷なことだけれど、その子は秘密裏に殺される。
それがしきたりだった。
ブライド公爵家は軍家ではあって、フェデナント王国に仕えてはいたけれど、忠誠心が高かったわけではなかった。
忠誠心がないものをそばに置くのは危険だという考えは、その通り。
けれど、歴代の王は必ずブライド公爵家の者をそばに置いた。
ブライド公爵家は忠誠心はない。
ただし自分たちに危害さえ加わらなければ、裏切ることは決してない。
そう、あの異変が起こったとき、国の対応が遅れた理由の一つはブライド公爵家がフェデナント王国を見捨てたことだった。
自分たちに危険さえなければいつまでも国を守ってくれる、その定義に誤りはない。
ブライド公爵家は国に異変が起こるのを見て、自分たちがまきこまれる前に早々に国を捨てたのだ。
そのあとに頼ったのがルディスラ帝国だった。
その時には私は既にルディスラ帝国にいたから、ブライド公爵家は私を頼ってきたも同然だった。
私がいるのだから当然助けてくれるだろうと、軽い気持ちで来て、撃沈した。
私はリリアナ様にお仕えしていて、軍にもハル殿下の部下ですらない。
護衛騎士ではあるが軍所属ではない私を頼ったところではっきり言って意味がなかった。
私が軍に所属さえしていれば、私の実家は軍家として認められたかもしれない。
でも私はただの護衛騎士。
ブライド公爵家が軍家として認められることはなかった。
私は国を見捨てて逃げて来た家族が許せなかった。
恥ずかしかった。
それでも軍家か、と問い詰めてやりたかった。
でも、私はそうしなかった。
私が、そんな恥だらけの家の出身だとリリアナ様に知られたくなかった。
でも、ある日、実家から私宛に書簡が来て、ついに来たかと思った。
私が軍に所属していない以上、ブライド公爵家がこの国にいる意味はない、そう考えているらしかった。
私は一か八か皇帝陛下にその書簡を見せて、それでお願いをしようと思っていた。
『私が、ブライド公爵家と縁を切れるように助けてください。』
でも、その書簡はまだ見せてない。
だから今日、なんの話で呼ばれたのか私にはわからなかった。
だから謁見の間の扉を開けて、絶句した。
そこにはブライド公爵家の面々と、皇帝陛下、そしてサラサ様とシスム殿下がいた。
「サーシャ、君に聞きたいことがあるんだ。」
そう口を開いたのは皇帝陛下。
「君の実家はブライド公爵家で間違いないね?」
そう聞かれて、はい、そういうほかになかった。
そして、サラサ様の心底悲しそうな目を見て違和感を覚えた。
どうしてサラサ様がそんな表情をしているのか分からなかった。
一体・・・どうして・・・?
「ねえ、サーシャ、あなたが私を引きずり落そうと思っていたというのは本当なの?」
なにを言っているのか理解ができなかった。
「どういうことでしょうか?」
「あなたのお姉様がシスム殿下の正妃になるために私が浮気をしたという冤罪をかけて来たの。問い詰めたらサーシャの名前が出てきて。驚いたわ。まさか、サーシャが私を恨んでいただなんて。」
意味が全く分からない。
どうして私がサラサ様のことを恨むの?
敬愛することはあっても、恨むことはない。
不意にブライド公爵家の面々、父、母、姉、兄、弟の顔を見てすべてを悟った。
ブライド公爵家の汚点を全て私にかぶせる気なんだと。
ブライド公爵家は国を捨てた裏切り公爵家と揶揄されている。
けれど、そこに私を連れ戻すために国を離れざる負えなかったという理由をつければ?
悪いのは最初に国を離れた私になる。
そして、私を連れ戻しに来たブライド公爵家、その中でも姉イレイナがシスム殿下に恋をしてしまった。
けれどシスム殿下の正妃の座は既に埋まっている。
過激な姉の考えることだからサラサ様を殺せばいいと、それか引きずりおろせばいいと思ったのではないだろうか。
そこで出てくるのがまた私だ。
サラサ様を引きづりおろそうとした理由にシスム殿下への恋心(真実)をさらけ出し、そしてその思いに悩んでいた時に私からサラサ様に冤罪をかければきっと引きずりおろせる、そう聞いた。
サラサ様はそう話した。
「私は、この国に来てからブライド公爵家とやり取りしたことは一度もありません。会ってすらいません。」
私が言うと、イレイナ姉様が泣き出した。
「サーシャ!どうしてそんな嘘をつくの!私にあんなことを言ったのはサーシャなのに・・・。」
泣き出すイレイナ姉様を慰めるように兄のマーカスが優しくイレイナ姉様の頭を撫でた。
「サーシャ、そんな嘘をつかないで。もう、嘘をついてイレイナをこれ以上貶めないで。」
お母様の言葉に私は絶望した。
昔からそうだった。
お母様もお父様も何かあればすぐにイレイナ姉様のところにとんでいく。
転んで足を擦りむいた、風邪をひいた、虫に刺された。
笑えないような些細なことで姉様は騒いで、そのたびにお母様もお父様もお兄様も弟も。
皆が姉様のところに行った。
私が熱を出したら体調管理がなっていない、と怒るばかりで。
こんな人たち、家族なんかじゃない。
ずっとそう思っていることで、何とか正常で、まともでいられた。
「サーシャ、本当のことを言って。私はサーシャの言葉を信じるわ。貴女が私に仕えてくれた時、あなたは私に尽くしてくれた。嘘じゃない忠誠を向けてくれた。貴女の言葉に嘘はないわ。」
サラサ様そう言ってくれて、私は驚いた。
「どうして、そんなに私を・・・信じてくれるのですか?」
「だって私達、友達でしょう?」
その言葉に涙があふれた。
「大丈夫だから、本当のことを言って?」
サラサ様は私を優しく抱きしめた。
「私は・・・やっていません。リリアナ様が戻る前にこれを受け取って、近日中に陛下にお話ししようと思っていたのです。」
私がサラサ様に書簡を渡すと、中身を読んだサラサ様は驚きと怒りの感情がごちゃ混ぜになったような表情で私を見た。
「サーシャ、どうしてもっと早くに私に見せてくれなかったの!?見せてくれたら、こんな茶番、私が許さなかったのに。」
その一言に皇帝陛下がたち上がり、サラサ様に近づいた。
「サラサ、私にもその書簡を見せて。」
サラサ様は皇帝陛下に書簡を渡した。
それを見て、ブライド公爵家の面々は顔色を変えた。
まさか私がこの場に持ってくるとは考えすらしていなかったらしい。
そして、書簡を読んだ皇帝陛下は無言で書簡をシスム殿下にまわした。
「これは!?」
内容を読んで、シスム殿下は驚愕の声をあげる。
その表情を見て、ブライド公爵家の面々は青ざめた。
それぞれの顔色がだんだんと悪くなっていく。
「ルディスラ帝国を捨てる?サーシャが軍に入ってないからという理由で?君達正気なの?」
読み終わったシスム殿下が冷たい表情でブライド公爵家の面々を見る。
「ええと、それは・・・。」
返事に窮するお父様にシスム殿下がため息をついた。
「父上・・・。」
「ああ、もちろんだ。」
シスム殿下から声をかけられた皇帝陛下はうなづくと、ブライド公爵家の面々に向かって言い放った。
「その様子だとサーシャがやったというのも嘘だろう。」
信じてもらえた・・・。
その日、私はブライド公爵家と縁を切った。
そしてその日をもってブライド公爵家は没落、そして一族郎党処刑となった。
理由は第一皇子シスム殿下の正妃であるサラサ様を貶めようとしたからだった。
どこにも私の名前はのっていない。
皇室の皇帝陛下とシスム殿下、そしてサラサ様の優しさがとても嬉しかった。
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