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ゲームと違う
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「私もうあなたと一緒にいるのはこりごりなんですの。離縁していただけないのら浮気の証拠をしかるべきところに提出させていただきますが。」
妻であるトリシアの言葉にロイドは焦る。
「そ、それだけはやめてくれ!!」
「やめて欲しいのなら離縁して。当然慰謝料は払ってもらうわ。あなたの差別と浮気が原因なんだから。」
トリシアの今まで見たことがないほどの冷たい表情にロイドは顔を歪めた。
「浮気と言ってもたった数回だぞ!?見逃してくれ!」
「嫌だわ。冗談は寝てから言ってくださる?たった数回?おかしなことを言うのね。あなたのお相手は娼婦ではなくて平民でしょう?娼婦ならば浮気にはならないもの。けれどお相手が平民になるとわけが違うのはあなたでも分かるわよね?」
トリシアの嫌味ったらしい言い方にロイドはうつむいた。
「・・・それが本性なのか?」
「あら、やだ。おかしなことを言わないで。私、最初はこうでしたわよ?それでも私を選んだのはあなた。全ての責はあなたにあるということがなぜわからないのかしら。」
トリシアは深いため息をつくと。席を立った。
「今日中に離縁届にサインしてくださいね。」
トリシアはテーブルに自分の名前が入った離縁届を叩きつけると扉に向かう。
「お母様、待ってください!」
ラリシエルとローズリアは慌てて後を追いかける。
残されたロイドは離縁届を見つめた。
「アヴェイン、ペンを。」
「こちらです。」
執事のアヴェインは音もなくあらわれ、ペンをさしだした。
「これでいいだろう。アヴェイン提出しておけ。」
サインした離縁届をアヴェインに渡した。
「・・・かしこまりました。」
複雑な表情をしたアヴェインは離縁届を受け取るとその足でトリシアの部屋に向かった。
「奥様、アヴェインでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ。」
観音開きの扉が中に控える侍女によって開けられた。
「失礼します。」
中に入った執事は深く礼をす。
「その様子からするとサインはしてくれたのね。もう少し駄々をこねると思っていたのにつまらないわ。」
部屋の真ん中に置かれている上座のソファーに座ってお茶を嗜んでいたトリシアは微笑む。
「こちらでございます。」
「・・・私が出しておくわ。あなたは業務に戻りなさい。」
アヴェインからサイン済みの離縁届を受け取り、不備がないかを確認したトリシアはアヴェインに退室するよう促した。
「かしこまりました。」
去り際にアヴェインはちらりと奥の衣裳部屋を見た。
開かれた扉から複数人の侍女がトリシアの私物のドレスや宝石、ネックレス等々を箱の中にしまっている。
「どうしたのかしら、アヴェイン。」
足が止まっていたようで、トリシアに不審げに声をかけられ、アヴェインは冷汗をかいた。
「申し訳ありません。本当に離縁するのだなとしみじみと思いまして。」
「あなたにはよくしてもらったのにこんな形でここを離れることになってごめんなさいね。とはいえあなたは公爵家に代々仕える執事家でしょう。私が侯爵家から連れてきた侍女は全員連れて帰りますからそのつもりでお願いね。苦労を掛けるわね、アヴェイン。」
トリシアが申し訳なさそうに言う。
「いいえ、悪いのは旦那様です。奥様は何も悪くないです。」
アヴェインは首をふって否定する。
「ふふ、そう言って貰えてうれしいわ。ところであなたはこの後どうするのかしら?」
「そうですね。もう公爵家もながくはないようですから、辞職します。どこか良い働き先が見つかるといいのですが。」
アヴェインが困ったように言う。
「そうなの?それなら私の友人の家とかどうかしら?今、執事が足りていないらしいの。給料もここよりは高いし、有給休暇もここより長いし、ブラックでないし、何より当主が良い方だから苦労はしないと思うわ。」
トリシアの言葉にアヴェインは目を丸くした。
「そんな良い所を紹介してもらえるだなんて光栄です。」
「シュナイダー侯爵家なのだけど。どうかしら?」
「・・・奥様の実家ですよね?」
「あら、ばれた?」
トリシアはいたずらがばれた少女のような反応をみせる。
「なぜ・・・?」
「あなたには恩があるから。つらい思いをして欲しくないの。」
アヴェインの目から涙が零れ落ちる。
「ありがとうございます、奥様。」
――――――――――――――――――――
8月11日の分まで予約しました。登場人物紹介に宰相の名前を追加しました。
妻であるトリシアの言葉にロイドは焦る。
「そ、それだけはやめてくれ!!」
「やめて欲しいのなら離縁して。当然慰謝料は払ってもらうわ。あなたの差別と浮気が原因なんだから。」
トリシアの今まで見たことがないほどの冷たい表情にロイドは顔を歪めた。
「浮気と言ってもたった数回だぞ!?見逃してくれ!」
「嫌だわ。冗談は寝てから言ってくださる?たった数回?おかしなことを言うのね。あなたのお相手は娼婦ではなくて平民でしょう?娼婦ならば浮気にはならないもの。けれどお相手が平民になるとわけが違うのはあなたでも分かるわよね?」
トリシアの嫌味ったらしい言い方にロイドはうつむいた。
「・・・それが本性なのか?」
「あら、やだ。おかしなことを言わないで。私、最初はこうでしたわよ?それでも私を選んだのはあなた。全ての責はあなたにあるということがなぜわからないのかしら。」
トリシアは深いため息をつくと。席を立った。
「今日中に離縁届にサインしてくださいね。」
トリシアはテーブルに自分の名前が入った離縁届を叩きつけると扉に向かう。
「お母様、待ってください!」
ラリシエルとローズリアは慌てて後を追いかける。
残されたロイドは離縁届を見つめた。
「アヴェイン、ペンを。」
「こちらです。」
執事のアヴェインは音もなくあらわれ、ペンをさしだした。
「これでいいだろう。アヴェイン提出しておけ。」
サインした離縁届をアヴェインに渡した。
「・・・かしこまりました。」
複雑な表情をしたアヴェインは離縁届を受け取るとその足でトリシアの部屋に向かった。
「奥様、アヴェインでございます。入ってもよろしいでしょうか?」
「かまいませんよ。」
観音開きの扉が中に控える侍女によって開けられた。
「失礼します。」
中に入った執事は深く礼をす。
「その様子からするとサインはしてくれたのね。もう少し駄々をこねると思っていたのにつまらないわ。」
部屋の真ん中に置かれている上座のソファーに座ってお茶を嗜んでいたトリシアは微笑む。
「こちらでございます。」
「・・・私が出しておくわ。あなたは業務に戻りなさい。」
アヴェインからサイン済みの離縁届を受け取り、不備がないかを確認したトリシアはアヴェインに退室するよう促した。
「かしこまりました。」
去り際にアヴェインはちらりと奥の衣裳部屋を見た。
開かれた扉から複数人の侍女がトリシアの私物のドレスや宝石、ネックレス等々を箱の中にしまっている。
「どうしたのかしら、アヴェイン。」
足が止まっていたようで、トリシアに不審げに声をかけられ、アヴェインは冷汗をかいた。
「申し訳ありません。本当に離縁するのだなとしみじみと思いまして。」
「あなたにはよくしてもらったのにこんな形でここを離れることになってごめんなさいね。とはいえあなたは公爵家に代々仕える執事家でしょう。私が侯爵家から連れてきた侍女は全員連れて帰りますからそのつもりでお願いね。苦労を掛けるわね、アヴェイン。」
トリシアが申し訳なさそうに言う。
「いいえ、悪いのは旦那様です。奥様は何も悪くないです。」
アヴェインは首をふって否定する。
「ふふ、そう言って貰えてうれしいわ。ところであなたはこの後どうするのかしら?」
「そうですね。もう公爵家もながくはないようですから、辞職します。どこか良い働き先が見つかるといいのですが。」
アヴェインが困ったように言う。
「そうなの?それなら私の友人の家とかどうかしら?今、執事が足りていないらしいの。給料もここよりは高いし、有給休暇もここより長いし、ブラックでないし、何より当主が良い方だから苦労はしないと思うわ。」
トリシアの言葉にアヴェインは目を丸くした。
「そんな良い所を紹介してもらえるだなんて光栄です。」
「シュナイダー侯爵家なのだけど。どうかしら?」
「・・・奥様の実家ですよね?」
「あら、ばれた?」
トリシアはいたずらがばれた少女のような反応をみせる。
「なぜ・・・?」
「あなたには恩があるから。つらい思いをして欲しくないの。」
アヴェインの目から涙が零れ落ちる。
「ありがとうございます、奥様。」
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8月11日の分まで予約しました。登場人物紹介に宰相の名前を追加しました。
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