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一目惚れsideシオン
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あの時、電車に乗ってアスラ王国に帰国する途中だった。電車に乗ってすぐ兄である第1王子クリスが婚約者である公爵令嬢に冤罪で婚約破棄を告げたのだ。そしてその公爵令嬢を国外追放にしようとした。直前で第2王子ヴィンセントがとめたから良かったもののもしとめていなければどうなっていたか、と私は戦慄した。その公爵令嬢の実家はアスラ王国でも権力を握る筆頭公爵家だった。派閥のトップでもあり、敵に回せば内乱に発展する恐れがあった。連絡によるとクリス兄上は王位継承権剥奪の上、北の塔に一生涯幽閉される。その公爵令嬢はヴィンセント兄上との婚約を望み、父上はそれを許可した。しかし、ヴィンセント兄上には侯爵家の令嬢という婚約者がいた。そして他の王子にも婚約者がいた。私を除いて。父上は私の婚約者にその侯爵家令嬢を検討しているらしい。はっきり言って迷惑だ。ヴィンセント兄上の婚約者といえば我儘で癇癪持ちの性格に難ありの浪費家。侯爵家自体、黒い噂があった。はっきり言って婚約だなんてしたくなかった。兄上が起こした事件よりも正直、その侯爵家令嬢と結婚しなければいけないのかもしれないと考えると気分が沈んだ。個室にいても側近たちが侯爵家令嬢との婚約をしきりに勧めてくるのが癪に障り、4号車と5号車の間の連結部分に逃げてきた。邪魔にならない乗降扉によりかかり、うつむいて未来のことを考えていると声を掛けられた。
「あの、大丈夫ですか?」
はっとして顔を上げた。綺麗な声だった。声の主は私のことを心配そうに見ていた。綺麗な顔立ちの女性だった。私と同じくらいの年頃で邪気のないその綺麗な目を見て心臓が高鳴った。顔が赤くなるのが分かって慌てて立ち去った。
「あ、ああ。すまない。なんでもない。」
「ええ、なんだったんだろう。」
女性が首をかしげながら5号車に戻っていく。一目惚れだった。4号車の自分の個室に戻った。側近たちは私がいない間に届いた速達の内容を読んでどこか不満そうな様子だった。
「なんの手紙だ?」
「あ、殿下。国王陛下から速達です。」
「婚約に関してか・・・。煩わしい。」
その一言に側近の一人が言った。
「殿下、オレリア様はとても素敵な御方です。殿下に相応しい方ですよ。」
「そんな相応しい方が我儘で癇癪持ちの傲慢な令嬢だとお前は知らないのか?ヴィンセント兄上が事あるごとに言っていた。あんな女と婚約なんてしたくなかった、と。品行方正なヴィンセント兄上が嫌う令嬢がまともなわけないだろう。」
私の言葉に側近たちは顔を顰めた。ああ、やはり彼らは侯爵の手の者か。なぜこんな利用価値のない私に執着する?手紙を受け取り内容を確認した。
シオン・ローヴェル・アスラ
帰国の途についていることは連絡によりしっておる。ヴィンセントの婚約者が変わった件で、侯爵はそなたとの婚約を切望しておる。しかしあやつは黒い男だ。そなたは側妃の子とは言えど我が唯一愛した女性の子である。そなたの意思を尊重したうえで決定したい。ヴィンセントよりそなたがこの婚約話を嫌っていることは知っておる。侯爵にはうまく話をつけておくが故、そなたは本当に愛する者と結婚すると良い。令嬢に難癖をつけられても屈するな。我が許す。愛する者ができ次第早急に連絡せよ。
そなたの唯一の父アーノイド
父上・・・。さすがわかってらっしゃる。感謝いたします。私は、私はあの彼女と結婚したい。一目惚れだと知ったら父上はなんとおっしゃるかな・・・。
「あの、大丈夫ですか?」
はっとして顔を上げた。綺麗な声だった。声の主は私のことを心配そうに見ていた。綺麗な顔立ちの女性だった。私と同じくらいの年頃で邪気のないその綺麗な目を見て心臓が高鳴った。顔が赤くなるのが分かって慌てて立ち去った。
「あ、ああ。すまない。なんでもない。」
「ええ、なんだったんだろう。」
女性が首をかしげながら5号車に戻っていく。一目惚れだった。4号車の自分の個室に戻った。側近たちは私がいない間に届いた速達の内容を読んでどこか不満そうな様子だった。
「なんの手紙だ?」
「あ、殿下。国王陛下から速達です。」
「婚約に関してか・・・。煩わしい。」
その一言に側近の一人が言った。
「殿下、オレリア様はとても素敵な御方です。殿下に相応しい方ですよ。」
「そんな相応しい方が我儘で癇癪持ちの傲慢な令嬢だとお前は知らないのか?ヴィンセント兄上が事あるごとに言っていた。あんな女と婚約なんてしたくなかった、と。品行方正なヴィンセント兄上が嫌う令嬢がまともなわけないだろう。」
私の言葉に側近たちは顔を顰めた。ああ、やはり彼らは侯爵の手の者か。なぜこんな利用価値のない私に執着する?手紙を受け取り内容を確認した。
シオン・ローヴェル・アスラ
帰国の途についていることは連絡によりしっておる。ヴィンセントの婚約者が変わった件で、侯爵はそなたとの婚約を切望しておる。しかしあやつは黒い男だ。そなたは側妃の子とは言えど我が唯一愛した女性の子である。そなたの意思を尊重したうえで決定したい。ヴィンセントよりそなたがこの婚約話を嫌っていることは知っておる。侯爵にはうまく話をつけておくが故、そなたは本当に愛する者と結婚すると良い。令嬢に難癖をつけられても屈するな。我が許す。愛する者ができ次第早急に連絡せよ。
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父上・・・。さすがわかってらっしゃる。感謝いたします。私は、私はあの彼女と結婚したい。一目惚れだと知ったら父上はなんとおっしゃるかな・・・。
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