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三人の武器

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「ユヅル、その剣であの枝を切り落としてみろ」

 ゲンは近くにある大木の、飛び出している枝を指さして言った。

「よしっ、まかせろ!」

 俺は剣を上段に構え、枝目がけて力任せに振り抜いた。

 ……!?

 シュンッという風切り音はしたが、その枝は揺れさえしなかった。枝をすり抜けた……!?

「何やってんだよユヅル! そんなんじゃ動いている魔物は斬れないぞ!」

 クイナが笑って野次を飛ばす。

「いやいや、今ので正解なんだ。俺たちが扱う武器は、魔物以外には全く通用しない。その代わり、隣にいる仲間も傷つく事は無いから安心してくれ。間違っても、野生動物にそれで立ち向かったりするなよ。逆にやられるぞ。
——じゃ、次は誰にするかな」

「はい、はいっ! アタシがやる!」

 クイナが元気よく手を上げた。自分の武器はどれだろうと、リュックから取り出した荷物をかき分けている。

「実は、クイナに限ってはもう装着してるんだ。皆、グローブを着けていると思うが、クイナのだけ少し違うだろ。シューズに関しては見た目は変わらんが、それもクイナ専用だ」

 確かに。クイナのグローブだけは、手の甲をプロテクターのような物が覆っている。総合格闘技の選手が着けている、指ぬきグローブのような形だ。

「立ち上がって、俺と同じポーズを取ってみろ」

 ゲンはボクサーのようなファイティングポーズを取った。クイナがそれを真似ると、プロテクター部分が前にせり出し、ボクサーのグローブのようになった。

「おおっ!」

 クイナが驚いて声を上げる。

「で、こうやって拳で打ち抜く」

 ゲンは右拳を前に突き出すと、クイナも合わせて拳を突き出した。

『ブウン』と大きな音を立てて、グローブの先端が大きく伸びた。

「上手い上手い。クイナの気持ちの入れ具合で、その伸び率や大きさなどが変わる。今度は、前に敵がいると思って、キックをしてみてくれ」

 クイナは言われるまま前方に足を蹴り出すと、今度はシューズの底が大きく伸びた。クイナのキックの姿勢は、まるで空手の有段者のようだった。

 大喜びするかと思ったクイナだったが、何故だか浮かない顔をしている。

「なあ、ゲン……ユヅルに比べて、アタシの武器は地味じゃ無いか? もっとド派手なこう……他に無いのか?」

「まあ、そう言うなクイナ。クイナは身軽なイメージがあるんだが、実際はどうだ? その場で回転とか出来るか?」

 ゲンが言うと、クイナはその場でクルンと後方宙返りをした。さっきは空手の有段者のようだったが、今度は体操選手のように美しかった。

「おお、流石だな。じゃ今度は、靴の先から剣が飛び出しているイメージでやってみてくれ」

 そう言われたクイナはニッと笑った。この武器の可能性に気付いたのだろう。

 クイナが次に見せた後方宙返りは、右足の先から飛び出した長い刃が、キレイな弧を描いた。『ヴンッ』と空気を切り裂くような音が、周りに響く。

「ク、クイナ、めちゃくちゃカッコいいぞ! まるで、刃の付いたサマーソルトキックだ!」

 クイナの技に俺は興奮した。アトリも「素敵!」と声を上げる。

「——まあそんな感じで、クイナの武器もアイデア次第で色んな戦い方が可能だ。それと、もう一つ。クイナの武器が一番、攻撃力が高い。クイナは好きだろ? そういうの」

「ゲンに見透かされてるのはちょっと悔しいけど……アタシは気に入ったぞ、この武器!」

 クイナは右拳を天に付きだして言った。



「じゃ、次はアトリだ。そうそう、その短い杖だ」

 アトリはそれを既に手に取っていた。渋く輝くシルバーの杖は、アトリにとてもよく似合っている。

「それを前に振る。こんな感じで」

 ゲンの仕草を真似、アトリはその杖を振った。30㎝に満たなかった杖が、倍以上の長さになった。その先端には、キラキラと輝くガラス玉のような物が付いている。

「では……さっきのユヅルのように、実際にダメージを与えられる訳では無いが、この大木を燃やすつもりで杖を向けてくれ」

「こ、こうでしょうか……」

 アトリが杖を木に向けて振ると、杖の先から火が噴き出した。だが、それはとても小さく、調理用のガスバーナーの炎のようだった。

「——もしかして恥ずかしがってるのか? 魔物の前でそんな調子だったら、やられてしまうぞ。さっきお守りをくれた女の子が、大木の魔物に襲われてると思ってもう一度やってみろ」

「ラ、ランが……!? そ、それは許せません! や……焼き尽くせ、灼熱の炎っ!!」

 アトリのものとは思えない大声で叫ぶと、杖の先からは辺りを真っ赤に照らすほどの炎が吐き出された。『ゴォォォォ』という底から響くような低音と供に、炎が大木を包み込んだ。

 アトリが吐き出した炎の迫力に、誰も声が出ない。一番驚いているのはゲンだった。

「魔法の杖を使う奴は何度も見たが、これほど迫力のある炎は初めてだ……凄いぞ、アトリ……
——ま、まあそんな感じで、その杖からは炎や冷気、雷なども出せる。後はクイナの武器同様、アトリのアイデア次第だ」

 アトリは炎を吐き出したガラス玉の辺りをマジマジと見ていた。自分があんな炎を吐き出した事に、我ながら驚いているのだろう。そして少し落ち着いたのか、アトリは杖に、ランから貰った手作りのお守りをくくりつけていた。


「で、ゲンの武器は何だ? 早く見せてくれ」

 クイナがゲンの荷物をジロジロと見ながら言う。

「俺はこれだ。これが何だか分かるか? まあ、分かるのはユヅルだけかな」

 ゲンが取り出したのは、ガンメタ色のメカニカルな筒二本だった。

「——大砲とか、そんな感じ?」

「ご名答。こうやって脇に抱えて……」

 ゲンが両脇に抱えた筒からは、『ドシュッ』という音と供に砲弾が発射された。クイナとアトリは「キャー」と、花火を見る子供のように喜んでいる。

「今度は、こうやって二本を縦に繋いで……長距離砲とか」

 さっきより一段と大きい発射音と供に、ゲンの身体が反動で仰け反った。砲弾は遙か彼方へと消えていく。

「ちなみに、俺が一番好きなスタイルはこれだ」

 今度は両肩に砲身をセットすると、犬のように四つん這いになった。

「こいつは撃つ時の反動が大きいからな。これでお前たちを後方支援する」

 ゲンはそう言って、『ドシュッ』『ドシュッ』と砲弾を連射した。クイナとアトリは、またもや「キャー」と、喜んでいる。

 元ネタを知っているのか、知らぬのか、ゲンはそのスタイルを『ゲンキャノン』と呼んでいた。
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