悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼学園にて(ルシウス)

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(ルシウスside)


俺はあねさまに嫌われている。

あねさまとは、ローラン家の深窓の姫君アリシア令嬢のことだ。


カーティ家の長男で、学年としては同い年になるが、俺自身はあねさまの弟だと思っている。


はじめてあねさまに会った時の感動を忘れる事は一生ない。


まだ乳飲み子だったけれど、真っ白な肌に黒曜の瞳、黒檀の髪はサラサラとして、薔薇色の頬、潤んだ瞳を彩る長いまつ毛、気紛れにこちらに微笑んできた時には、俺の心は堕ちていた。


そこからは毎日あねさまを追うことだけを考え、我儘をいい、泣きわめく事で関心を得ようと必死な日々を過ごした。

それに対してのあねさまの反応はドライなもので、基本的に「だまりなさい」と鈴を転がすような声で窘められるくらいだったが、俺は、自分にあねさまが声をかけてくださったという光栄だけで、声もなくなるくらい惚けてしまい結果として黙ってしまうことが多かった。


(あねさまかわいかった。そして、幸せだったなぁ。あの頃は。)


しかし、そんな生活も長くは続かなかった。


あねさまに、本物の弟が生まれたのである。


あねさまは特に興味を示さなかったが、弟は違った。ベッタリである。離そうとすると、誰かが寄るとこの世の終わりのように泣きわめき、自分の存在を主張する。ほんの少し前まであった自分の席をあっという間に取られてしまった恐怖に、俺は、習い始めたばかりの剣を向けてしまった。


それは、あねさまが絵本の中の騎士を見つめていたのに嫉妬した事から始めた剣だったけれど、こんなことに使うつもりでは毛頭なかったのに。


あねさまが素早く弟を守る体勢になったのを見て、ハッとして剣を収めると、固まっていた弟が、ワッと泣き出しあねさまの胸に顔を埋めた。


「出ていきなさい、ルシウス・カーティ。」


剣を出されたというのに、毅然としたままのあねさまは美しかったが、まるでこちらには興味が無いように弟を抱き込んで視線をくれなかった。


やってしまった。


もう見て貰えない。席はない。


ただ視認されるだけで幸せだったのに。


脱兎のごとく駆け出して、よく一緒に読書をした噴水のそばで涙をぼとぼとと落として体を丸めた。


今、読書をするあねさまと同じ空間に座って、空気を吸って、落ち着きたかった。

それももう叶わないだろう。それだけのことを、衝動とはいえ、してしまった。


「あねさま…」


あの日のことを何度でも何度でも思い出す。あれ以来、弟は更にあねさまに張り付き俺を拒絶するようになり、あねさまも弟の意思を尊重するように、ただの雑用にも俺の事を呼ばなくなったし、転んでいても何も言わなくなった。


しかし、俺は必ずあねさまの元に戻ると決意し、騎士道を極め、最年少騎士として在学中にも関わらず位を授かるほどになった。

全てはあねさまを守る騎士になり、迎えに行くため。そう、あの時あねさまが見惚れていた絵本の騎士のように。


絵本の騎士は金髪にエメラルドの瞳で、珍しい事に魔法が使えないが剣の腕一本で騎士になり、お姫様と結ばれるのだ。


俺は黒髪、赤眼。

黒髪はあねさまとおなじだから良い。でも赤眼はダメだ。赤い瞳は古くから魔力の高さを誇る証明みたいなもので、絵本の騎士と全然違う。

だから、俺は赤が嫌いだ。

剣の腕は磨いたが、魔法は全く手を出さなかったのに、魔法陣や詠唱なしで簡単なものなら出来てしまうのがまた悔しい。理想から離れてしまう。これではあねさまの元へ帰れない。


自分の意思とは異なって、演習を見学に来た姫に気に入られお付になれと言われたり、学園の転校生に簡易魔法を唱えたところを見つかったり、本当に人生うまくは行かないとため息ばかりで言葉も出ない。


だから、あねさまのお家にあった噴水によく似た噴水の広場がある学園の庭園で、大きくなったというのに今日もべったりとひっつく弟と読書をするあねさまを、バラのアーチの隙間から気配を殺して覗く。

あねさまは成長されても美しい。

学園にいる間は、あねさまを見ている事ができるから、邸宅に伺うことも出来ず剣を振るしかなかった10年を思えば、その間は夢のようだ。


勝手に出てくる溜息を漏らして見つめていると、ふいに弟と目が合った気がする。


「ねぇ、アリシアちゃん。あのね…」


ふふんと嘲笑うようにこちらを見てきた癖に、あねさまに向ける顔は天使のようで、周りの女生徒が数名倒れた。


「髪にバラの花びらがついてるよ!取ってあげる。」


顔も体も意識も本から弟の方へ向けてしまったあねさまを、背中しか見ることが出来ない俺に向かって、今度は決定的に、弟が勝ち誇った瞳でわらった。


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