悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼君の名は

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ルシウスに優しくしようと決めてからの私は、雑用にルシウスを使うことをやめて、呼び出すことも無くした。

そもそも、私は精神年齢=大人であるので幼児をわざわざ使う必要もなければ、使用人で足りるのだが、これまでの私ではいろいろな悪巧みをするのに、ルシウスが丁度良かったのである。つまり、断罪ルートを避ける私は悪巧みもしないので、ルシウスを引っ張り込むこともなく、日々読書という名の攻略本を読み込む作業を黙々とするべしとなった。


「…じっていが、しゅじんこうの、こうりゃくたいしょう、なのね…」


ベージュの分厚いソフトカバーを捲ると、アリシアの弟が攻略対象として出てくるのだが、現在私には確かに弟がいる。しかし、殆ど会ったことがない。

今世において、私は我儘気侭の極みであり、傍若無人の限りを尽くしたお子様であるから、なかなか家を継ぐことになるであろう長男の傍にはやれないのであろう。

自分は父親の黒目黒髪を引き継いでいるのに対して、弟は、母親のプラチナブロンドにサファイヤブルーのチカチカした彩色を持っていたため、私が玩具にするとでも考えているのかもしれない。ルシウスの扱いを見ていれば道理である。

きっと、玩具にしたとて、両親は私も止められないほどに溺愛しているのだ。会わせないのが最善と言ったところだろう。


「さて、」


1度見てみるくらいはしておくべきかな、と愛読書となった攻略本を持って、弟の部屋が見える噴水の広場へ向かった。


× × ×


噴水の傍に攻略本を置いて、サクサクと花壇を踏み締めて極悪幼女は弟の部屋の窓を覗き込んだ。

すると、そこにはカーテンがひかれていて中が見えなくなっていた。


「みえない…」


これではわざわざ来た意味が無いし、花壇の花は倒され損である。

どうしようか考えていると、中でバンッと大きな音がしてカーテンがゆらりと揺れる隙間からキラキラのプラチナを持つ幼児に手を掛けようとするメイドの姿が見えた。


考えるよりも先に体が動きました、というやつかもしれない。


手近にあった石を思い切りよく窓に向かって投げ入れ、叫んだ。


「だれかきて!」


窓を開けながら幼児に駆け寄って腕の中に仕舞うと、メイドが扉の前に控えていた使用人に取り押さえられた。

驚いて固まっている幼児を確認するに、記憶の中の弟であると認識する。


「あれくしす、だいじょうぶよ。」


出来るだけ微笑んで声を掛けるが反応がない。優しさとは無縁の生活を送った弊害がこんな時に出るとは想定外で、こちらが慌ててしまいそうになる。

そういえば、私は弟を認識しているが、アレクシスは自分を知らないかもしれないのだ。


「わたしは、あれくのおねえさまよ。」


取り敢えず自己紹介だけはしておくべきだろう。

不審者その2になって即効のバッドエンドは回避すべきだ。なにせ、今は幼くとも後の将来有望な跡取り息子で主人公の攻略対象キャラクターなのだから、悪印象より好印象である。

笑顔。笑顔。笑顔。笑え、渾身の笑み!


部屋はお昼寝のためか暗かったし、私が割ったガラスから降り注ぐ太陽光のせいで逆光が凄まじく、あんなに頑張ってアピールしたのに顔なんぞ見えなかっただろうなと後から気付いたが、仕方がない。弟のアレクシスは終始ポカンとしていた。


事の顛末としては、アレクシスのメイドがお昼寝中のアレクシスを置いて金品を盗もうとしていた所、目覚めたアレクシスに驚き、叫ばれる前に口を塞ごうとした時に物を倒し、私がガラスを割った音と叫び声で執事たちが乗り込んできた、ということらしい。

どうやらメイドは賭博で首が回らなくなってしまい、屋敷の物に手を出したようで、初犯ではなく、アレクシスの部屋の調度品が無くなったり壊れたりすることに疑問を持った執事が見回りに来ていた絶好のタイミングでの出来事であった。


そして私は噴水の傍で本を読んでいたところ、弟に手を掛けるメイドを目撃し、勇気を持って駆け付けたとして花壇の件もガラスに関しても不問に付されたが、暴漢に立ち向かうとは勇敢過ぎるとして両親から落涙の雨を降らされ、護衛の人間をつけようと提案されいつもの我儘でお断りした。


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