悪役令嬢ですが、前世で乙女ゲームは未プレイなもので!

席ゆづる

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▼鏡の国

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ぶっ壊します!


と息巻いていたが、朝起きて、ドレスを着るために色々なところを縛り上げられたり、結ばれたり、飾られたり、巻かれたり…淑女、というよりお人形さんに仕立てあげられる頃にはグロッキーになっていた。顔には出さなかったが。お陰で大層褒められてしまった。

まだ私と身長が揃わないアレクシスは、同じ仕立て屋のお揃いのデザインの男児服を着せてもらって、仕切りに私の周りで笑い声を漏らして上機嫌になっていた。最近こんを詰めてレッスンやら勉強やらで邸宅に2人で引き篭っていたから、余程外に出るのが嬉しいらしい。


「ありしあたん、いこう!」


馬車の階段ではまだ乗れないから、抱き上げて先に乗せてもらったアレクシスがエスコートするように中から手を伸ばしてきたのに応え、手を取るとタイミングを合わせたように私も抱き上げられそのまま馬車の座席に座らされた。


母もアレクシスも、カーティ家に着いて茶会が始まっても絶好調で、私はいろいろされる質問に「はぁ」とか「さぁ」とか冴えない返事をしながら熱い紅茶を冷ましながら啜っているだけである。その間も母は意見交流に余念なく未来の婿を求めてConversationを続けていたが、アレクシスはアレクシスで、あのたどたどしい口調でなぜというほどのcommunicationスキルを見せて私に話しかけてくる幼児やお子様たちプラス大人を見事に捌ききっていた。

しかし、人見知りを完全にしない訳では無いのか、私のドレスの端をずっと掴んで話さないところが可愛らしい。無理な事だが、いつまでもそのままでいてほしい。


場も馴染んできたところで、はて、下僕がいないなーといなければいないままで構わないのだけどーという気持ちは隠して夫人にルシウスがいない旨を問うと、大変申し訳なさそうな顔をして、今日は剣術の試験があるのでここにはいないのだと応えがあった。

本当に興味がなかったが攻略対象であるので一応近況をと聞いただけなのではあるが、なるほど、大変ですねと神妙に頷いておくと、不意に母が、


「ルシウスくんはどうかしら?」


と声を上げ、場が一気に動いた。


「あら、なんの話し?」

「実はうちのお婿さんを探していて…」

「まぁその話聞きましてよ!」

「ローラン家と釣り合うには相応の身分でなくてはなりませんし、」

「ローランの家を回していくには手腕も必要ですわ」

「それでルシウスくんはどうかしらって思ったんですの!娘とも仲良くさせていただいていますし!」

「それは素敵!」

「美男美女ですわ」


やんややんやと姦しく盛り上がっていき、気付けばほぼルシウスが婚約者になる話で結論づいてしまいそうだった。本人たちを抜きにして。


「こちらこそ、こんな愚息で良ければぜひ!家ではずっとアリシアちゃんのおはなしをしていますのよ。貰っていただけると喜ぶと思うわ。」


相手方からもGOが出てしまった。

詰んだ。下僕と結婚か。復讐ルート待ったナシなのでは。


スっと意識が飛びかけた時に待てよ?と気が付いた。

同じ攻略対象だが、ルシウスは婚約者キャラクターではもともとなかった。ここで婚約すれば、まず間違いなくもともとの婚約者キャラクターの席が埋まる。つまり、何回やっても倒れない死亡フラグ乱立ルートが発生しないことになる。

今からルシウスと良好な関係を築き直せば、復讐ルートにもならないだろうし、主人公との恋を応援して円満に婚約解消。幸せな行かず後家生活を送りましためでたしめでたしできるのではないか?


「わたしも、るしうすがいいと、」


思います、に被せる様に「おてあらい!まにあわないよーーーーっ!」と元気な声が弾けた。

上げた声の主をすぐ様手を引いて立たせ、飛ぶ様に御手洗を目指した。


下僕の家で遊ぶことも少なくなかったため、御手洗の位置は完璧に覚えている。

大きく広い御手洗の扉を開けた時、正面にある鏡になにかが反射したのが見えて後ろを振り返るとアレクシスに刃が迫っていた。

すぐ様体制を入れ替えて守るように包み込み、何事かと顔を上げた先には、数ヶ月会わずにいる間に、多少精巧になったルシウスがいた。


「なにをしているのですか」


「でていきなさい」


ギュッと抱きしめたアレクシスは細かに震えている。私に復讐するにしても、家族に害を及ぼすなんて。

復讐のために自分以外にもそんな手段をとる男とは結婚することは出来ない。最低でも自分以外が危険にさらされるなんてあってはならないのだ。


震えるアレクシスに目を落としている間にルシウスは御手洗から消えていた。


「もうだいじょうぶよ、わたしのせいね。ごめんなさい。」


ふるふると震えながら顔を上げたアレクシスは


「ありしあたん、るしうすとけっこんすゆの?」


と涙をいっぱいに貯めて聞いてきたが、今回は直ぐに断言出来るから泣かないで欲しい。


「ぜったいしないわ。」


家族は私が守ると決めたのだから。


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