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6話目
しおりを挟む近衛隊長だけが、目をぎょろつかせ、白髭の口元を震わせて、玉座の横で立ち尽くしました。
「なんと、では、ではこの獣人の大臣達をこれからも重用すると……」
一の大臣は、頭に大きな黒羽根を一枚生やし、本能的に光るものが大好きでした。
二の大臣は豊かな白黒の尾を持ち、香りにうるさく金属が大好きです。
どちらも、もとは気のいい地方の街の長と、ギルド長でした。知り合ってからは家族の様に付き合ってきた、ナラカ王の仲間なのです。
どちらも大臣としてとても優秀です。
けれど、わななく近衛隊長に呼応して嘆く者達も少なくありませんでした。まだまだ獣人に対する偏見は根強いようでした。
「獣人といって、姿形がほんの一部異なるだけの者がほとんどではないか。まして、人と人の間に、突然生まれる者たちだ。天命のようなもの。なぜ、差別をする?」
「王様! 全き人と獣人とを比べるとは! 前王も急に獣人に対し寛容な政に切り替えられた。いくらお諌めしても、聞き入れられず! だから、あのような死に様となるのだ!」
鋭い視線に貫かれて、近衛隊長が危うい口を閉じました。
けれど、ナラカ王は意外にも優しげな声を出して、巫女を手招きました。
「近衛隊長の意向はわかった。私の出生を気にかけてくれていることも。――巫女、せっかくここまで来たのだ。その出生の占いとやらをやってみせるがいい」
近衛隊長は、その言葉に目を輝かせて、巫女の背を押しやりました。
よろよろと歩み出た巫女でしたが、ナラカ王の側まで寄ると背を伸ばしました。
立派な体格のナラカ王に並ぶと、巫女は華奢で、まるで子供の様でした。
そして、高く澄んだ声で、占じました。
「……前王の御子は、ここにいる」
広場に、ざわめきが走りました。
やはり、王様が、という声。
苦い声でした。
多くの人々は、内乱で苦しめられた記憶が濃く、喜びの色はありません。彼らにとって、前王家は辛い歴史の一部なのです。
けれど、前王家の時代の暮らしが忘れられない者もいるようで、その多くは、近衛隊長の周りに賛同を示すように集まってきました。
「さよう、さようですとも! やはり、血は争えぬ。見事な資質は血にこそ宿るのです! 正しき人の血を、正しき王家の血を継ぎ、人の国を作っていかなければなりません。獣人の身で大臣を名乗る輩の処分、もう一度、お考え直しを!」
「それは、かつて獣人だというだけで多くの人を殺めた自分の立場が危うくなるからですかな、近衛隊長殿」
突然、三の大臣に鋭く問いかけられて、近衛隊長は目をギョロリと見張り、しばらく呆然としました。
それから、真っ赤になって怒り出しました。
「なにを、なにを! 王様! 御子の誘拐、つまり貴方様の誘拐に関わった者こそ、この三の大臣ですぞ! 私が巫女に占わせたのですから、間違いない」
近衛隊長は唾を飛ばして叫ぶうちに、勢いを取り戻しました。指を突きつけ、地団駄を踏んで、反逆者だ、重罪人だ、と叫びます。
自分以外のあらゆる存在を、なんとかして引き摺り下ろさねば、という執念に突き動かされているようでした。
「この大臣だけは、前王の時代から城にいる! 忠義者の顔をして、王様が変わっても、何食わぬ顔をして城にいる! 考えてみてください、おかしくはないですか? 王様、貴方が三の大臣を重用するのは、なぜなのです? ――調べましたぞ、何の血縁もないはずの王様の若き時から、三の大臣は王様を自分の領地に住まわせ、自分の息のかかった教師を充てがった。それはまさに、拐かした前王の御子を、自分の傀儡となるよう育てるためでしょう! まことの悪とはこのことですぞっ」
たしかに、ナラカ王は親の顔を知らないまま、道に捨てられていました。
そしてたしかに、三の大臣は幼いナラカ王を自分の領地の町に連れ行き、よい先生をつけました。
しかしその理由は。
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