乙女ゲームなのに、主人公が男で良いんですか?

あきの宵

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#21 この世界について

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(表紙イラストキャラ:ナツキ)



「私がこの世界に来たのはね。3年前なの──」

「え、3年前?!」

 ナツキが、いつの間に用意したのか、レイの前にカップに入った紅茶を置く。

「ありがとう。ナツキ、ミコトにも紅茶淹れてあげて」

「はい、かしこまりました」

 僕を見るナツキの雰囲気は、少し怖い。だが、慣れた手つきで僕にも紅茶を淹れてくれた。

「あ、ありがとう、ございます……」

「いえ……」

 ナツキは僕たちから少し離れると、壁にもたれ視線を僕たちから外した。少し気を遣ってくれているようだ。

「ミコト、私の元の世界の最後の記憶は、あなたに乙女ゲームを貸したところなの。5人の攻略対象がパッケージに描いてあるやつ、覚えてる?」

「覚えてる! 僕もそれを借りたあとから気を失って……」

 僕の言葉を聞いて、レイは顎に手を当てた。

「なるほど……ということは、元の世界で気を失った瞬間は、ほぼ同じなわけね」

「でも、姉ちゃんは3年前からこの世界にいるの?」

「そうよ」

「だから、ちょっと雰囲気が違うのかな……」

 僕が言うと、レイはニヤリと笑って僕に近づいた。

「雰囲気どころか、もっと違うところがあるよ」

 レイは僕の手を取ると、自分の胸に当てた。

「──!」

 僕が驚いて手を振りほどこうとするが、レイの力が強くてぴくりとも動かない。

「私は……この世界に来た時から性別が男だ」

 姉とは思えない低い声。胸に当てられた手に、硬くて厚い胸板を感じる。

「そんな……」

「まだ疑うなら、下も触ってみる?」

 悪戯っぽく笑うレイに、僕は全力で首を横に振った。

「わっ、分かったから、手を離して!」

 僕の手が解放される。どんな状態だろうが、姉の身体を触るのは色んな意味できつい。

「ミコト……この世界で、性別が女の人を見た?」

「見て、ない……」

 僕がこの世界にきてからずっと感じてる違和感……そう、この世界には僕の元いた世界でいう〝男〟の性別の人しか存在していない。少なくても僕が見かけた人達は、だが……。

「そう、この世界は私が妄想した〝男しか存在しない〟世界そっくりなの」

「姉ちゃんの、妄想……?」

「色々説明しなければならないことがあるわね……」

 レイは軽くため息をつくと、紅茶を一口飲んだ。



「あの時あなたに貸したゲームは、乙女ゲーム……主人公の女の子が、攻略対象の男キャラと恋愛するゲームだったわ」

 レイの話を、真剣に聞く僕。

「ただ……あのゲームは少し特殊で、攻略キャラ同士が仲良かったり、かなり親しげに絡むシーンが多くて、腐女子の間では、そのカップリングが流行ってしまっていたの」

「……なるほど」

「それで、私はそのゲームにハマっていたんだけど、そこで願ってしまったの〝いっそヒロインも男にして、男しかいない世界になれば良いのに〟って……そしたら、急にそのゲームをあなたに貸したくなって、貸した後、気を失って……」

「そうして、森で倒れるレイ様を、ぼくが見つけました」

 ナツキが僕たちの間に入って、手品のようにお茶菓子を取り出す。

「ぼくお手製のスコーンです。ミコト様もいかがですか?」

「あ、ありがとうございます……」

「ご心配なく。毒などは入れておりませんので」

(毒……?)

 ナツキの笑顔が、やっぱり怖く感じる。

「それが、3年前の話。私はナツキに言われて、アルテシア国の王子になったの」

「そうなんだ……」

「最初は、慣れなかった……男の身体だし、言葉遣いとか話し方とか、この世界に溶け込むのにだいぶ時間がかかった。でも、頑張ったのよ! 名前もレイカじゃなくてレイにして、少しでも男っぽくって……」

「ぼくは〝女〟っていうのがよく分からないから、そのままのレイ様で良いって言ったんですけどね」

 「ねっ、レイ様」とナツキがレイに顔を近づける。慌てて顔を背けるレイ。頬が少し赤いような……。

「姉ちゃ……えっと、兄ちゃん? は、もしかして、
男同士で……」

「し、してないわよっ! さすがにっ……!」

 食い気味に否定するレイ。

「ご、ごめん! 変なこと聞いて」

 レイは、やたら距離の近いナツキをぐいっと押して遠ざけた。

「その……私には凄く話しずらいと思うけど、ミコトはもう誰かとヤっちゃったりした?」

「えっ……」

 分かりやすく動揺する僕に、レイはとても真面目な口調で続ける。

「その反応は、もしかして、もう……」

「ち、違っ……」

「何度か危ない目に遭っていますね。ただ、レイ様の言っているような行為はまだみたいですよ」

 ナツキが僕の言葉を遮るようにしてそう言い、ニコリと微笑む。口元は笑っているが、目元が全然笑っていない。

「なんでそれを……」

 僕の問いに、ナツキは微笑んだまま何も答えない。

「そっ、か……はぁ、あんた昔からぼーっとしてて凄く流されやすいから、私、心配で心配で」

 レイは僕の方に両手をトンッと乗せ、真剣な表情で僕に言った。

「まだこの世界に来たばかりだから分かってないかもしれないけど、ここも元いた世界も、ちゃんとした〝現実〟よ。元の世界にいた時のミコト自身のこと、思い出してみて」

 そう言われて、僕は考える。

 ──元の世界の僕は、至って普通の大学生だった。
将来何になりたいとかが特になくて、選んだ大学もごく一般的な学部。
 姉ちゃんの影響でオタク的な本やゲームが好きだったから、読書サークルという名のオタクが集まるサークルに参加して、そこそこ楽しい友達付き合いもしていた。
 好きな女の子も……一応居た。話したことはないけれど、いつも教室の窓際の席で1人でいる子。黒いロングヘアにいつも[[rb:見惚 > みと]]れていた──



「………」

 我に返りハッとしてレイを見ると、心配そうな顔で僕を見ていた。

「この世界は男しかいなくて、男同士の恋愛が普通……ヤるのも男同士。でも、あなたは元々そうでは無かったでしょう?」

「……うん」

 そうだ、僕は普通に女の子が好きだったし、男同士なんて考えたこともなかった。

「僕、知らない世界に来て……なんだか訳がわからないうちに、そういうことになってて……」

「ミコト……姉として言わせてもらうけど、もし今の状況がきつかったら、少し私の国に来ていても良いのよ?」

「姉ちゃん……」

「この城にいるよりは、少しは自分を見直す時間が取れるんじゃない?」

「レイ様はお優しいですね。まぁ、ぼくは止めませんが……ふむ。この城の者たちはどう思うか──」

 ナツキがおもむろに部屋のドアの方を見る。それと同時に、部屋のドアがバン!と思いっきり開け放たれた。

「それ、どういうことだよ! ミコト!」

 そこには、肩で大きく息をしながら叫ぶ、カノキの姿があった。
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