きおく

ヤクモ

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一生

それでよかったのに

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 共通点はあるけれど、中身が交わることは少ない。共感はしないけれども互いが互いに関心は持っている。重なることが少なくても、それを含めて一緒にいたいと思う。こんなことははじめてで、これからもはじめてがあるのだろう。


 かみさまを失ったとき、わたしはわたしがわからなくなった。


 別れよう。
 と、言われて、意味がわからなくて、涙が溢れてきて、悲しくなって、ようやく彼が言った言葉の意味がわかった。わたしが涙を流すといつも抱きしめてくれたのに、そのときはただ困った顔をするだけだった。この人はわたしを「好き」ではあっても、「愛して」はいないのだと気づいて、涙が止まらない。わたしは彼を「愛している」から、これ以上彼が困らないように、何度も頷いた。わかった。わかったよ。もう、一緒にはいられないんだね。

 ぼんやりとしてよく部屋にたどり着いたと思う。去っていく彼の背中を見送って涙で視界がぼやけて、自分も帰ろうと、よろよろと歩いた。夕方の真っ赤な太陽は彼とともに離れていって、わたしが独りで歩いているときはむらさき色が静かに空を覆っていた。
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