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いまさらですが火竜の君は絶倫でした。~オーディアル城滞在記~5.
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オーディアル城へ来てから早くも二度目の日没をむかえようとしていた。
そう、まだ私はオーディアル城にいる。全然楽しくないけれど。
もやもやを抱えたまま逃避するのは嫌だったから。
私にもプライドがある。
気持ちの決着がつかない限りシグルド様に抱かれるのは嫌だ。
できればシグルド様を気が済むまでとっちめてからでなくては帰るべきじゃないと思ったのだ。
けれど、オーディアル城での初めての夜、泣きながら寝落ちしたからといって状況はまるで好転するはずもなく、私とシグルド様は一日中ぎくしゃくとしたままだった(ちなみにシグルド様はけだものではなかった。起きてなお続く私の不機嫌を察知したからだろうが)。
ぎくしゃく、というのを正確に言えば、どうにかして私の機嫌を取りたいシグルド様と、絆されそうになるのをこらえてつんつんする私、といった図である。
そしてミリヤムさん以外の第三者がいるときはいちおう親密にしている。不仲説など意地でも発生させるものかと思っている。示し合わせたわけでもないのにシグルド様との呼吸はぴったりだ。
……私は肺が空っぽになるほど深いため息を吐いた。
こんなに早く、というより結婚する前から「仮面夫婦」みたいな真似をすることになるとは思いもよらなかったな。
朝食は一緒に頂いた。
給仕の者たちが出入りするから一応「ご歓談」だ。
その後はシグルド様は執務棟へ行って、荷解きしたもののうち、政治的な重要書簡、書類だの、グラディウス家あて、のものだのより分けたものを確認しつつ、不在中の報告を受けたり急ぎの案件へ決裁などしていたらしい。
昼は戻ってきてまた私と過ごし、午後は外交の報告のためと言ってレオン様のところへ行ったっきりだ。
一緒にいられなくて済まないと言ってくれたけれど、昨日の気持ちをひきずったままとてもとても一緒になんていられない。
だからどうぞしっかりお仕事していらしてねと作り笑いで送り出したのだけれど。
……オーディアル城ご自慢の日光浴室。
厚い硝子の円形天井、三方を囲むガラス戸。床は白、紅色系だけで色目をあわせたモザイク画。
優美な植物や鳥の絵が描かれている。
小卓や一人掛けの椅子、寝椅子もバランスよく配置されている。
朝、昼、夕、そして夜。それぞれに時刻にそれぞれの表情を見せる日光浴室。
夕暮れ時の今は海にも見えるほど大きな湖がキラキラと反射鏡のように輝き、差し込む日差しと相まって室内全体を淡紅色に染め上げている。
エヴァンジェリスタ城とは正反対の位置にあって、かつ角度も微妙にずらして建てられているから、窓の景色はあまりなじみのないものばかりで新鮮だ。森や湖、そこに浮かぶ釣り船や渡し船、おそらくは観光船などのたくさんの舟。湖岸の建物は漁師小屋か旅籠なのか。早くもいくつかは明りが灯りはじめている。
市街地ではなく、郊外がみはらせるようになっていて、いくら眺めていても飽きない。
このお部屋が自慢だとシグルド様は言っていた。
だから色々お話を聞こうと思っていたのに。窓外の景色を眺めながら。
「姫様……」
そばに控えるミリヤムさんが心配そうに遠慮がちに声をかけてくる。
私の不機嫌はもちろんあの手紙と指環のことだけれど、手紙を読むようけしかけたはよいが、対処の仕方がわからない私が勝手に落ち込んでしまったものだからとても気をもんでいるらしい。
別に彼女は悪くない。
たぶん、けしかけられなくても結局は手紙を読んだだろうと思うし、たとえ読まなかったとしてももやもやはもっとひどかっただろうと思う。わけがわからないなりに。
「ミリヤムさんのせいじゃないの。気にしないで」
私は彼女を振り返らないまま言った。
ひめさま、と言葉にはならない彼女の困惑が伝わってくる。
「読んでよかったと思ってる。それになんとかしなきゃって思う。まっすぐ聞けばいいのに私が意気地なしなだけ」
「姫様、そのような」
「怖いの。シグルド様の反応が」
磨かれた硝子窓に彼女の姿が映りこんでいる。
私はそれを見ながらひとりごとのように続けた。
「それがどうした、って開き直られても困るし嘘だ誤解だ、っていう女々しいところも見たくないし」
ようは覚悟がついていないだけなのと私は言った。
「大丈夫、ミリヤムさん。もうちょっとだけ気持ちの整理をしてから聞いてみるから」
「……姫様、わたくしがお調べ致しましょう」
不意に、彼女の口調が変化した。
手紙を読むよう背中を押したときと同じ声だ。
振り返ってみると、ミリヤムさんは思いつめたような目で私をじっとみつめ、胸の前でぎゅううと両手の指を組んで握りしめている。
小柄で優し気な風貌なのにとても強い目だ。
いい顔だな、やっぱりさすが彼女もグラディウスの一員なんだなとこんな時なのにちょっと感心してしまう。
「姫様はお気持ちの整理がつきましたら公へ直接お聞きなされませ。もちろん、お聞きになりたくなければ一週間でもひと月でもお聞きにならなければよろしいのですが」
「わかった」
「その一方でこのミリヤムがあの手紙と、指環の行方をお探しし、事の次第を確認致しましょう」
「わかった」
「公のお答えがどのようなものであっても、‘ウラを取る’必要がございますわ。恐れながら同性であるわたくしが確認、ご報告させて頂くのが望ましいのではないかと」
「そうね」
私は頷くしかない。
内心、瞠目した。
誠実で優秀な、信頼に足るひとだとは思っていたけれど、ミリヤムさん、なんてしっかり者なんだ。
私の男装姿に萌えてるなんて彼女のほんのわずかな一面でしかなかったのだ。
「有難う、ミリヤムさん。……頼りにしているわ」
思わず彼女の手をとって言うと、ミリヤムさんは逆に私の手を押し頂くようにして深々と頭を下げた。
「もったいなきお言葉でございます、姫様。……それでは早速行ってまいります」
「え、今から」
仕事人だ。素早い。
「それとも、今日はこのままお傍に控えたほうがよろしゅうございますか」
「いや、それは」
「……ミリヤム、私が姫君のそばにいるから気にせず行くがいい」
「え?」
涼やかな綺麗なテノール。
振り向いた私の視界に、輝く銀色の髪、白に金銀の縫い取りの長衣を纏った美麗な姿が飛び込んでくる。
「姫様、ヘデラ侯がいらっしゃいました」
オルギールに先を越されたらしい小姓が彼の後からきてちょっと息を切らしながら頭を下げた。
******
「……いきなりオーディアル城に滞在するとお聞きして何事かと思ったのですが」
ミリヤムさんと入れ替わるようにして入室したオルギールは、瞬時に私の気落ちを見抜いたらしい。
手土産に持ってきてくれた小さな花束とお菓子を小卓に置くや否や、「お話を伺うとしましょう」と言ってさっさと私を抱きあげて寝椅子に腰を下ろしたのだ。
オルギールは膝に乗せた私をもう一度しっかりと抱きしめた。
「こんな沈んだ顔のまま独りぼっちにさせるなんて。シグルド様は婚約者失格ですね」
「オルギール。……」
「何があったのです、リア?」
宝石のような紫色の瞳が至近距離に迫った。
目を閉じると顔中に優しいくちづけが降ってくる。
べったべたに甘いオルギールに安心して気が緩んで。けれどここはオーディアル城。本当ならシグルド様が私を甘やかしてくれるのに。私もきっとそれを喜んで受け入れて引っ付いていただろうに。
泣きそうになるのを何度か唾を飲み込んでこらえた。
「我慢しなくてもよろしいのですよ」
唇の端に。ごくんごくんと必死で嚥下をする私の喉元に。
何度も何度も唇が押し当てられる。
このひとにはお見通しだ。
でもだからといって絶対泣くもんか、とも思う。
めそめそと心弱い私はきっととてもおブスに決まっている。
そもそも、シグルド様の女性問題について悩んでオルギールの前で泣くのは間違っている。
「……あ!?」
「教えて、リア?」
かり、と耳朶を軽く食まれた。
そしてそのまま、ねっとりと耳殻に舌が這わされる。
ぞくりと背筋に震えが走る。
「私は相談相手として認めて下さらない?あなたの力になれない?」
私を抱きしめていたはずの手がゆっくりとからだじゅうを撫で始める。
心地よくて、いつもの慣れ親しんだ(ちょっとそれもどうかと思うが)私を煽る撫で方をされて、かえって涙は引っ込んでいった。
どうせこの流れだと、私は口を割らせられる。たぶん、性的な手段によって。
それに考えてみれば隠すことはない。シグルド様に面と向かって聞く勇気はまだないけれど、オルギールになら聞ける。泣くのは論外だが聞くのはいいだろう。
何か知っているかもしれないし。
……そうこうする間にもオルギールの悪魔的に巧妙な手は、私の前開きの衣装の釦を外しにかかっていた。
あわててその手をひっつかんで、オルギールを振り仰ぐ。
「ちょっと待って、オルギール」
「何を待つのですか?」
「脱がさないで」
「着たままがよろしいのですか?衣装が汚れますよ」
「汚さないでよ!」
何をもって汚れるというのだ、このひとは。
顔中舐め回されながら、必死になって私は言葉を紡いだ。
「オルギール、相談があるの。だから脱がさずヤらしいことせず話を聞いて」
「……わかりました」
ようやく手が止まった。
四つ外された釦はそのままだけれど、衣装の裾から突っ込もうとした不埒な手は抜いて着衣を整えてくれた。
膝から降ろす前提はないらしく、しっかりと抱き寄せられ、頭を彼の胸にもたれかけさせてから、
「さあリア。あなたの憂い顔のわけを」
話して下さい、と促す言葉の代わりのように、ちゅっと鼻先にくちづけられた。
そう、まだ私はオーディアル城にいる。全然楽しくないけれど。
もやもやを抱えたまま逃避するのは嫌だったから。
私にもプライドがある。
気持ちの決着がつかない限りシグルド様に抱かれるのは嫌だ。
できればシグルド様を気が済むまでとっちめてからでなくては帰るべきじゃないと思ったのだ。
けれど、オーディアル城での初めての夜、泣きながら寝落ちしたからといって状況はまるで好転するはずもなく、私とシグルド様は一日中ぎくしゃくとしたままだった(ちなみにシグルド様はけだものではなかった。起きてなお続く私の不機嫌を察知したからだろうが)。
ぎくしゃく、というのを正確に言えば、どうにかして私の機嫌を取りたいシグルド様と、絆されそうになるのをこらえてつんつんする私、といった図である。
そしてミリヤムさん以外の第三者がいるときはいちおう親密にしている。不仲説など意地でも発生させるものかと思っている。示し合わせたわけでもないのにシグルド様との呼吸はぴったりだ。
……私は肺が空っぽになるほど深いため息を吐いた。
こんなに早く、というより結婚する前から「仮面夫婦」みたいな真似をすることになるとは思いもよらなかったな。
朝食は一緒に頂いた。
給仕の者たちが出入りするから一応「ご歓談」だ。
その後はシグルド様は執務棟へ行って、荷解きしたもののうち、政治的な重要書簡、書類だの、グラディウス家あて、のものだのより分けたものを確認しつつ、不在中の報告を受けたり急ぎの案件へ決裁などしていたらしい。
昼は戻ってきてまた私と過ごし、午後は外交の報告のためと言ってレオン様のところへ行ったっきりだ。
一緒にいられなくて済まないと言ってくれたけれど、昨日の気持ちをひきずったままとてもとても一緒になんていられない。
だからどうぞしっかりお仕事していらしてねと作り笑いで送り出したのだけれど。
……オーディアル城ご自慢の日光浴室。
厚い硝子の円形天井、三方を囲むガラス戸。床は白、紅色系だけで色目をあわせたモザイク画。
優美な植物や鳥の絵が描かれている。
小卓や一人掛けの椅子、寝椅子もバランスよく配置されている。
朝、昼、夕、そして夜。それぞれに時刻にそれぞれの表情を見せる日光浴室。
夕暮れ時の今は海にも見えるほど大きな湖がキラキラと反射鏡のように輝き、差し込む日差しと相まって室内全体を淡紅色に染め上げている。
エヴァンジェリスタ城とは正反対の位置にあって、かつ角度も微妙にずらして建てられているから、窓の景色はあまりなじみのないものばかりで新鮮だ。森や湖、そこに浮かぶ釣り船や渡し船、おそらくは観光船などのたくさんの舟。湖岸の建物は漁師小屋か旅籠なのか。早くもいくつかは明りが灯りはじめている。
市街地ではなく、郊外がみはらせるようになっていて、いくら眺めていても飽きない。
このお部屋が自慢だとシグルド様は言っていた。
だから色々お話を聞こうと思っていたのに。窓外の景色を眺めながら。
「姫様……」
そばに控えるミリヤムさんが心配そうに遠慮がちに声をかけてくる。
私の不機嫌はもちろんあの手紙と指環のことだけれど、手紙を読むようけしかけたはよいが、対処の仕方がわからない私が勝手に落ち込んでしまったものだからとても気をもんでいるらしい。
別に彼女は悪くない。
たぶん、けしかけられなくても結局は手紙を読んだだろうと思うし、たとえ読まなかったとしてももやもやはもっとひどかっただろうと思う。わけがわからないなりに。
「ミリヤムさんのせいじゃないの。気にしないで」
私は彼女を振り返らないまま言った。
ひめさま、と言葉にはならない彼女の困惑が伝わってくる。
「読んでよかったと思ってる。それになんとかしなきゃって思う。まっすぐ聞けばいいのに私が意気地なしなだけ」
「姫様、そのような」
「怖いの。シグルド様の反応が」
磨かれた硝子窓に彼女の姿が映りこんでいる。
私はそれを見ながらひとりごとのように続けた。
「それがどうした、って開き直られても困るし嘘だ誤解だ、っていう女々しいところも見たくないし」
ようは覚悟がついていないだけなのと私は言った。
「大丈夫、ミリヤムさん。もうちょっとだけ気持ちの整理をしてから聞いてみるから」
「……姫様、わたくしがお調べ致しましょう」
不意に、彼女の口調が変化した。
手紙を読むよう背中を押したときと同じ声だ。
振り返ってみると、ミリヤムさんは思いつめたような目で私をじっとみつめ、胸の前でぎゅううと両手の指を組んで握りしめている。
小柄で優し気な風貌なのにとても強い目だ。
いい顔だな、やっぱりさすが彼女もグラディウスの一員なんだなとこんな時なのにちょっと感心してしまう。
「姫様はお気持ちの整理がつきましたら公へ直接お聞きなされませ。もちろん、お聞きになりたくなければ一週間でもひと月でもお聞きにならなければよろしいのですが」
「わかった」
「その一方でこのミリヤムがあの手紙と、指環の行方をお探しし、事の次第を確認致しましょう」
「わかった」
「公のお答えがどのようなものであっても、‘ウラを取る’必要がございますわ。恐れながら同性であるわたくしが確認、ご報告させて頂くのが望ましいのではないかと」
「そうね」
私は頷くしかない。
内心、瞠目した。
誠実で優秀な、信頼に足るひとだとは思っていたけれど、ミリヤムさん、なんてしっかり者なんだ。
私の男装姿に萌えてるなんて彼女のほんのわずかな一面でしかなかったのだ。
「有難う、ミリヤムさん。……頼りにしているわ」
思わず彼女の手をとって言うと、ミリヤムさんは逆に私の手を押し頂くようにして深々と頭を下げた。
「もったいなきお言葉でございます、姫様。……それでは早速行ってまいります」
「え、今から」
仕事人だ。素早い。
「それとも、今日はこのままお傍に控えたほうがよろしゅうございますか」
「いや、それは」
「……ミリヤム、私が姫君のそばにいるから気にせず行くがいい」
「え?」
涼やかな綺麗なテノール。
振り向いた私の視界に、輝く銀色の髪、白に金銀の縫い取りの長衣を纏った美麗な姿が飛び込んでくる。
「姫様、ヘデラ侯がいらっしゃいました」
オルギールに先を越されたらしい小姓が彼の後からきてちょっと息を切らしながら頭を下げた。
******
「……いきなりオーディアル城に滞在するとお聞きして何事かと思ったのですが」
ミリヤムさんと入れ替わるようにして入室したオルギールは、瞬時に私の気落ちを見抜いたらしい。
手土産に持ってきてくれた小さな花束とお菓子を小卓に置くや否や、「お話を伺うとしましょう」と言ってさっさと私を抱きあげて寝椅子に腰を下ろしたのだ。
オルギールは膝に乗せた私をもう一度しっかりと抱きしめた。
「こんな沈んだ顔のまま独りぼっちにさせるなんて。シグルド様は婚約者失格ですね」
「オルギール。……」
「何があったのです、リア?」
宝石のような紫色の瞳が至近距離に迫った。
目を閉じると顔中に優しいくちづけが降ってくる。
べったべたに甘いオルギールに安心して気が緩んで。けれどここはオーディアル城。本当ならシグルド様が私を甘やかしてくれるのに。私もきっとそれを喜んで受け入れて引っ付いていただろうに。
泣きそうになるのを何度か唾を飲み込んでこらえた。
「我慢しなくてもよろしいのですよ」
唇の端に。ごくんごくんと必死で嚥下をする私の喉元に。
何度も何度も唇が押し当てられる。
このひとにはお見通しだ。
でもだからといって絶対泣くもんか、とも思う。
めそめそと心弱い私はきっととてもおブスに決まっている。
そもそも、シグルド様の女性問題について悩んでオルギールの前で泣くのは間違っている。
「……あ!?」
「教えて、リア?」
かり、と耳朶を軽く食まれた。
そしてそのまま、ねっとりと耳殻に舌が這わされる。
ぞくりと背筋に震えが走る。
「私は相談相手として認めて下さらない?あなたの力になれない?」
私を抱きしめていたはずの手がゆっくりとからだじゅうを撫で始める。
心地よくて、いつもの慣れ親しんだ(ちょっとそれもどうかと思うが)私を煽る撫で方をされて、かえって涙は引っ込んでいった。
どうせこの流れだと、私は口を割らせられる。たぶん、性的な手段によって。
それに考えてみれば隠すことはない。シグルド様に面と向かって聞く勇気はまだないけれど、オルギールになら聞ける。泣くのは論外だが聞くのはいいだろう。
何か知っているかもしれないし。
……そうこうする間にもオルギールの悪魔的に巧妙な手は、私の前開きの衣装の釦を外しにかかっていた。
あわててその手をひっつかんで、オルギールを振り仰ぐ。
「ちょっと待って、オルギール」
「何を待つのですか?」
「脱がさないで」
「着たままがよろしいのですか?衣装が汚れますよ」
「汚さないでよ!」
何をもって汚れるというのだ、このひとは。
顔中舐め回されながら、必死になって私は言葉を紡いだ。
「オルギール、相談があるの。だから脱がさずヤらしいことせず話を聞いて」
「……わかりました」
ようやく手が止まった。
四つ外された釦はそのままだけれど、衣装の裾から突っ込もうとした不埒な手は抜いて着衣を整えてくれた。
膝から降ろす前提はないらしく、しっかりと抱き寄せられ、頭を彼の胸にもたれかけさせてから、
「さあリア。あなたの憂い顔のわけを」
話して下さい、と促す言葉の代わりのように、ちゅっと鼻先にくちづけられた。
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