溺愛三公爵と氷の騎士、と私。

あこや(亜胡夜カイ)

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‘万能のひと’の回想と現実。(下)

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 「オルギール……?」

 掠れた、けれども限りなく優しい声。
 
 見れば、眠っていたはずの妻が懸命に首を捩じって私を見上げていた。
 切れ長の、巴旦杏の形をした美しい目。覚醒したばかりだからか、ほんの少し焦点が合っていない様子があどけなくすら見える。
 腕に抱き込んだまま少しずり下がって、顔の高さを合わせてやると、彼女はひっそりと笑んだ。
 そして手を差し伸べ、遠慮がちといってよい仕草で、そっと私の頬に華奢な指を添わせて。

 「何か、あった……?眠れないの?だいじょうぶ……?」

 大丈夫も何も。
 思わず、顔がほころぶ。

 それは私が言うべきことだ。
 昨晩も、宵の口からさんざん貪ってしまった。
 外交から帰ったばかりであり、久しぶりに二人きりだったことも手伝って、出迎えてくれた彼女をヘデラ城の寝所へ連れ込んだ。まだ夜とも言えないだのお話が先だの疲れているのではないかだの、どれだけ肌を重ねても真面目に理屈をこねる彼女が可愛らしくて愛しくて、くちづけて抗議の言葉を封じ、無我夢中で彼女に溺れた。
 
 喘がせ過ぎて声が枯れて。気絶させるほど激しく抱いたのはこちらなのに、目を覚ました彼女は一番に私を気遣ってくれる。
 触れていないところなどないほどに睦びあい、今も裸のからだを密着させているというのに、私の頬に伸ばされた彼女の指先はかすめる程度のささやかな触れ方で。

 いつもそうなのだ。 
 ふとした拍子に、彼女は私の思考を妨げまいとしてか、立入り過ぎないようにと細心の注意を払う。
 もっと貪欲に私を求めてほしい、底の底まで踏み込んでほしいと願っても、「夫婦でも距離感って気をつけなくちゃいけないのよ」と大真面目に言っている。
 何が「距離感」なのか。
 人前では仕方がないが、着衣一枚の距離を隔てることすら邪魔だというのに。
 じれったい。

 だから私は彼女を抱く腕に力を籠め、顔を動かして、頬に添えられた彼女の指をぱくりと咥えてやった。
 途端に、あわてたように彼女は身じろぎをするが、絶対に離しはしない。
 
 「オルギールったら。私は心配してるのに」
 「有難う、リア」

 ぴちゃぴちゃとわざと音を立てながら、綺麗な指先を舐めしゃぶる。
 指先ひとつまでもが、愛おしくてたまらない。
 ひとしきり舐め回してから、今度は口をすぼめて吸い上げてやる。
 引き抜こうとする手を捉え、本格的に五本の指全てに丁寧に舌を這わせながら彼女に目を向けた。
 美しい黒瞳が潤んで揺れている。

 「あまりに幸せで。……寝ているのが惜しくなっただけですよ」
 「そうなの……?」
 
 手を離して、と彼女は言ったが、私は聞こえないふりをした。
 ゆっくりと、舌先に官能を載せて彼女の指を味わう。
 腰に回した手から、彼女の震えが伝わってくる。

 反応している。
 オルギールったら、と力なく呟いているが、本気で拒絶してはいない。
 彼女は優しい。きっと温かな家族に愛されて育ったのだろう。情が深い。
 だから行為の前にあれこれ真面目くさったことを言う割には、押しには滅法弱い。わずかに眉を下げ、縋るようにものを言えば結局はこちらの思い通りだ。
 
 私はずるい。
 まあ、公爵様方も同様だと思うが。

 「リア、リア。……優しいリア」
 「オルギール……」

 愛しています、と続けることさえもどかしく、指を舐めるのは止めて、彼女の唇にそっとくちづけた。
 彼女は抵抗せずに唇を半開きにして、私の舌を迎え入れてくれる。
 あたたかな咥内。
 歯列を舌でなぞり、往復させ、互いの舌を吸い、存分に絡ませて、唾液を交換する。
 吐息が乱れ、無意識なのだろうが艶めかしく腰を揺らしている。

 柔らかな唇を存分に味わいながらからだをずらし、少しだけ隙間を作ると、彼女の足の間に手を滑りこませた。
 びくりと跳ねるその動きをも利用して、二本の指を一息に柔襞の奥へ突き立てる。

 「ん、ふぅ、んんんっ……!」
 
 くちづけを少し強引にして可愛い抵抗を封じ、指先から伝わるあたたかなざらつく襞の感触を楽しむ。
 彼女が意識を失った後、浴室で丁寧にからだのすみずみまで、その胎の中に注いだものまで洗い清めたはずだが、そこは既にしっとりと湿り気を帯びている。
 親指を伸ばして慎まし気にまだ隠れている粒のあたりを念入りに弄ると、くぐもった喘ぎが一際激しくなった。

 「ふう、ん、……!?あの、オル、ギール!!」

 苦しそうに見えたので唇を解放すると、途端に彼女は抗議の声を上げた。
 からだはこんなにも正直なのに。夜色の瞳はとっくに熱を帯びているのに。それでも彼女は極細の理性の糸にしがみつこうとする。

 愛しくて彼女の鼻先にくちづけながら聞いてみた。
 
 「なんですか、リア?」
 「なんですか、じゃなく、って、やり過ぎ、もう、あ、ああああん!!」
 
 最後まで言えず、堪えきれない嬌声を上げた。細い首を左右に捩じり、腰を波打たせる。
 ナカに埋める指を増やして、溢れ始めた蜜が泡立つほどかき混ぜながら肉粒を親指で転がし続けていると、高まる水音とともに自分の分身も行き場を求めて反り上がった。

 帰城からこっちあれほど彼女を抱いたのに、我ながらあきれるほどの性欲だと思う。
 思いつつも、やめる気などさらさらない。指を抜き、一呼吸すら与えず剛直を突き入れた。
 
 「ああああ!」
 「リア。……」

 彼女の胎内に分け入る瞬間は、いつも眩暈がするほどの多幸感に包まれる。
 荒淫の名残もなくみっちりと引き締まった肉襞は、痛いほど硬くなった自身を締め上げ、吸いつくように快感という名の刺激を伝えてくる。
 さすがにさんざん放ったあとだからだろう。今の私には彼女の反応を観察して楽しむだけの余裕があった。

 ゆっくりと抽送を続け、熱い柔襞の蠕動を感じながら身を屈め、のけぞっても美しく天を向く真珠色の双丘の間に顔を沈める。
 滑らかで弾力のある胸に頬を触れさせて極上の肌触りを楽しんだ。
 時折、双丘の中心に色づく赤い果実を口に含むと、喘ぎ声にはすぐに甘さが混じる。
 左右、均等に吸って舐めて。勃ち上がった先端を舌で擦り、転がしながら気まぐれに歯を立てる。繋いだ下半身で彼女をしっかりと固定し、自由になった両手でたわわな胸を揉みしだき、私の唾液で濡れて光る尖りを摘まんで捻る。
 甘い啼き声と同時に彼女のナカが収縮して、私のものを締め上げる。
 持って行かれそうなほどの快感を逃がしたくて、また彼女の口をみずからの唇で覆いつくし、息もつかせぬほど咥内を舐めまわした。 

 律動を少し早め、彼女の最奥を小刻みに突き上げてやると、リアは全身を震わせ始めた。 
 敏感になり過ぎて絶頂が早いようだ。

 このまま追い込んで一緒に昇り詰めてもいいのだが、あいにく私はまだ物足りない。外交から帰った数日は休むと決めていたから、もっともっと彼女を堪能したい。

 と、いうわけで。
 そういえば、と、あることを思いつく。

 「失礼、リア」
 「あ、んん!」

 ずるりと自身を引き抜いて起き上がると、あらためて彼女の肩に、膝裏に腕を手を回し、抱きかかえて寝台を降りた。
 わずかに不安そうに私を見上げるリアの目尻にくちづけを落として、「怖くありませんよ」と安心させてやる。

 「オルギール、……?」
 「リア、場所を変えましょう」

 頬を紅潮させ、絶頂寸前だった彼女は、落ち着かない様子ではあるが、おとなしく私の首に手を回してその身を預けている。
 豊満な胸が私のからだに押し付けられて、その得も言われぬ感触に、勢いを失わない分身がさらに硬化する。
 ユリアス様がリアの胸に、その谷間に特に執着しているのも頷ける、と妙に納得してしまう。
 
 ──でも、私はリアの「赤珊瑚」の方がもっと好きだけれど。 


 ******


 寝所を出て向かったのは、私が特に丹精込めた温室だ。

 もともとグラディウス三公爵の迎賓館の一つだったヘデラ城は、特段手入れする必要がないほど完璧に整えられていたのだが、庭と温室だけは私が陣頭指揮を執って改良した。
 珍しい樹木、花々。温室にはとりわけ樹形の美しい常緑樹と選りすぐりの花々を植えさせ、季節を問わず楽しめるように設計してある。
 
 明け方が近いせいか、夜空の藍色がほんのわずかその濃さを和らげているものの、硝子張りの温室の中は依然として深閑と昏く静まり返っている。

 漆黒の闇、というわけではない。咲き乱れる花々の鮮やかさが、どこからかわずかに拾う光を受けてぼんやりとした常夜灯の代わりを務めている。

 私はその一角まで進むと、リアをそっと下ろした。
 互いに全裸のままだ。彼女は立ちはしたものの恥ずかしそうに身を竦め、それでも興味深そうに周囲を見回している。
 無理もない。ヘデラ城には既に何度も訪れていても、温室へ入ったのは今日が初めてなのだ。

 「ここ、温室?……きれいね」
 「有難う。……あなたがお好きかと思って」
 「とても素敵。それに、いい香り」

 すん、と彼女は形の良い鼻を動かした。
 香りには相性もあるのだろうが、そこはあらかじめ考えて選別しているから、あらゆる香りが入り混じっているはずなのに悪臭とはならない。天然の香を炊いたようだ。

 うっとりとその香華を楽しむリアの裸の肩を抱くようにしてもう少しだけ歩を進め、滑らかな幹を持つ常緑樹を背にして彼女を立たせた。
 
 常緑樹が大きく広げた枝には、蔓状に改良された炎花フランマフロースが絡まり、咲き乱れている。
 以前、切り花にして渡したものとはかたちが異なるからリアは気づかないようだが。
 ……蕾は、どの品種もほとんど同じだ。

 くるくるとあたりを見回し、捲きつかれた花の重みで低く垂れさがりかけた枝に手を伸ばすリアの、武人とも思われぬほどの華奢な手首をそっと手の中に収め、リア、と呼びかけた。

 なあに?と無邪気に問い返す妻の額に唇を押し当てながら、私は手早く作業を開始した。
 額と言わず瞼に、頬に唇に軽いくちづけの雨を降らせ、こうされるのがとても好きな妻が恍惚として身を任せるのをいいことに、瞬く間に目的を達成する。

 私は少し彼女から離れ、満足して仕上がりを眺めた。

 寄せ合う肌の感触がなくなったせいか、我に返ったようにリアは目を見開き、身じろぎをした。

 そして。
  十分な長さは保ちつつも、絶対に自分では解けないように彼女の手首を戒めるものに気づく。
 縄抜けのできる彼女でも脱出不可能な結い方をして、左右それぞれの紐はそれぞれの手を伸ばした先の枝に括られている。

 「あれ?これ、なに……?」

 紐は長いけれど、自由が利くほどではない
 柔らかく手首に巻かれた緑の紐をリアはまじまじと眺め、そして解こうとして反対に紐に引っ張られて愕然として私を振り仰ぐ。

 「オルギール!どうしてこんなこと」
 
 私は黙って笑んでみせた。
  
 ……温室には枝を矯めたり蔓を誘導するための緑色の絹紐を常備している。
 それを利用してリアを縛ったのだ。
 咲き乱れる珊瑚花の下でリアのからだを拓き、彼女の赤珊瑚と、花の蕾を同時に愛でようと思っただけ。
 別に縛り上げて叩いたり調教したいわけではない。
 頼んでもきっとリアは恥ずかしがって怒って逃げ出すだろうから、ほんの少し強硬手段に出ただけだ。

 とはいえ、手を広げて絹紐から逃れようとする彼女に私はしばし見とれた。
 黒髪を左右に散らし、真珠色の肌を羞恥で赤く染めて身を捩っている。
 意に添わぬ拘束に対しての怒りなのか、それとも自由を奪われた不安からか。常ならば強い光を湛えて私を魅了する瞳には、大粒の涙が浮かんでいる。

 思わず近寄って、零れ落ちる前に涙を吸った。

 「やだ、オルギール……」
 
 涙声までもが耳に心地よく響く。
 次々と浮かんでくる涙を吸いながら、黙したままリアの滑らかなからだを撫でまわす。
 華奢な骨格なのにつくべきところにはしっかりと質感を保つ素晴らしい肢体。
 弓なりにしなる背中から腰、柔らかな尻に右手を這わせ、左手は先ほどまでも存分に味わったゆたかな胸をあらためて揉みしだく。

 丁寧にからだ中を撫で擦りつつ、顔からうなじ、鎖骨のくぼみ、重く揺れる胸、かたちの良い臍へ、唇を這わせ、下へ下へとからだを屈めてゆく間に、私を詰る声はどんどん力を失ってゆく。
 
 「リア」
 
 私は跪いて彼女を見上げた。
  
 「……なによ」

 涙目のまま、それでも律儀に返事をする彼女が愛しくて、私は目の高さになった彼女の恥部を覆うやわらかな叢ににそっとくちづけた。
 
 「オルギール!?」

 びくりと大きくまた彼女のからだがしなる。
 大した刺激は与えなかったはずだが、過敏になっているのだろう。
 
 ……であれば、きっと、もう。
 リアの宝石は。

 想像するや否や自分でも驚くほどの激情にかられて、私はリアの両足、膝裏を抱えて、有無を言わさず限界まで割り開いた。
 
 「やあああ!?」
 「やっぱり。……綺麗ですよ、リア……」

 全力の抵抗を腕の中に封じ込めて、私はため息とともにリアの中心に顔を近づけた。
 薄い叢の影から真っ赤な秘肉が大きく口を広げている。
 繊細な襞の重なりのその奥から透明な泉が溢れ出し、花びらのようなそこを濡らしている。
 
 私は彼女の両足を肩に載せ、しっかりと開かせながら指で花弁をめくり、求めていたものを暴き出した。
 透明な蜜を纏った赤珊瑚。私の宝石がぱんぱんに膨れて小さくとも愛らしいその存在を主張している。
 からだ中撫でて、唇で触れただけで、こんなにも感じている。
 縛って自由を奪うなど。こんな非道な仕打ちをしているのに。

 そのことに歓喜して、私は宝石にむしゃぶりついた。

 「はあああああああ!」
 「リア。……リア、私の……」

 夢中で目の前の宝石に噛り付き、唇と舌で思うさま蹂躙する。
 溢れる泉は一気に水かさを増して、蜜口から差し入れた指を伝って私の手首までもしとどに濡らした。
 膨れた宝石は輝かしく艶やかに赤く光るのに、本物の赤珊瑚とは異なる。柔らくあくまで繊細で、暴力的に動き回る私の舌にあえなく翻弄されている。

 狂ったように身悶えて私の名を呼ぶリアの声にさらに煽られて、私は突っ込んだ指で彼女のナカの弱い部分を責め立て、同時に愛しい宝石を強く吸いながら歯を立てた。
  
 一際大きな嬌声とともに、温かなものが吹き出した。
 それに顔を濡らされつつも、私は口と手による愛撫を止めなかった。執拗に肉粒を弄び、潮も蜜もありったけ吸い取りながら、肩に載せたまま既に抵抗を止めた足を抱え込むことはせず、腕を伸ばして重たげに揺れるリアの胸を鷲掴みにする。
 
 「やああああああああ!」 
  
 リアが再び潮を吹きながら達した。
 びくびくと全身を震わせている。奥深く侵入させた指からも、襞の収縮とともにリアの絶頂が伝わってくる。

 ……溢れるものをあらかた舐め終えて、私は立ち上がった。

 はあはあと荒い息を吐く妻。黒髪を乱し、左右に広げた手首には緑色の紐が巻き付いて、まるでキヅタにからめとられた妖精のようだ。

 キヅタは私そのもの。……ヘデラキヅタ侯、という名は存外悪くない。
 自分で自分の考えに納得しながら、私は頭上に垂れる枝に巻き付いた花を折り取った。

 「リア、これを見て」
 「……?」
 
 枯れた声を無理に出そうとはせず、懸命に息を整えながら、彼女は促されるままそれに目を向けた。
 そして、みるみるうちにその顔が朱に染まる。快楽に酔わされ、既に紅潮していた頬がさらに林檎のように真っ赤になった。

 「綺麗でしょう?赤珊瑚にそっくりでしょう?」

 炎花フランマフロース。──別名「珊瑚花」の紅色の蕾。
 開花直前のそれは瑞々しくぷっくりと膨れている。
 
 その蕾に私は舌を伸ばして唾液を纏わせた。
 朝露に濡れる様がみせたかったのだが、屋内の、温室の蕾だから仕方がない。屋内でも温度によっては露ぶくこともあるが今日はそうではないようだから。

 「リアの宝石にそっくりなんですよ。……色も形も」
 「やだ、オルギール、やらし」
 
 恥じらって背けるその顔を、折り取った花で追いかけて尚も言う。

 「咲きかけると、それもまたあなたの可愛い花びらに似ていて」
 「オルギール、やらしいこともう言わないで」
 「鏡の前で確かめてみませんか?」
 「やだやだ!」

 ぎゅっと目を閉じて頑なに首を横に振るリアを、私は背後に回ってそっと抱きしめた。
 そして、結んでいた紐を手早く解き、もう一度彼女の腕ごと、背中から抱擁する。

 彼女が大きく深呼吸をした。
 拘束が解かれ、安堵したらしい。それを肌で感じて、自分の欲望のままに申し訳ないことをしたとわずかな慚愧の念に駆られる。

 ……でも。
 そんな殊勝な感情は、一瞬で吹き飛んだ。

 「ねえ、リア」
 
 私は彼女の耳殻を舐めながら囁いた。
 なあに、と緊張の解けた柔らかな声でリアが応じる。

 「今度、もう一度縛ってもいいですか?」
 「はあ!?」
 
 頓狂な声とともにリアは振り返った。

 私に緊縛性交の趣味はない。もちろん、性技の一つとしてあらゆる縛り方は心得ている。私にその趣味がないので生かす機会がなかったのだが、今日の彼女を見てひどく興奮する自分に気づいたのだ。
 縛る、ことがよかったのか、紐が緑色でキヅタのように見えたことがよかったのか。
 もう一度、試してみなくては。

 信じられないものをみるような目を向ける彼女に、飛び切りの笑顔を見せてみた。
 愛しい妻が喜ぶように。そしてその妻を惑わすために。 
 案の定、リアは一瞬目を見開いたあと、照れたように瞬きをしながらうつむいた。
 
 「そんな顔、したって。……」

 ごまかされませんとリアは気丈にも言いはしたが、声に力はない。

 「いつか今度、ですよ、リア。気分が変わっていいでしょう?」

 別に、今からすぐ、無理強いしてまで縛らせろと言っているのではない。
 でも、言質を取っておこうと思う。

 「痛いことはしませんから。今も、痛くなかったでしょう?」
 「それは、そうだけれど」
 「けれど、なに?リア」
 「こんな、恥ずかしいこと、突然……」
 「じゃあちゃんと断ってからにします。それならいい?」
 「いいっていうか、けれど、でも」
 
 断ってから縛るほうが恥ずかしいと思うのだが、あと一押しだ。

 「レオン様や他の方々の前ではしませんから。私だけのときに。どう?」

 いいでしょう、リア?と囁きながら、耳朶を口に含む。
 論旨をすり替えているのだが、気づかれなかったようだ。というより、早くこの話題から逃れたかっただけかもしれないが。熱のこもった息を一つ吐いて、小さく頷いている。オルギールったら、と呟いている。

 「有難う、リア」

 また今度ですからね。怖がらないで。
 私はそう続けて、今度は前に回ってリアをしっかりと抱きしめてこめかみにくちづけた。
 持っていた花を彼女の髪に挿して、抱きあげる。

 どこへ行くの?と目で問う彼女に応えるより早く、温室内を移動して、寝椅子に彼女を横たえた。
 艶のある黒髪がふわりと広がる。珊瑚花の蕾が彼女に顔に優しい影を落とす。
 透き通る黒瞳に、彼女を食らい尽くすように覆いかぶさる私が映っている。

 吸い寄せられるように、彼女の唇に自分のそれを重ねた。
 唇どうしを擦り合わせ、舌を潜り込ませて口蓋を舐め尽くす。
 互いの舌を絡ませ、解いてはまた繋ぎ、それを繰り返す。くちづけに酔わせながら、さりげなくリアの足の間にからだを滑り込ませる。

 角度を変えて濃密なくちづけで彼女を翻弄し、頃合いをみて、ひといきに肉楔を打ち込んだ。

 「ん、ふう、んんん!」
 
 くぐもった声は吐息の延長のようなものだ。声になる前に私のくちづけに飲み込まれてしまう。

 先ほどまでさんざん高められた彼女のからだは、抵抗なく私を包み込んでくれた。 
 くちづけで言葉を封じているが、大きく反応したのはいきなり押し入った瞬間だけ。今はまるで快感を追うように、私の抽送に合わせて腰を波打たせている。

 いつしか二人の唇の間に隙間ができても、彼女の口から聞こえるのは甘い喘ぎと切れ切れに呼ぶ私の名。
 返事の代わりに、私はリアのからだ中にくちづけをして、後で叱られるのもかまわず所有印を刻んだ。


 ……ここは私の城、ヘデラ城。花の咲き乱れる温室の中で。
 花のように美しい、愛しいリアを、私は日が昇るまで抱き続けた。 
 
 リア。異世界から来た、奇跡のひと。
 今世も来世もその先も、私はあなたを離さない。
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