溺愛三公爵と氷の騎士 異世界で目覚めたらマッパでした

あこや(亜胡夜カイ)

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9.-17

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 結局、オルギールは慌ただしくも最後まで行為を続け、もと来たところから、つまり、露台(バルコニー)から縄伝いに地上へ下りて去っていった。
  
 (あなたが愛しくて可愛くて)

 我慢できない、と言って、一度、私の中で果てるまで。
 口や指でイかされるだけで解放されると思っていたらそうではなかったのだ。
 手を拘束され、口に布を噛まされて喘ぐ私の姿は、あのオルギールにとってさえ「背徳的で興奮する」ものだったらしい。そう言っていたから。
 
 (お詫びに。……お見舞いに来たのに、リア)

 あなたのせいで止まらない、と言って、長椅子に横たえられた私の足を大きく開き、下衣を寛げて侵入し、下肢をねじ込むように私に叩きつけ、揺れる胸を存分に蹂躙し、滾りの証を注ぎ込んでからようやく落ち着きを取り戻した。熱と欲に底光りする美しい紫の瞳で、終始私を視姦しながら。
 
 そして、下穿きも衣裳も少し乱れた髪も素早く整えてくれながら、ねっとりと耳朶を舐め上げてこう言ったのだ。
 
 明日もまた来ますから、と。


 ……どうしよう。オルギールが壊れた。

 空中庭園の長椅子に腰かけ、ぼんやりと月を見上げながら、私は考えずにはいられなかった。
 濃密な逢瀬だったけれど、時間にしたらそれほど経過しているわけではなかったのかもしれない。
 月の位置はそれほど変わったようには見えない。ウルブスフェルで見上げた時と同じ、赤い月。季節が廻ると月の色も変わるのだそうだ。

 氷の騎士、とか万能のひと、と言われるオルギール。

 お互いの気持ちを確認して、初めて肌を重ねてからまだ三日程度だと思うのだけれど、オルギールの私に対する愛情、というか執着の深さは怖いくらいだ。

 もちろん、大好きなのだけれど。でも、「夫」としてどう接してゆくのがいいのだろう。
 このままでは、彼の本能のままに抱かれまくることになるような気がする。それこそ、今はたまたま夜だったけれど、今後は下手をすると昼夜問わず。そもそも人目につかないところ、二人きりになったとき、今までだっていつも機会を逃さず濃厚接触していたと思うが、夫になって侯爵の身分を得たら誰が彼に歯止めをかけるというのか。
 
 見たところ、オルギールにとってわずかに「遠慮」というものがあるとしたら、レオン様に対してだけかもしれない。
 
 でもレオン様自身、相当ヤキモチ焼きだし俺様で絶倫で、オルギールに歯止めをかける暇があったらご自分も張り合ってしまうというか。

 ここは私がしっかりと方針を定めないと。きちんと意思表示しないと。
 ただし、言葉は選ばなくてはならない。オルギール相手に「離れる」とか「距離」とか、彼の執着から逃れようとする言葉はダメ、絶対。煽るだけなのだと今日、学んだ。


 ……それにしても疲れた。時間を潰しに庭園へ出ようとしただけなのに。なんかちょっとまただるい。
 あんなに激しく慌ただしくヤられたら当然かもしれないけれど。

 火照りも少し冷めてきて、嘆息しつつ上衣をかきあわせていると、カタン、と扉の音がした。
 姫、と私を呼ぶユリアスの声が聞こえる。

 こちらにおります、と、心配させないよう声を上げて居所を伝えると、程なくして観葉植物の間からユリアスが現れた。

 「こんなところにひとりで?」

 優美な眉を顰める。
 こんなところって。自分の城の、それも居住域の露台(バルコニー)ですが。

 近寄って私の隣に腰を下ろしながらそっと肩に手が回される。

 「供を連れて出てもらいたいものだ。たとえ俺の城の居住域とはいえ」
 「ごめんなさい、ユリアス」

 さっきまで最強の「供」と一緒だったとは言えず、私はおとなしく謝った。
 それに、違った意味では最も危険なひとであるわけだし。実際、襲われたわけだし。

 「気をつけます」
 「そうしてくれ。そもそも熱が下がったばかりだし、いくら花月とはいえ外気は」

 純粋に心配してくれるユリアスに対して、なんだかいたたまれない。顔を上げられず俯いていると、くい、と顎に指がかけられ、より一層引き寄せられた。

 「ユリアス?」
 「……また熱がでていないか?」

 そんなことはない、と断言できない自分がつらい。
 ちょっとだるい。

 「!?ん、」
 
 そのままユリアスの唇が重ねられて、隙を突かれた私が驚きの声を上げようと口を開けると、するりと舌が滑り込んできた。

 静かで穏やかだけれど、「決然とした」くちづけ、とでも言おうか。不意だったので咄嗟に逃げようとしたものの、顎に添えられた指の力は緩むことはない。けっして激しくはない舌の動きではあるけれども縦横に、隅々まで彼の舌は私の咥内を探っている。

 「……やっぱりまた熱が出てきたな」

 溜まって零れ落ちそうになっていた私の唾液を啜り上げてから、ユリアスはようやく私の顎を解放した。
 
 暗緑色の瞳。あんなに苦手だったのに、なんて綺麗なんだろうと思わず見惚れてしまう。
 ちょっとの間、まじまじと見つめあっていた。
 ……ユリアスもしばらく私の目を覗き込むようにしていたけれど、不意に口の端を枉げてみるみる不機嫌顔になってしまう。

 なぜだ。

 「そんな顔をするな、姫。襲われたいのか」
 「え?」
 「熱が引いてたら襲ってるぞ」

 ユリアスはむすっとした顔を隠そうともせずに言った。
 そして、私をひょいと抱き上げる。

 「ユリアス!……夕食は?」
 「あんたの部屋に消化のいいものを運ばせる。俺はその後適当に食べておく」

 すたすたと歩いて室内に入り、食べかけの夕食を後目に廊下へ出ると、衛兵に「部屋へ戻る」と素っ気なく言う。

 夕食!もったいない。
 それに、ユリアス!まだ食事の途中なのに。すっかり冷めてしまったのに。

 「ユリアス、微熱は大したことないから私も食事を」
 「熱が下がったから安心してしまったが。……すまない、気が回らなくて。まだ不安定なようだな」
 「不安定って、そんなことは」

 オルギールのせいなのに。
 そして、オルギールを拒めない私の自業自得なのに。

 私を抱き上げて階上へと歩を進めるユリアスは私のおろおろなど気にする素振りはまったくない。
 むしろ、私が遠慮していると思っているらしく、食事に連れ出したことを詫びてくれる始末。

 後ろめたさとそれによる緊張のせいだろう。やはりかなりからだも頭もどんどん気だるく、ぼんやりとしてきてしまって、私はすっかり意気消沈してもとの寝室へと運び込まれたのだった。

 食事はもう断って横になることにして、ささっと夜着に着替えさせてもらい、寝台に潜り込む。
 からだの中にはまだ行為の火照りとオルギールの放った残滓があって、本当はお風呂を頂きたいのだけれど、頭のだるさのほうが勝ってしまってそれもままならない。

 ちなみにユリアスは、私が着替えを終えて寝台に入るまで待っていてくれた。

 「……大丈夫、ではなさそうだな」

 温かくてすべすべの綺麗な手で、私の額を撫でながら言う。
 ……優しい。優し過ぎる。

 ばつが悪くて目をあわせられないし、ユリアスの甘すぎる声も態度も純粋に恥ずかしいし、私は「もう寝ます」とひとことだけ言った。
 そうでも言わないと、ユリアスはなかなか出て行く気配が無さそうだったから。

 医者は今日は断っておく、ゆっくりお休み、と言って、ユリアスは私の額と瞼にくちづけを落して出て行った。

 やっとひとりになれた、と思ったのも束の間、こんどはユリアスと入れ替わるようにケイティだけが入ってきた。室内の明度を落としてくれている。確かに、それはやってもらわないと困りますね。

 ありがとうと声をかけると、私から声をかけるのを待っていたかのように、差し出がましいようですが姫様、と遠慮がちにケイティは切り出した。

 「ケイティ、何?」
 「殿方には体調が優れないときにはそのようにきっぱりと仰いませんと」
 「え……?」

 なんのことだろう。
 上掛けから顔だけ出してケイティに目を向けると、ケイティは気の毒そうに私を見つめ返す。

 「何のことか、ケイティ……」
 「お支度の際、お体に薄く香油をお塗りしたのですが、だいぶん落ちているようですし、それに」

 ……なんか、ヤバい話のような気がしてきた。
 香油が落ちている?それはそうだろう、だってオルギールがあんなにぺろぺろ……

 「お衣裳は私がお首の後ろを結び、整えさせていただきましたが、結び目がとても硬くなっていて。殿方の力で結びなおされたものと推察致しました」 
 「……」

 ひい、と妙な声を挙げなかった私はよく頑張った。
 ついでに言えばポーカーフェイスも保った。本当によく頑張った。
 
 バレてる。……恐るべし、侍女頭・ケイティ……

 「ユリアス様は無体はなさらないと信じておりましたのに、姫様を前にしておそらく自制心が崩壊されたのですね」

 姫様はとてもお美しいし、素晴らしいお胸をしておられますからと、ケイティはしたり顔で言った。 

 まずい。ユリアスは冤罪だしそれ以上突っ込まれるのは物凄く都合が悪い。

 「いえ、あの、ケイティ、ユリアスは何も悪くなくて」
 「差し支えなければこのケイティがユリアス様へひとこと」
 「それはおやめに、いや、絶対にやめて、ケイティ!」

 私は声を振り絞った。
 ご遠慮なされるとこのようなことは後々姫様がお困りに、とケイティは言い募っていたけれど。

 「不要です、ケイティ。ユリアスは優しいし、私が本気で拒否することはしません。心配は無用です。イヤならイヤと私は言いますし、それに」

 ユリアスに望まれることは嬉しいことだから。

 とんでもなく恥ずかしい、けれどこれ以上ないと思われるキメ台詞を囁くと、ケイティはとたんに晴れやかに微笑み、頬を上気させて何度も頷いた。

 「ユリアス様もお喜びでしょう。姫様はなんとお優しい。……本当に無粋な、差し出たことを申しました」

 案の定、ユリアス命のケイティは超がつくほど上機嫌になり、深く腰を折るとごゆるりとお休みなされませ、と言っていそいそと退出した。

 「……」
 
 扉の閉まる音と同時に深い深いため息が自分の口から洩れた。
 虚脱状態で天蓋を見上げる。

 ヤバかった。冷や汗が出た。熱も確実に上がったと思う。

 オルギールは明日も来ると言っていた。そう毎日来なくていいと思うけれど、来ると言っているから必ず来るのだろう。
 彼には「自制」という言葉をきっちりと説明しなくてはならない。
 
 果たして、理解してもらえるだろうか?
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