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第一部
11:lamp black
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これで何度目なんだろう、と考えることすら馬鹿らしくなっている。
俺――柊鈴真は、幾度目かの苦痛を経て、空楽が死ぬ前の世界へまたやってきた。数えることが馬鹿らしくなっても、感応して精神は摩耗していく。生身の身体なら、とっくに壊れていたかもしれない。
それでも俺が理性を保てているのは、魂のみの存在だからなんだろうか。
「っ……」
もはや周辺の景色と自分や銀花の色差がきつく、視界に入れることすらつらい。世界の色は何ら変わりなくて、二人の姿だけ彩りが増しているのではないかと思えてくるほどだ。
銀花は、一見すると鉱石のようにも見えるゼリー菓子のようなものを食べながら、暇そうに空中を漂っている。出会った当初は口にしていなかったと思うのだが、気が付けば手持ち無沙汰で暇をつぶすかのように、時間遡行を繰り返すごとに食す頻度が増していた。
死神だって腹は減るんだろう。あんなもので満たされるのかは分からないが、彼女にとっては主食なのかもしれない。あれはなんだろう――と思いはするものの、どうせ俺には関係のないことだ。
思考の対象を切り替えて、俺は自分がしていることの意味について考えながら、空楽の部屋へ向かった。
部屋の主である彼は小休憩中なのか、パソコンを開いたまま、ベッドに寄りかかって眠っている。
「なあ、空楽……、俺は、どうすればいいんだろう」
聞こえるはずがないと分かっていても、目の前にいる生きた空楽に話しかけてしまう。その瞬間、空楽が目を覚ましたとき、ようやく俺の声が通るようになったのかと錯覚して、心臓がはねた。
しかし――分かっていたことだ。一時の期待は無残にも打ち砕かれ、彼は俺のいる方向を見向きもせずに、パソコンへ向き直った。
ため息をつき、部屋の壁を通って外へ出る。俺の知っている、異世界へ行ってしまった空楽から連絡は来ないのかと思い、端末を見つめてみるが音沙汰はない。制限があるとはいえ、通話という手段ができたからなのか、小説はあまり確認しなくなってしまった。
――異世界の空楽が安定しつつあるから、という理由もある。
異形が蔓延っているとはいえ、あの世界に慣れ始めているのか、昼夜をうまく過ごして脱出できる手段を探りながら、旅を続けているような状態だ。
空楽の「独りだったら耐え切れない」「見つけてくれてありがとう」という言葉がなかったら、俺はとっくに諦めていて、心が死んでいたかもしれない。しかしそれは、逆に言えば諦めることのできない鎖でもあった。
俺がコメントを残さなくなったことについて、空楽は触れてこない。いつ切り出されるのかと後ろめたい気持ちでいたたまれなくなるなら、いっそこちらから全てを話してしまいたくなる。
でも――それもできない。空楽が小説を読んでいなくて、俺の事情を本当に知らなかったらどうする……?
自分のせいで俺が死んでしまったと思って、気に病んでしまうかもしれない。
すでにお互いが知っていたら、はたから見ればずいぶんと滑稽だなと思いながらも、俺には切り出す勇気が持てなかったし、これからも湧き出すとは思えなかった。
心なしか、最近は世界の色が失われていく速度が速まっているような気がするのだが、それが分かったところで何も変わらないので、考えないようにしている。
日が巡り、空楽と話がしたいという感情の穴埋めとして、俺は再び生きている空楽の元へ来ていた。今日はどうやら、生きている俺も一緒にいるようだ。
……自然に受け入れていたが、よくよく考えてみれば、この世界には俺が二人存在していることになる。……今ここにいる俺ってなんなんだろう?
『――あれ、こんなもの持ってたっけ?』
身から出た錆だというのに疎外感を覚えているさなか、生きている俺が発した言葉で意識がそちらへ向いた。
机の上に鉱石のようなものが置いてある。これまで全く気付かなかったが、少なくとも俺が生きていたときには、置かれていなかったはずだ。何かが変わっている……?
『ああ、それ? 白金からもらったやつ』
幼馴染からの誕生日プレゼントね、と生きている俺が納得しながら、鉱石を見つめていた。
――いや、まて、幼馴染……?
空楽に幼馴染なんていないはずだ。生前の俺がおばさんから直接聞いていたのだから、間違いであるはずがない。
『それにしても、白金って珍しい名前だよな』
『そうか? それほど珍しくない名字だと思うけど』
『え、名字? 幼馴染だから、てっきり下の名前で呼んでるのかと……。下の名前なに?』
何気ない俺の質問に答えようとした空楽は、言葉に詰まる。
『…………、あれ……』
幼い頃に会ってそれっきりならまだしも、つい最近も交流があったようなのに、相手の名前を忘れてしまうなんてことはあるのだろうか?
別に空楽は、人の名前を覚えるのが苦手だとか、そういったこともなかったはずだ。そもそも、それだったら出会ってから一年ほどしか経っていない、俺のほうが覚えてもらっていないだろうに。
『どうかしたの?』
しっかりと閉じていたはずのドアは音もなく開いており、そこには一人の少女が佇んでいた。俺たちと同じ学校の、女子の制服を着たその姿は――
「銀花……!?」
少女は銀花に瓜二つだが、髪の色は銀花と違って灰色だ。思わず、窓の外にいるであろう銀花の姿を探してしまう。まとわりつく死神が消えているでもなく、いつも通り暇そうにしながら、ゼリー菓子のようなものを食べている彼女が存在している。
空楽の部屋に現れた少女へ向き直った瞬間、目が合ったような気がした。
『白金』
空楽が少女のものと思しき名前を呼ぶ。……つまり、銀花にそっくりなこの少女が、件の幼馴染らしい……。一体どういうことなんだ。
『鉱石、きれいでしょ?』
二人が鉱石を見ていることに気付いた彼女は、猫のようなしなやかさを備えながら、ゆったりと机のもとへ近寄った。しばし観察するように見つめたあと、空楽と鈴真のほうへ顔を向ける。
『大事にしてね』
彼女はそう告げると、早々に部屋から出て帰ってしまった。気まぐれな猫そのものだ。
『…………』
残された二人の間には、微妙な空気が流れる。当たり前だと信じていた存在が、急に疑わしいものとして感じたのにもかかわらず、現実的に考えれば、「本当は存在しない者」なんてありえないからだ。
生きている二人にとっては、違和感だけが残って気持ち悪い状態だろう。
もしも身近な誰かが、本来なら自分とは何ら関わりもない、あとから紛れ込んできただけの存在だったら――?
この疑問を持てるのは、死んでいる俺だけだ。きっと、白金は存在しない――それなら、銀花はどうして白金を混ぜたんだ?
部屋に残された二人も気になるが、俺は白金の後を追うことにした。――しかし、その決断が遅すぎたのか、街中のどこにも彼女の姿は見当たらない。
「どこへ行ったんだ……」
幼馴染というからには、家が近所である可能性は高い。とっくに帰宅してしまったとすれば、登下校時にこの辺りを見張れば会えるだろうけれど……なんとなく、そうやっても巡り合えないような気がした。
ともすれば、白金がプレゼントしたらしい、あの鉱石がなんなのか考えてみるほうがよさそうだ。残念ながらその分野に関しての知識がないので、自分で解を求めるのは絶望的ではあるけれど……。
銀花がいつも食べているものが本当に鉱石で、空楽のもとにあるものも、死神なら食べられるものとか?
……だとしても、空楽にプレゼントした理由にはならない。
案の定というべきか、主観でも納得できそうな答えが見つからないまま、空楽の命日となる日を迎えていた。
何度も繰り返していくうちに、天から垂らされた蜘蛛の糸を見失いそうになって、辟易していたのは事実だ。……そう、俺は地獄から蜘蛛の糸を伝って生還を目指しているのではなく、それよりも前の……助かるかどうかも確信が持てないようなか細い糸でも、探し出して頼らないといけない段階ということ。
俺は今まで、空楽や生きている自分に事故のことを伝えられないか努力してきた。けれども、今回は別の――凶器となるほうをなんとかできないかと考えている。
ポルターガイストは本当に少しずつ、それこそナメクジが這うような速度で上達はしていた。ただどうしても、生者と死者の差なのか、見えない壁のようなものに阻害されているような感覚がして、大きくものを動かすことはできない。
それでも、「空楽を助ける」ことだけにこだわるのなら、少しだけで十分。車のナンバーや運転手の姿を見られれば、今回失敗したとしても、次に生かせるはずだ。
……そう思ってしまう自分の感性が、人間離れしてしまったような気がして自己嫌悪に陥るけれど。いつの間にか、この世界で生きている空楽はあくまで空楽の形をしたもので、本物は異世界にいる空楽だけだとでも思っているのだろうか?
確かに「俺自身」は、この世界の空楽と一切関わりがない。でも俺の親友であることは確かなはずで……。
そんなことを考えている間にも、刻々と運命の時は近づいてくる。
――見てやろうじゃないか。さんざん俺たちを苦しめてきた原因を。
事故現場へ近づいてくる、一台のダンプカー。もう何度も見た姿だ。それがコントロールを失う前に、近づいて運転席を確認しようとした――のだが……。
「え――――」
そこには誰もいなかった。
ありえない事実に動揺し、硬直していたところに、ダンプカーは容赦なく突き進んでくる。霊体である俺をすり抜けて――いくはずなのに、奇怪なそれは空楽とともに、俺を弾き飛ばした。
「……、……」
なんで、と漏らしたはずの声は、言葉にならずに消えてゆく。
周囲に響く悲鳴や叫び声。みんなが反応しているのは、空楽だけのはずで、俺の姿は見えていないだろうに……。今この瞬間だけは、もしかしたら見えているんじゃないかと錯覚してしまうほど、神経が現場に溶け込んでいた。
路上で仰向けになって放心している俺の頭上に、見慣れた大鎌がちらつく。
「――――」
虚空を見つめたまま、静かに涙を流す俺に構わず、銀花は手に持っているそれを振り下ろした。
俺――柊鈴真は、幾度目かの苦痛を経て、空楽が死ぬ前の世界へまたやってきた。数えることが馬鹿らしくなっても、感応して精神は摩耗していく。生身の身体なら、とっくに壊れていたかもしれない。
それでも俺が理性を保てているのは、魂のみの存在だからなんだろうか。
「っ……」
もはや周辺の景色と自分や銀花の色差がきつく、視界に入れることすらつらい。世界の色は何ら変わりなくて、二人の姿だけ彩りが増しているのではないかと思えてくるほどだ。
銀花は、一見すると鉱石のようにも見えるゼリー菓子のようなものを食べながら、暇そうに空中を漂っている。出会った当初は口にしていなかったと思うのだが、気が付けば手持ち無沙汰で暇をつぶすかのように、時間遡行を繰り返すごとに食す頻度が増していた。
死神だって腹は減るんだろう。あんなもので満たされるのかは分からないが、彼女にとっては主食なのかもしれない。あれはなんだろう――と思いはするものの、どうせ俺には関係のないことだ。
思考の対象を切り替えて、俺は自分がしていることの意味について考えながら、空楽の部屋へ向かった。
部屋の主である彼は小休憩中なのか、パソコンを開いたまま、ベッドに寄りかかって眠っている。
「なあ、空楽……、俺は、どうすればいいんだろう」
聞こえるはずがないと分かっていても、目の前にいる生きた空楽に話しかけてしまう。その瞬間、空楽が目を覚ましたとき、ようやく俺の声が通るようになったのかと錯覚して、心臓がはねた。
しかし――分かっていたことだ。一時の期待は無残にも打ち砕かれ、彼は俺のいる方向を見向きもせずに、パソコンへ向き直った。
ため息をつき、部屋の壁を通って外へ出る。俺の知っている、異世界へ行ってしまった空楽から連絡は来ないのかと思い、端末を見つめてみるが音沙汰はない。制限があるとはいえ、通話という手段ができたからなのか、小説はあまり確認しなくなってしまった。
――異世界の空楽が安定しつつあるから、という理由もある。
異形が蔓延っているとはいえ、あの世界に慣れ始めているのか、昼夜をうまく過ごして脱出できる手段を探りながら、旅を続けているような状態だ。
空楽の「独りだったら耐え切れない」「見つけてくれてありがとう」という言葉がなかったら、俺はとっくに諦めていて、心が死んでいたかもしれない。しかしそれは、逆に言えば諦めることのできない鎖でもあった。
俺がコメントを残さなくなったことについて、空楽は触れてこない。いつ切り出されるのかと後ろめたい気持ちでいたたまれなくなるなら、いっそこちらから全てを話してしまいたくなる。
でも――それもできない。空楽が小説を読んでいなくて、俺の事情を本当に知らなかったらどうする……?
自分のせいで俺が死んでしまったと思って、気に病んでしまうかもしれない。
すでにお互いが知っていたら、はたから見ればずいぶんと滑稽だなと思いながらも、俺には切り出す勇気が持てなかったし、これからも湧き出すとは思えなかった。
心なしか、最近は世界の色が失われていく速度が速まっているような気がするのだが、それが分かったところで何も変わらないので、考えないようにしている。
日が巡り、空楽と話がしたいという感情の穴埋めとして、俺は再び生きている空楽の元へ来ていた。今日はどうやら、生きている俺も一緒にいるようだ。
……自然に受け入れていたが、よくよく考えてみれば、この世界には俺が二人存在していることになる。……今ここにいる俺ってなんなんだろう?
『――あれ、こんなもの持ってたっけ?』
身から出た錆だというのに疎外感を覚えているさなか、生きている俺が発した言葉で意識がそちらへ向いた。
机の上に鉱石のようなものが置いてある。これまで全く気付かなかったが、少なくとも俺が生きていたときには、置かれていなかったはずだ。何かが変わっている……?
『ああ、それ? 白金からもらったやつ』
幼馴染からの誕生日プレゼントね、と生きている俺が納得しながら、鉱石を見つめていた。
――いや、まて、幼馴染……?
空楽に幼馴染なんていないはずだ。生前の俺がおばさんから直接聞いていたのだから、間違いであるはずがない。
『それにしても、白金って珍しい名前だよな』
『そうか? それほど珍しくない名字だと思うけど』
『え、名字? 幼馴染だから、てっきり下の名前で呼んでるのかと……。下の名前なに?』
何気ない俺の質問に答えようとした空楽は、言葉に詰まる。
『…………、あれ……』
幼い頃に会ってそれっきりならまだしも、つい最近も交流があったようなのに、相手の名前を忘れてしまうなんてことはあるのだろうか?
別に空楽は、人の名前を覚えるのが苦手だとか、そういったこともなかったはずだ。そもそも、それだったら出会ってから一年ほどしか経っていない、俺のほうが覚えてもらっていないだろうに。
『どうかしたの?』
しっかりと閉じていたはずのドアは音もなく開いており、そこには一人の少女が佇んでいた。俺たちと同じ学校の、女子の制服を着たその姿は――
「銀花……!?」
少女は銀花に瓜二つだが、髪の色は銀花と違って灰色だ。思わず、窓の外にいるであろう銀花の姿を探してしまう。まとわりつく死神が消えているでもなく、いつも通り暇そうにしながら、ゼリー菓子のようなものを食べている彼女が存在している。
空楽の部屋に現れた少女へ向き直った瞬間、目が合ったような気がした。
『白金』
空楽が少女のものと思しき名前を呼ぶ。……つまり、銀花にそっくりなこの少女が、件の幼馴染らしい……。一体どういうことなんだ。
『鉱石、きれいでしょ?』
二人が鉱石を見ていることに気付いた彼女は、猫のようなしなやかさを備えながら、ゆったりと机のもとへ近寄った。しばし観察するように見つめたあと、空楽と鈴真のほうへ顔を向ける。
『大事にしてね』
彼女はそう告げると、早々に部屋から出て帰ってしまった。気まぐれな猫そのものだ。
『…………』
残された二人の間には、微妙な空気が流れる。当たり前だと信じていた存在が、急に疑わしいものとして感じたのにもかかわらず、現実的に考えれば、「本当は存在しない者」なんてありえないからだ。
生きている二人にとっては、違和感だけが残って気持ち悪い状態だろう。
もしも身近な誰かが、本来なら自分とは何ら関わりもない、あとから紛れ込んできただけの存在だったら――?
この疑問を持てるのは、死んでいる俺だけだ。きっと、白金は存在しない――それなら、銀花はどうして白金を混ぜたんだ?
部屋に残された二人も気になるが、俺は白金の後を追うことにした。――しかし、その決断が遅すぎたのか、街中のどこにも彼女の姿は見当たらない。
「どこへ行ったんだ……」
幼馴染というからには、家が近所である可能性は高い。とっくに帰宅してしまったとすれば、登下校時にこの辺りを見張れば会えるだろうけれど……なんとなく、そうやっても巡り合えないような気がした。
ともすれば、白金がプレゼントしたらしい、あの鉱石がなんなのか考えてみるほうがよさそうだ。残念ながらその分野に関しての知識がないので、自分で解を求めるのは絶望的ではあるけれど……。
銀花がいつも食べているものが本当に鉱石で、空楽のもとにあるものも、死神なら食べられるものとか?
……だとしても、空楽にプレゼントした理由にはならない。
案の定というべきか、主観でも納得できそうな答えが見つからないまま、空楽の命日となる日を迎えていた。
何度も繰り返していくうちに、天から垂らされた蜘蛛の糸を見失いそうになって、辟易していたのは事実だ。……そう、俺は地獄から蜘蛛の糸を伝って生還を目指しているのではなく、それよりも前の……助かるかどうかも確信が持てないようなか細い糸でも、探し出して頼らないといけない段階ということ。
俺は今まで、空楽や生きている自分に事故のことを伝えられないか努力してきた。けれども、今回は別の――凶器となるほうをなんとかできないかと考えている。
ポルターガイストは本当に少しずつ、それこそナメクジが這うような速度で上達はしていた。ただどうしても、生者と死者の差なのか、見えない壁のようなものに阻害されているような感覚がして、大きくものを動かすことはできない。
それでも、「空楽を助ける」ことだけにこだわるのなら、少しだけで十分。車のナンバーや運転手の姿を見られれば、今回失敗したとしても、次に生かせるはずだ。
……そう思ってしまう自分の感性が、人間離れしてしまったような気がして自己嫌悪に陥るけれど。いつの間にか、この世界で生きている空楽はあくまで空楽の形をしたもので、本物は異世界にいる空楽だけだとでも思っているのだろうか?
確かに「俺自身」は、この世界の空楽と一切関わりがない。でも俺の親友であることは確かなはずで……。
そんなことを考えている間にも、刻々と運命の時は近づいてくる。
――見てやろうじゃないか。さんざん俺たちを苦しめてきた原因を。
事故現場へ近づいてくる、一台のダンプカー。もう何度も見た姿だ。それがコントロールを失う前に、近づいて運転席を確認しようとした――のだが……。
「え――――」
そこには誰もいなかった。
ありえない事実に動揺し、硬直していたところに、ダンプカーは容赦なく突き進んでくる。霊体である俺をすり抜けて――いくはずなのに、奇怪なそれは空楽とともに、俺を弾き飛ばした。
「……、……」
なんで、と漏らしたはずの声は、言葉にならずに消えてゆく。
周囲に響く悲鳴や叫び声。みんなが反応しているのは、空楽だけのはずで、俺の姿は見えていないだろうに……。今この瞬間だけは、もしかしたら見えているんじゃないかと錯覚してしまうほど、神経が現場に溶け込んでいた。
路上で仰向けになって放心している俺の頭上に、見慣れた大鎌がちらつく。
「――――」
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