(仮)婚約中!!

佐野三葉

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君と出会ったから ~匠side~

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ふう疲れた。ネクタイを外して、ばふっとベッドに倒れこんだ。
今日は、色々あり過ぎて頭が混乱している。

匠は、部屋の明かりを付けるのも億劫で、そのままベッドの上で仰向けになった。

楓ちゃんのお父さんに、婚約を反対されていると感じてショックを受けたり、みんなから祝福されていると分かって安堵したり、仮婚約の儀について聞いて衝撃を受けたり、ファンタジーのような世界に迷い込んで感動したり・・・。


楓ちゃんは、満面の笑顔で、夕食の打ち上げでみんなと話していたから、もうこの状況を受け入れているのだろう。
自分の家の伝統とそうじゃないのとの違いだろうかー。
僕の方が、気持ちが追い付かいない。
仮婚約の儀が、人を試しているようで気に入らないとか、1年も試験があるなんて長すぎるとかそういう意味ではない。

「本当にこの試験を必要としているのは僕の方だ・・・。」
誰もいない部屋に声が吸い込まれて行く。

「僕には家族を続けていく自信がないのだから・・・。」


仮婚約の儀の始まりについて聡さんが話すのを聞いた時、僕の心の傷がうずいた。



両親は、僕が大学に合格した後で、離婚した。その時僕は、18歳だった。両親の仲が悪くなっているのはうすうす感じていたから、いつかは離婚するんじゃないかと思っていた。だから離婚したら、どちらかと一緒に住むだろうと覚悟は決めていた。

でも、その覚悟は必要なかった。



父親も母親も、別の相手と再婚するから、僕に、1人暮らしをするように言ってきた。

2人は、僕と一緒にいるために、争ったりしなかった。

僕は、親から捨てられるんだと感じた。

やけになった僕は、「マンションを買いたいから、僕が就職するまでは、払って欲しい」と父親と母親を睨みつけながら無茶を言った。困った顔をさせたくて言ったことだった。
もしかしたら、「それなら就職するまでは、自分と一緒に住もう」と言うかもしれないと思った。そこまで粘って親と住みたいとは思えなくなっていたから、困った顔をしたら、「冗談さ。学費とアパート代を出してくれればいい。あとは、バイトで何とかするから。」と言うつもりだった。
それなのに、父親も母親もあっさり了承して、お金を準備した。
僕との関係は清算したいということか・・・。その後は、手続きで必要な時だけ会話して、僕はこのマンションに引っ越してきた。

今、両親とは連絡は取っていない。
1年に2度、葉書が届く。暑中見舞いと年賀状には、それぞれの家族の写真が必ずついている。
言葉も添えてあるが、それを読んだことはない。だけど僕は、それを捨てるに捨てられず、クローゼットの中の段ボール箱に、放り込んでいる。

正直、楓ちゃんとの結婚を決意するのには、勇気が必要だった。僕の両親だって、始めから仲が悪かったわけじゃない。
小学生の頃までは、普通に仲のいい両親だった。それでも、夫婦仲は壊れたし、息子は邪魔になったのだ。
僕は、彼らと血が繋がっている。それが、自分を不安にさせる・・・。

「だけど、本気で欲しくてたまらないなら。壊したくないなら、僕は変わらないといけない・・・。」
彼女との未来を護るために。

体がだるいので、ゆっくり起き上がると、クリスタルが目に入った。ベッドに倒れこんだ時に、スーツの胸のポケットから落ちたのだろう。持ち歩くには目立つので、新さんが言ってたように携帯ストラップにしたほうがいいだろう。何のモチーフにしようか・・・。
クリスタルを手に取りしばらく考えた。

あるイメージが頭の中に浮かんできた。
それを僕は、奈央子さんがやっていたようにクリスタルを手に持ち、イメージしてみる。
手の中の感触から、クリスタルの形が変わっていくのが分かる。
もう大丈夫と感じた頃に目を開けた。

クリスタルは、イメージした通りに変化してくれていた。僕が何のために、1年間仮婚約の儀の試験を受けているのか忘れないように家族のモチーフにした。和風の家と、お父さん、お母さん、子供2人(女の子、男の子)、ペットの犬のパーツでできている携帯ストラップができた。

こんな風な家族を僕も持てるだろうか・・・。
楓ちゃん、君と出会ったから、僕は家族を持ちたいと思うようになったんだ。僕の駄目な部分をみても、君は今までと同じように笑ってくれるだろうか。

月明かりが部屋に影を長く伸ばした。時計を見ると、23時だ。

「そろそろ眠らないと。まずいな。」
体は重く感じるのに、頭が冴えて眠れそうもない。だけど、明日は仕事だ。寝る準備をしないと・・・。動くに動けずにいると、ふわっと桜の香がした。

「なるほど。これがお前の望む家族か。」

匠がベッドの上に置いたブ携帯ストラップを拾い上げ、若い男がまじまじと眺めている。
髪は栗色、瞳は、月の色をしている。服装は、上質の絹の反物で仕立てた灰色に銀色で鮮やかな模様が描かれた着物だ。髪は1つに束ねて後ろに流している。

「む・・・つきさん・・・?」
突然の出現にぎょっとしたが、今日は魔法の数々を見たので、意外と匠の頭は冷静に働いた。

「ああ。瀬戸総右衛門の話を聞いたんだったな。そうだ。あの縁結び妖精は俺だ。」
睦月が、顔を上げ答えた。

「なぜ、僕の所に?」
いつか会えるとは聞いていたけど、こんなに早く会うとは思ってなかった。

「明日から試験開始だからな、新が願っただろう。お前と楓の健康をー。匠、お前、疲れ切っているのに眠れないんだろ?」

「それで来てくれたんですか?」
青銅の扉を開ける時に、確かにみんな色々願ってくれたけど、それは儀式上の言葉だと思っていた。自分たちの助けに繋がるとは想像していなかった。

「まあな。結婚しようと思えば、許可がなくてもできる時代だ。その中であえて仮婚約の儀の試験に臨むんだ。最初くらいは助けてやるよ。」
睦月は、空間から大きいサイズのポットを取り出し、そこから湯飲み茶わんにお茶を注いで、匠に渡した。茶わんからは、湯気がでている。この香りは楓ちゃんの実家でかいだような・・・。

「ほれ。黒豆茶。文乃に頼んで作ってもらった。毎日眠る前に飲むといい。よく眠れるように魔法をかけておいたから。1週間は相談役の聡や新に話せないのだから、欠かさず寝る前に飲むようにな。あと、腐らないようにしてあるから心配するな。」

「はい・・・。ありがとうございます。」
匠は、湯飲み茶わんを受け取ると、フーフーと冷ましながら飲んだ。1口飲むごとに、気分が少しづつよくなっていくのを確かに感じる。

「楓ちゃんの所にも、もう行ったのですか?」
匠は気になっていたことを黒豆茶を飲みながら聞いた。

「あれの所は、まだ大丈夫さ。課題を頑張ってたら、その内、顔を出すと伝えおいてくれ。」
「気にするな。」とでもいうようにさらっと睦月が言った。

「はい。伝えておきます。」
楓ちゃん、僕の方が先に睦月さんと会ったと知ったら、羨ましがるだろうなあ。もしかしたら、すねるかもなあ。

「楓は大丈夫だ。意外と心も広いし、打たれ強いからな。」
匠は、自分の心の声に睦月が返事をしたので、驚いて固まった。

「本当に、睦月さんは、妖精、なんですね。」
匠は思わず本音を漏らした。

「すぐに信じるのは無理だろうな。疑わずに受け入れるのは瀬戸家の直系の子孫くらいだからな。眠気がふっとんだ顔しているな。ふむ・・・。まあ今日は、サービスだ。俺たち妖精が信じれるようにな。」

睦月は、匠の額に人差し指と中指を置いた。そこから何か力が入ってくる。頭の中の混乱が整理されていく。興奮している脳が落ち着いていく。
匠は、強い眠気に襲われた。もう目を開けていられない。
深い眠りについた。

「眠ったか。楓の姿をここへ」
掌の上に楓の様子が映し出される。ベッドの上で、爆睡している。

「やっぱりな。楓は当分大丈夫だ。俺も帰るとしよう。」
睦月は、期待通りの楓の反応に、口元を緩ませ、来た時と同じように、音もなくすうっと消えた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



ピピピピ!ピピピピ!

パシッ。

アラームを止める。時間を見ると、6時だ。
準備をするのに十分間に合う。
ぐっすり眠れたせいか、いつになく体が軽く感じられる。
ベッドから起きだし、台所に行くと、睦月さんが昨日持ってきた、ポットが置いてあった。

「やっぱり夢じゃなかったんだな・・・。」

そこからは、大急ぎでごみ捨てをして、シャワーを浴びた。
今日の朝食は、楓ちゃんのお母さんが包んでくれたおかずと自分で作った味噌汁の残りだ。
オーブンレンジで、温める。
今の時間は、6時40分だ。7時30分に出れば、会社には余裕で間に合う。

携帯電話から僕のお気に入りの曲のサビが流れる。

楓ちゃんからのメールだ。

【おはよう。昨日は、よく眠れた?私は、かなりよく眠れたよ。今日から課題だね。内容は教え合っていいか分からないから、兄さんたちに聞いてみるね。私のは、うーん、夏休みの宿題みたいだったよ。(笑)とりあえず今日から取り組んでます!クリスタルに模様がつくのが楽しみ♪じゃあ、匠さんもお仕事頑張ってね!ファイト!(^V^)/】

朝から元気だな。もう課題に取り組んでいるのか。睦月さんが言ってたように、楓ちゃんは大丈夫なんだろう。

そうか僕も、課題を確認しないとな。

「契約書、ここに」
ストラップに触れて匠は、唱えた。
契約書が空中に浮かんで現れた。

昨日は何も書かれていなかった場所に、文字が刻まれている。


①字を上達させること

②義理の兄弟への言葉遣いのよそよそしさを無くすこと


ああ。本当に僕のことをよく知っているんだな。これは手強そうだ。






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