(仮)婚約中!!

佐野三葉

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それぞれの1日 その1~楓side~

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朝食を食べ終え、楓は自分の部屋に戻り、仕事に行く準備をした。
今日は、丸襟のブラウスに、水色のセーター、下は、ベージュのチノパンに着替えた。

早起きして手伝いをした疲れが出たのだろう。
化粧を終えたところで椅子に座ったまま、うとうとし始めた。
ー5分だけ・・・。
楓の意識は、深い眠りに落ちた。


そこへすうっと音もなく睦月が現れた。


楓の前髪を優しくどかすと額に、人差し指と中指を当てる。

「この者の持てる力をこのクリスタルに移せ。」

藤棚から持ってきたクリスタルがその手にはあった。
睦月の手に持っているクリスタルは2本、計12個のクリスタルが一瞬で色ずいた。

ーまさか、ここまでとはー。

睦月は、目を見張った。1つ1つをじっくり観察したい衝動にかられたが、楓が目を覚ますまで時間がほとんどない。

もう一度同じ魔法を繰り返す。
今度は、ゆっくりと7個色がついた。色が変わらず、透明なままのクリスタルが5個手元に残った。

「これでとりあえずは大丈夫だろう。」
睦月の眉間のしわが消えた。

「自分の試験に集中しろよ。俺たちは、お前の幸せを願っているのだから。」
睦月は、楓の頭を優しくなでながら、そう言うと、すうっと消えていった。






「う・・・うん。あれ、眠ってた。・・・・。しまったあ!仕事に遅れるー。」

楓は、8時40分を指す時計を見て青くなった。荷物を持つと、急いで部屋を出た。部屋の扉がうまく閉まらず半開きになったままだけど、今はそれどころじゃない。

ドタドタドタドタッ!

階段を一気に駆け下りた。

「楓ちゃん、お父さんが車で待ってるわよ。はい。お弁当。」
母が、絶妙のタイミングで声をかけてくれた。

「え!本当に!」
ー助かった。何とか間に合いそうだ。

「行ってきまーす。」
楓は、お弁当のバックを受け取るとスニーカーを履き、走って玄関を出た。父は、車の扉を開けて、楓がすぐに乗れるようにしてくれた。

ブルブルブルンー
楓が乗り込むと、父はすぐに車を走らせた。
車内は、父がヒーターを点けて待っていてくれたおかげで、程よく温かい。

「楓、昨日色々あったから疲れが溜まっているんじゃないのか。大丈夫か。」
父が、運転しながら心配そうに聞いた。

「ごめんなさい。張り切り過ぎちゃって。気が付いたらうたた寝しちゃってた。お父さんの方が疲れてるのに、車を出してもらってごめんなさい。」
楓は、小さく苦笑いを浮かべて謝った。

「いや、私の方はいつものことだから、気にしなくていい。楓、今朝の卵焼き、美味しかったよ。ありがとう。」
父の声のトーンは、低いけど温かくて優しい。

「よかったー。お父さん、食べてくれたんだね。」
父に食欲はあるようなので、楓はほっとした。

「ああ、さっき1切れ食べた。帰ったら残りを食べるよ。」

「お父さん、今日は2種類つくったの。両方食べてみてね。」

「そうなのか。ああ。もちろん食べるよ。」

今朝は、亭主関白スイッチの入っていない父なので話しやすい。
そうだ!今朝のことを話そう!

「お父さん!今朝、私ね庭を掃除してたら妖精に会ったんだよ!」
楓は、にこにこしながら話した。

「・・・。妖精はどんな様子だった?」
車が右に曲がる。父は、運転に集中しているのか。言葉数が減った。

「にこにこ笑ってた。掌サイズでね。私が、手を振ったら、妖精も手を振り返してくれたよ。」
ー今思い出しても、かわいい。いつかあの子たちと会話してみたいな。 

「そうか。会えてよかったな。」

「うん♪」


父と話しているうちに、車は楓の職場の図書館の駐車場に着いた。

「お父さん、ありがとう。」
楓は、そういうと荷物を抱えて、職場に走っていった。

周作は、楓が建物の中に入るまで心配そうに見送った。


タッタッタッタっ

スタスタスタ

タッタッタッタっ

スタスタスタ

タッタッ

スタスタスタスタスタ


ーギリギリセーフ

はあはあはあ。

楓は、走るのと早歩きを使い分け、職員ロッカーに辿り着いた。

「汗だくよ。瀬戸さん。拭いてきた方がいいよ。そのままじゃあ、風邪をひくよ。」
職員ロッカーに、荷物を入れている古賀先輩が気遣ってくれた。

「は・・はい。じゃあ、お手洗いに行ってきます。」



「うわ。髪ぼさぼさ。」

鏡の前で、髪を整え、ハンドタオルで汗を拭く。

ーうたた寝とは、やっちゃったなあ。

楓は、深いため息をついた。

「まあ、終わったことは仕方ない。次頑張ろう!」

楓は、気持ちを切り替えると、職場に早足で戻って行った。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

睦月は、楓の所から消えた後、瀬戸家の藤棚の所に姿を現した。
環菜と蘇芳が出迎えた。

「睦月おにいちゃん、どうだった?」

睦月は、持ち帰ったクリスタルを環菜に見せた。

「すごーい。1,2、3、4,5、・・・・・・17、18,19。蘇芳、19個も色がついている。」

「睦月のじっちゃん。どうすんだそれ。いてててて。」
じっちゃんと言ったところで、蘇芳の顔がまた見えない力に引っ張られた。

「蘇芳。睦月お兄ちゃんだよー」
環菜が優しく指摘する。

「いててっ!
 むつきおにいさま。そのクリスタルは、どうするのですか。(棒読み)」
蘇芳が言い直すと、見えない力が消えた。蘇芳は顔を「あ~痛かった」とさすった。

いつものことなので、睦月は怒ることもなく蘇芳の質問に答えた。

「離婚しそうなところやもめているところに行く縁結び妖精に持たせようと思う。蘇芳、環菜、お前たちで19人選んで連れてきてくれ。」

「それ、もらったら本当に効果あんのか?」
蘇芳が「うさんくさいなあ」という表情をした。

「持ってみろ。」
蘇芳の両手の上に19個のクリスタルを置いた。

「うわあ。すげえ。なんか体が軽くなった。だるいのがふっとんだ。」
クリスタルを持った蘇芳は、驚きの声を上げた。

「環菜も持ってみてもいい?」
環菜がわくわくした表情で睦月に尋ねた。

「ああ。いいよ。」
睦月は、今度は環菜にクリスタルを持たせた。

「ほんとだあ。昨日ついちゃった腕の傷が消えたよ。なんかやる気も出てきたあ。みんなもこのクリスタルを持ってれば、嫌な仕事も頑張れそうだね。」

「ああ。だからそういう仕事に行く前にこのクリスタルを持たせてやろうと思う。今ので、2個クリスタルが元の透明の色に戻ったな。選ぶのは、17人に変更だ。」

「分かった~。これは、ちゃんと選ばないとだね。蘇芳、17人どうやって選ぼうか?」
睦月に返事した後、蘇芳に話しかけた。

「そうだな。このクリスタルはみんな欲しがるだろう?希望者を募ったら、取り合いになりそうだな。・・・。」
蘇芳もクリスタルの効果を実感したこともあって、真剣に考える。

「全員にあげたいけど、数に限りがあるもんね。ハッピーエンドの仕事の子たちを今回は我慢できるように、説得できるかな?」

「くじにしよう。当たりが出たやつにクリスタルを持たせて、任務をこちらで決めればいいんだ。
そうすれば、公平だろう?」

「蘇芳。あったまいいー。」
ー蘇芳はやればできる子だよね。
環菜が手放しで蘇芳を褒めた。

「そ。そうか?」
環菜に褒められ、頬をぽりぽりかいて蘇芳は照れた。

【睦月。聞こえるか。周作だ。話がある。】
藤棚に、周作の声が響いた。

「珍しいな。周作が、睦月のじっ、兄ちゃんを呼ぶなんて。」
ーぎりぎり。セーフ。あのクリスタル、頭も冴えさせてくれるなあ。

「楓のことだろう。少し行ってくる。」
睦月は呼ばれるのが分かっていたかのように、答えた。

「いってらっしゃーい」

「じゃあ、くじ作ろうぜ。環菜。」

「うん!」

ー妖精を選ぶ方法は、2人に任せて問題ないな。

睦月は、またすうっと消えてその場を離れた。

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