プレイメイト(SM連作短編)

馬 並子

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もっとトイレが好きになるプレイ 1/7

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 金曜に明らかに用事があるそぶりで定時退社するのは、余計な憶測を生むとわかっているが、一分一秒も無駄にしたくないのだから仕方がない。
 雛木は周囲の含んだもののある視線を感じつつも、振り切るように会社を後にし、その足で馴染みのネットカフェに急いだ。

 シャワーのあるネットカフェは身なりを整えるのに最適だが、万が一の盗撮や知り合いとの鉢合わせを警戒し、あえて職場からは少し離れた場所にある大型店舗を利用するようにしている。
 少し距離があるため、足早に歩く雛木の肌は、ジャケットの下でじんわり汗ばんでしまった。これからシャワーを浴びるとはいえ、着替えを持ってきているわけではないから、できるだけ汗はかきたくない。
 しかし、工藤に会えるのが二週間ぶりな上、この一週間は禁欲を命じられていたので、はち切れそうになる鼓動が、自然と足を急がせてしまうのだ。
 いや、正確に言えば、禁欲は命じられたわけではない。事の発端は、雛木の仕事の都合で先週の約束が駄目になった際に、工藤から送られてきたメールだった。

《お仕事なので仕方がないとはいえ、この一週間、あなたに会えるのを楽しみに過ごしてきたので、とても辛い気持ちです。心から申し訳ないと思っているあなたはきっと、私と次に会う日まで、乳首以外の場所を慰めることはせず、心と体を切なく持て余すのでしょうね。そう思えば、多少は私の心も慰められるというものです。》
 遠回しな禁欲の指示に、もちろんですと返した雛木だが、そのやんわりとした言い回しは雛木の中に物足りなさを生んだ。
 おそらく工藤はあえて、雛木が自分から禁欲を誓うように仕向けたのだろう。もちろん命令でないからといって禁欲を破ったりはしないが、きつく命令してもらえたら、苦しみに耐えるのにももっと悦びがあっただろうに。
 禁欲に加えて、工藤に与えられる命令への飢餓感が、雛木を更に苛んでいた。

 肉体的にも精神的にも辛い中、工藤から唯一許可された乳首への刺激だけを繰り返し、狂おしい一週間に耐えた。
 工藤によってそこだけで達せるほどの性感帯に変えてもらった乳首ではあったが、この一週間の絶え間ない刺激でひりひりと痛み、衣擦れですら刺激に変えてしまうほど更に敏感になっている。それに加えて、昨夜はクリップで挟んで押し潰したまま眠ったので、雛木の乳首は自分で触れるのも勇気がいるほど、ぼってりと真っ赤に腫れ上がっていた。
 これだけわかりやすく腫らしていたら、いつも以上に可愛がってくれるだろうかと、浅ましい期待が抑えられない。

 たどり着いたネットカフェで早速シャワーの利用申し込みをし、トイレを済ませてようやく入った脱衣ブースで、もう耐えきれないとばかりにスーツの上着を脱いだ。
 衣擦れで既に固く勃ち上がっている乳首を、我慢できずシャツ越しに爪の先でごくごく微かに引っ掻く。ビリビリとした快感が突き抜け、すぐにずうんと重い疼きが腹の中に湧き起こった。
 職場では普段は厚手のインナーシャツで誤魔化しているが、工藤に会える日だけは薄手の透け感のあるシャツにしているせいで、ほんの少しの刺激でもすぐに人目を引く程勃ち上がってしまう。特に今日はいつも以上にツンとワイシャツを押し上げて主張していたから、社内で人の視線を感じたのはおそらく気のせいではないだろう。乱暴に弄ってほしいと主張して勃ち上がる乳首は、持ち主同様快感に貪欲だ。
 思い切り捻り上げて絶頂してしまいたいという荒れ狂う欲求を堪え、前屈みでシャワーブースに入る様は酷く滑稽だが、雛木にはそれを気にする余裕は既にない。できるだけ刺激を与えないように柔らかい泡で洗っていても、乳首が全身に向けて感度を上げる指示を出してしまったかのように、あらゆる場所の感覚が痛みを感じるほど張りつめていた。
 事前にトイレで綺麗にした腹の内側を含め、全身が工藤の責め苦を求め、熱いうねりが沸き起こる。体にボディーソープを滑らせるぬめりにすら、我慢がきかなくなりそうだった。
 もう少しで工藤に会えるのだからと心と体を静めようとするが、そう思えば思うほど待ちきれなくなって、全身がわずかな刺激をも拾ってしまう。
 細心の注意をもって全身を綺麗に磨き立てたのに、シャワーブースを出た雛木は既に染みができている下着に再び足を通し、硬くなった性器を苦労して小さな布にしまいこむしかなかった。

 今日の下着は、面積の小さな黒いビキニタイプで、前から後ろまで金色のダブルジッパーがついている。恥ずかしい場所を露出させることを前提に作られた、かなり卑猥なデザインだ。
 普段であれば穿きたいと思っても少々勇気がいる代物だったが、一週間の禁欲が雛木をいつも以上に大胆にさせていた。
 小さくて締め付けがきついとはいえ、普段穿いている強力なサポート素材の下着ほど巧みに押さえ込んではくれないため、工藤に贈られたコックリングで玉ごと縊り出された雛木の性器は、下着の中でぱんぱんに存在を主張している。
 社内の誰かに股間の盛り上がりを指摘されたらどうしようという恥ずかしさが、日中から既に下着に染みを作らせていた。この染みを工藤に見られるのだと思うと恥ずかしいが、それでも最後の仕上げをするべきだろう。
 雛木は脱衣ブースの全身鏡を背中越しに確認しながら、注意深くジッパーを開き、アヌスの場所だけを露出させた。
 普通に立っていれば深い狭間の奥は見えないが、前かがみになると肉色の襞がジッパーの間に見える。浣腸の刺激で少し充血してしまった襞は、鏡越しの自分の視線にすら貪欲に反応し、早く何か咥えさせてくれというかのようにひくついていた。


 工藤に指定されたオフィスビルは、大手町の駅前にあった。都内有数のオフィス街では、行き交う人々の多くがスーツやビジネス仕様の服装で、皆いかにもまともな社会人然としている。そんな中をスーツ姿で歩く雛木も、風景に溶け込んだただの通行人Aだ。
 しかし、そのスーツの下では乳首を真っ赤に勃起させ、卑猥な下着にコックリング付きペニスを押し込み、ご主人様に見て貰うためにアヌスの場所だけ空気に晒している。
 自分が群衆に溶け込めていればいるだけ、スーツの下のいやらしさが際立って意識された。
 誰にもばれるわけがないという安心感があるからこそ、誰かに気付かれたいという欲望は高まるものだ。群衆に紛れた透視能力者に、すれ違いざまに耳元で「変態」と罵しられる、荒唐無稽ながらゾクゾクする妄想をしながら、雛木は欲情を隠しきれないとろりとした瞳のまま足早に歩いた。

 たどり着いたオフィスビルは飲食店も入っている大型の建物で、社員証がなくてもオフィススペース以外は出入りが自由のようだった。内勤のためあまり他の会社に行く機会がない雛木は、受付の女性の容姿レベルの高さに少々緊張しつつ、何気ない風を装ってエスカレーターで六階を目指した。
 フロア案内を見ると、四階までは飲食店やコンビニエンスストアが入っており、五階から七階は貸会議室になっているようだ。八階から最上階までは、様々な企業の名前がずらりと並んでいる。
 五階に上がった途端喧騒は遠ざかり、カーペット敷きの静かなフロアには、スーツを着た男性が数人行き交っているだけになった。六階に上がると更にしんとしていて、五階よりも人の気配がない。
 そんな静かなフロアで、窓から外を眺めながら、工藤は立っていた。
 きっちり着込んだスリーピースが、嫌味なくらいに似合っている。普段はバーやホテルで待ち合わせることが多かったから、オフィス風の場所に立つ工藤を目にするのは新鮮だった。
 普段もこんな風にオフィス勤めをしているのだろうか。
 プライベートは詮索しないようにしているが、こんなに素敵な人がオフィスにいたら、男も女も放っておかないだろうと思うと、少し心臓の辺りがざわついた。

「こんばんは」
 なんと声をかけようか悩んでいる内に、先に待っている工藤が気づいて声をかけてくれた。
『プレイの準備がありますので、主人が早く来るのは当然です』
 そう言った工藤の微笑みに心と性感を撃ち抜かれて以来、雛木は待ち合わせ場所に後から現れる立場に甘んじている。
 逢瀬の始まりに工藤が発する一言はいつも、ひどく正しくて素敵な挨拶だ。これからいやらしいことを沢山するのに、そしてそれを二人ともわかっているのに、正しくて素敵な挨拶をする。それが、かえって卑猥だ。
「こんばんは工藤さん」
 だから雛木もできるだけ丁寧に、邪気のない言葉で挨拶を返す。
 大人は、うそつきだ。
「さて、では……」
 長身を屈めて工藤が耳元に唇を寄せた。
「私が今から指定するトイレの個室に入り、服を脱ぎなさい。下着と靴と靴下は、身に着けたままで結構です」
 ……大人で、良かった。
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