プレイメイト(SM連作短編)

馬 並子

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もっとトイレが好きになるプレイ 6/7

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 どれくらいの時間が経っただろうか。乳首以上に手首に負担がかかる吊り方で、工藤がそう長い時間放置するはずはない。だが、卑猥で無理のある体勢で緊縛された雛木にとっては、永遠とも思えるような長い時間だった。
 疲労は濃く、痛みは漫然として、もはや早く許して欲しいと願う気持ちしかない。縄を解いて、思い切りいかせて欲しい。それが無理なら、鞭でも何でもいいから、せめて何か刺激が欲しい。乳首とアヌスを引き伸ばされ、声を出すことも許されず、ただ緊縛されているというのは、心身ともに大きな苦痛だった。
 工藤も雛木の切実さに気付いているはずだ。だが彼は、薄い笑みを浮かべて
「ここにずっと飾っておきたいくらい、素敵ですよ」
などと褒めてくれるため、雛木は縄を解いてくれと言い出せずにいた。工藤に失望されたくない一心で、雛木は折れそうになる心を幾度も持ち直す。
 だがいよいよ、ひたすら耐え続けることにも限界が訪れる。吊られる手首の痛みや体勢の苦しさもさることながら、無情に引き延ばされる乳首が、アヌスが、そして何より工藤に会う前から膨れ上がっていた情欲が、卑猥なオブジェと化した雛木を蝕み、崩れさせようとしていた。
 どこもかしこも痛くて、苦しくて、何より決定的な刺激が欲しくて切なくて、自分でも気づかない内に雛木の頬には一筋の涙が伝っていたのだ。
「やめますか?」
 酷く優しい声音で工藤が尋ねてくれる。
 自分が音を上げれば、いつでもプレイをやめてもらえることはわかっている。けれど、やめて欲しいわけでは決してなかった。
 禁を破って、雛木の口からほろほろと言葉が漏れる。
「違うんです……もう、欲しくて……自分でも何が欲しいのかわからないくらい、欲しくて欲しくて……気が狂いそうなんです……」
 欲しいと口に出せば出すほど飢餓感が募った。射精したいのか、乳首で絶頂したいのか、鞭打たれたいのか、アヌスを抉られたいのか、自分でもわからない。ただ、プレイをやめて欲しくないということだけは、はっきりとわかっていた。
 縛られたまま、この痛くて苦しくて卑猥な状態のまま、あと一歩、工藤にどうにかしてほしかった。
「聞いてあげますよ。何が欲しいか言ってごらんなさい」
 欲しいという言葉以外思いつかず、思考が涎と先走りになってだらだらと流れ出す。
 あぁ、欲しい、欲しい。
 俺は、工藤さんが欲しい。俺が、俺のマスターから、欲しいものは……。

「工藤さんが俺にしたいことを、して欲しいです」

 思考がまとまらないまま口をついて出た言葉に、工藤の目が見開かれる。その表情を見て初めて、雛木は自分自身が真に欲していたものに気づいた。
 俺が悦ぶことだけじゃなく、工藤さんがしたいプレイを、俺にぶつけて欲しい。
 それは一見献身のようでいて、そうではないことを雛木は知っていた。 

 かつて乳首への初めてのパルス責めで悶え苦しんでいた時、工藤が盛り上がった股間を自ら摩っていたのを見て、信じられないほど欲情した。痛みを全て快感に変えられるほど、嬉しくて仕方が無かった。
 そう、俺は、奴隷の俺をいたぶって興奮するマスターが見たいんだ。

「虐めてください。もっと。工藤さんの欲望を俺に教えて下さい」
 プレイ中は饒舌な工藤の沈黙が、雛木に勇気を与えた。
「工藤さんの手で……滅茶苦茶にしてください」

 瞬間、骨が砕けそうな力で顎を掴まれた。
「あなたは本当に……!後で泣いても知りませんよ 」
 工藤の息が荒くなっていることがわかった。
 嬉しい。嬉しい。
 俺に興奮してくれて嬉しい。俺にもっと酷くしたいと思っていてくれて嬉しい。工藤さん自身が、俺を痛めつけたがるような悪趣味で、嬉しい。
 目の前がぱあっと開けるようで、雛木の瞳が生き生きと輝く。
 工藤はいてもたってもいられないというようにぐっと指でネクタイを緩めると、ふぅっと一息ついて、一房乱れた前髪を掻き上げた。
 激情は一瞬でその表情から過ぎ去っていたが、目だけは尚も、爛々と強い欲望を湛えている。
「こちらは後で可愛がって差し上げます」と、手早く釣り針が抜かれ、雛木のアヌスがぼひゅっと情けない音を立てて閉じた。やっと解放されたのに切なくて、疼きだけがいや増す。
「お望み通り、私のしたいようにさせていただきます。あなたも好きなだけいきなさい」
 雛木の右斜め前、右足を吊る縄と右乳首を引っ張る麻紐の間に立った工藤は、おもむろに自らの右足をすっと持ち上げた。
 こんな時だが、磨き抜かれた茶色い革靴が美しいと、雛木はぼうっと思った。嫌味に感じない絶妙なつま先の尖り具合が、大人の遊び心を感じさせる。初めてじっくり見たが、靴底はラグソール状の深めの凹凸があり、つま先よりもむしろ鋭利な印象を与えた。ヒールも高めで、硬質に見える。靴までもがこんなに支配者然として美しかったなんて気づかなかった。
 そんなことを考えたのは、後から思えば一種の走馬灯のようなものだったのかもしれない。
 美しい靴に覆われた足が高く持ち上がり、雛木の股間目掛けてゆっくりと下ろされたのだ。
 硬質なヒールが、小さな下着からはみ出したペニスの先端を捉える。まさかと思う内に、ごりっとヒールで抉られた。
「つっ!!! ふぅぅぅぅっ―!」
 涎を垂れ流していた口を今更ながら食い縛り、衝撃に耐える。ペニスを踏み潰される恐怖に、冷や汗が止まらない。
 しかしその痛みと圧迫と、何より便器に固定されて工藤にペニスを踏まれているという現実が、雛木の被虐の悦びをとんでもなく燃え上がらせる。怖いのに、痛いのに、もっと思い切り踏んで欲しいと思っていることに、雛木は自分で気づいてしまった。

「はぁっ、はぁっ」
 荒い息をついて痛みと喘ぎを体から逃がそうとするが、工藤は決して雛木に休む隙を与えず、ヒールから靴裏全体へと徐々に体重を乗せていった。ギザギザとしたソールの刺さる面積がゆっくりと広がり、ついにつま先までの全面が雛木の下腹部を捕らえた。そのまま力を籠め、ペニスと腹をぐうっと踏み込まれる。
「ううぅっ! ふう゛う゛ぅっ……!」
 なけなしの力で耐えていた腹筋が工藤の靴底に負け、腹が大きく凹む。雛木の上体が後ろに倒れ、乳首が、信じられないほどぐぐぐぐぅっと引き伸ばされた。
 ――ちぎれちゃう、ちぎれちゃうっ。乳首、痛い……気持ちいい……ちぎれちゃうよぉっ。
 引き結んだ口腔内で悲鳴が荒れ狂った。もはや元の形を思い出せない程に胸の皮膚ごと引き伸ばされた乳首は、最初から体を拘束するためについていた突起だったようにさえ見える。人間の皮膚が、こんなに敏感な場所が、こんな風に伸びるなんて。
「ひっ……ひっ……」
 胸の痛みに息がうまくつけず、すすり泣くような声を漏らす雛木をよそに、工藤は乳首の付け根に指で触れて、その伸び具合を確認していた。その最中も、奴隷の証として贈られたコックリングに搾り出されたペニスは、無情に靴底に踏み潰されている。
 両の乳首を締め上げる無骨な二本の麻紐の間から見える、美しく光る工藤の革靴。その靴底を、雛木が漏らした先走りが濡らしていた。

「あぁ、ここまで伸びたら、もうあなたの乳首は元には戻りませんね。諦めて、一生私の奴隷でいなさい」
 瞬間、工藤の右足が思い切り踏み込まれた。

 もう限界だと思っていた乳首が更に引っ張られ、雛木の視界に赤い火が爆ぜる。もはや痛みかどうかも判別できないほどの熱は、工藤に与えて貰っている悦びとしかわからない。性器を踏まれる力で乳首を引き伸ばされるというあまりの被虐に、雛木の心と体が歓喜に震えた。
 これが、こんな酷くて変態的な行為が、工藤のしたいことだなんて。なんて素敵で、気持ちいい。
「……ひぃ……ひぃぃ……」
 目を見開き、か細い悲鳴を漏らしながら、雛木はこの行為を、工藤の欲望を、歓びと共に受け入れていた。
「お返事は?」
 冷酷にすら聞こえる声で、工藤が傲慢な独占欲を見せる。涙と涎をだらだらと垂らしながら、奴隷は支配者に忠誠を誓った。
「は……ぃ……、はい……、うれし、です……。いっしょ……工藤さん、の……奴隷、で、いさせて……くださ……」
 工藤にとってはこれもプレイの一環かもしれない。それでも構わなかった。雛木は心から、一生の隷属の誓いを立てていた。
「百点満点です。ほら、ご褒美ですよ」
 工藤の踵が、雛木のペニスの先端をごりっと踏み潰す。
「あぁっ!」
 普通なら痛いはずのそんな強い刺激が、拷問さながらに責められている雛木には、たまらなく甘美だった。
「イイ……イイ、です……、もっと……もっと踏んで、くださいっ……! いかせて……!」
 普段なら許されないような奴隷の甘えにも、『ご褒美』を与える主人は寛大だった。美しい靴でごりごりとペニス全体を踏み、扱くように上下してくれる。
「あぁっ、あぁっ、イイっ、いくいくいくぅっ」
 ここが公共のトイレだということも忘れ、雛木が喘ぐ。
「どうぞ、好きなだけ」
 与えられた優しい許可と同時に、壊す気ではないかと思える力で、雛木のペニスが踏み潰される。平たく変形させられたペニスは遂に、横に潰れた鈴口から、大量の白濁液を噴き零した。
「う゛ああああ゛あ゛んっっっ!!!」
 耐え切れずに潰れた悲鳴が迸る。
 それは、全身で得る、苦痛に満ちた絶頂だった。麻縄が食い込む四肢も、引き伸ばされた乳首も、そして工藤の美しい革靴で踏み潰されたペニスも、どこもかしこも痛くて苦しくて、信じられないくらい気持ちが良かった。
 そして何より、奴隷を踏み潰すマスターのこめかみから一筋滴った汗が、美しかった。
 痛みの中にあるとは思えない多幸感に没頭し、雛木は一週間ぶりに吐き出した精液で、工藤の美しい靴を汚した。
「あああぁっ……ああああぁっ……」
 堪え続けた欲望が出口を求めて暴れ狂うように、縛られた体をびくんびくんと躍らせながら、びゅくびゅくと白濁を零し続ける。もういったのに、もっと絞り出せとでも言うかのように、工藤の革靴が体重をかけたまま前後に動き続ける。
 どこもかしこも痛くて気持ちよくて身悶える。意識の隅で声を堪えなければと思うが、飛び出した舌は口腔内への戻り方を忘れたように突き出されたままで、迸る絶頂の声を押し留めてはくれない。
「いや゛あ゛ぁ゛っ、止まらなっ、工藤さんっ、工藤さっ、ぐっう゛う゛っ」
 突然口に突っ込まれた四本の指に悲鳴を押し付け、必死で舌を絡めて吸い付く。その間も痙攣は止まらなくて、便器も麻縄もぎしぎしと軋みを上げ、乳首が繋がれたドアはガタガタと派手な音を立てた。工藤は指を雛木の口に含ませたまま、尚もごりごりとペニスと腹を踏みつける。
「静かにしなさいと言ったのに。躾け直しが必要ですね」
 そう笑った工藤の目に浮かんでいるのは、紛れも無い欲情の炎。
 ―ーあぁ、嬉しい。工藤さん、興奮してくれてる……。もっと、もっと踏んで下さい、あなたの奴隷に、酷くして……!
 ようやく痙攣が収まり始め、指先一本動かせないほどぐったりと縄に体を預けながらも、雛木は酷く嬉しげな様子で、口に突き入れられた工藤の指をしゃぶり続けた。
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