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工藤さんは本当にセックスしなくて平気なの? 2
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工藤と会うのはSM用の部屋があるホテルが多かったが、今回指定されたのはごく普通の、というより安っぽいラブホテルだった。
部屋の中心に真四角の大きなベッドがある他はソファーすら置かれていない、まさにセックスをするためだけの部屋だ。壁は一面毒々しい赤色で、安眠には程遠く、視覚への暴力とさえ映る。その赤い壁も薄いらしく、隣の部屋からは女のわざとらしい喘ぎ声がはっきりと聞こえていた。
安普請を逆手に取り、隣から漏れ聞こえる声すら興奮材料にするつもりで、あえて壁を薄いままにしているのかもしれない。だが、それはつまり、自分の声も両隣の部屋へ筒抜けになるということに他ならなかった。
セックスにこだわった雛木への嫌がらせかと思うほどの悪趣味な部屋ではあるが、工藤との初体験への興奮が圧倒的に勝っていて気にもならない。雛木は「先にシャワーをどうぞ」と促されるままに、上機嫌のままバスルームで準備を整えていた。
――全身綺麗に剃ったし、中も綺麗にしたし、歯も磨いたし。完璧。
だが、バスローブに身を包み、喜び勇んでベッドルームに戻った雛木を待ち受けていたのは、相変わらずネクタイすら寛げていない、シャツとスラックス姿の工藤だった。
「特に言う必要もなかったのでお伝えしていませんでしたが、実は私は射精しにくい性質なのです。一旦挿入すると、一晩がかりになってしまう可能性があります。あなたを抱くことに否やはないのですが、やめろと言われても途中で止められないので、あなたが本当に“ガン突き”されるのが好きなのか、少し確認させていただけますか?」
まさかの工藤の遅漏発言に固まる。だが、それを告げた工藤の瞳には、面白がるような意地悪さが漂っていた。自分を抱かないための方便かもしれないと思うと、俄然闘志が湧いてしまう。
――「もう我慢できない。入れさせてください」とか言われてみたいけど、工藤さんのキャラじゃないし。「本当にガン突きされるのが好きなんですね。そんなに好きなら、どうぞ私のペニスを一晩中味わってください」みたいな。やばい、言われたい。
雛木は一瞬で台詞付きの妄想を脳内で繰り広げ、
「もちろんです。いくらでも確かめてください」
とにっこり笑った。
「ありがとうございます。それでは“ガン突き”のデモンストレーションとして、少し電動系の玩具を使ってみましょう。でもその前に、しっかりアヌスを解しましょうね」
工藤が取り出して見せた指形の玩具の生々しさに、雛木は小さく喉を鳴らす。その場所を慣らすのすら、本物の指ではなく道具を使われるのだ。その徹底的なセックスの『疑似』加減に、かえって興奮する。
「では、ベッドに横になって、リラックスしていてください。括約筋が溶けて無くなってしまうくらい、トロトロに解して差し上げますから」
それは、セックスの導入としては濃すぎるのでは。そう言いたくなる常識に毒された思考が頭をよぎるが、気持ちよくなりたい雛木に否やはない。
「ふふ、工藤さんのガン突き、俄然期待しちゃいますね」
流し目を送り、できるだけ色っぽく見えるようにゆっくりと体を横たえる。雛木とて、そこそこ経験を積んだいい大人だ。男を誘う仕草の一つくらいは身につけている。
「お尻、トロトロにしてください」
自分からバスローブの裾をつまみ、ちらりと尻の狭間を覗かせる。『デモンストレーション』の“ガン突き”など、大したものではないだろうと、この時の雛木は完全に高をくくっていたのだった。
「さて、そろそろいいでしょう。ほら、起き上がって」
あまりの気持ちよさにぼんやりとしてた雛木は、工藤に軽く尻を叩かれ、びくり体を震わせた。
感じる箇所を器用に避け、筋肉と粘膜を徹底して解されて、雛木はいつのまにかマッサージを受けているような心地よさに夢見心地になっていた。弛んだ上の口から垂れそうになっていた涎を咄嗟に拭い、慌てて跳ね起きる。
部屋に時計が無いせいで、どのくらいの時間尻穴を弄られていたのかわからない。血流がよくなったせいか、尻全体がぼんやりと温かく感じる。穴に至っては……感覚が、ない。
一体どんな具合なのだろうと、さしたる思惑もなく尻に手を回し、ぎょっと固まった。確かめるために軽く触れただけの雛木の指先が、熱い泥沼に沈むようにぬるりと呑み込まれてしまったのだ。
「えっ! えぇっ⁉ こんなんなんの⁉」
初めての感覚に茫然とする。そんな、ここは、こんなに柔らかくなるような場所じゃない。
だが雛木の驚きに、工藤は淡々と応じた。
「あなたにフィストファックの経験がないことはよくわかりました」
何やら恐ろしい単語に、雛木の思考が停止する。
腕の、ファック。
ありえない。そもそもそこに、そんなものが入るはずがない。
鞭で叩いたり縛ったりするだけがSMではないと、何度突きつけられてもその度に驚いてしまう雛木だった。
いつか、この関係を続けていたらそう遠くない未来に、腕を嵌められる、なんてことも……あるのだろうか……。
雛木が抱いた漠然とした不安が、忌避感や嫌悪感によるものではなく、自分の体が後戻りできない程に変えられてしまうことへの恐れと期待だと気づかない内に、工藤から優しい声で命令が下る。
「アヌスへの刺激に集中できるよう、拘束はスパイス程度にしておきましょう。さぁ、手首をテープで留めますから、後ろ手に回してください」
不思議と従いたくなってしまうその声に浮かされ、雛木は座った姿勢のまま、目を伏せ両腕を腰の位置に回してクロスする。
ボンデージテープは、雛木が工藤と出会って知った数多くの道具の中の一つだ。見た目はビニールテープなのに、ガムテープのような粘着面が無い。静電気でテープ同士がくっつく仕様だなんて、普通に生きていたら一生知ることはないだろう。
工藤曰く、「初心者向けと思われがちですが、跡が残りにくいという大きな利点がありますし、カラーバリエーションが多いので視覚的な楽しさもあります」というものらしい。
なお、今回使ってくれるのは赤色のテープのようだ。SM経験の少ない雛木を気遣ってか、工藤はいつも使う道具を一度きちんと見せてくれる。安心するし、これで今からエロいことをするぞと教えられるのも興奮を高めるのだが、わけもわからないまま色んな道具を使われたいような気持もあって、雛木は自分で自分がわからない。だが、どんな種類であれ拘束を仄めかされたら、素直に従ってしまうようになったことだけは確かだった。
しかし、今夜の拘束は雛木が期待したようなものではなかった。普段であれば二の腕からしっかり締めてもらえるのに、赤いボンデージテープを巻き付けられたのは手首だけだった。上下にも動かせるし、ぎこちない動きではあるが自分で秘所に触れることもできる。
その自由さを物足りなく感じてしまった自分に、雛木は軽く身震いした。もっと強く、痛いくらいに縛ってほしいだなんて。
ローションをたっぷりと使い、丁寧に解された秘穴がぐずぐずと疼く。いまだかつてなく弛んだ、熱い沼のようになったこの場所を、早く、固くて大きいので犯して欲しい。乱暴に掻き回して、何度もいかせて、嫌だって言ってもやめないで欲しい。
「あ……はや、く……」
だらしなく目尻を下げる雛木に、工藤は優しい微笑で答えてくれた。
「ええ。挿れますから、足を開いて」
とん、と軽く肩を突かれ、縛られた腕を下にして仰向けにベッドに倒れ込む。体重を掛けて押し倒されるのもいいけど、やっぱりこういうモノっぽい扱いもイイなぁなどとぼんやり思いながら、雛木はおずおずと足を開いた。
バスローブを身に着けたまま工藤の前で足を開くのは新鮮で、本当に初めて抱かれるような気がしてくるから、やたらと気恥ずかしい。
腰の下に敷いた両腕の分だけ股間が持ち上がり、バスローブの中が工藤の眼前に晒される。尻を解される間に先走りでベタベタになった性器は、当然一度も射精を許されてはいない。
「あぁ、前も綺麗に剃れていますね。少し前まで、『全剃りなんて、トイレの時困るじゃないですか』などと言っていたのが嘘のようです」
指摘され、雛木は羞恥に顔ごと視線を逸らす。工藤に抱かれる準備の中に、下の毛を完全に剃ることが含まれていると思って自分からそうするなんて、確かにものすごく……飼い慣らされてる、かも。
視線で犯されるようなじっくりとした観察の後、工藤の手が両膝の裏側を押し、尻を更に持ち上げさせられた。
バスローブ越しに密着する自分の胸と太腿に、否応なく期待が高まる。これから挿入される物は作り物だとわかっていても、雛木の鼓動は気に入った男と初めてセックスする時特有の高鳴りを見せていた。
つぷり……と少し固めのディルドが襞を掻き分けて入ってくる。長い時間をかけて解され、ローションで満たされているその場所は、一般的な日本人男性のサイズに近いそのカタチが入ってきても、露ほども圧迫感を感じなかった。
本来男を受け入れることを想定していないはずの場所が、男を模した物をいとも容易く受け入れてしまう。それはある種、苦しみながら初めて男を受け入れた時よりも、衝撃的で、背徳的な実感だった。
「では、動かしますね」
工藤が手に持った小さなリモコンを操作すると、唐突にウィンウィンと耳障りなモーター音が下肢から響き、ディルドが前後運動を始めた。
「あっ、あんっ、あうんっ」
その力強い動きに、雛木は一瞬でまずいかもと思い始めていた。後孔への刺激にすっかり慣れた体は、単調なピストン運動でもすぐに快感を拾ってしまう。
――どうしよう、これ、すぐ、いくっ……!
その機械が物凄く凶悪な物だと気付いても、もう遅かった。
ガン突きの確認といっても、せいぜいディルドやバイブで奥を集中的に突くくらいだろう。
そんな風に思っていた雛木の前に工藤が取り出して見せたのは、バレーボール大の丸いプラスチックと、四十センチ程度のコの字型の取っ手が組み合わさった謎の機械だった。それだけ見れば、子供用の遊具の一種かと思えるポップな形状だったが、工藤がその丸い本体部分に肌色のディルドを装着したことで、それは一瞬のうちに卑猥な装置へと変化した。
本体の下部から黒いコードが伸びているあたり、なるほどこれが『電動系』の玩具かと興味深い。だが、それが自宅で使い慣れたバイブレーターとどう違うのか、経験してみるまでは知りようもなかった。
それは、雛木が知る乾電池や充電式の玩具とは、あまりにも異なる動きだった。壁のコンセント穴から直接電力を供給するAC電源によって動かされるモーターは強力で、一つ一つのストロークは長く力強く、思い切り締め上げても動きが弱まる気配はまるで無かったのだ。
ちゅぷちゅぷと粘度の高い音を立てながら雛木の秘孔を出入りする肌色のディルドは、エラの括れもリアルで、まさに性器そのものだ。それが出入りするのだから、気持ちよくないはずがなかった。
しかも工藤は、雛木の胸の下辺りまで伸びている取っ手を軽く引き上げながら、いい所にディルドの先が当たるように調節していた。
「あんっ、ああっ、いきますっ、いくっ」
三分も経たずにあっけなく追い上げられ、雛木は一度目の精を放った。だが、マシンは射精時の締め付けに息を詰めることなど当然無く、単調なピストン運動を続ける。
「やだやだっ、もういったぁ」
自分の意思と関わりなく弱いところを責められるのは、ものすごく気持ちがいい。だが、昔の男とのセックスの時にも上げただろう自分の甘えた声を聞きながら、雛木はどこか冷静に、こんなもんだっけ、と思っていた。
マシンによる前後運動は力強く、工藤の狙いの正確さも相まって、下手な男よりよほど気持ちが良いし、加えて持久力も申し分ない。だが、平均サイズで平均のストロークとスピードで抉られても、雛木の体は最早満足できなくなっていた。
――やばい、もっと気絶するまで責めて欲しい、かも。
確かに気持ちがいいのに物足りない。たった三ヶ月で、普通のセックスでは満足感を得られなくなったらしいと思い知らされ、雛木は自分の変化に愕然とした。
「さて、このまま一晩中続けてあなたの体力の限界を測定するのも興味深いですが、せっかくのリクエストです。”ガン突き”の検証に移りましょうか」
物足りないと思いつつも二度目の放埓に向けて駆け上がり始めていた体から、無慈悲にディルドが抜かれた。ウィンウィンというモーター音を聞くだけでも刺激になるのに、それさえもリモコンで止められてしまう。
後孔が訴える強烈な欲求に突き動かされ、雛木はもどかしげにシーツの上で腰をうねらせた。
「これ、何だかわかりますか?」
目の前にぶら下げられたのは、血管の浮き出し方さえリアルな、真っ黒な巨根を模したディルドだった。
「最近はオーダーメイドも随分手軽になりました。あの張り付く感触は何とも言えませんが、ここまでの再現率を目の当たりにすると、多少の不快感は我慢する気になります」
暗に自分のモノをかたどったのだと告げる工藤の言葉は、雛木の口の中をじゅん……っと唾液で満たした。
「これを今からあなたの中に挿れますが、その前に上の口で味わってもいいですよ。どうします?」
目の前にある張り出した先端に誘惑される。棹の部分は不自然に真っ黒なのに、括れより先端だけがやけにリアルなくすんだ薄紫とピンクの間のような色だった。それを唇に触れるほど近づけられて、雛木は気付けば言葉より先に舌を突き出していた。
「普通のセックスとはいえ、あくまでも“私との”擬似セックスですからね。いつものように、きちんと言葉でどうしたいか言ってください」
こんなにも意思表示をしているのにすぐには舐めさせてくれず、少し顔から離されたてらてらと黒光りするディルドの向こう側で、工藤の両の唇の端が蠱惑的に吊り上がる。悪魔を思わせる微笑みは、雛木の性感をこれでもかというほどに揺さぶった。
「これ、しゃぶらせてください……。舌で、口の中で、味わいたいです……」
口の端のみならず、唇全体から唾液を溢れさせながら、雛木は黒光りするディルドを必死に舐めしゃぶっていた。
――これが工藤さんの……。おっきい……。カリ、すごい……。
人工物特有のゴムと油が混ざったようなにおいが鼻を突いているのにも関わらず、雛木は完全に工藤自身に奉仕し、味わうつもりで舌を絡めていた。
――やばい、どうしよう。これが本当に工藤さんの形なのかもわかんないのに、すっごく興奮してる、俺……。
これまで付き合った相手には、奉仕したいという気持ちになったことなどない。舐めるのも前戯の流れの一つという程度に、おざなりなやり方でしかしてこなかった。
だが今雛木は、舌が痛むほど必死で作り物の男のカタチを舐めしゃぶり、懸命に頭を前後させていた。
――これ、欲しい……欲しい……!
「全く、あなたの貪欲さと想像力の成長加減には舌を巻きます。けれどそれは、SMプレイには無くてはならない大切な才能ですよ」
唐突にずるりと口から引き抜かれて咳き込むが、尚も舌を伸ばしてディルドを追う。
――欲しい……工藤さんの……ペニス……!
「いい子ですね。正しいフェラチオの仕方はその内教えて差し上げます。だから今は、”ガン突き”を試してみましょう。是非、私が根負けするくらい『もっともっと』と欲しがってください」
もっと、もっと。と、雛木は心の内で繰り返した。
――だって、もっと、欲しい。工藤さんの、欲しい。
――こんなに欲しくて仕方がないんだから、恥を捨てていくらでもねだろう。もっと、もっと、欲しいって言おう。
既に朦朧とし始めた雛木の頭は、「もっと」というたった一つの言葉を繰り返していた。もっとって言える、欲しがれる。それは確信だった。
だから雛木は、マシンに装着された真っ黒で巨大なディルドを、はぁ……という満足げなため息と共に受け入れた。ものすごい圧迫感だが、じっくり解してもらったし、ローションでしっかり濡らして貰っている。たとえ入れられただけで呼吸が浅くなるような質量でも、先程までのピストンなら、イきながらも『もっと』と甘えられる自信があった。
そんな雛木は、陶然とした微笑みさえ浮かべながら、工藤がリモコンの〔▲〕ボタンを押すのを、うっとりと見つめていた。
部屋の中心に真四角の大きなベッドがある他はソファーすら置かれていない、まさにセックスをするためだけの部屋だ。壁は一面毒々しい赤色で、安眠には程遠く、視覚への暴力とさえ映る。その赤い壁も薄いらしく、隣の部屋からは女のわざとらしい喘ぎ声がはっきりと聞こえていた。
安普請を逆手に取り、隣から漏れ聞こえる声すら興奮材料にするつもりで、あえて壁を薄いままにしているのかもしれない。だが、それはつまり、自分の声も両隣の部屋へ筒抜けになるということに他ならなかった。
セックスにこだわった雛木への嫌がらせかと思うほどの悪趣味な部屋ではあるが、工藤との初体験への興奮が圧倒的に勝っていて気にもならない。雛木は「先にシャワーをどうぞ」と促されるままに、上機嫌のままバスルームで準備を整えていた。
――全身綺麗に剃ったし、中も綺麗にしたし、歯も磨いたし。完璧。
だが、バスローブに身を包み、喜び勇んでベッドルームに戻った雛木を待ち受けていたのは、相変わらずネクタイすら寛げていない、シャツとスラックス姿の工藤だった。
「特に言う必要もなかったのでお伝えしていませんでしたが、実は私は射精しにくい性質なのです。一旦挿入すると、一晩がかりになってしまう可能性があります。あなたを抱くことに否やはないのですが、やめろと言われても途中で止められないので、あなたが本当に“ガン突き”されるのが好きなのか、少し確認させていただけますか?」
まさかの工藤の遅漏発言に固まる。だが、それを告げた工藤の瞳には、面白がるような意地悪さが漂っていた。自分を抱かないための方便かもしれないと思うと、俄然闘志が湧いてしまう。
――「もう我慢できない。入れさせてください」とか言われてみたいけど、工藤さんのキャラじゃないし。「本当にガン突きされるのが好きなんですね。そんなに好きなら、どうぞ私のペニスを一晩中味わってください」みたいな。やばい、言われたい。
雛木は一瞬で台詞付きの妄想を脳内で繰り広げ、
「もちろんです。いくらでも確かめてください」
とにっこり笑った。
「ありがとうございます。それでは“ガン突き”のデモンストレーションとして、少し電動系の玩具を使ってみましょう。でもその前に、しっかりアヌスを解しましょうね」
工藤が取り出して見せた指形の玩具の生々しさに、雛木は小さく喉を鳴らす。その場所を慣らすのすら、本物の指ではなく道具を使われるのだ。その徹底的なセックスの『疑似』加減に、かえって興奮する。
「では、ベッドに横になって、リラックスしていてください。括約筋が溶けて無くなってしまうくらい、トロトロに解して差し上げますから」
それは、セックスの導入としては濃すぎるのでは。そう言いたくなる常識に毒された思考が頭をよぎるが、気持ちよくなりたい雛木に否やはない。
「ふふ、工藤さんのガン突き、俄然期待しちゃいますね」
流し目を送り、できるだけ色っぽく見えるようにゆっくりと体を横たえる。雛木とて、そこそこ経験を積んだいい大人だ。男を誘う仕草の一つくらいは身につけている。
「お尻、トロトロにしてください」
自分からバスローブの裾をつまみ、ちらりと尻の狭間を覗かせる。『デモンストレーション』の“ガン突き”など、大したものではないだろうと、この時の雛木は完全に高をくくっていたのだった。
「さて、そろそろいいでしょう。ほら、起き上がって」
あまりの気持ちよさにぼんやりとしてた雛木は、工藤に軽く尻を叩かれ、びくり体を震わせた。
感じる箇所を器用に避け、筋肉と粘膜を徹底して解されて、雛木はいつのまにかマッサージを受けているような心地よさに夢見心地になっていた。弛んだ上の口から垂れそうになっていた涎を咄嗟に拭い、慌てて跳ね起きる。
部屋に時計が無いせいで、どのくらいの時間尻穴を弄られていたのかわからない。血流がよくなったせいか、尻全体がぼんやりと温かく感じる。穴に至っては……感覚が、ない。
一体どんな具合なのだろうと、さしたる思惑もなく尻に手を回し、ぎょっと固まった。確かめるために軽く触れただけの雛木の指先が、熱い泥沼に沈むようにぬるりと呑み込まれてしまったのだ。
「えっ! えぇっ⁉ こんなんなんの⁉」
初めての感覚に茫然とする。そんな、ここは、こんなに柔らかくなるような場所じゃない。
だが雛木の驚きに、工藤は淡々と応じた。
「あなたにフィストファックの経験がないことはよくわかりました」
何やら恐ろしい単語に、雛木の思考が停止する。
腕の、ファック。
ありえない。そもそもそこに、そんなものが入るはずがない。
鞭で叩いたり縛ったりするだけがSMではないと、何度突きつけられてもその度に驚いてしまう雛木だった。
いつか、この関係を続けていたらそう遠くない未来に、腕を嵌められる、なんてことも……あるのだろうか……。
雛木が抱いた漠然とした不安が、忌避感や嫌悪感によるものではなく、自分の体が後戻りできない程に変えられてしまうことへの恐れと期待だと気づかない内に、工藤から優しい声で命令が下る。
「アヌスへの刺激に集中できるよう、拘束はスパイス程度にしておきましょう。さぁ、手首をテープで留めますから、後ろ手に回してください」
不思議と従いたくなってしまうその声に浮かされ、雛木は座った姿勢のまま、目を伏せ両腕を腰の位置に回してクロスする。
ボンデージテープは、雛木が工藤と出会って知った数多くの道具の中の一つだ。見た目はビニールテープなのに、ガムテープのような粘着面が無い。静電気でテープ同士がくっつく仕様だなんて、普通に生きていたら一生知ることはないだろう。
工藤曰く、「初心者向けと思われがちですが、跡が残りにくいという大きな利点がありますし、カラーバリエーションが多いので視覚的な楽しさもあります」というものらしい。
なお、今回使ってくれるのは赤色のテープのようだ。SM経験の少ない雛木を気遣ってか、工藤はいつも使う道具を一度きちんと見せてくれる。安心するし、これで今からエロいことをするぞと教えられるのも興奮を高めるのだが、わけもわからないまま色んな道具を使われたいような気持もあって、雛木は自分で自分がわからない。だが、どんな種類であれ拘束を仄めかされたら、素直に従ってしまうようになったことだけは確かだった。
しかし、今夜の拘束は雛木が期待したようなものではなかった。普段であれば二の腕からしっかり締めてもらえるのに、赤いボンデージテープを巻き付けられたのは手首だけだった。上下にも動かせるし、ぎこちない動きではあるが自分で秘所に触れることもできる。
その自由さを物足りなく感じてしまった自分に、雛木は軽く身震いした。もっと強く、痛いくらいに縛ってほしいだなんて。
ローションをたっぷりと使い、丁寧に解された秘穴がぐずぐずと疼く。いまだかつてなく弛んだ、熱い沼のようになったこの場所を、早く、固くて大きいので犯して欲しい。乱暴に掻き回して、何度もいかせて、嫌だって言ってもやめないで欲しい。
「あ……はや、く……」
だらしなく目尻を下げる雛木に、工藤は優しい微笑で答えてくれた。
「ええ。挿れますから、足を開いて」
とん、と軽く肩を突かれ、縛られた腕を下にして仰向けにベッドに倒れ込む。体重を掛けて押し倒されるのもいいけど、やっぱりこういうモノっぽい扱いもイイなぁなどとぼんやり思いながら、雛木はおずおずと足を開いた。
バスローブを身に着けたまま工藤の前で足を開くのは新鮮で、本当に初めて抱かれるような気がしてくるから、やたらと気恥ずかしい。
腰の下に敷いた両腕の分だけ股間が持ち上がり、バスローブの中が工藤の眼前に晒される。尻を解される間に先走りでベタベタになった性器は、当然一度も射精を許されてはいない。
「あぁ、前も綺麗に剃れていますね。少し前まで、『全剃りなんて、トイレの時困るじゃないですか』などと言っていたのが嘘のようです」
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バスローブ越しに密着する自分の胸と太腿に、否応なく期待が高まる。これから挿入される物は作り物だとわかっていても、雛木の鼓動は気に入った男と初めてセックスする時特有の高鳴りを見せていた。
つぷり……と少し固めのディルドが襞を掻き分けて入ってくる。長い時間をかけて解され、ローションで満たされているその場所は、一般的な日本人男性のサイズに近いそのカタチが入ってきても、露ほども圧迫感を感じなかった。
本来男を受け入れることを想定していないはずの場所が、男を模した物をいとも容易く受け入れてしまう。それはある種、苦しみながら初めて男を受け入れた時よりも、衝撃的で、背徳的な実感だった。
「では、動かしますね」
工藤が手に持った小さなリモコンを操作すると、唐突にウィンウィンと耳障りなモーター音が下肢から響き、ディルドが前後運動を始めた。
「あっ、あんっ、あうんっ」
その力強い動きに、雛木は一瞬でまずいかもと思い始めていた。後孔への刺激にすっかり慣れた体は、単調なピストン運動でもすぐに快感を拾ってしまう。
――どうしよう、これ、すぐ、いくっ……!
その機械が物凄く凶悪な物だと気付いても、もう遅かった。
ガン突きの確認といっても、せいぜいディルドやバイブで奥を集中的に突くくらいだろう。
そんな風に思っていた雛木の前に工藤が取り出して見せたのは、バレーボール大の丸いプラスチックと、四十センチ程度のコの字型の取っ手が組み合わさった謎の機械だった。それだけ見れば、子供用の遊具の一種かと思えるポップな形状だったが、工藤がその丸い本体部分に肌色のディルドを装着したことで、それは一瞬のうちに卑猥な装置へと変化した。
本体の下部から黒いコードが伸びているあたり、なるほどこれが『電動系』の玩具かと興味深い。だが、それが自宅で使い慣れたバイブレーターとどう違うのか、経験してみるまでは知りようもなかった。
それは、雛木が知る乾電池や充電式の玩具とは、あまりにも異なる動きだった。壁のコンセント穴から直接電力を供給するAC電源によって動かされるモーターは強力で、一つ一つのストロークは長く力強く、思い切り締め上げても動きが弱まる気配はまるで無かったのだ。
ちゅぷちゅぷと粘度の高い音を立てながら雛木の秘孔を出入りする肌色のディルドは、エラの括れもリアルで、まさに性器そのものだ。それが出入りするのだから、気持ちよくないはずがなかった。
しかも工藤は、雛木の胸の下辺りまで伸びている取っ手を軽く引き上げながら、いい所にディルドの先が当たるように調節していた。
「あんっ、ああっ、いきますっ、いくっ」
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「やだやだっ、もういったぁ」
自分の意思と関わりなく弱いところを責められるのは、ものすごく気持ちがいい。だが、昔の男とのセックスの時にも上げただろう自分の甘えた声を聞きながら、雛木はどこか冷静に、こんなもんだっけ、と思っていた。
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――やばい、もっと気絶するまで責めて欲しい、かも。
確かに気持ちがいいのに物足りない。たった三ヶ月で、普通のセックスでは満足感を得られなくなったらしいと思い知らされ、雛木は自分の変化に愕然とした。
「さて、このまま一晩中続けてあなたの体力の限界を測定するのも興味深いですが、せっかくのリクエストです。”ガン突き”の検証に移りましょうか」
物足りないと思いつつも二度目の放埓に向けて駆け上がり始めていた体から、無慈悲にディルドが抜かれた。ウィンウィンというモーター音を聞くだけでも刺激になるのに、それさえもリモコンで止められてしまう。
後孔が訴える強烈な欲求に突き動かされ、雛木はもどかしげにシーツの上で腰をうねらせた。
「これ、何だかわかりますか?」
目の前にぶら下げられたのは、血管の浮き出し方さえリアルな、真っ黒な巨根を模したディルドだった。
「最近はオーダーメイドも随分手軽になりました。あの張り付く感触は何とも言えませんが、ここまでの再現率を目の当たりにすると、多少の不快感は我慢する気になります」
暗に自分のモノをかたどったのだと告げる工藤の言葉は、雛木の口の中をじゅん……っと唾液で満たした。
「これを今からあなたの中に挿れますが、その前に上の口で味わってもいいですよ。どうします?」
目の前にある張り出した先端に誘惑される。棹の部分は不自然に真っ黒なのに、括れより先端だけがやけにリアルなくすんだ薄紫とピンクの間のような色だった。それを唇に触れるほど近づけられて、雛木は気付けば言葉より先に舌を突き出していた。
「普通のセックスとはいえ、あくまでも“私との”擬似セックスですからね。いつものように、きちんと言葉でどうしたいか言ってください」
こんなにも意思表示をしているのにすぐには舐めさせてくれず、少し顔から離されたてらてらと黒光りするディルドの向こう側で、工藤の両の唇の端が蠱惑的に吊り上がる。悪魔を思わせる微笑みは、雛木の性感をこれでもかというほどに揺さぶった。
「これ、しゃぶらせてください……。舌で、口の中で、味わいたいです……」
口の端のみならず、唇全体から唾液を溢れさせながら、雛木は黒光りするディルドを必死に舐めしゃぶっていた。
――これが工藤さんの……。おっきい……。カリ、すごい……。
人工物特有のゴムと油が混ざったようなにおいが鼻を突いているのにも関わらず、雛木は完全に工藤自身に奉仕し、味わうつもりで舌を絡めていた。
――やばい、どうしよう。これが本当に工藤さんの形なのかもわかんないのに、すっごく興奮してる、俺……。
これまで付き合った相手には、奉仕したいという気持ちになったことなどない。舐めるのも前戯の流れの一つという程度に、おざなりなやり方でしかしてこなかった。
だが今雛木は、舌が痛むほど必死で作り物の男のカタチを舐めしゃぶり、懸命に頭を前後させていた。
――これ、欲しい……欲しい……!
「全く、あなたの貪欲さと想像力の成長加減には舌を巻きます。けれどそれは、SMプレイには無くてはならない大切な才能ですよ」
唐突にずるりと口から引き抜かれて咳き込むが、尚も舌を伸ばしてディルドを追う。
――欲しい……工藤さんの……ペニス……!
「いい子ですね。正しいフェラチオの仕方はその内教えて差し上げます。だから今は、”ガン突き”を試してみましょう。是非、私が根負けするくらい『もっともっと』と欲しがってください」
もっと、もっと。と、雛木は心の内で繰り返した。
――だって、もっと、欲しい。工藤さんの、欲しい。
――こんなに欲しくて仕方がないんだから、恥を捨てていくらでもねだろう。もっと、もっと、欲しいって言おう。
既に朦朧とし始めた雛木の頭は、「もっと」というたった一つの言葉を繰り返していた。もっとって言える、欲しがれる。それは確信だった。
だから雛木は、マシンに装着された真っ黒で巨大なディルドを、はぁ……という満足げなため息と共に受け入れた。ものすごい圧迫感だが、じっくり解してもらったし、ローションでしっかり濡らして貰っている。たとえ入れられただけで呼吸が浅くなるような質量でも、先程までのピストンなら、イきながらも『もっと』と甘えられる自信があった。
そんな雛木は、陶然とした微笑みさえ浮かべながら、工藤がリモコンの〔▲〕ボタンを押すのを、うっとりと見つめていた。
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