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雛木君がハマった、黒くて細長いアレ ~反省&実践編 4~
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雛木の全身に、雷で打たれたかのような衝撃が走った。今、工藤は何と言ったのだろうと思考が停止し、唇が震える。
愛情だと、そう言ったのだろうか。奴隷を鞭打つのは、主人の愛情だと。
愛しているから、打つのだと。
雛木の頬を、涙が伝った。
懲罰の時でさえ、打たれる度に工藤の優しさや気遣いは十分に感じていた。だが、そこには愛すらあったというのか。
自分の想いばかりが先走って、工藤がどれほど想ってくれていたか気付けずにいた。一打一打が愛の言葉だなどと、考えずに鞭を受けていた。
なんて、勿体無い。なんて、罪深い。
なんて、言葉にできないほど、ありがたいことだろうか。
背後に立つ工藤の表情は見えない。だが少し困ったような微笑を浮かべているのではないかと、雛木は思った。
「ですから、私にとって奴隷のセルフウィッピングなど言語道断なのです。といっても、私が気持ちを口にして来なかったせいで、あなたがそんな罪を犯したということも理解しています」
言わずとも伝わると考えるのは奢りでしたね、という悲しげな呟きが背後から聞こえて、雛木は必死で頭を横に振る。
自分が未熟で、考えなしだっただけだ。決して工藤のせいなどではない。
だが次の瞬間には、垣間見せた弱さや愛など忘れたかのように、工藤の声は主人としての威厳を取り戻していた。
「というわけで、奴隷の基本をあなたの体に叩き込みます。文字通りね。鞭は決して奴隷が勝手に使ってよいものではなく、主人から与えられるものだと理解できるまで。……そして、あなたが奴隷だと自覚できるまで」
尻の狭間を鞭の先で切り裂くようになぞられて、雛木は縛られた体をびくりと揺らした。条件反射でペニスがむくむくと欲望を増す。
もっと、奴隷にしてもらえるのだ。今よりももっと。愛を込めた鞭を、振るってもらえるのだ。
それは、甘苦しい懲罰の、始まりの合図だった。
工藤の鞭は、驚くほど優しかった。シリコンの鞭先のしなりを最大限に活かし、弾くように皮膚の表面が打たれる。
痛みはほとんどない。パンッと軽い音がして、皮膚がじんっと熱くなる。懲罰だと思い必死で堪えてはいるが、思わず「あんっ」と甘い声を上げてしまいそうなほど心地よく、性感ばかりが刺激された。
しかも、麻縄が食い込む腕と腹は酷く痛むので、相対的に鞭がより甘美な刺激に感じられてしまうのだ。
背中から始まった打擲は、ゆっくりと時間をかけて、隈なく全身に及んだ。正確に、ひとつ前に打った箇所からほんの数センチずつずらしながら、肌が均一に赤くなるよう満遍なく打たれる。
雛木の皮膚はどこもかしこも熱をもち、薄皮を剥がれたかのように敏感になっていた。
鞭は顔にさえ及んだ。右の頬を打たれ、左の頬を打たれ、差し出すよう命じられた舌さえも打たれた。
だが、肝心な場所ーーこりこりに硬くなった乳首、打たれる度に嬉しげに揺れる勃ち上がったペニス、そして無数の青痣が残る尻ーーだけは、一度も打ってもらえていなかった。
そんな焦らし、全身を舐め回すかのような打擲が、背中のスタート地点に既に三度も戻ってきている。
四周目が始まったところで、雛木からついに泣きが入った。
「工藤さんっ……もう……もう……」
全身が燃え立つように熱い。工藤のジャケットの裾が翻る僅かな空気の動きでさえ、舌を這わされるような刺激と受け取ってしまう。
放置された乳首を、ペニスを、尻を、打って欲しい。思い切り強く、打ち据えて欲しい。
痛みと呼べない程のソフトな鞭打ちが、これほどのもどかしい快感と苦痛をもたらすなど、雛木は考えたこともなかった。欲しくて欲しくて狂いそうだった。
「頃合ですかね」
工藤は聞かせるともなく呟くと、バッグから細い麻縄を取り出し、雛木の性器の根元を強く縛った。コックリングに重ねるように玉も一緒に縛られ、竿の根元もぐるぐると巻かれて圧迫されている。
痛みはもちろん大きいが、かなり強く縛られているせいで、ほどなく先端が痺れ始めた。
「壊死しないよう私の方で注意しておきますから、あなたは安心して鞭だけに集中してください」
そう言った工藤が再び鞭を手に、雛木に向き直る。
性器の根元を戒めたということは、射精を封じなければいけないほどの刺激をもらえるということだ。ようやく強く打ってもらえるのだと思うと、痛みへの恐れよりも安堵感が勝った。
だが雛木の予想は大きく外れた。工藤は燃え立つように疼く雛木の胸元に、そっと鞭先を乗せたのだ。それは乳首のほんの僅か横、乳輪までほんの数ミリの位置だった。
「うぅっ」
疼きが突きぬけ、思わず呻く。もう少し、もう少し横、あとほんの少しなのに。
だが欲しい場所には触れてもらえず、工藤の操る鞭先は、縦になったり横になったりしながら、線と面で雛木の左右の胸を辿った。
乳首は、乳輪がなくなってしまうほど限界までこりこりに硬く勃ち上がっている。もどかしくてもどかしくて、雛木の口からは堪えきれない呻きが漏れ続けた。しかし、吊られた不自由な体では、腰をうねうねと前後に動かし、やり場のない疼きに悶えることしかできない。
「これまでの数々のプレイに比べれば大した刺激ではないでしょう? それなのに、あなたは電車の中でそんな風に腰を揺らすのですか?」
意地悪な声音に、はっと目を見開く。
工藤の後ろに、山手線の座席が見えた。車窓には、新宿の高層ビルが見える。
もちろんここはホテルだ。そんなことはわかっている。だが雛木の頬には、打たれたせいだけではない赤みがかっと差した。
もしここが本当に電車の中だったら。
そんな風に想像したら、もうだめだった。羞恥がどっと込み上げる。本物の電車の中で工藤にいたぶられている光景が目に浮かんでしまう。
電車の中でこんな風に全裸で吊られたら。周りを囲んだ乗客達がにやにやと、貶める視線で雛木を眺めていたら。
妄想は広がり、羞恥は欲望を否応なしに昂らせる。
その時、ほんの僅か、鞭先が雛木の右の乳首を掠った。
「あぁっ」
触れるか触れないかの微かな刺激だったにも関わらず、雛木から上がったのは感極まったような嬌声だった。
たまらなく、気持ちが良かった。
だが快感は、一瞬で疼きに上書きされる。一度快感を得たせいで、もどかしさが更に強くなった。顎が上がり、腰の動きに合わせて頭が上下に揺れる。雛木の口からは「ハッハッハッハッ」と細切れの呼気が漏れ始めた。
そこに、触れて欲しい。強く打って欲しい。もどかしさは、既に拷問と化していた。
「あぁ……欲し……欲し、い……」
呟いたのはもはや無意識だった。吊りの責め苦と甘い打擲によって体力と理性を奪われ、判断力が鈍っていた。追い詰められた意識が、妄想を幻覚にまで後押しする。雛木の目には一瞬、自分の痴態を眺める乗客達が確かに見えた。
「み、見ないで、見ないで……」
誰にともなく懇願しながら、焦点が合わなくなってきた目を半眼にさせ、腰を激しく前後に振りたくる。これは躾だということも、完全に頭から飛んでしまっていた。
「電車内で吊られる想像でもしましたか。そんな変態が通勤電車に乗るなど、世間様の迷惑ですね」
工藤の声は、軽蔑を示すかのように冷たい。だが、与えられたのは無慈悲な優しさだった。工藤の操る鞭先が、雛木の左の乳首をするっと撫でたのだ。
「あひぃっ」
情けなくも色めいた悲鳴が上がる。乳首から股間へ、そしてアヌスへと、ぞわぞわとしたもどかしさが這い回り、息も出来ない。疼いて疼いて、気が狂いそうだ。
限界だった。
耐えきれず、堰を切ったかのように悲痛な叫びが溢れる。
「ああっ、もう駄目ですっ、もう駄目っ! 乳首っ、乳首がっ!」
気持ちよくて、恥ずかしくて、もどかしくて、死にそうだった。
だが工藤は再び、鞭先で乳首の周囲を辿り始める。
「あぁっ、あぁん、ああぁー」
吊られた腰をくねらせながら、雛木はひっきりなしに声を上げた。もどかしくてもどかしくて。ひたすら疼いてもどかしくて。
いやらしく喘ぎながら、雛木は幾筋もの涙を頬に伝わせる。
「もうっ、もうっ、赦してくださいぃっ」
自分の罪が何だったのかも思い出せなくなっていたが、この苦しみから解放されたい一心で赦しを乞うた。
どうすれば解放されるのかも、もはや考えられない。ただ工藤だけがこの苦しみから救ってくれること、それだけはわかっていた。
「では、奴隷に相応しい作法を教えて差し上げましょう」
すっと鞭を引いた工藤はくいと顎を引き、ひどく高慢な微笑を浮かべた。
雛木は身を掻き毟りたいほどのもどかしさに苛まれ、
「お願いしますっ、教えてくださいっ、お願いしますっ」
と涙ながらに訴える。
雛木の涙は工藤の鞭先でつっと拭われ、自身の口元へと運ばれた。主人の体の延長だと言われた鞭が、苦しみの涙を、まるで蜂蜜のように雛木の唇に塗りこめる。
そんな甘い刺激にすら唇が震え、
「あぁ……あぁ……」
と溜息のような喘ぎが漏れた。
「この口で」
鞭先で雛木の唇を辿りながら、工藤はゆっくりと口にする。
「どうか乳首を打って下さい、と心を込めて私におねだりするのです。打ってもらえるまで、何度でも。そして打ってもらえたら、ありがとうございますとお礼を言うのですよ。それが望んで鞭打たれる奴隷の作法です」
ひゅっと、雛木の喉が鳴った。
解放を願って縋る必死さを湛えていた瞳に紗がかかり、とろんと光が弛む。
それは工藤がよく知る、服従を悦ぶ奴隷の瞳だった。
「ど……どうか……」
雛木の声は、欲望に掠れていた。
声に出して鞭を望むのは、射精を請うより遥かに屈辱的で、倒錯的なことだ。しかも、それが乳首にともなれば尚更だった。
だが工藤が見込んだとおり、雛木は顔を紅潮させ、濡れた瞳で自らそれを口にしたのだった。
「どうか、乳首を……打って下さい」
自分の発した声にさえ羞恥を煽られたかのように、雛木はぎゅっと眉根を寄せた。
「もう一度」
鞭先で雛木の唇を擽ると、追いかけるようにして舌が伸びた。手足を縛られ、唯一自由になる舌で、一生懸命鞭を求めているのだ。
まるで雛鳥のように一心に。
「どうか、乳首を打って下さい……ふっ……ぅ……お、お願いします……」
欲情に吐息を漏らしながら鞭を強請る切なげな顔が可愛くて、工藤は鞭先で舌に触れてやった。
すると、雛木は熱心に鞭先を舐めた。主人の体の一部だと教えた鞭を、奉仕するかのように舐っている。その素直さは、非常に工藤の好みだった。
「足りませんね。ほら、打って欲しいんでしょう? もっと心を込めておねだりしてごらんなさい」
雛木の気持ちは十分伝わってはいるが、もっと追い込んでやりたくて要求を続ける。
工藤の望む通り、雛木はむずがるように縛られた体を揺らして、
「あぁ、打って下さい。これで乳首を打って下さいっ」
と懇願した。
「ほら、もっと」
言いながら、唾液で濡れた鞭先で、ほんの僅かにつんと乳首を突いてやる。
その途端、雛木が一気に崩れた。
「ああぁっ! お願いしますっ! お願いしますっ! 打って下さい! 乳首打ってくださいぃ!」
十字架にかけられたかのように開かれた胸を更に突き出し、身も世もなく工藤の鞭を求めてくる。
工藤の背をゾクゾクゾクッと凶暴な悦びが駆け上がった。
「よくできましたね」
一発でとどめを刺すつもりで、グリップに神経を集中させる。
当てる位置も、音も、強さも、全てが完璧になるよう心を込めて、工藤は鞭を振り下ろした。
狂おしいほど鞭を待ち侘びている、可愛い奴隷の勃ち上がった乳首に向かって。
《パァーンッ!》
心地良い打擲音が、室内に響いた。
硬く勃った乳首を余さず捕らえた手応えが、握り込んだグリップ越しに感じられた。
「ああああああっ‼」
雛木が絶叫してのけぞった。空中で四肢を突っ張らせ、背を反らして、ぶるぶると震える。きつく縛った性器は張り詰めてはいるが、精液は吹き零れていない。天井を仰いだ口は何かに驚いたかのように叫びの形で固まり、腰だけがガクガクガクンッと不規則に前後した。
それは、長いオーガズムだった。雛木は初めて、鞭だけで絶頂を得たのだ。
その体から力が抜ける直前を見計らい、先ほどとは反対側の乳首も音高く打ち据える。
「うあああぁっ⁉」
引きかけた絶頂の波に再び引き込まれ、雛木が驚き交じりの叫び声を上げる。それは嬌声と呼ぶには鋭すぎる悲鳴だったが、工藤の表情にも鞭にも迷いはない。雛木を決して休ませず、オーガズムを長引かせるために、左右の乳首をパンパンパンッと立て続けに打ち据えた。
「いやあああっ‼ うああああっ‼」
雛木は絶叫し、吊られた体を捩り、縛られた足をばたつかせている。傍目にはまるで拷問のように映るだろうが、雛木が得ているのは痛みや苦しみだけであるはずはない。
その証拠に、雛木は悲鳴の合間合間に、「いくぅ! いくぅ‼」と叫んで、頭をぶんぶんと打ち振るっていた。
「打ってもらったら何と言うんでしたか? ほら!」
パァン! と更に乳首を打ち、尾を引く絶頂に痙攣し続けている雛木を尚も追い込む。
「ひいいぃっ!」
悲鳴を上げた雛木は、はくはくと浅い息をつき、目を見開いてだらだらと涎を零しながらも、
「ありがとう……ございます……」
と掠れた声を搾り出した。
だが、当然そんなものでは赦すはずもない。
「聞こえませんね」
度重なる打擲で真っ赤に染まった雛木の胸を、工藤は更に打ち据える。左右交互に、乳首の先端、側面と、器用に角度を変えながら。
「ひぃっ! ひぃっ! ありが、うああっ、ああっ! あり、ありが、ひぃっ、痛いぃっ、いくいくっ、いくぅっ! っ……あ、はぁっ、いってるぅ……」
感謝の言葉を紡ごうとして果たせない雛木を、工藤は許さず苛み続ける。
「ほら、打って欲しかったんでしょう? 嬉しいんでしょう?」
問いとは言えない残忍な科白を投げつけながら、痣にならないギリギリの強さで執拗に打つ。無体を働いているにも関わらず、工藤の唇は愉悦に吊り上がっていた。
「あひぃっ! ゆる、赦してくださっ、いっちゃ、また、ああぁっ! っあ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
「もっと心を込めなさい」
工藤の無理難題に、雛木は滂沱の涙を流した。だが、それでも、決して逆らおうとはしなかった。
「ありがとうございますっ! あぁっ! ひぃぃっ! ありがとう、ございますぅっ!」
可哀想で可愛い雛木は、終わりの見えない痛みと絶頂感に身悶えながら、何度も何度も己の主人に感謝を叫び、咽び泣いた。
愛情だと、そう言ったのだろうか。奴隷を鞭打つのは、主人の愛情だと。
愛しているから、打つのだと。
雛木の頬を、涙が伝った。
懲罰の時でさえ、打たれる度に工藤の優しさや気遣いは十分に感じていた。だが、そこには愛すらあったというのか。
自分の想いばかりが先走って、工藤がどれほど想ってくれていたか気付けずにいた。一打一打が愛の言葉だなどと、考えずに鞭を受けていた。
なんて、勿体無い。なんて、罪深い。
なんて、言葉にできないほど、ありがたいことだろうか。
背後に立つ工藤の表情は見えない。だが少し困ったような微笑を浮かべているのではないかと、雛木は思った。
「ですから、私にとって奴隷のセルフウィッピングなど言語道断なのです。といっても、私が気持ちを口にして来なかったせいで、あなたがそんな罪を犯したということも理解しています」
言わずとも伝わると考えるのは奢りでしたね、という悲しげな呟きが背後から聞こえて、雛木は必死で頭を横に振る。
自分が未熟で、考えなしだっただけだ。決して工藤のせいなどではない。
だが次の瞬間には、垣間見せた弱さや愛など忘れたかのように、工藤の声は主人としての威厳を取り戻していた。
「というわけで、奴隷の基本をあなたの体に叩き込みます。文字通りね。鞭は決して奴隷が勝手に使ってよいものではなく、主人から与えられるものだと理解できるまで。……そして、あなたが奴隷だと自覚できるまで」
尻の狭間を鞭の先で切り裂くようになぞられて、雛木は縛られた体をびくりと揺らした。条件反射でペニスがむくむくと欲望を増す。
もっと、奴隷にしてもらえるのだ。今よりももっと。愛を込めた鞭を、振るってもらえるのだ。
それは、甘苦しい懲罰の、始まりの合図だった。
工藤の鞭は、驚くほど優しかった。シリコンの鞭先のしなりを最大限に活かし、弾くように皮膚の表面が打たれる。
痛みはほとんどない。パンッと軽い音がして、皮膚がじんっと熱くなる。懲罰だと思い必死で堪えてはいるが、思わず「あんっ」と甘い声を上げてしまいそうなほど心地よく、性感ばかりが刺激された。
しかも、麻縄が食い込む腕と腹は酷く痛むので、相対的に鞭がより甘美な刺激に感じられてしまうのだ。
背中から始まった打擲は、ゆっくりと時間をかけて、隈なく全身に及んだ。正確に、ひとつ前に打った箇所からほんの数センチずつずらしながら、肌が均一に赤くなるよう満遍なく打たれる。
雛木の皮膚はどこもかしこも熱をもち、薄皮を剥がれたかのように敏感になっていた。
鞭は顔にさえ及んだ。右の頬を打たれ、左の頬を打たれ、差し出すよう命じられた舌さえも打たれた。
だが、肝心な場所ーーこりこりに硬くなった乳首、打たれる度に嬉しげに揺れる勃ち上がったペニス、そして無数の青痣が残る尻ーーだけは、一度も打ってもらえていなかった。
そんな焦らし、全身を舐め回すかのような打擲が、背中のスタート地点に既に三度も戻ってきている。
四周目が始まったところで、雛木からついに泣きが入った。
「工藤さんっ……もう……もう……」
全身が燃え立つように熱い。工藤のジャケットの裾が翻る僅かな空気の動きでさえ、舌を這わされるような刺激と受け取ってしまう。
放置された乳首を、ペニスを、尻を、打って欲しい。思い切り強く、打ち据えて欲しい。
痛みと呼べない程のソフトな鞭打ちが、これほどのもどかしい快感と苦痛をもたらすなど、雛木は考えたこともなかった。欲しくて欲しくて狂いそうだった。
「頃合ですかね」
工藤は聞かせるともなく呟くと、バッグから細い麻縄を取り出し、雛木の性器の根元を強く縛った。コックリングに重ねるように玉も一緒に縛られ、竿の根元もぐるぐると巻かれて圧迫されている。
痛みはもちろん大きいが、かなり強く縛られているせいで、ほどなく先端が痺れ始めた。
「壊死しないよう私の方で注意しておきますから、あなたは安心して鞭だけに集中してください」
そう言った工藤が再び鞭を手に、雛木に向き直る。
性器の根元を戒めたということは、射精を封じなければいけないほどの刺激をもらえるということだ。ようやく強く打ってもらえるのだと思うと、痛みへの恐れよりも安堵感が勝った。
だが雛木の予想は大きく外れた。工藤は燃え立つように疼く雛木の胸元に、そっと鞭先を乗せたのだ。それは乳首のほんの僅か横、乳輪までほんの数ミリの位置だった。
「うぅっ」
疼きが突きぬけ、思わず呻く。もう少し、もう少し横、あとほんの少しなのに。
だが欲しい場所には触れてもらえず、工藤の操る鞭先は、縦になったり横になったりしながら、線と面で雛木の左右の胸を辿った。
乳首は、乳輪がなくなってしまうほど限界までこりこりに硬く勃ち上がっている。もどかしくてもどかしくて、雛木の口からは堪えきれない呻きが漏れ続けた。しかし、吊られた不自由な体では、腰をうねうねと前後に動かし、やり場のない疼きに悶えることしかできない。
「これまでの数々のプレイに比べれば大した刺激ではないでしょう? それなのに、あなたは電車の中でそんな風に腰を揺らすのですか?」
意地悪な声音に、はっと目を見開く。
工藤の後ろに、山手線の座席が見えた。車窓には、新宿の高層ビルが見える。
もちろんここはホテルだ。そんなことはわかっている。だが雛木の頬には、打たれたせいだけではない赤みがかっと差した。
もしここが本当に電車の中だったら。
そんな風に想像したら、もうだめだった。羞恥がどっと込み上げる。本物の電車の中で工藤にいたぶられている光景が目に浮かんでしまう。
電車の中でこんな風に全裸で吊られたら。周りを囲んだ乗客達がにやにやと、貶める視線で雛木を眺めていたら。
妄想は広がり、羞恥は欲望を否応なしに昂らせる。
その時、ほんの僅か、鞭先が雛木の右の乳首を掠った。
「あぁっ」
触れるか触れないかの微かな刺激だったにも関わらず、雛木から上がったのは感極まったような嬌声だった。
たまらなく、気持ちが良かった。
だが快感は、一瞬で疼きに上書きされる。一度快感を得たせいで、もどかしさが更に強くなった。顎が上がり、腰の動きに合わせて頭が上下に揺れる。雛木の口からは「ハッハッハッハッ」と細切れの呼気が漏れ始めた。
そこに、触れて欲しい。強く打って欲しい。もどかしさは、既に拷問と化していた。
「あぁ……欲し……欲し、い……」
呟いたのはもはや無意識だった。吊りの責め苦と甘い打擲によって体力と理性を奪われ、判断力が鈍っていた。追い詰められた意識が、妄想を幻覚にまで後押しする。雛木の目には一瞬、自分の痴態を眺める乗客達が確かに見えた。
「み、見ないで、見ないで……」
誰にともなく懇願しながら、焦点が合わなくなってきた目を半眼にさせ、腰を激しく前後に振りたくる。これは躾だということも、完全に頭から飛んでしまっていた。
「電車内で吊られる想像でもしましたか。そんな変態が通勤電車に乗るなど、世間様の迷惑ですね」
工藤の声は、軽蔑を示すかのように冷たい。だが、与えられたのは無慈悲な優しさだった。工藤の操る鞭先が、雛木の左の乳首をするっと撫でたのだ。
「あひぃっ」
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いやらしく喘ぎながら、雛木は幾筋もの涙を頬に伝わせる。
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どうすれば解放されるのかも、もはや考えられない。ただ工藤だけがこの苦しみから救ってくれること、それだけはわかっていた。
「では、奴隷に相応しい作法を教えて差し上げましょう」
すっと鞭を引いた工藤はくいと顎を引き、ひどく高慢な微笑を浮かべた。
雛木は身を掻き毟りたいほどのもどかしさに苛まれ、
「お願いしますっ、教えてくださいっ、お願いしますっ」
と涙ながらに訴える。
雛木の涙は工藤の鞭先でつっと拭われ、自身の口元へと運ばれた。主人の体の延長だと言われた鞭が、苦しみの涙を、まるで蜂蜜のように雛木の唇に塗りこめる。
そんな甘い刺激にすら唇が震え、
「あぁ……あぁ……」
と溜息のような喘ぎが漏れた。
「この口で」
鞭先で雛木の唇を辿りながら、工藤はゆっくりと口にする。
「どうか乳首を打って下さい、と心を込めて私におねだりするのです。打ってもらえるまで、何度でも。そして打ってもらえたら、ありがとうございますとお礼を言うのですよ。それが望んで鞭打たれる奴隷の作法です」
ひゅっと、雛木の喉が鳴った。
解放を願って縋る必死さを湛えていた瞳に紗がかかり、とろんと光が弛む。
それは工藤がよく知る、服従を悦ぶ奴隷の瞳だった。
「ど……どうか……」
雛木の声は、欲望に掠れていた。
声に出して鞭を望むのは、射精を請うより遥かに屈辱的で、倒錯的なことだ。しかも、それが乳首にともなれば尚更だった。
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「どうか、乳首を……打って下さい」
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「もう一度」
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「どうか、乳首を打って下さい……ふっ……ぅ……お、お願いします……」
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すると、雛木は熱心に鞭先を舐めた。主人の体の一部だと教えた鞭を、奉仕するかのように舐っている。その素直さは、非常に工藤の好みだった。
「足りませんね。ほら、打って欲しいんでしょう? もっと心を込めておねだりしてごらんなさい」
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「あぁ、打って下さい。これで乳首を打って下さいっ」
と懇願した。
「ほら、もっと」
言いながら、唾液で濡れた鞭先で、ほんの僅かにつんと乳首を突いてやる。
その途端、雛木が一気に崩れた。
「ああぁっ! お願いしますっ! お願いしますっ! 打って下さい! 乳首打ってくださいぃ!」
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《パァーンッ!》
心地良い打擲音が、室内に響いた。
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「ああああああっ‼」
雛木が絶叫してのけぞった。空中で四肢を突っ張らせ、背を反らして、ぶるぶると震える。きつく縛った性器は張り詰めてはいるが、精液は吹き零れていない。天井を仰いだ口は何かに驚いたかのように叫びの形で固まり、腰だけがガクガクガクンッと不規則に前後した。
それは、長いオーガズムだった。雛木は初めて、鞭だけで絶頂を得たのだ。
その体から力が抜ける直前を見計らい、先ほどとは反対側の乳首も音高く打ち据える。
「うあああぁっ⁉」
引きかけた絶頂の波に再び引き込まれ、雛木が驚き交じりの叫び声を上げる。それは嬌声と呼ぶには鋭すぎる悲鳴だったが、工藤の表情にも鞭にも迷いはない。雛木を決して休ませず、オーガズムを長引かせるために、左右の乳首をパンパンパンッと立て続けに打ち据えた。
「いやあああっ‼ うああああっ‼」
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その証拠に、雛木は悲鳴の合間合間に、「いくぅ! いくぅ‼」と叫んで、頭をぶんぶんと打ち振るっていた。
「打ってもらったら何と言うんでしたか? ほら!」
パァン! と更に乳首を打ち、尾を引く絶頂に痙攣し続けている雛木を尚も追い込む。
「ひいいぃっ!」
悲鳴を上げた雛木は、はくはくと浅い息をつき、目を見開いてだらだらと涎を零しながらも、
「ありがとう……ございます……」
と掠れた声を搾り出した。
だが、当然そんなものでは赦すはずもない。
「聞こえませんね」
度重なる打擲で真っ赤に染まった雛木の胸を、工藤は更に打ち据える。左右交互に、乳首の先端、側面と、器用に角度を変えながら。
「ひぃっ! ひぃっ! ありが、うああっ、ああっ! あり、ありが、ひぃっ、痛いぃっ、いくいくっ、いくぅっ! っ……あ、はぁっ、いってるぅ……」
感謝の言葉を紡ごうとして果たせない雛木を、工藤は許さず苛み続ける。
「ほら、打って欲しかったんでしょう? 嬉しいんでしょう?」
問いとは言えない残忍な科白を投げつけながら、痣にならないギリギリの強さで執拗に打つ。無体を働いているにも関わらず、工藤の唇は愉悦に吊り上がっていた。
「あひぃっ! ゆる、赦してくださっ、いっちゃ、また、ああぁっ! っあ、ありがとうございますっ! ありがとうございますっ!」
「もっと心を込めなさい」
工藤の無理難題に、雛木は滂沱の涙を流した。だが、それでも、決して逆らおうとはしなかった。
「ありがとうございますっ! あぁっ! ひぃぃっ! ありがとう、ございますぅっ!」
可哀想で可愛い雛木は、終わりの見えない痛みと絶頂感に身悶えながら、何度も何度も己の主人に感謝を叫び、咽び泣いた。
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御月様(旧名 僕君☽☽︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。
また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。
(小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!
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