プレイメイト(SM連作短編)

馬 並子

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雛木と誠吾、尿道責められるってよ 2

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 かくして二匹の奴隷は、それぞれの主人に尿道を開発されることになったのだった。
 雛木には工藤の名を他人に漏らした罰、誠吾にはいつまで経っても中イキできず主人を煩わせている罰、という名目があるものの、二人ともなぜ急にこんなことになったのかと理解が追い付いていない。
 いや、頭では理解していたが、これから人前で尿道を弄られるのだという事実を、心が受け入れられていないのだ。工藤の調教ならどんなことでも大歓迎な雛木でも、他人の前で醜態を晒すことにはまだ抵抗感がある。しかも、よりによって尿道プレイ。未知すぎる。男は竿や玉を痛めつけられることに、本能的な恐怖を抱くものだ。
 それに、失禁してしまったらどうしようという不安もあった。普段のプレイではもはや、敏感でいやらしい性感帯のひとつという認識でしかないペニスなのに、尿道を弄られるとなると、排泄器官だったことが突如として思い出されるのが不思議だ。雛木の胸にのし掛かるのは、まるで寝小便を不安がる子供のような心もとなさだった。
 しかし、彼ら奴隷に選択肢はない。膀胱を空にして股間をしっかり洗ってきなさいという工藤の指示にのろのろと従い、誠吾と二人、それぞれ個室でシャワーを浴びる。
 脱衣所付きのシャワーブースまで完備とは、全くこの店はどうなっているのだろう。しかも、ブース内にトイレまである。何とも至れり尽くせりだ。
 薄暗い店内とは違い、シャワーブースは白々と明るい。もちろん工藤との待ち合わせ前にシャワーは済ませていたが、それでも雛木は言われた通り、念入りにボディソープを使った。先端のスリットを指で割り開き、柔らかい流水を当てると、びくりと腰が引ける。
 こんな敏感な場所をこじ開け、更に遥か彼方と思えるほど遠くにある前立腺を刺激しようというのか。どれほど深くまで拓かれてしまうのだろうと考えただけで、恐ろしさに鳥肌が立つ。
 しかしもちろん、胸の内にあるのは恐れだけではない。初めての、人前での調教だ。雛木はプレイを他人に見られるという状況に、悦びと誇らしさを感じていることを自覚せずにはいられなかった。なぜなら、それは工藤のものとして第三者に披露されることに他ならないのだから。工藤の完璧な奴隷には程遠い自覚のある雛木にとっては、他者の視線という間接的な承認でさえ、喉から手が出るほど欲しいものだった。
 さすが工藤の奴隷だと矢上が感心するくらいに、どんな苦痛にも恥辱にも耐えてみせる。ペニスなんて、工藤の奴隷として生きていく自分にとっては、突き詰めれば排泄機能さえ残ればいいのだ。壊されたって問題ない。
 被虐の予感に心地よく酔い、雛木はシャワーブースの扉を開けた。だがしかし、そんな向こう見ずな高揚感は、一瞬で脆くも崩れ去る。脱衣所には雛木が着てきた私服は既に無く、代わりに清潔感のある薄水色の検査着が置かれていたのだ。
 これがボンデージウェアなら、どんなにか気分が盛り上がっただろうに。急に、今からされるプレイが繊細且つ汚れる恐れのある行為なのだと実感させられる。胃カメラ検査で地獄を見た経験のある雛木にとって、検査着は決して助平心が盛り上がるアイテムではなかった。
 しかし、廊下に全裸で出ていくわけにもいかない。まったく、レイの店は酒の品揃えは悪いのに、こういうところは気が利きすぎる、と暗澹たる思いになりながら、検査着に着替えた雛木は脱衣スペースから出た。
 一方、誠吾は一足先に身支度を終えており、廊下で待っていたレイに「何でなんですか!」と半泣きで詰め寄っていた。
「必要ないからです。お腹が冷えそうなら腹巻きを用意しましょうか?」
 淡々としたレイの答えに、そういう問題じゃないと騒ぐ誠吾の剥き出しの脚は、意外にもしっかりと剃毛されている。男らしさにこだわりがありそうなタイプなのに、矢上の趣味か、縄を打つ際の実用性のためか、はたまたその両方か。
 そんなことを考えていた雛木の視線に気付き、誠吾が眉毛をハの字に歪めた。
「先輩、俺……無理っす……」
 雛木と誠吾に用意されていたのは、ギリギリ股間を覆う丈の上衣のみであった。もちろん下着など、ない。

 一体この店に、秘密の部屋は何種類あるのだろう。定期的に内装をガラリと変えているのか、何度も訪れている雛木にも、未知の部屋がいくつもある。
 レイに連れられ、雛木と誠吾は主人達の待つ部屋に押し込まれた。そこは、コメントし辛い程に高度にイメージプレイに特化したプレイルームだった。何しろ、見るからに病院の診察室だったのだ。
 正体がわからない瓶や、しち難しいタイトルの書籍が並んだ戸棚に、ステンレスの診察台、そして、本物の病院でしかお目にかかったことのない、円の集合体からなる反射板の眩しい大きな照明。ドクター用の机の上にはステンレスのトレイがあり、滅菌されたと思しきさまざまな個包装の道具が並べられている。もちろん、レイがプレイのために用意した備品だ。
 その店主レイは、検査着に身を包んだ奴隷二匹を主人達に引き渡すと、他の客が来店したからと残念そうにバースペースへと引き返して行った。他の客が来なければ見物、いやもしかすると参加していくつもりだったのだろうか。雛木は顔も知らない来客に一杯奢りたい気持ちになった。いくら雛木がマゾとはいえ、ヒールを尿道に突っ込みたがるレイにだけは、気軽にプレイに参加されたくはない。
「では、二人とも。大切なことなので正直に、且つ正確に回答してください」
 緊張と恐怖に顔色を無くして診察台の前に立ち尽くす誠吾と、そわそわして落ち着かない様子の雛木に、工藤が淡々と質問を重ねる。腎臓や膀胱に関わる病歴、排泄の頻度、排泄時の痛みや不快感の有無等。その問答は、完全に泌尿器科の様相を呈していた。そんな工藤の様子に、雛木は涎を垂らさんばかりの弛んだ表情で見惚れながら、機械的に質問に答えていく。
 何しろ、工藤と矢上はジャケットを脱ぎ、レイが用意した白衣に袖を通していたのだ。プレイの内容が内容なだけに、高価そうなスーツや簡単には洗えない革ジャンを汚すリスクを考えれば、白衣は理に適っている。清潔で、汚れが目立つために異常を発見しやすく、洗いやすい。
 だが、白衣の効果はそのような実用面だけに限られない。権威と明晰さの象徴ともいえる白衣は、医療や研究を生業としない人間にとっては、特別感があることは疑いようもない。何よりその清潔感が、理知的な工藤の容姿を引き立ててやまないのだ。
 しかし、あまりにも似合いすぎているが故に、かえってお医者さんプレイ然としすぎていて、雛木は恥ずかしくなってしまう。これからこの素敵な『お医者さん』に尿道を抉られ、鳴かされるのだ。罰だったはずなのに、ご褒美すぎやしないか?
 その一方で、面白いことに、同じように白衣を身に纏っていても、矢上からは清廉さが欠片も感じられなかった。白衣でも覆いきれない、噎せるような雄の野性味に、雛木は思わず赤面する。この男の前で今から変態お医者さんプレイを……と想像しただけで、股間にじわりと熱が集まろうというものだ。
 しかし雛木の浅ましさは、工藤にしっかりと見抜かれていた。
「これから行うのは矢上さんと誠吾君のためのデモンストレーションです。人体模型に徹することができない奴隷は、レイに一晩貸し出しますから、そのつもりで」
 途端に雛木の血の気が引いたのは言うまでもない。

 工藤に脅された、もとい、現状認識を促された雛木は、できるだけ気配を殺して診察台の前に立った。人体模型、人体模型、と胸の内で繰り返し唱え、不用意な反応はすまいと努める。誠吾もおとなしく雛木の隣に立っていたが、視線をやらなくても視界の端で捉えられるほど、ガタガタと全身を震わせていた。
 そんな奴隷達を、立ち上がった主人二人が見下ろす。白衣に身を包んだ工藤と矢上にわけもなく圧倒され、雛木は無意識に少し身を引いてしまった。途端に、太股の裏側にひやりとした固さを感じ、びくりと竦み上がる。人一人が寝られる程度の大きさの診察台は、ステンレスの表面が鈍く光を反射し、ひんやりとした冷気をむき出しの太股の裏に伝えている。その無機質さが、急にこれから行われる行為に現実味を与え、雛木が努めて意識の外に追い出していた恐怖心を炙り出した。
 尿道プレイが初めての誠吾はもちろん、雛木もペニスの中ほどまでしか道具を入れてもらった経験がない。前立腺を刺激するほど深くまで異物を入れられるとなれば、それはどう考えても恐ろしくて不自然な行為だ。ましてや、二人とも他人の目の前でのプレイは初めてなのだ。いざその場になると、脅えてしまうのは道理だった。
 心細さからいつの間にか寄り添い合っていた奴隷二人を唯一守ってくれる薄水色の検査着は、スナップを三つ外せば完全に体の前面が露出される作りで、酷く頼りない。いわゆるお医者さんごっこ用の部屋であり衣装なのだろうが、リアリティが過ぎる。
 二人は剥き出しになった脚を無意識の内に内股にし、検査着の裾を下に引っ張りながら、成す術なく主人の言葉を待った。
「二人とも、診察台に腰掛け、脚を大きく開きなさい」
 工藤の静かな声に、雛木も誠吾もびくりと肩を揺らす。淡々と、しかし厳かに、恥辱の時間が始まったのだ。
 雛木も誠吾も、己の主人には散々痴態を見せている。しかし、他者の視線を意識すると、戸惑いと恥ずかしさは禁じ得ない。 
 だがさほど間を置かず、雛木の方が先に行動に移った。工藤に命じられて、断る選択肢などない。
 太股の高さの冷えた診察台に腰を下ろし、両脚を持ち上げ足裏を診察台につけると、意を決し工藤に向けて膝頭を大きく開く。羞恥から視線は逸らされ気味ではあったが、見てもらいやすいように両手を後ろについて、顎を軽く引いている。
 晒された無毛の股間には、工藤のイニシャルが刻まれたコックリングが鈍く光っていた。
「誠吾、俺に恥をかかせるな」
 矢上の低い声に、誠吾の喉がひゅっと鳴る。カタカタと震えながら雛木の隣に腰を下ろすと、遠慮がちに脚を持ち上げて、そろそろと開いた。雛木より随分と控えめな開脚になっているところに、誠吾の物慣れなさがありありと現れている。染められた茶色の細い眉毛はきゅっと寄り、目つきが悪いと言われがちな小さな黒目がきょどきょどと動き、過ぎた不安を訴える。雛木の膝と自身の膝が触れると、びくりと全身を揺らし、誠吾は小さく「うぅ……」と苦渋の呻きを漏らした。
 酷く明るい室内に晒された二人の股間は、緊張のあまり縮こまっている。持ち物のサイズは似たり寄ったりのようだが、誠吾のものは剃毛されていない分根元が繁みに埋まっており、コックリングでくびり出された雛木のものの方が幾分大きく見えた。
 他人に無毛の状態を見られるのはもちろん、工藤に贈られたコックリングを見られるのも初めてで、雛木の内腿には緊張のあまりざっと鳥肌が立っている。
 だが、自分より脅えている人間を見ると、不思議と恐怖心が薄らぐものだ。可哀想なほどに脅え、もはや半べそをかいている誠吾を隣に意識すると、雛木の恐怖は多少和らぐのだった。
「本来は何日かかけて少しずつ奥まで入れられるように慣らしていくのが理想ですが、そこまで付き合う気はありませんので、多少無理にでも前立腺への到達を目指しましょう。まずは、尿道を広げるためにステンレス製のブジーを使います。これは必ずしも必要な工程ではありませんが、今後拡張していく可能性も踏まえ、道を作っておくといいでしょう」
 拡張とは。SMプレイでは普通、尿道まで拡張するものなのだろうか。いや、普通のSMプレイって一体。
 未知の事態に、雛木と誠吾の脳内には詮ない問いが渦巻いてしまう。だがさすがに、それを口にしない程度の分別はあった。
 工藤のレクチャーは、淀みなく続く。
「一般的に、ブジーにはある程度硬度があった方が、受け入れる側の痛みが少なくて済みます。そうそう、間違っても綿棒など入れないように。吸水性のあるものは怪我のもとですから」
 工藤が言いつつ手に取ったのは、一見するとキッチン用品のような、特徴のないステンレス棒だった。しかし、雛木は既に、これが尿道を押し広げる『ブジー』という道具だと知っている。太さは5ミリ程度、長さは20センチ程度だろうか。抜けなくならないようにだろう、背の部分には直径3センチ程度の環がついている。
 こんなに長く硬いものを、一番敏感な場所に差し込もうというのだ。
「では」
 短い工藤の合図と共に、診察台の頭上に設置された照明がバッと点灯される。そのあまりの眩しさに、雛木と誠吾は揃って目を細めた。
 このプレイルームで特にコストを費やした、レイ自慢の無影灯だ。病院の手術室で使用できるレベルの、施術者の手元を影無く照らせるプロ仕様である。
 無機質なほどの明るさの中、薄手のゴム手袋に包まれた工藤の優美な指が、雛木のペニスをそっとつまむ。挿入しづらくなるから決して勃てるなと命じられてはいたが、この異様なシチュエーションに加え、薄いゴム越しに工藤の指先の熱が感じられるのは、とてもまずい。
 だが工藤は雛木の心配など知ったことではないとばかりに、消毒用アルコールが染み込んだ脱脂綿で、雛木の亀頭をつるりと拭った。敏感な粘膜は、アルコールの刺激にすらぴりりと痛みを訴える。
 わざわざしっかり消毒をして、治療目的でもないのに性器に棒を突き刺すなんて、どう考えても正気の沙汰ではない。雛木は瞬きも忘れ、工藤の右手指に摘まみ取られた銀色に光るブジーの先端を凝視した。
 これから、これが入ってくるのだ。
 痛みへの不安、快楽への期待、見られることへの羞恥がない交ぜになり、雛木の心は荒れ狂う。子供が注射を怖がるように、努めて視線をあらぬ方向に向け、挿入の衝撃をやり過ごそうとした。だが、耳元に聞こえてくる誠吾の不安げな声が、意識の逃避を許さなかった。
彰浩あきひろさんっ、俺こんなの嫌っす! ……怖い、よぉっ」
 隣同士触れ合った膝頭から、誠吾の震えが伝わる。誠吾も雛木同様、ゴム手袋に覆われた矢上の手にペニスを取られたのだ。
 誠吾の訴える声は、耳を塞ぎたくなるほど哀れで惨めだった。雛木は妙に庇護欲を掻き立てられ、左手で誠吾の震える右手を掴む。すると、誠吾も縋るように握り返してきた。
 奴隷たちが手を取り合う様子を前に、淡々としていた二人の主人がふっと表情を和らげる。
「カワイイじゃねぇか」
「ええ、とても」
 だが、可愛いからといって容赦はされない。むしろ心なしか嬉々として、プレイは進行される。
「尿道はペニスの中心ではなく、やや下側に通っています。ですから中心を貫くというよりは、裏筋に添わせるイメージで挿し込んでください」
 本当に医者の研修ででもあるかのように、工藤が端的に説明し、雛木の先端のスリットを押し開いてみせる。
 赤みを帯びた柔らかい内側の肉が空気に触れ、雛木はひくっと喉を鳴らした。そんな場所でも工藤に見てもらえるのならば悦びを感じられるが、矢上が覗き込んでいるとなれば、そうとばかりも言っていられない。雛木は白い太股の内側を羞恥の色に染め、他人の視線という責め苦に耐えた。
 だが、他人の奴隷の羞恥になど頓着するはずもなく、覗き込んだ矢上は「なるほど」と呟き、自分でも左手の親指と人差し指で、誠吾のペニスの先端をぐいっと押し開いた。
「ひぃっ」
 誠吾が引きつった悲鳴を上げるが、その怯えは矢上を楽しませるだけだったようだ。矢上は「ほぉら、ブッ刺しちまうぞ」などと言いながら、ブジーを見せつけ、誠吾の先端をくぱくぱと開閉させる。
「ひっ、やっ、やだっ、彰浩さんっ」
 誠吾はもはや涙声だが、単なる主従のいちゃつきだと判断したのだろう工藤は、淡々と説明を進める。
「尿道はカーブしているので、真っ直ぐに入れようとしすぎないでください。中で壁に当たったら無理に押さず、柔軟に、ブジーの先端で通路を探るような感覚で進めていきます」
 工藤は迷いなく、直径5ミリ程度のステンレス棒の先端を、雛木のペニスへ差し込んだ。先端の慎ましい裂け目から比べると太すぎるように見えるステンレス棒は、クリーム状の潤滑剤をまとわせたおかげか、意外にも大した抵抗もなくするすると飲み込まれていく。無影灯に照らされたその光景はクリアすぎて、かえって現実味が薄かった。
 普段は液体しか通らない管を固い棒が押し広げながら逆流してくる感触は、痛みとも圧迫感とも快感ともつかない。しかし、敏感な裂け目を冷たいステンレスが擦るのには、背筋がゾクゾクするような恐れを孕んだ愉悦もあった。
 とにかく、心と体に余裕がない。ハァハァと荒い息が口をつく。入れてはいけない場所に異物が入っていく様は、視覚への強烈な暴力でもあった。痛々しくも、酷く背徳感があって胸がざわざわとする。
 それでもまだ、ペニスの半ばまでは平静を装っていられた。なぜなら、ここまでは以前の工藤とのプレイでも経験があるからだ。射精後の敏感になった亀頭を、小指程度の長さの細いスティックで、散々ほじくられたことがある。全身を縛り上げられ、尻には先端がぐるんぐるんと弧を描いて暴れるバイブを固定された、ただでさえ追い込まれた状況で、である。雛木が絶叫し、無様に許しを乞うたのは言うまでもない。
 その時に比べれば、そっと差し込まれるだけの今の状況は、他人の視線への緊張感はあるにしろ、かなり余裕があった。しかし、ペニスの半ばを過ぎれば、そこからは雛木にとって未知の領域だ。ブジーがゆっくりと、しかし確実に肉に飲み込まれていくに従い、雛木の余裕は加速度的に失われていく。ステンレスの先端が腹の奥、そして睾丸に近付くせいだろうか、文字通り急所を串刺しにされる恐怖があった。しちゃいけないことだ、とにかくダメなことなんだ、と、本能レベルの拒否感がある。思わず、止めてください、少しだけ時間をくださいと、窮地を訴えそうになった。
 だが、雛木は矢上の目を意識して、漏れそうになる声を堪えきった。工藤の奴隷なのにこの程度のことにも耐えられないのか、とは思われたくない。それに、自分が怖がることで誠吾に恐怖心を植えつけたくもなかった。『先輩』のささやかなプライドである。
「この辺りで大体根元ですね」
 尿道を進んでいたブジーの先端が、遂にコックリングで絞られた位置にまで到達した。硬くて真っ直ぐな金属で、ペニスの先端から根元まで、全体が内側から絶え間なく押し開げられている。串刺しにされたペニスは見た目のインパクトも大きいが、何より異物感がすさまじい。
 だが、雛木が恐れていたほどの痛みはなかった。これなら人体模型に徹することができそうだと安心した途端、工藤の手でブジーがゆっくりと引き抜かれ始める。
「ああっ、あっ、あっ」
 凄まじい刺激に、思わず高い声が漏れてしまう。排泄を数百倍、いや数万倍にもしたような強い刺激だ。かろうじて腰を浮かさずにいることが、雛木にできる唯一の誠意ある行動だった。
 だが、こんなにも強烈な刺激なのに、凹凸のない滑らかな金属棒は、冗談みたいにあっけなく、するすると全てが抜け出てしまう。潤滑クリームと雛木の体液で濡れた銀色のブジーが、てらてらと光っていた。雛木は声を噛み殺しながら、かつてない種類の余韻に腰を震わせている。快感というにはあまりにもヒリヒリとした、切迫感と呼ぶ方が近いような刺激だった。
 しかし、抜かれてしまうと、どこか物足りない。ペニスそのものは、吐精より何倍も強い、奔流のような射出を得ているのに、下腹部から解き放つ爽快感がないせいだろうか。それは、決して好みとは言えない感覚だった。しかし、なぜ切なくブジーを見つめてしまうのだろう。
 工藤が、小さく笑った気がした。だが、雛木の思い違いかもしれない。工藤はすぐにいつもの生真面目な表情となり、美しく揃えた指先で別の道具を示した。
「次はこのシリコン製のブジーを使います。ペニスの根本より奥はカーブしていますので、先ほどの真っ直ぐなブジーでは前立腺に到達し難いためです。ただし、柔らかい道具の方がかえって痛みを感じやすいという難点があります。先ほどのブジーで広げたところまでは入ると思いますが、それより奥まで入れられるかどうかは個人差がありますので、予めご承知おきください」
 言うなり工藤は雛木のペニスをつまみ、その柔らかいブジーをぐいぐいと押し込み始めた。一度広げられた尿道は柔軟性を見せ、先ほどより柔らかい素材を特に抵抗もなく飲み込んでいく。するすると入り込んでくるスピードがあまりにも早くて、痛みや快感よりも恐怖が勝る。雛木は大きく開いた両脚を小刻みに震わせながら、ハッハッと浅い呼吸を繰り返すことしかできない。
 だから、苦し紛れにふと、自分の左隣に視線をやってしまった。そこにはこぼれんばかりに目を見開き、ブジーに貫かれる雛木のペニスを凝視している誠吾の顔があった。
 羞恥にペニスがドクンと脈打ち、ぴくりと跳ねたのが自分でもわかった。そのためだけに存在する道具にペニスを犯される姿を、見られている。こんな間近で、誠吾と矢上に。
 いけない、と思ったが、もう遅かった。プレイ中はいつでも雛木の変化をつぶさに観察してくれている工藤が、それを見逃すはずがない。
「勃てない。動かない」
 ペニスを摘まんで支えていた左手指で、工藤は叱るようにぐっとカリの下を押し潰す。
 内側に通ったシリコンの芯に敏感な肉が押し付けられて、じゅわんとした痛みが広がった。たまらず息を詰めるが、雛木にとってそんな罰は逆効果だ。勃起させるなと命じられていたにも関わらず、雛木はブジーが通った肉塊をみるみる硬くしてしまっていた。シリコンブジーの先端は、先程のステンレスブジーと同様に雛木のペニスの根本にまで到達したが、勃起したせいでそれ以上進まなくなってしまう。
 工藤はあからさまに呆れた様子を見せ、大きなため息をついた。
「躾がなっていなくてお恥ずかしい限りです。こうなると入れづらいので、しばらく待ちましょう。ひとまず、矢上さん。まずは真っ直ぐな方のブジーで、誠吾君の尿道を広げてあげてください」
 工藤に恥ずかしいと言わせたことに、雛木は死にたいくらいの申し訳なさを感じる。奴隷の体を思い通りに扱えないなど、工藤の立場を害しかねない。
 そう思うのに。雛木は心の隅に芽生えてしまった喜びを、どうやっても押し潰すことができなかった。工藤の所有物として、躾について謝罪される存在であること。自分が工藤のものだと他人に言ってもらえることに、どうしようもなく幸福感が湧き出してしまう。
 申し訳なくて恥ずかしくて嬉しい。そんな複雑な内心とは裏腹に、雛木の性器はただ雄弁に、あっという間に完全に勃ち上がってしまうのだった。
 敏感な肉がぎちっとブジーを食み、痛みに似た快感が突き抜けて、雛木は悩ましげに「はふっ……んっ」と吐息を漏らす。自分には制御できない、いや、する資格のない、与えられる一方の苦しい悦び。人体模型としては明らかにまずい状態だが、この興奮を自在にコントロールできるなら苦労はしない。なにしろ雛木は、年がら年中ところ構わず、工藤に与えられる痛みと快楽を思い出すだけで発情してしまうマゾヒストなのだから。
 雛木は意図せぬ海綿体の膨張で、肉体的にも状況的にも自らを追い詰めつつ、熱く浅い息をついた。

 かたや、意図せぬ悦びを得てしまった雛木のせいで、予想よりも早く工藤に指名された誠吾である。この状況に陶酔できるはずもない、元ストレートな若者の心身に、筆舌に尽くしがたい地獄が始まろうとしていた。
 誠吾は串刺しにされながらも勃起している雛木のペニスを見て驚愕に目を見開き、いやいやをするように首を大きく横に振る。
「動くなよ。動いたらちんこ裂けるかもしれんぞ。なーに、大丈夫だ。センパイだって勃起してんだろ。お前もきっと気持ちよくなる。まぁ、俺は絶対にこんなもん入れたくないけどな」
 矢上がかえって恐怖を掻き立てる言葉で宥め、子供のように縮こまった誠吾のペニスを無造作に掴む。萎縮したままの感触が珍しいのか、無意味にぐにぐにと数度握り締め、誠吾の恐慌を強めさえした。
「ヒッ……」
 声にならない誠吾の悲鳴は、誰からも黙殺される。初めて他人の性器を異物で貫こうとしている緊張感も興奮も一切見せず、矢上はこんな感じか? と軽く首を傾げながら、雛木と同じ太さのステンレス製ブジーを誠吾の尿道口に突き立てた。
「やだやだっ。怖いっす、怖いぃ……」
 誠吾にとっては完全に初めての経験だった。無骨な矢上の指が、初心者とは思えない大胆さで、誠吾が今日まで見たこともなかった金属棒をするすると差し込んでいく。
 矢上の手にあると酷く細く見える棒だったが、誠吾のモノと比較すると、明らかにかなりの質量があった。
「あぁー、あぁぁー」
 突き込まれる衝撃は、言葉にならないほどのものだった。しかし、最初の衝撃さえやり過ごせば、痛みは意外と少なく、誠吾はぽろぽろと涙を流しながらもおとなしくされるがままになる。
 実は、誠吾のブジーには、麻酔成分を含むリドカインクリームが塗られていたのだ。もちろんそれは仏心によるものなどではなく、レクチャーを一度で終わらせたい工藤がこっそりと仕込んだものだった。明らかに調教が進んでいない誠吾に、一度の尿道プレイで前立腺オーガズムを得させようなどというのは、土台無理な話なのだ。
 とはいえ、痛みが緩和される分、快感も遠退く。ただただ違和感と恐怖のみを与えられ、誠吾はこらえ切れないように間延びした悲鳴を上げ続けることしかできなかった。
「おぉ、案外入るもんだな。根元までいけたぞ」
 矢上の武骨な指で操られた棒の先端が、誠吾の尿道を犯し、繁みに埋もれるところまで到達した。
 誠吾はひんひんと小さな鳴き声を上げながら、涙をほろほろ零している。ペニスにはステンレスの芯が通り真っ直ぐになってはいるが、当然ながら勃起には程遠い。文字通り、単なる串刺し状態だった。
 その様子を見て可哀想に思いながらも、雛木はほの暗い興奮を抑えきれずにいた。
 奴隷が主人に好き勝手に弄られているところを、初めて客観的に見たのだ。泣きながらも主人のされるがままになっている奴隷は、とても無力でいたいけで可哀想で可愛らしくて、そして卑猥だった。
 ほんの少しだけ、奴隷を愛でる主人の気持ちが理解できると同時に、自分もこんな風に見えているのかと思うと興奮を抑えられない。
 雛木は勃起を萎えさせるために放置されているというのに、ますます欲情を増して、自ら擦らないように我慢するので精一杯だった。
 そんな雛木を見て、工藤が呆れたように嘆息する。
「どうやら、待っていても時間の無駄になりそうです。この子は叱責も折檻もかえって悦んでしまいそうなので、もう勃起したまま前立腺を目指すことにします。初心者の内は真似しないようにしてください」
 工藤の冷静な声音で語られた自らのみっともなさに、雛木はぐぅっとこみ上げる息と声を飲み込んだ。
 工藤に叱られると悦んでしまう自分の変態さ加減を把握されていることも、そんな変態なのに責めてもらえることも、恥ずかしくて嬉しい。
 離れていた工藤の手が雛木のペニスに添えられ、弾力のあるブジーがそろそろと送り込まれていく。腹側に向かって先端がせり上がってくるのが感覚でわかった。隘路を深く抉り進むブジーの感触に、ハーッハァーッと大きな息が漏れ、雛木は言葉を無くす。
 痛みは確かにある。体感としては、快感では決してない。だが、探ってはいけない深い場所まで異物を挿し込まれているという、混乱と背徳感の方が、痛みよりも大きかった。腹の内側、自分でも意識したことのない場所。そこを工藤に委ね、されるがままになっているという事実が、雛木の脳を痺れさせる。
 雛木にはもう、矢上の視線を意識する余裕がなくなっていた。
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