桃太郎異聞(加筆修正版)

馬 並子

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第三十一話

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 深い眠りから目覚めた桃太郎は、それから二日の間、まさに寝ても覚めてもといった調子で、代わる代わる鬼たちと貪り貪られしておりました。口からも菊座からも溢れんばかりに子種を注がれ、幸せなことに腹も気持ちも飢えることがありません。
 神通力で鬼たちの摩羅に力を与えれば子種の量も増えますので、その子種を得てまた神通力の源とします。そうしていわば子種と神通力の再生産を繰り返しておりましたので、桃太郎は精根尽き果てるどころかむしろ元気いっぱいで、思うまま摩羅をしゃぶり腰を振りまくっておりました。
 甘露を出さずして絶頂を極める要領をすっかり掴んだ桃太郎に対し、鬼たちも心得たもので、桃太郎の摩羅を縛って甘露を吐き出させないよう協力しましたので、あまりの快感に気を失う以外には、長い時間眠り込んでしまうこともありませんでした。
 鬼たちは鬼たちで、神通力のおかげでいくらでも摩羅を勃てることができましたが、そうはいっても桃の精ではない身ですので腹も減ります。二匹の鬼が桃太郎とまぐわう間に、残りの一匹が犬と猿と共に食糧調達に行ったり見張りに立ったりと、上手に交代して過ごしておりました。
 そして犬と猿も、悲しげに鳴けば鬼の誰かしらが気づき、抱き上げて摩羅を桃太郎の口に捻じ込んでくれましたので、鬼たちとの仲間意識は増していったようです。
 そのようなことを繰り返していたため、二日の内にすっかり平等な輪番制ができあがりました。鬼たちも行動を共にする内に犬と猿と絆を深め、今や最初から鬼ヶ島で共に暮らしていたかのようにかわいがっております。
 桃太郎以外にとって食糧が乏しいことは変わらず問題ではありましたが、それにも少しだけ改善の兆しが見られました。反り返った青鬼の摩羅に尻の中をねられてああんああんと喜んでいた桃太郎の頭上で、「キジガ タマゴヲ ウミマシタ!」「ヨカッタ デスネ!」という弾んだ会話が交わされていたのです。桃太郎が持参した雉も、多少は役に立っているようです。

 このままこの幸せな暮らしを続けていけるのではないかと誰もが考え始めた三日目のお昼頃、岩場を見回っていた犬と猿が突然大声で騒ぎ出しました。
 見張り当番であった青鬼が様子を見に行きますと、一人の男が巧みに竿を操り舟を漕いで近づいてくるのが見えます。
 難破したわけでもない舟がやってくるなど平時では考えられないことでしたので、青鬼は大慌てで天幕に走って戻り、股間に桃太郎を乗せて腰を突き上げていた黄鬼に「××××!」と報告をしました。
 桃太郎は黄鬼の摩羅に跨って腰を振りながら、赤鬼の摩羅の先端をちゅうちゅうと吸うのに夢中で、赤鬼に「オトコ キタ」と通訳してもらっても、ふぅんとしか思いませんでした。
 しかし、何を察知したのか、けたたましく鳴く雉の声が聞こえ、ようやくはっと思い出しました。
「ああ、おそらくその男は私の知り合いじゃな。そういえば様子を見に来るとか言うておった気がするわ」
 摩羅尽くしの幸せな生活に、ここまで送り届けてくれた権座のことなどすっかり忘れていた桃太郎です。とはいえ、律儀にやってきた実直な男を、さすがに無視するわけにもいきません。第一、馬鹿真面目な権座のこと、放っておけば桃太郎の生死を確かめようと島に上陸しかねません。島の奥地で鬼の子種まみれになって喜んでいる桃太郎の姿を目にした日には、気が動転してしまうに決まっております。
『鬼退治の大願成就ならず、狼藉の限りを尽くされ正気を喪うとは、なんとおいたわしい……!』などと言って、かくなる上は己が代わって本願果たすべしと、鬼もろとも桃太郎を斬りにかからないとも限りません。
 桃太郎は弥助や平次については顔も朧げで、もはや摩羅しかはっきりとは思い出せませんでしたが、生まれてこの方一番の飢えを味わわせられた権座の性質だけは、しっかりと記憶しておりました。

「面倒なことよのぅ」
 桃太郎は酷い独り言を呟きながら、未練がましく腰を上下させて黄鬼の摩羅をぐぽぐぽと味わっていましたが、意を決すると「うぅん」と悩ましい声を上げて尻を引き抜きました。体中から滴る子種を適当に拭って、そのまま天幕から出て行こうとしましたが、ふと思い出して久々に着物を身に着けます。桃太郎はたった三日間で、着物を着る習慣すら忘れそうになっておりました。
 ――お天道様が眩しいのぅ。さて、なんと言って権座を追い返したものか。
 天幕を一歩出て、久々に目にする太陽に目を細めておりますと、「モモタロサン……」と遠慮がちな、消え入りそうな黄鬼の声が背中に届きました。振り返って見れば、鬼たちは三匹とも神妙な顔をしております。
「カエル デスカ?」
 中途半端に放り出された摩羅を押さえつけながら、黄鬼が目を潤ませました。
「イヤ! ココニ イテクダサイ!」
 いつもは明るい青鬼も、顔を歪めて縋り付いてきます。
 赤鬼に至っては、床に広げた毛皮の下に隠していた鋭利な刃物を拾い上げ、
「モモタロサン カエル イヤ」
と爛々と目を見開いております。
 鬼たちのその必死な様子を目にして、子種に蕩かされた桃太郎の頭が妙案を弾き出しました。
 ――そういえば、権座には鬼退治に行くと言うたのぅ。
 己に都合のいい企みにだけは頭が働く桃太郎は、着物の袖口で目元を覆い、よよとその場で泣き伏しました。
「あぁ、帰りとうない……。ずっとそなたらと共におりたい……。そなたらが私の手下となれば、このような暮らしをいつまでも続けられようものを……!」
 それを聞いた鬼たちも涙を流し、必死に言い募ります。
「テシタ ナンデスカ? ワカリマセン デモ テシタ ナリマス!」
「ワタシモ!」
「ワタシモ テシタ ナリマス!」
 全く何の説明もしないまま、手下になるという言質を取り付けた桃太郎は、目元を覆っていた袖をぱっと下ろし、あっけらかんと笑いました。
「そうかそうか。苦しゅうないぞ」
 元よりこのような三種三様の摩羅尽くし生活を手放す気などなかった桃太郎です。当然、目元には涙の跡すらありません。
「ではそこの長持ながもちに入っているものを、そっくりそのまま寄こせ。そなたらが作った調度もな」
 あれほど肉欲に爛れた時を送っていながらも、桃太郎は天幕内の木箱にまだまだ質の良さそうな布や変わった形の刀剣がしまわれているのを、しっかりと見つけておりました。また、初めてこの天幕にやってきた折に、赤鬼と青鬼が木材を彫って見事な装飾を施していたのを覚えてもおりました。
 更に、あれもよこせ、これもよいなと指を差します。
「コ、コレハ チチカラモラッタ タイセツナ……」
「アアッ ソレハ カミノ オシエガ カカレタ……」
 鬼たちが慌てても、
「手下とはそういうものよ」
とにべもなく品々を回収していきます。
 非道な桃太郎は一財産を手に入れると、泣きそうに顔を歪めた鬼たちにそれらの宝物を手ずから運ばせ、猿と犬に先導させて、権座が待つ海岸へと向かいました。一応雉にも「行くか?」と声を掛けましたが、御免こうむるとでも言いたげに、くわっと威嚇されてしまいました。確かに権座に返して潰されるよりは、ここで紐に繋がれながらも交尾を楽しめた方がよいでしょう。
 こうして『鬼たちを懲らしめ、動物のお供を引き連れた桃太郎』が、権座の前に姿を現すことになったのです。


 桃太郎たちが浜辺に着くと、権座は何事か決意を固めているのか、鉢巻を締めて悲愴な表情で波打ち際に立ち尽くしておりました。辛気臭い男よと思いながらも声をかけると、権座は「桃太郎殿っ!」と全身に喜びを溢れさせ、駆け寄ってこようとします。
 しかし、桃太郎の後ろに控えた、これまた悲愴な表情をした三匹の鬼たちを目にし、ひっと後ずさりました。
「大丈夫ですよ、権座さん。これらの鬼は、私の手下となりましたゆえ」
 何でもないことのように言う桃太郎を見る権座の目は、もしやこの桃太郎も鬼が化けているのではと疑うように恐怖に満ちています。しかし、猿と犬が親しげに権座に駆け寄ってひとしきり挨拶をし、その後鬼たちのところに走って行って足元に纏わりつくのを見て、ようやく表情を和らげました。
「さすが桃太郎殿。鬼の成敗を果たされた上、命をとることもなく手下として使ってやろうとは、なんと懐の深い……!」
 興奮した様子で誉めそやす権座に、桃太郎は鷹揚に頷くだけで、一切の説明を省きました。単に、本当のことを言って、権座の『鬼とまぐわうなど、男子として以前に人として云々うんぬん』が始まるのが面倒だっただけですが、その態度がより自信に溢れて見えたのか、「立派におなりに……!」と更に権座を感激させます。
 再会をひとしきり一方的に喜んだ後、権座が
「私の雉はお役に立てたでしょうか」
と少し寂しそうに笑ったので、桃太郎は
「ええ、立派に役割といえるものを果たしてくれました」
と、若干言葉を濁して答えました。
 それを聞いた権座は「それは何よりです」と、思い出に決別するような儚い微笑みを浮かべました。桃太郎は、うっとまたなけなしの良心が痛み、やはりさっさと追い返すに限るなと非情なことを考えました。

「死闘の結果、この鬼どもは私に忠誠を誓い、その証にこれらの宝物を差し出してきました。私が直接育ての父母に宝を届けたいのですが、鬼どもは目を離すとまたぞろ悪さを始めてしまうかもしれません。かといって、このような恐ろしげな見目の者どもを引き連れて村まで旅するわけにもまいりません。あぁ、どなたかが私の代わりに育ての父母に宝を届けてくださったなら……」
 死闘は死闘でも摩羅と菊座の死闘だったが、と思いながらも憂いを帯びた表情で視線を落とすと、予期通り権座が食いついてきました。
「そのようなご事情なら是非儂が!」
「さようでございますか。助かります」
 あっさりと憂いを引っ込めた桃太郎は、ついでにあれもこれもと頼みます。
「えっ……あ、はい……さようで……」
 目を白黒させる権座をよそに、桃太郎は鬼たちに指示を出し、次々と宝物を舟に積み込ませていきました。
 全てを積み込み終えたところで、桃太郎はしっしっと追いやるように権座を舟に乗せ、
「では、お願いしますね」
とさっさと送り出しました。

 ほんのわずかな滞在で再び海に出た権座が、何度も振り返り、
「すぐに戻って参ります!」
「桃太郎殿、どうぞお気を付けて!」
などと叫んでいるのを、うむやはりいい尻をしているなと思いながら、桃太郎は無言で手を振って見送りました。
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