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第一章 屋上で君は待つ
第一話 ヘーゼルアイ
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「盗撮とは感心しないね」
期末テストが終わり、夏休みまでの残り僅かな時間をゆったりとした気分で過ごしていた昼休み。
中庭を眺めている僕の前に彼女は現れた。
夏の日差しを受けて白く光る髪を、やわらかい南風に靡かせる彼女は爽やかで優しい笑顔を湛えていた。淡い褐色の瞳に、昨日見た動画を思い出す。
ヘーゼルアイ、色素が……薄いんだっけ。
初夏、夏を感じる季節になりました。近年は地球温暖化か何かの影響なのか随分と暑くなるのが速くなってきた気がする。
とは言っても、たかだか16年しか生きてない俺の近年なんて地球にとっては誤差みたいなもんだろう。
屋上のフェンスに寄りかかりながらそんなことを考えた。
「暑い......」
ここ最近、お昼は屋上で過ごしていたが、それも今日で終わりかもしれない。
明日からは放課後だけかな。
屋上は解放されていることを知らない生徒も多い。
中庭がリア充の溜まり場になってるのに対し、ここは俺の独占状態だ。
最近のお昼は購買で買ったパンを食べてオレンジジュースを飲んでいる。
それが終わったので適当に中庭を眺めているというわけである。
「こっから落ちたら下のリア充共は騒然とするだろうなぁ」
ノリでリア充共と言ったがリア充に特に恨みはない。
しいていうなら、自販機の前でたむろしないで欲しいぐらいだろうか。
陰キャな俺はあたふたしてしまう。大体は1分ぐらいしたら気づいてスッと退いてくれるのだが、もう少し早く気づいてもらいたい。
屋上は、こんなにも日が照っているというのに日陰者の居場所だ。
「中庭はどんな匂いがするんだろう」
草の匂いだろうか、花の匂いだろうか。もしくは青春の匂いでもするのだろうか。
そんなことを思いながら、目に見える景色を切り抜くように親指と人差し指でフレームを作る。それを僕は片目を瞑って覗いた。所謂、手カメラだ。
「もっと指が綺麗じゃないと微妙だな」
アニメのキャラの指は細すぎる。あんな風にはいかないか。
「盗撮とは感心しないね」
耳元で、女の声がした。透き通るような綺麗な声。
それと同時に、目の前に僕が作ったのと同じ手カメラが作られる。白い、アニメみたいな綺麗な指の先に校則に違反しない程度の……ネイルだろうか。薄いピンク色の爪に少しだけビーズのようなものが付いていた。
驚いて後ろを向くとすぐ近くに顔がある。
僕は咄嗟にしゃがんで距離をとっていた。
ギャルだ、ギャルがいる。
いたずらが成功したことを喜んでいるのか子どものように笑うギャル。
そんな楽しそうにされても僕は心臓が止まりかけたのだが......。
「盗撮じゃないですよ、スマホも何も持ってないじゃないですか」
混乱する思考を整えながら僕は取り敢えず反論はしておいた。
「そっか、じゃあ覗き?」
「僕は中庭を眺めることすら許されないのか......」
おかしいな、日本の憲法では基本的人権が尊重されているはずなのだが。中庭をみることは基本的人権に入ってないのかもしれない。
「あはは、冗談だよ」
そう言って笑う彼女。
何が面白いのか分からない。
「ここは、僕みたいな日陰者が来る場所ですよ」
ネクタイの色からして、二年生だろうか。先輩だ。
同じ学年ならこれだけの美人が記憶に残ってない訳ないだろう。
別に、美人じゃなくても何度かすれ違えば見たことあるかぐらいわかるだろうけど。
「あはは、こんなに日が照ってるのに?」
......それは僕も思った。
そもそもこの人ホントに面白いと思っているのだろうか。
自分が言ったことで相手が笑うと自分が面白いんだと錯覚して調子に乗ってしまうから、癖の愛想笑いとかならやめて欲しい。
兎も角、ここは僕の安寧の地を守るためにも丁重にお帰り頂こう。
「ほら、ベンチとか無いし、暑いじゃないですか」
「座れる場所ならあるし、時折吹く風は気持ちいよ?」
僕の主張に対して間髪あけずに反論してくる。
僕よりも、ここに肯定的じゃないか。
それに、少し色素が薄くて端正で爽やかな顔立ちをしているこの人の方がこの場所に似合ってる。
僕の方こそ雑に退場させられてしまうかもしれない。
少し気まずい空気が流れる。
仲良くなろうというわけでもないから仕方ない。
そんな中でも彼女は爽やかな笑みを湛えていて、それがなんとなく嫌で僕は顔を背ける。
もし彼女が先行隊だった場合、屋上はこれからリア充に占拠されてしまうだろう。
二年生に歯向かうなんてこんな陰キャ男子に出来るわけもないのでその場合僕は安寧の場所を失うことになる。
まぁ、それでも良いのかもしれない。本来の目的はもう無くて、ここに居るのは惰性みたいなところがある。慣性の法則というやつだ。
丁度いいタイミングでチャイムが鳴った。
いや、出来ればあと少しだけ早くなって欲しかったけど。
「昼休み終わりましたね。じゃあ、帰りますか?」
「あ、そうだね。少ししたら」
帰りますかとか誘うようになってしまったのは失敗だったろうか。
彼女は時計なんてないのに一瞬後ろを向くと少ししたらと返事した。
「......」
授業をサボるつもりだろうか。
あんまり屋上で変なことをしないで欲しい、封鎖されたら嫌だから。
やっぱりチャイムは全然丁度良くなかった。
もう一回鳴ってくれないだろうか、気まずいから。
この場合の正解の行動はなんだろう。誰か教えてくれないだろうか。
所在なさげにしている僕を見て先輩はクスッと笑った。
「戻ろっか」
チャイムは鳴らなかったが彼女の鈴のような声がした。
苦笑して、そう言う彼女の声は今日で一番自然な気がした。
鈴というよりは硝子だったかもしれない、もし声が落ちることがあるのなら。
落としたら割れてしまいそうだ。
期末テストが終わり、夏休みまでの残り僅かな時間をゆったりとした気分で過ごしていた昼休み。
中庭を眺めている僕の前に彼女は現れた。
夏の日差しを受けて白く光る髪を、やわらかい南風に靡かせる彼女は爽やかで優しい笑顔を湛えていた。淡い褐色の瞳に、昨日見た動画を思い出す。
ヘーゼルアイ、色素が……薄いんだっけ。
初夏、夏を感じる季節になりました。近年は地球温暖化か何かの影響なのか随分と暑くなるのが速くなってきた気がする。
とは言っても、たかだか16年しか生きてない俺の近年なんて地球にとっては誤差みたいなもんだろう。
屋上のフェンスに寄りかかりながらそんなことを考えた。
「暑い......」
ここ最近、お昼は屋上で過ごしていたが、それも今日で終わりかもしれない。
明日からは放課後だけかな。
屋上は解放されていることを知らない生徒も多い。
中庭がリア充の溜まり場になってるのに対し、ここは俺の独占状態だ。
最近のお昼は購買で買ったパンを食べてオレンジジュースを飲んでいる。
それが終わったので適当に中庭を眺めているというわけである。
「こっから落ちたら下のリア充共は騒然とするだろうなぁ」
ノリでリア充共と言ったがリア充に特に恨みはない。
しいていうなら、自販機の前でたむろしないで欲しいぐらいだろうか。
陰キャな俺はあたふたしてしまう。大体は1分ぐらいしたら気づいてスッと退いてくれるのだが、もう少し早く気づいてもらいたい。
屋上は、こんなにも日が照っているというのに日陰者の居場所だ。
「中庭はどんな匂いがするんだろう」
草の匂いだろうか、花の匂いだろうか。もしくは青春の匂いでもするのだろうか。
そんなことを思いながら、目に見える景色を切り抜くように親指と人差し指でフレームを作る。それを僕は片目を瞑って覗いた。所謂、手カメラだ。
「もっと指が綺麗じゃないと微妙だな」
アニメのキャラの指は細すぎる。あんな風にはいかないか。
「盗撮とは感心しないね」
耳元で、女の声がした。透き通るような綺麗な声。
それと同時に、目の前に僕が作ったのと同じ手カメラが作られる。白い、アニメみたいな綺麗な指の先に校則に違反しない程度の……ネイルだろうか。薄いピンク色の爪に少しだけビーズのようなものが付いていた。
驚いて後ろを向くとすぐ近くに顔がある。
僕は咄嗟にしゃがんで距離をとっていた。
ギャルだ、ギャルがいる。
いたずらが成功したことを喜んでいるのか子どものように笑うギャル。
そんな楽しそうにされても僕は心臓が止まりかけたのだが......。
「盗撮じゃないですよ、スマホも何も持ってないじゃないですか」
混乱する思考を整えながら僕は取り敢えず反論はしておいた。
「そっか、じゃあ覗き?」
「僕は中庭を眺めることすら許されないのか......」
おかしいな、日本の憲法では基本的人権が尊重されているはずなのだが。中庭をみることは基本的人権に入ってないのかもしれない。
「あはは、冗談だよ」
そう言って笑う彼女。
何が面白いのか分からない。
「ここは、僕みたいな日陰者が来る場所ですよ」
ネクタイの色からして、二年生だろうか。先輩だ。
同じ学年ならこれだけの美人が記憶に残ってない訳ないだろう。
別に、美人じゃなくても何度かすれ違えば見たことあるかぐらいわかるだろうけど。
「あはは、こんなに日が照ってるのに?」
......それは僕も思った。
そもそもこの人ホントに面白いと思っているのだろうか。
自分が言ったことで相手が笑うと自分が面白いんだと錯覚して調子に乗ってしまうから、癖の愛想笑いとかならやめて欲しい。
兎も角、ここは僕の安寧の地を守るためにも丁重にお帰り頂こう。
「ほら、ベンチとか無いし、暑いじゃないですか」
「座れる場所ならあるし、時折吹く風は気持ちいよ?」
僕の主張に対して間髪あけずに反論してくる。
僕よりも、ここに肯定的じゃないか。
それに、少し色素が薄くて端正で爽やかな顔立ちをしているこの人の方がこの場所に似合ってる。
僕の方こそ雑に退場させられてしまうかもしれない。
少し気まずい空気が流れる。
仲良くなろうというわけでもないから仕方ない。
そんな中でも彼女は爽やかな笑みを湛えていて、それがなんとなく嫌で僕は顔を背ける。
もし彼女が先行隊だった場合、屋上はこれからリア充に占拠されてしまうだろう。
二年生に歯向かうなんてこんな陰キャ男子に出来るわけもないのでその場合僕は安寧の場所を失うことになる。
まぁ、それでも良いのかもしれない。本来の目的はもう無くて、ここに居るのは惰性みたいなところがある。慣性の法則というやつだ。
丁度いいタイミングでチャイムが鳴った。
いや、出来ればあと少しだけ早くなって欲しかったけど。
「昼休み終わりましたね。じゃあ、帰りますか?」
「あ、そうだね。少ししたら」
帰りますかとか誘うようになってしまったのは失敗だったろうか。
彼女は時計なんてないのに一瞬後ろを向くと少ししたらと返事した。
「......」
授業をサボるつもりだろうか。
あんまり屋上で変なことをしないで欲しい、封鎖されたら嫌だから。
やっぱりチャイムは全然丁度良くなかった。
もう一回鳴ってくれないだろうか、気まずいから。
この場合の正解の行動はなんだろう。誰か教えてくれないだろうか。
所在なさげにしている僕を見て先輩はクスッと笑った。
「戻ろっか」
チャイムは鳴らなかったが彼女の鈴のような声がした。
苦笑して、そう言う彼女の声は今日で一番自然な気がした。
鈴というよりは硝子だったかもしれない、もし声が落ちることがあるのなら。
落としたら割れてしまいそうだ。
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