僕が死にたい百個の理由と生きる一個の訳

koma

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第一章 屋上で君は待つ

第二話 ギャル子先輩

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「あ、ギャル子先輩」
 全然、沈まない太陽に早く沈めと念を送っていると後ろで屋上の扉が開いた。

「あれ、放課後も居るんだ」
 少し意外そうに言うギャル子先輩。
 
 あれか、てっきり僕が教室で居場所がないから屋上に来ていたと思ったのか。
 失礼なことだ。確かに居場所があるわけではないが、追放されるほど嫌われている覚えはない。

「放課後は帰ると思ってました?」

「うん、まぁ、もしくは部活かなって」
 確かにそうだ。放課後も学校に残ってるのは部活生ぐらいだろう。
 僕は勿論、帰宅部だが家に帰っても暇なので屋上に寄っていた。

「僕の方はギャル子先輩の方こそ、来ると思いませんでした」
 
「あ、やっぱりギャル子先輩って言ってるよね。私別にギャルじゃないし、先輩を敬う気持ちはあるんですか~?」
 先輩的には放課後に屋上で出会ってしまったことよりも呼称の方が気になるらしい。ジト目をしながらふざけた口調で彼女はそう聞いてきた。

「僕は基本、相手との接し方を殴って倒せるかどうかで決めているので、赤子に対してはタメ口ですし、ライオンには最大の敬意を持って接します。多分、僕は先輩より力も強いし、足も速いので、端的に言って舐め腐ってます」

「そんな正面切って舐め腐ってるとか言われるとイラつくんだけど~。え、冗談だよね? 真顔すぎて怖いよ……?」
 最初はあははといつもの調子で発してた言葉が少しづつ自信を失っていく。

「冗談ですよ。ライオンに最大の敬意を払っても食い殺されるだけじゃないですか。ただ、まぁ、先輩がいきなり武力行使に躍り出ないだろうとは思ってました」
 
「そりゃね、初対面の人殴ったりしないよ」
 彼女は首を傾けながら苦笑してそう言った。
 
 そういう常識の話でもあるし、彼女が優しいのが既になんとなく伝わっているという話でもあったのだが。

「ギャル子先輩は、なんで屋上に来たんですか?」
 そもそも屋上が開放されてることを知っている生徒は少ない。僕も屋上に来てみて初めて開放されてることを知った。
 昼はただの興味で来たのかと思ったが、放課後にまでくるということは何か目的があるのだろうか。

「うーん、特に理由はないかな」
 先輩は顎に手を当てながら左下を向いて少し考えたあと、笑いながらそう告げた。
 そんなことあるかな、とも思うが。実際、僕も特に理由もなく来ているので何も言えない。

「そうですか」
 特に反論も、理由がないならその手伝いもできないので大人しく引く。
 また、少し気まずい空気が屋上に流れた。
 
 こんな時に限って風は止んで、少し汗が出る。
 一度下げてしまった視線を上げることが出来ない。
 彼女はどんな顔で僕を見ているだろうか、それとも見てないだろうか。
 
 まぁ、でもわざわざ話しをする必要もないか。
 興味を失ったかのように、或いは逃げるようにフェンスの方へと移動する。
 
 日課でもなんでもないけど、校庭をそれぞれバラバラのスピードで走る陸上部を見ていた。
 
 このまま、彼女が帰るのを待とう。
 風になびく髪も、引き込まれるような淡い光を放つ瞳も、光を反射して白く輝く肌も、僕が直視するには眩しすぎる。

 明日は流石に来ないだろう。
 せっかく美人の先輩と知り合えたのにこんな風だというのを話したら怒られてしまうだろうが、生憎僕にそんな友達はいない。
 
 太陽も、良い加減暑いから沈んでくれないだろうか。青い空は嫌いじゃないが、今は夕焼けが見たい。
 
 ふと、気になって後ろをバレないよう覗く。
 ギャル子先輩は真似するように下を眺めていた。
 いや、真似するようにというのは違うか。きっと他にすることもないからだろう。

 彼女が見てるのは校舎裏の方か。

 暇そうに眺めてるという感じだった雰囲気が変わった。
 何か面白いものでも見つけたのだろうか。

 少し気になる。
 
 僕はちゃんと距離感を保って、横の方から校舎裏を覗いた。

 あぁ、成る程これを見ていたのか。
 
 告白、校舎裏に呼び出して直接というのは今でも主流なのだろうか。
 ここからじゃ何年生かは分からないが、男子が女子に告白してるようだった。
 
 女子がペコリとお辞儀する。
 それだけじゃ、断ったのか了承したのか分からない。

 ここまで来ると少し気になるな。
 立ち去る様子はない、お互い照れ臭そうに頭をかいたり、髪をいじったりしてるのが見えた。

「オーケーしたみたいだね」
 ギャル子先輩がそう呟く。

「そうみたいですね」
 全く、夏になるからって舞い上がりすぎなのではないだろうか。
 
 いつ別れるのだろうか、なんて付き合ったのを見た途端に考える僕も、性格が悪い。
 


 気が付くと陽の光が少しオレンジ色になっていた。
 やっと太陽も昇ってるのに飽きたらしい。

「グッバイトゥデイ」

「ふっ、何それ」

「な、盗み聞きとか趣味悪いですよ」
 そういえば今日は人がいたんだった。僕の呟きは丸聞こえだったらしい。
 小馬鹿にする感じの笑い方にイラつきより羞恥を覚える。

「ごめんごめん。面白いなって思って」

「それはフォローになってるんですか?」
 ごめんを二回続けて言ってる時点で誠意を感じない。

「あはは、ちょっと馬鹿にした」
 そう白状する彼女に。
 僕は恥ずかしさを誤魔化すように下を向いた。
 なんなら膝を抱えたい。

 結局僕達は、完全下校時間の少し前まで屋上に居た。
 
 途中、スマホとか触らないのかと聞かれたが僕は屋上にいる間は電子の奴隷脱却を目指しているので見ないと言っておいた。
 暇そうにしてるのを見兼ねての質問だったのだろうが彼女もスマホを見たりはしていなかった。
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