3 / 6
第一章 屋上で君は待つ
第三話 はぁふぁひふぁんへふふぁ
しおりを挟む
次の日も彼女は来た。
「あれ、また居る」
今度は俺が購買で買ったパンを食べているときだった。
「はぁふぁひふぁんへふふぁ」
「え、何。先に飲み込みなよ」
言われた通りパンを飲み込む。
「失礼しました、また来たんですかって言ったんです」
「あぁ~ね」
彼女は何も持っていない。
この身一つという感じだ。
先に食べて来たにしては早過ぎる。
さては早弁したか。
彼女はどこか気まずそうにしていた。
腕を後ろで組んでいるのも弁当を持っていないことを不審に思われると思ったからだろうか。
「大丈夫ですよ。早弁は個人の自由だと思います」
「え、何か勘違いしてない?! 早弁とかしてないよ!?」
必死に訂正しようとする先輩。
あれ、そうなんだ。
そんなことより、今日はブドウジュースだ。ぬるくなる前に飲んじゃおう。
つぶつぶが美味しい。
一通りブドウジュースを堪能した後、所在なさげにしている先輩に
「じゃあ、なんでお弁当も何も持ってないんですか?」
と聞いた。
「あぁ~、バレてた?」
そう言っていつもみたいに笑う先輩。
「最初に見えました」
扉を開けたときに両手に何も持ってないのは分かった。
それに僕の持っているパンを見て手を後ろに隠したし。
「そっか、だよね。あれだよ、忘れただけだからね」
「そうですか。じゃあ購買で買ってきたらどうですか?」
お金は持っているだろう。
別に一食ぐらい抜いても問題はないのだろうが、諦める必要性もない。
そして、ついでに僕は屋上でひとりの時間を確保できる。
「うーん、いや、そうじゃなくて。教室に弁当忘れちゃった」
「え、なんで取ってこないんですか?」
まだ昼休みは十分にあるし、二年生の教室はそんなに遠いところにはないはずだ。
「いや、なんか良いかなって」
何故か妙に歯切れが悪い。
「誰が作ったんですか?」
ブドウジュースを一度わきに置き、事情聴取を始めた。
「……親」
俯いて小さな声で呟く。
ふむふむ。
ははーん、さては嫌いなものでも入ってたな。
嫌いなものを残してしまう気持ちはとても分かるが、食べ物を粗末にするのはあまり良くない。
それに折角親が作ってくれたんだ。
「取ってきた方が良いですよ? 人間いつ死ぬか分からないですし、食べれるときに食べといた方が良いです。僕はご飯を食べながら今日も生きれますようにって祈ってます」
口には出しませんけど。
「う~ん、でも、死ぬんだったら食べる必要なくない?」
いつ死ぬか分からないから食べるというのはおかしいということか。
なんだか、今日の先輩はやけに食い下がる。
最も、今日以外には昨日の先輩しか知らないのだが。
遠慮が減ったと考えるならいつの間にか距離が縮まっていたのかもしれない。
関係が、出来てしまったのかもしれない。
「死んだ人の胃の内容物に自分の弁当があったら嬉しいんじゃないですか?」
「なんか怖いよ! それ!」
素っ頓狂な声を出してツッコム先輩。
ノリはいいけどそんなにセンスはなさそうだった。
普通に無邪気に話してる方が似合う。
バッと言葉に反応してくれるのがなんだか可笑しくて少し楽しかった。
「ふふっ、冗談です」
「あ、笑った」
先輩が驚いたようにそう言葉を溢した。
「僕だって笑いますよ」
「そっか、ずっと仏頂面だったから。笑わない、そういう生物なのかと思ってた」
「失敬な、ちゃんと人間です」
僕の言葉に今度は先輩が嬉しそうに笑っていた。
先輩が立ち上がる。
逆光で少し眩しかった。
スタイルも合わせこの人は本当に綺麗だ。美人という言葉が良く似合う。
僕が興味がなくて知らないだけできっとこの学校でも有名人なのだろう。
ただ、屋上で三度会って少し話しただけなのに、変な安心感を感じていた。
全く、美人は得である。
そして、悪い意味でも良い意味でも特別なのだ。
「じゃあ、取ってくる。じゃあね」
手を振りながら屋上から出て行く先輩を見送る。
先輩の去っていった扉をぼんやり見つめながら。
そういえば名前を知らないな、なんて思った。
放課後も先輩は来た。
次の日も、その次の日も。その次の日だって。
先輩は、昼休みも放課後も屋上に来た。
僕も、屋上に居た。
その間、先輩に屋上以外で会ったことはなかったし、名前も知らないままだった。
「あれ、また居る」
今度は俺が購買で買ったパンを食べているときだった。
「はぁふぁひふぁんへふふぁ」
「え、何。先に飲み込みなよ」
言われた通りパンを飲み込む。
「失礼しました、また来たんですかって言ったんです」
「あぁ~ね」
彼女は何も持っていない。
この身一つという感じだ。
先に食べて来たにしては早過ぎる。
さては早弁したか。
彼女はどこか気まずそうにしていた。
腕を後ろで組んでいるのも弁当を持っていないことを不審に思われると思ったからだろうか。
「大丈夫ですよ。早弁は個人の自由だと思います」
「え、何か勘違いしてない?! 早弁とかしてないよ!?」
必死に訂正しようとする先輩。
あれ、そうなんだ。
そんなことより、今日はブドウジュースだ。ぬるくなる前に飲んじゃおう。
つぶつぶが美味しい。
一通りブドウジュースを堪能した後、所在なさげにしている先輩に
「じゃあ、なんでお弁当も何も持ってないんですか?」
と聞いた。
「あぁ~、バレてた?」
そう言っていつもみたいに笑う先輩。
「最初に見えました」
扉を開けたときに両手に何も持ってないのは分かった。
それに僕の持っているパンを見て手を後ろに隠したし。
「そっか、だよね。あれだよ、忘れただけだからね」
「そうですか。じゃあ購買で買ってきたらどうですか?」
お金は持っているだろう。
別に一食ぐらい抜いても問題はないのだろうが、諦める必要性もない。
そして、ついでに僕は屋上でひとりの時間を確保できる。
「うーん、いや、そうじゃなくて。教室に弁当忘れちゃった」
「え、なんで取ってこないんですか?」
まだ昼休みは十分にあるし、二年生の教室はそんなに遠いところにはないはずだ。
「いや、なんか良いかなって」
何故か妙に歯切れが悪い。
「誰が作ったんですか?」
ブドウジュースを一度わきに置き、事情聴取を始めた。
「……親」
俯いて小さな声で呟く。
ふむふむ。
ははーん、さては嫌いなものでも入ってたな。
嫌いなものを残してしまう気持ちはとても分かるが、食べ物を粗末にするのはあまり良くない。
それに折角親が作ってくれたんだ。
「取ってきた方が良いですよ? 人間いつ死ぬか分からないですし、食べれるときに食べといた方が良いです。僕はご飯を食べながら今日も生きれますようにって祈ってます」
口には出しませんけど。
「う~ん、でも、死ぬんだったら食べる必要なくない?」
いつ死ぬか分からないから食べるというのはおかしいということか。
なんだか、今日の先輩はやけに食い下がる。
最も、今日以外には昨日の先輩しか知らないのだが。
遠慮が減ったと考えるならいつの間にか距離が縮まっていたのかもしれない。
関係が、出来てしまったのかもしれない。
「死んだ人の胃の内容物に自分の弁当があったら嬉しいんじゃないですか?」
「なんか怖いよ! それ!」
素っ頓狂な声を出してツッコム先輩。
ノリはいいけどそんなにセンスはなさそうだった。
普通に無邪気に話してる方が似合う。
バッと言葉に反応してくれるのがなんだか可笑しくて少し楽しかった。
「ふふっ、冗談です」
「あ、笑った」
先輩が驚いたようにそう言葉を溢した。
「僕だって笑いますよ」
「そっか、ずっと仏頂面だったから。笑わない、そういう生物なのかと思ってた」
「失敬な、ちゃんと人間です」
僕の言葉に今度は先輩が嬉しそうに笑っていた。
先輩が立ち上がる。
逆光で少し眩しかった。
スタイルも合わせこの人は本当に綺麗だ。美人という言葉が良く似合う。
僕が興味がなくて知らないだけできっとこの学校でも有名人なのだろう。
ただ、屋上で三度会って少し話しただけなのに、変な安心感を感じていた。
全く、美人は得である。
そして、悪い意味でも良い意味でも特別なのだ。
「じゃあ、取ってくる。じゃあね」
手を振りながら屋上から出て行く先輩を見送る。
先輩の去っていった扉をぼんやり見つめながら。
そういえば名前を知らないな、なんて思った。
放課後も先輩は来た。
次の日も、その次の日も。その次の日だって。
先輩は、昼休みも放課後も屋上に来た。
僕も、屋上に居た。
その間、先輩に屋上以外で会ったことはなかったし、名前も知らないままだった。
0
あなたにおすすめの小説
聞き分けよくしていたら婚約者が妹にばかり構うので、困らせてみることにした
今川幸乃
恋愛
カレン・ブライスとクライン・ガスターはどちらも公爵家の生まれで政略結婚のために婚約したが、お互い愛し合っていた……はずだった。
二人は貴族が通う学園の同級生で、クラスメイトたちにもその仲の良さは知られていた。
しかし、昨年クラインの妹、レイラが貴族が学園に入学してから状況が変わった。
元々人のいいところがあるクラインは、甘えがちな妹にばかり構う。
そのたびにカレンは聞き分けよく我慢せざるをえなかった。
が、ある日クラインがレイラのためにデートをすっぽかしてからカレンは決心する。
このまま聞き分けのいい婚約者をしていたところで状況は悪くなるだけだ、と。
※ざまぁというよりは改心系です。
※4/5【レイラ視点】【リーアム視点】の間に、入れ忘れていた【女友達視点】の話を追加しました。申し訳ありません。
隣人の幼馴染にご飯を作るのは今日で終わり
鳥花風星
恋愛
高校二年生のひよりは、隣の家に住む幼馴染の高校三年生の蒼に片思いをしていた。蒼の両親が海外出張でいないため、ひよりは蒼のために毎日ご飯を作りに来ている。
でも、蒼とひよりにはもう一人、みさ姉という大学生の幼馴染がいた。蒼が好きなのはみさ姉だと思い、身を引くためにひよりはもうご飯を作りにこないと伝えるが……。
離婚する両親のどちらと暮らすか……娘が選んだのは夫の方だった。
しゃーりん
恋愛
夫の愛人に子供ができた。夫は私と離婚して愛人と再婚したいという。
私たち夫婦には娘が1人。
愛人との再婚に娘は邪魔になるかもしれないと思い、自分と一緒に連れ出すつもりだった。
だけど娘が選んだのは夫の方だった。
失意のまま実家に戻り、再婚した私が数年後に耳にしたのは、娘が冷遇されているのではないかという話。
事実ならば娘を引き取りたいと思い、元夫の家を訪れた。
再び娘が選ぶのは父か母か?というお話です。
白い結婚は無理でした(涙)
詩森さよ(さよ吉)
恋愛
わたくし、フィリシアは没落しかけの伯爵家の娘でございます。
明らかに邪な結婚話しかない中で、公爵令息の愛人から契約結婚の話を持ち掛けられました。
白い結婚が認められるまでの3年間、お世話になるのでよい妻であろうと頑張ります。
小説家になろう様、カクヨム様にも掲載しております。
現在、筆者は時間的かつ体力的にコメントなどの返信ができないため受け付けない設定にしています。
どうぞよろしくお願いいたします。
友達婚~5年もあいつに片想い~
日下奈緒
恋愛
求人サイトの作成の仕事をしている梨衣は
同僚の大樹に5年も片想いしている
5年前にした
「お互い30歳になっても独身だったら結婚するか」
梨衣は今30歳
その約束を大樹は覚えているのか
マジメにやってよ!王子様
猫枕
恋愛
伯爵令嬢ローズ・ターナー(12)はエリック第一王子(12)主宰のお茶会に参加する。
エリックのイタズラで危うく命を落としそうになったローズ。
生死をさまよったローズが意識を取り戻すと、エリックが責任を取る形で両家の間に婚約が成立していた。
その後のエリックとの日々は馬鹿らしくも楽しい毎日ではあったが、お年頃になったローズは周りのご令嬢達のようにステキな恋がしたい。
ふざけてばかりのエリックに不満をもつローズだったが。
「私は王子のサンドバッグ」
のエリックとローズの別世界バージョン。
登場人物の立ち位置は少しずつ違っています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる