【完結】元爽やかイケメンバリタチ男優はカメラの外だとドSらしい

夜見星来

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第三章

10.公私混同トレーニング

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 颯真さんと一夜を過ごしてからまだ数日と経っていないのに、もう俺は彼が待つ青いマットの上にいた。

 相変わらず、トレーニングウェアでも隠しきれない肉体美に目が釘付けになってしまう。
 というより、颯真さんの顔を直視することができず、俺は首から下の体ばかりを見ていた。

「こんばんは、唯斗さん。今日も始めましょうか」

 にっこりと微笑む彼はいつも通り、インストラクターの顔だ。話し方もあくまで生徒に声を掛けるときと変わらない。
 本当に俺と恋人になったんだっけ? と不安に思ってしまうほどで、身構えていた自分が馬鹿らしく思えた。

 ――ちゃんと真面目にやろ……。

 なるべく颯真さんを意識しないようにしつつ、いつものようにマットの上でストレッチを始める。

 足を大きく開いて、べたっと腹をマットにつけたり、胸を後ろへ反らせたり。

 颯真さんからのアドバイスを思い出しながらひとつひとつ丁寧にメニューをこなしていると、ふいに彼からの視線を感じた。

「……っ」

 ジーッと見られている。
 あくまで指導の一環で、だろうけれど、その鋭い視線に呼吸が乱れていく。
 ぷはっ、と息を吐いたら、颯真さんがくすりと笑った。

「息は止めないように。呼吸を意識してやるのも大切ですから」
「……はい」

 頭ではわかっていても、全身を舐め回すように見つめられると、自然と息が上がっていく。
 ただ見つめられているだけなのに体の動きがぎこちなくなっていって、気付いたらぺしゃんと体勢を崩してマットの上に倒れてしまった。

「大丈夫ですか?」
「だ、大丈夫です……」
「あまり無理はしないように。ではもう一度、体を横に倒してみましょうか」

 彼に言われるがまま、ゆっくりと体を横に倒していく。
 今度こそ雑念を振り払って集中しようと意気込んだのもつかの間、後ろに回り込んだ颯真さんに脇腹を撫でられた。

「ひゃぅ!」
「ここ、ちゃんと意識してやってる?」

 すすっ、と浮き出る肋骨を撫でられて、甘い電流が走ったみたいに背筋がぞわりとする。
 颯真さんは耳元で楽しそうに笑うと、集中しような、と低い声で囁いた。

「してます……!」
「本当に? そうは見えないけどな……」

 颯真さんの手が際どいところまで降りていく。
 太腿の付け根あたりを撫でられて、ぴくりと体が跳ねた。

「ところで、体は大丈夫だったか? もしきつかったら、軽めのメニューにするけど」
「…………っ」

 わざと感じるところばかりを狙って撫でられて、背骨を抜かれた魚のように体から力が抜けていく。
 吐き出す息も熱くなってきて、下半身が重たくなった。

「ふっ……ぅ、」
「……いじめるのはこの辺にしとくよ。勃ったらトレーニングどころじゃなくなるもんな?」

 そう言われて、自身の下腹部に目を向ける。
 完勃ちとまではいかないけれど、緩やかに芯を持ち始めていることに気付いて、慌てて颯真さんから距離をとった。

「そう睨まれると困るなぁ」
「知りません。颯真さんが悪いんですからね……!」
「ごめん、ごめん。反応が可愛いから、つい」

 爽やかに笑って言うけれど、許されることではない。
 じとりと睨むも、むしろ逆効果だったのか、彼にニヤリと悪い顔で笑われた。

「あまり、可愛い反応されると、余計にいじめたくなる」
「なっ……!」
「というのは冗談で、次は器具を使っていきましょうか」
「…………」

 どこまでが本気で、どこまでが冗談なのか、まだ付き合って日も浅いため正確に推し量ることができない。
 余裕たっぷりな颯真さんに翻弄されて悔しい気持ちもあるけれど、今はトレーニングの時間だ。

 頭を切り替えて、器具を使ったトレーニングを始める。
 腹筋も背筋も徐々に育ってきたのか、トレーニングを始めた頃よりも辛くなかった。

「うん、いいですね。次からは重りを増やしてやってみましょうか」

 俺の様子を見ながら、颯真さんがバインダーにさらさらとペンを走らせていく。

 そのあとはいつも通りランニングを終えて、今日も解散となった。

「次は水曜日の九時でお願いします」
「わかりました」
「あと、今日このあと俺も仕事が終わるので、唯斗さんの家に行ってもいいですか?」
「わかりま………へ?」

 あまりにも普通のテンションで言うものだから、何も考えずに頷きそうになってしまった。

「え、あ、家……?」
「はい。ダメですか?」
「い、や……ダメ、では、ないですけど……」

 突然のお誘いに、返答がしどろもどろになってしまう。そんな俺を見て颯真さんは「可愛い……」と零すと、我に返ったのか、んん、とわざとらしく咳払いをした。
 
「それじゃあ、マンションの下で待ってますね。では、またあとで」

 バインダーを持って下がっていく颯真さんの後ろ姿をぼーっと眺めながら、ふわふわとした心地でマットの上に腰を下ろす。

 これから颯真さんが家に来る? なんで?

 と思ったけれど、俺たちは付き合っているのだ。何も不思議なことではない……けれど。

 ――それって、そういうこと……だよね……?

 ぶわっと全身の血が沸騰して、トレーニング後にかく汗とは違った汗が滲み出る。

 俺は急いでマットから立ち上がると、両足をもつれさせながら更衣室に駆け込んだ。




 ◇

「お、お待たせ、しました……」

 身支度を済ませ、マンションのエントランスに向かうと、既に颯真さんが立っていた。どうやら、彼のほうが早く準備を終えていたらしい。
 
 一方の俺はというと、ジムのシャワーブースを使って入念に体を洗っていた。後ろの洗浄まで済ませてしまったのだから笑える。

 きっと、ジムのシャワーブースでセックスの準備をする生徒なんて前代未聞だろう。
 そもそも、まだセックスをするとも決まっていないのに。自分ばかりがその気なようで恥ずかしくなる。

 だけど、もしかしたら……万が一……そういうことになるかもしれないわけで。

 ドキドキと五月蝿く鳴る心臓を落ち着かせながら、颯真さんの隣に並んだ。

「お疲れ、唯斗。そんなに待ってないから大丈夫だよ」
「そう、ですか……」

 そこでぷつりと会話が途切れる。

 前まではもっと普通に話せていたはずなのに。颯真さんのことを意識すればするほど舌がもつれて、頭も回らなくなってしまう。
 うわあああっと一人でパニックになっていると、颯真さんが俺の腕を引いた。

「もしかして、意識してる?」
「そ、そりゃ、しますよ……」
「そういうところがウブで可愛い」
「……可愛くないです」
「ますます可愛くなってるぞー」

 言うやいなや軽く頬にキスされて、勢いよく後ずさる。
 颯真さんはくつくつと笑うと、俺に手を差し出した。

「早く、唯斗を抱きしめたい」
「………」
「ここだと難しいから……な?」

 暗に早く部屋へ上げろということなのだろうけれど、そういう言い方はずるいなと思う。
 俺だって、颯真さんに抱き締められたい。
 別に、セックスばかりしたいわけじゃないけれど、体の触れ合いは大事だ。

 俺は颯真さんの手を握ると、部屋まで案内した――わけだけど。

「ん、ぅ……」

 部屋に入って早々、玄関で唇を奪われて颯真さんの腕にすっぽりと抱き締められてしまう。
 颯真さんは、うっそりとした顔で俺の名前を呟くと、もう一度俺の唇を奪った。

「ずっとキスしたかった」
「んっ、颯真……さんっ」

 ちゅっ、ちゅっ、と粘膜同士がくっついては離れていく。
 颯真さんは何度も何度も角度を変えて触れるだけのキスを落とすと、やっと満足したのか離れていった。

「ごめん……。がっつきすぎた」
「い、いえ……」

 俺だって夢中になってキスに答えていたからお互い様だ。

 とりあえず部屋に入るよう促せば、颯真さんは気まずそうに笑って靴を脱いだ。

「あんまり片付いてないですけど……」

 片付いていないどころか、この前颯真さんを部屋に上げたときと変わらないままだ。
 相変わらず、テレビの横の棚にはソウのAVが並んでいる。隠すべきかとも思ったけれど、今更だった。

「ソファー、座ってください。飲み物、用意しますね」
「あぁ、ありがとう」

 冷蔵庫から適当にペットボトルのお茶を取り出し、コップに注いでソファーの前にあるローテーブルに置く。

 そのままちょこんと颯真さんの隣に座ってみたけれど、ここから先なにをしたらいいのかわからず、ピンと背筋を伸ばしたまま膝の上に置いた拳を見つめた。
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