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02.厄介な編入生
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自室に戻ってくると、何やら扉を開ける前から中が騒がしかった。
「もういるのかよ……」
まだ心の準備が出来ていない。編入生についてリックが知っていることといえば、レイ=クラウスという名前だけだ。
リックは緊張を解くために深く息を吐き出すと、恐る恐る部屋の扉を開けた。
「誰だ!」
荷解きをしていた男がこちらに勢いよく振り向く。男から向けられる鋭い視線に息を呑んだのもつかの間、レイの美しすぎる容姿に、リックの目が釘付けになった。
「…………」
青い瞳と艷やかな濃紺の髪、透き通るような白い肌。
男のリックから見てもゾッとするほどに美しい。まるで作り物の人形みたいだ。
ぼんやりと男の顔を見ていると、レイの方から手を差し出してきた。
「はじめまして。あんたが同室のヤツか?」
「……あぁ。ということは、あんたが新しい編入生?」
「そうだ。今日からよろしく頼む。えーっと……」
「リックだ」
「よろしく、リック。俺はレイだ」
軽い自己紹介をしたのち、差し出された手を握る。
その手は血が通っていないのでは、と心配になるぐらいに冷たかった。一気に手の熱を持っていかれたような気がする。
「……そうだ、先生からローブを預かっている」
先生から押し付けられたローブをレイに手渡す。真夏に着るような代物ではないが、冷たすぎるレイの体にはぴったりだと思った。
「あとで取りに行く予定だったんだが……。ありがとう」
「どういたしまして。何か分からないことがあったらなんでも俺に聞いてくれ。力になれると思う」
「あぁ、助かる」
レイはローブをベッドの上に投げると、リックのことなどそっちのけで、また荷解きを始めた。
元々二人用の部屋ではあるが、レイのベッドやテーブルが入ると途端に部屋が狭く感じる。おまけに、レイには共用部屋で生活をするという概念がないのか、床には彼の私物が散乱していた。リックのベッドのすぐ傍まで教科書が積まれている。
「……手伝おうか?」
「いい」
「でもよぉ……」
床に教科書などが散乱していると気になってしまう。それにこれから食堂へ行ったり、風呂へ行ったりせねばならないのだ。そのたびに物が散乱した床の上を歩かねばならない。
リックだって講義を受け終わった後で眠いし、疲れてもいる。間違ってレイの大事な物を踏むかもしれないし、うっかり壊してしまうかもしれない。そうならないようにと気を回して床に落ちていた教科書を拾ったら、レイに睨まれた。
「それ」
「ん?」
「勝手に触るな」
「……は?」
「だから、勝手に触るなと言っている」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。レイはリックの手から教科書を奪い取ると、埃や汚れを払うかのようにパンパンと表紙を手で叩いた。
「手垢がつく」
「…………」
「というか、邪魔だから暫く部屋を出ていてくれないか?」
(なんだって……?)
あまりの物言いに、怒りが湧いてくる。
第一印象は悪くなかったし、同じルームメイトとして、それなりに仲良くなれそうだと思っていたのに。
普段、喧嘩っ早くないリックも、さすがに我慢ならなかった。
「おい、編入生!」
「なんだ?」
「こっちが下手にでりゃあ、好き勝手言いやがって! ここは共同部屋っつーことを忘れんなよ? お前が床に物をばら撒くから手伝ってやろうとしたんじゃねーか!!」
「そんなことは頼んでないが?」
「ハァ!?!?」
「だから、頼んでいない。手伝われるよりは部屋を出て行ってもらえた方が何倍も助かる」
「あ゛ァ?」
全身の血が沸騰する。怒りで我を忘れそうだ。いや、もう既に制御が効かない。
リックは衝動のままにレイの胸倉を掴んだ。
「お前!」
「……喚くな。夜中なのを忘れたのか?」
「ダアァァァ!! クッソ!!」
レイの言うことはもっともだ。仕方なくレイから手を離す。レイはいい迷惑だと言わんばかりに襟元を正すと、しっしっと手でリックを追い払った。まるで犬みたいな扱いだ。
「早く行け」
「……もう知らねぇ! 勝手にしろ!! 俺が帰ってくる頃までに片付けが終わってなかったら、部屋の外に追い出すからな!!」
リックは必要なものだけをかき集めてバッグに詰めると、怒りを込めて部屋の扉を閉めた。
(あーーークソッ! なんなんだ、アイツ!!)
リックは苛つきを隠しもせず、少し離れた棟へ向かう。行き先はノエルの部屋だ。
リックは般若のような顔で廊下を進むと、勢いよくノエルの部屋の扉を開いた。
「ノエル!!」
「ひゃあ!」
ベッドの上で寝そべり、ごろごろしていたノエルが甲高い声を上げる。ノエルは大きな目を瞬かせてリックを見た。
「ちょっとリック! 驚かさないでよ」
「す、すまん……」
「たまたまアインが外に出てたからよかったけど……。今みたいな感じで来られたら、アインに怒られちゃうでしょ!」
アインというのは、ノエルの同室者だ。ほっつき癖のある奴で、部屋にいるところを見たためしがないのだが、ノエルが言うには怒らせると怖いらしい。
「マジで悪かったって! でも聞いてくれよぉ~!! 俺はもう無理だ……」
ベッドに寝転がり、甘えるようにぐりぐりとノエルの胸に額を押し付ける。ノエルは「先生に怒られちゃったの?」と的外れな見当をつけると、慰めのつもりなのか優しく頭を撫でてくれた。
「そうじゃねぇ。同室の奴が……」
「同室? リックって確か、一人部屋だったよね?」
「それが、来ちまったんだよ! クソ性格の悪い編入生が!!」
「もういるのかよ……」
まだ心の準備が出来ていない。編入生についてリックが知っていることといえば、レイ=クラウスという名前だけだ。
リックは緊張を解くために深く息を吐き出すと、恐る恐る部屋の扉を開けた。
「誰だ!」
荷解きをしていた男がこちらに勢いよく振り向く。男から向けられる鋭い視線に息を呑んだのもつかの間、レイの美しすぎる容姿に、リックの目が釘付けになった。
「…………」
青い瞳と艷やかな濃紺の髪、透き通るような白い肌。
男のリックから見てもゾッとするほどに美しい。まるで作り物の人形みたいだ。
ぼんやりと男の顔を見ていると、レイの方から手を差し出してきた。
「はじめまして。あんたが同室のヤツか?」
「……あぁ。ということは、あんたが新しい編入生?」
「そうだ。今日からよろしく頼む。えーっと……」
「リックだ」
「よろしく、リック。俺はレイだ」
軽い自己紹介をしたのち、差し出された手を握る。
その手は血が通っていないのでは、と心配になるぐらいに冷たかった。一気に手の熱を持っていかれたような気がする。
「……そうだ、先生からローブを預かっている」
先生から押し付けられたローブをレイに手渡す。真夏に着るような代物ではないが、冷たすぎるレイの体にはぴったりだと思った。
「あとで取りに行く予定だったんだが……。ありがとう」
「どういたしまして。何か分からないことがあったらなんでも俺に聞いてくれ。力になれると思う」
「あぁ、助かる」
レイはローブをベッドの上に投げると、リックのことなどそっちのけで、また荷解きを始めた。
元々二人用の部屋ではあるが、レイのベッドやテーブルが入ると途端に部屋が狭く感じる。おまけに、レイには共用部屋で生活をするという概念がないのか、床には彼の私物が散乱していた。リックのベッドのすぐ傍まで教科書が積まれている。
「……手伝おうか?」
「いい」
「でもよぉ……」
床に教科書などが散乱していると気になってしまう。それにこれから食堂へ行ったり、風呂へ行ったりせねばならないのだ。そのたびに物が散乱した床の上を歩かねばならない。
リックだって講義を受け終わった後で眠いし、疲れてもいる。間違ってレイの大事な物を踏むかもしれないし、うっかり壊してしまうかもしれない。そうならないようにと気を回して床に落ちていた教科書を拾ったら、レイに睨まれた。
「それ」
「ん?」
「勝手に触るな」
「……は?」
「だから、勝手に触るなと言っている」
一瞬、何を言われたのか分からなかった。レイはリックの手から教科書を奪い取ると、埃や汚れを払うかのようにパンパンと表紙を手で叩いた。
「手垢がつく」
「…………」
「というか、邪魔だから暫く部屋を出ていてくれないか?」
(なんだって……?)
あまりの物言いに、怒りが湧いてくる。
第一印象は悪くなかったし、同じルームメイトとして、それなりに仲良くなれそうだと思っていたのに。
普段、喧嘩っ早くないリックも、さすがに我慢ならなかった。
「おい、編入生!」
「なんだ?」
「こっちが下手にでりゃあ、好き勝手言いやがって! ここは共同部屋っつーことを忘れんなよ? お前が床に物をばら撒くから手伝ってやろうとしたんじゃねーか!!」
「そんなことは頼んでないが?」
「ハァ!?!?」
「だから、頼んでいない。手伝われるよりは部屋を出て行ってもらえた方が何倍も助かる」
「あ゛ァ?」
全身の血が沸騰する。怒りで我を忘れそうだ。いや、もう既に制御が効かない。
リックは衝動のままにレイの胸倉を掴んだ。
「お前!」
「……喚くな。夜中なのを忘れたのか?」
「ダアァァァ!! クッソ!!」
レイの言うことはもっともだ。仕方なくレイから手を離す。レイはいい迷惑だと言わんばかりに襟元を正すと、しっしっと手でリックを追い払った。まるで犬みたいな扱いだ。
「早く行け」
「……もう知らねぇ! 勝手にしろ!! 俺が帰ってくる頃までに片付けが終わってなかったら、部屋の外に追い出すからな!!」
リックは必要なものだけをかき集めてバッグに詰めると、怒りを込めて部屋の扉を閉めた。
(あーーークソッ! なんなんだ、アイツ!!)
リックは苛つきを隠しもせず、少し離れた棟へ向かう。行き先はノエルの部屋だ。
リックは般若のような顔で廊下を進むと、勢いよくノエルの部屋の扉を開いた。
「ノエル!!」
「ひゃあ!」
ベッドの上で寝そべり、ごろごろしていたノエルが甲高い声を上げる。ノエルは大きな目を瞬かせてリックを見た。
「ちょっとリック! 驚かさないでよ」
「す、すまん……」
「たまたまアインが外に出てたからよかったけど……。今みたいな感じで来られたら、アインに怒られちゃうでしょ!」
アインというのは、ノエルの同室者だ。ほっつき癖のある奴で、部屋にいるところを見たためしがないのだが、ノエルが言うには怒らせると怖いらしい。
「マジで悪かったって! でも聞いてくれよぉ~!! 俺はもう無理だ……」
ベッドに寝転がり、甘えるようにぐりぐりとノエルの胸に額を押し付ける。ノエルは「先生に怒られちゃったの?」と的外れな見当をつけると、慰めのつもりなのか優しく頭を撫でてくれた。
「そうじゃねぇ。同室の奴が……」
「同室? リックって確か、一人部屋だったよね?」
「それが、来ちまったんだよ! クソ性格の悪い編入生が!!」
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