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13.束の間の家族団欒
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「さすがにそれは無理だ!!」
リックは力いっぱい叫ぶと、勢いで体を起こした。だが、貧血のせいか、ぐわんと頭が揺れてまたベッドに突っ伏す。
レイは学習しない奴だ、とリックを一蹴すると、鼻で笑った。
「とにかく、実家には来るな!」
「ならば、お前が此処に残れ」
「それもそれで無理なんだけど……」
夏休み中は、絶好の稼ぎ時だ。毎年、夏休みの間は実家に戻り、弟妹たちの世話や家事の手伝いをしながら、日中は働きに出ている。
きっと優しい母や弟妹たちは、リックの給金をアテにしていないだろうが、それでも家長としてやるべきことはきっちりやっておきたい。
少しでもセイラとレイル、そして双子のマイとミイにはいい暮らしをさせたいと思っている。セイラとレイルもリックと同じように特待生としてウェルズではない市内の学校へ通っているが、残念ながらマイとミイは勉強が不得意で、奨学金をもらいながら勉強することが難しい。だからといって、進学を諦めて欲しくはない。双子の妹たちのためにも、お金が必要だった。
「実家へは帰る。……が、一週間に一度、お前に会いに行くっていうのはどうだ? それに、お前だって実家に帰るんだろう?」
吸血鬼に実家があるのかは謎だが、少なくとも編入してくるまでは別のところで生活していたはずだ。
レイもリックの申し出に思うところがあるのか、一理あると首肯した。
「ならば、週に一度、戻ってこい」
「いや、なんでお前がそんな不遜な態度なわけ……?」
今に始まったことではないが、レイの言い方はいちいち癇に障る。そもそも、食事がとれなくて困るのはレイの方だ。むしろ、レイの方が頭を垂れるべきなのではと文句を言いたいところだが、そんなことを言えばせっかくまとまりそうだった話も霧散しかねないため口を噤む。
それにレイからマーキングをされている以上、リックはこの男から逃れられない。下手に気分を害して、家族に手を出されるのも困る。
「……分かった。じゃあ、毎週日曜日に学校に戻るから、それまでは絶対に大人しくしてろよ! 実家に来たから殺す」
「善処しよう」
そうして、リックはレイと夏休みに入ってからのことを約束をしたのだった。
リックの実家があるタリズムは、ウェルズから何十キロと離れたところにある。
そのため、帰省の際はバスを乗り継ぎ、一時間ほどかけて街まで出る必要があった。おまけに、ウェルズからバス停までも距離があり、そこを歩いていくだけでも、かなりの時間を要する。
そもそもウェルズ高等学校は都市部から見て、西外れにある鬱蒼とした森の中にある。まるで存在を隠すかのように経つ古い西洋式の建物は、常におどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。そのため、ウェルズに通う生徒や教師でもない限り、積極的に足を伸ばそうとは思わない。それぐらい、普段は人が寄り付かない場所に高校があった。
だが、夏休み期間中は普段の陰湿な雰囲気とは一変して、生徒たちを迎えにきた家族の車や送迎用に用意された臨時バスで賑わう。
リックは臨時のバスに乗り込むと、約三十分ほどかけてタリズムの地に降り立った。
「やっぱ、直通バスが出てると楽だな~」
バスを降り、ぐうっと大きくて伸びをしてボストンバッグを抱え直す。いつもより早くタリズムに着いたことを喜びながら、リックはメインストーリーの小道をいくつも曲がり、ダウンタウンの方へと足を踏み入れた。
タリズムは首都からかなり離れた地方都市でありながらも交通の要所として栄え、メインストーリーは常に人で溢れている。
だが、一歩ダウンタウンの方に踏み入れると、空気がガラッと変わる。中流層と貧困層が入り混じる住宅街へと変わるのだ。
リックの実家があるエリアはこれでもまだマシな方で、さらに北へと進むと、リックでも無事に帰って来られるか分からないような治安の悪いエリアに突入する。弟妹たちには絶対に近付くなと口酸っぱく言っており、リックも足を踏み入れたことはなかった。
そんな、よくも悪くもいろんな階級の人間が入り混じるダウンタウンを進み、見慣れた門の前で立ち止まる。
リックは腰の高さほどしかない建付けの悪い門をくぐると、いつものように実家の扉を叩いた。
「ただいまー」
「リック兄ちゃん! おかえり!」
すぐさま扉が開き、セイラが迎え入れてくれる。その後ろから、レイルや双子の妹たちも出てきた。
「ただいま、みんな。母さんは?」
「母さんは八百屋に行ったよー」
「そっか。じゃあ、みんなでお留守番してたのか」
「うん! リック兄ちゃん、この前はごめんね……」
申し訳なさそうに肩を落とすのは、この前体調不良で寝込んでいたレイルだ。リックはレイルを引き寄せると、ぽんぽんと頭を撫でた。
「いや、謝らなくていい。むしろ、元気になってよかったな」
「うん!」
レイルの笑顔に、リックも自然と頬が緩む。彼らは大きくてなっても、リックのことを慕ってくれるいい弟妹たちだった。そんな弟妹たちに引っ張られ、リックは家の中へと入る。
リックは母を待つまでの間、家族全員分の昼食を作ることにした。
「今日はオムライスにするからな」
「やったぁ! リック兄ちゃんのオムライス大好き!」
双子の姉妹が、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。セイラは何か手伝おうか? と、早速リックと共にキッチンの中に入ってきた。
リックのすぐ下の妹で、セイラはしっかりしている。リックのいない間、この家を支えているのは母とセイラだと言ってもいい。だからこそ、リックは安心してウェルズに進学できた。
「じゃあ、セイラは卵の用意をしておいてくれ。俺が材料切るから」
「分かった」
台所に立つリックやセイラを見た他の弟妹たちも、手伝いをすると台所に入ってくる。こうなると大所帯だ。だけど、久しぶりの家族団欒は楽しい。
そうこうしているうちに母も帰ってきた。途端に、家の中が騒がしくなる。
「リック、帰ってきてたの?」
「うん。ただいま、母さん」
「レイル、マイ、ミイ。母さん荷物いっぱいだから手伝ってあげて」
「はーい!」
三人が母の元へ駆けていく。リックはリズムよく野菜を切りながら、久々に感じる家族の温かさや騒々しさを噛み締めていた。
リックは力いっぱい叫ぶと、勢いで体を起こした。だが、貧血のせいか、ぐわんと頭が揺れてまたベッドに突っ伏す。
レイは学習しない奴だ、とリックを一蹴すると、鼻で笑った。
「とにかく、実家には来るな!」
「ならば、お前が此処に残れ」
「それもそれで無理なんだけど……」
夏休み中は、絶好の稼ぎ時だ。毎年、夏休みの間は実家に戻り、弟妹たちの世話や家事の手伝いをしながら、日中は働きに出ている。
きっと優しい母や弟妹たちは、リックの給金をアテにしていないだろうが、それでも家長としてやるべきことはきっちりやっておきたい。
少しでもセイラとレイル、そして双子のマイとミイにはいい暮らしをさせたいと思っている。セイラとレイルもリックと同じように特待生としてウェルズではない市内の学校へ通っているが、残念ながらマイとミイは勉強が不得意で、奨学金をもらいながら勉強することが難しい。だからといって、進学を諦めて欲しくはない。双子の妹たちのためにも、お金が必要だった。
「実家へは帰る。……が、一週間に一度、お前に会いに行くっていうのはどうだ? それに、お前だって実家に帰るんだろう?」
吸血鬼に実家があるのかは謎だが、少なくとも編入してくるまでは別のところで生活していたはずだ。
レイもリックの申し出に思うところがあるのか、一理あると首肯した。
「ならば、週に一度、戻ってこい」
「いや、なんでお前がそんな不遜な態度なわけ……?」
今に始まったことではないが、レイの言い方はいちいち癇に障る。そもそも、食事がとれなくて困るのはレイの方だ。むしろ、レイの方が頭を垂れるべきなのではと文句を言いたいところだが、そんなことを言えばせっかくまとまりそうだった話も霧散しかねないため口を噤む。
それにレイからマーキングをされている以上、リックはこの男から逃れられない。下手に気分を害して、家族に手を出されるのも困る。
「……分かった。じゃあ、毎週日曜日に学校に戻るから、それまでは絶対に大人しくしてろよ! 実家に来たから殺す」
「善処しよう」
そうして、リックはレイと夏休みに入ってからのことを約束をしたのだった。
リックの実家があるタリズムは、ウェルズから何十キロと離れたところにある。
そのため、帰省の際はバスを乗り継ぎ、一時間ほどかけて街まで出る必要があった。おまけに、ウェルズからバス停までも距離があり、そこを歩いていくだけでも、かなりの時間を要する。
そもそもウェルズ高等学校は都市部から見て、西外れにある鬱蒼とした森の中にある。まるで存在を隠すかのように経つ古い西洋式の建物は、常におどろおどろしい雰囲気を醸し出していた。そのため、ウェルズに通う生徒や教師でもない限り、積極的に足を伸ばそうとは思わない。それぐらい、普段は人が寄り付かない場所に高校があった。
だが、夏休み期間中は普段の陰湿な雰囲気とは一変して、生徒たちを迎えにきた家族の車や送迎用に用意された臨時バスで賑わう。
リックは臨時のバスに乗り込むと、約三十分ほどかけてタリズムの地に降り立った。
「やっぱ、直通バスが出てると楽だな~」
バスを降り、ぐうっと大きくて伸びをしてボストンバッグを抱え直す。いつもより早くタリズムに着いたことを喜びながら、リックはメインストーリーの小道をいくつも曲がり、ダウンタウンの方へと足を踏み入れた。
タリズムは首都からかなり離れた地方都市でありながらも交通の要所として栄え、メインストーリーは常に人で溢れている。
だが、一歩ダウンタウンの方に踏み入れると、空気がガラッと変わる。中流層と貧困層が入り混じる住宅街へと変わるのだ。
リックの実家があるエリアはこれでもまだマシな方で、さらに北へと進むと、リックでも無事に帰って来られるか分からないような治安の悪いエリアに突入する。弟妹たちには絶対に近付くなと口酸っぱく言っており、リックも足を踏み入れたことはなかった。
そんな、よくも悪くもいろんな階級の人間が入り混じるダウンタウンを進み、見慣れた門の前で立ち止まる。
リックは腰の高さほどしかない建付けの悪い門をくぐると、いつものように実家の扉を叩いた。
「ただいまー」
「リック兄ちゃん! おかえり!」
すぐさま扉が開き、セイラが迎え入れてくれる。その後ろから、レイルや双子の妹たちも出てきた。
「ただいま、みんな。母さんは?」
「母さんは八百屋に行ったよー」
「そっか。じゃあ、みんなでお留守番してたのか」
「うん! リック兄ちゃん、この前はごめんね……」
申し訳なさそうに肩を落とすのは、この前体調不良で寝込んでいたレイルだ。リックはレイルを引き寄せると、ぽんぽんと頭を撫でた。
「いや、謝らなくていい。むしろ、元気になってよかったな」
「うん!」
レイルの笑顔に、リックも自然と頬が緩む。彼らは大きくてなっても、リックのことを慕ってくれるいい弟妹たちだった。そんな弟妹たちに引っ張られ、リックは家の中へと入る。
リックは母を待つまでの間、家族全員分の昼食を作ることにした。
「今日はオムライスにするからな」
「やったぁ! リック兄ちゃんのオムライス大好き!」
双子の姉妹が、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。セイラは何か手伝おうか? と、早速リックと共にキッチンの中に入ってきた。
リックのすぐ下の妹で、セイラはしっかりしている。リックのいない間、この家を支えているのは母とセイラだと言ってもいい。だからこそ、リックは安心してウェルズに進学できた。
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「うん。ただいま、母さん」
「レイル、マイ、ミイ。母さん荷物いっぱいだから手伝ってあげて」
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