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夜と薔薇の恋歌

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枯れた土地を毎夜歩いた。
砂漠は昼は灼熱、夜はそれに反比例するように寒くなる。
しかし、イヴンは夜警戒しながらその果てしなく続く砂漠を歩かなければならなかった。
かちかちと外気に震えながら一歩を踏み締める。サンダルが砂に僅かに沈み歩きにくい。
そういえば、と海と言うところは砂としょっぱい水で出来ていると聞いた事がある。
今自分が歩いているこの砂漠と一緒なのだろうかと疲れた頭で思考を巡らせた。
やがて、とうとう力つきてひざまずいてしまった。
もう歩く気力は己にはない。
イヴンは身体を砂に横たえて目をつむった。


何故、イヴンは自分がこんなことになったのか、すでに遠い昔のような感覚で思い起こした。












イヴンはとある小国の王子であった。数いる兄弟達の真ん中だった。
特に武術にも計算が得意だったわけでもない。容姿も秀でている所は一切なく、豪華な服装をさせてようやく、王子であると気が付くくらい特出した部位はなかった。

ただ一つを除いては。

浅黒肌に赤い髪。それは珍しくもない色だったが、しかしイヴンの右目の色がそれは美しいローズピンクの瞳をしていたのだ。
彼の母は庶民の出で、平凡な女だった上に、イヴンのような瞳も持っていなかっのだが、イヴンが産まれた時、そのローズピンクの瞳を不吉の証だと言った人間に、魔女と罵られて殺された。
幸い父である王は、そのローズピンクの瞳を気に入り、身分の低い母を持つ息子をそれなりには可愛がった。
とはいえ、気まぐれに客が来た時に愛でるのみで、たいていはお目つけ役を一人置くと、ほったらかしであった。
要はイヴンは見世物扱いだった。しかしイヴンには行く宛てもなく、この異質な瞳を持っているために孤独にも堪えてひっそりと過ごしていた。
唯一話す相手はお目つけ役だけ。

そのお目つけ役の男は逞しく調った黒い肉体に、鷹の様に鋭い目で美しい容貌をし、黒髪、黒目と夜を思い浮かべるような無口な男であった。
何故かこの男は自らイヴンの目付け役名乗り出た変わり者だ。理由は知らないが、イヴンは好意を少しだが持っていた。
話し掛けても淡々とした短い返答が反ってくるだけだったが、それでもイヴンは話し相手がいて嬉しかった。
次第にイヴンはその男を慕うようになった。兄の様に温かく自分を見つめ、父の様に寛大に自分を包み込んでくれる。
イヴンは何もいらないから、この時間がずっと続けばいいと思っていた。

しかし、イヴンの僅かな願いは叶えられなかった。
その男が反乱を起こしたのである。
元々イヴンの父は出来た王ではなかった。
女遊びが激しく、民に目を向けるとしたらハーレムを作る時のみ。いつかは起こるだろう反乱はイヴンの身近な人間が起こし、その反乱は成功を収めた。
どうやら男は計画的に行動を起こしたらしく、隔離された誰も興味を持たない王子の目付け役を良い隠れみのだと判断したらしい。
その男は新たな王になり、民に慕われ、前王の息子達にも慈悲をかけてくれる易しい王であった。
イヴン以外には。
男が王に就任した日、イヴンは新たな鳥籠の生活を送ることとなった。
イヴンは王となった男の寝室に連れていかれ、男に組み敷かれ、無理矢理身体を繋がれた。
初めての性行為に、屈辱と恥ずかしさ、激しい痛みが襲い、イヴンは涙を流したが、男の暴力は止まらなかった。

毎夜抱かれたイヴンの身体は軋み、慕っていた男に組み敷かれたショックで心は壊れそうな程ぎりぎりの境地であった。
ある日、イヴンは男に問うことにした。悲しみが胸を突き刺し、限界だった。

「何故、貴方は私を抱くのだろう。貴方は前王に家族を殺されたと聞く。酷く憎かっただろう。しかし、貴方は前王を倒した後、私の兄弟達に慈悲を与えて下さった。ならば私も兄弟達の様に慈悲を貰えないでしょうか。私を手元においても、貴方には何の価値もないのだから」

情事が始まる前にイヴンは懇願した。しかし男が答えたのはイヴンには理解出来ないものだった。

「俺は、砂漠の民だ。この国の者ではない。前王は、俺達の集落を侵略し蹂躙し、女は犯し、子供も見境無しに殺された。唯一の生き残りが俺だった。一人残された砂漠で俺はひたすらこの国を目指して歩いた。何時間、何日、何度夜を向かえたか解らない。あの砂漠で死のうかと考えたが、俺は死ねなかった。漸くたどり着き、復讐してやろうと思っていた」

変わらない淡々とした口調だったが、いつもより饒舌だった。
静かな黒い瞳がイヴンを捕らえていた。

「一人だけで復讐しても意味がなかったが、どうしても家族の敵を取ってやりたかった。犬死にでも構わなかった。しかし、この国の民は王に不満を持っていた。同じく反乱意識を持つ者はいて、俺は確実に殺すために仲間を集めることにした。そして王に近づくために何かないかと思考していたときに、隔離された薔薇の瞳を持つ王子の目付け役の話が上がった」

「…………」

「王が憎いように、その血を持つ者も同じように憎かった。だからこそいつでも殺せそうで利用出来る貴方は都合が良かった……」

「王族が今でも憎いのですね」

「ああ、憎い。憎くて憎くて仕方がない。出来るならば根絶やしにしたいほどだ」

イヴンは知らず涙を流した。何故自分が泣いているのか理解が出来なかったが、とめどなく雫は頬を伝い落ちた。男は話すのを止め、無言でイヴンの涙をすくおうと手を延ばした瞬間にイヴンに手を叩かれて拒絶された。

「嫌だ、私に触るな!」

それほどまでにイヴン達を憎いと言われて、思わず力強く叩いてしまった事に自分自身が内心で驚いていたが、その思考も男に押し倒されてすぐに中断した。

「やめろ!何故僕を抱くんだ!?」

「貴方は言わば戦利品だ。俺がどう扱おうが俺の勝手だ」

自身の呼び方が二人の時に戻ってしまっていた。
王子に相応しくないと、せめて毅然としていようとイヴンは思っていたのについ僕と呼んでしまった。
軟らかい寝床に身を沈められ、熱い吐息が間近で身体をわななかせた。

「あ、やめ……!」

イヴンの意思は何も求められてはいなかった。あの二人だけの時間が懐かしい。何が、どうしてこうなったのか、無力なイヴンはただ涙を流すしかできなかった。













そうしてイヴンは絶望感に漂いながらも、何とか男から逃れようと、機会を伺い逃げ出した。
その結果が今砂漠で死にそうになっている自分だと笑いしか起こらなかった。目を閉じて力無く笑うイヴンはゆっくりと意識を手放そうとした。
問い掛けたあの日、本当は自分はあの男を愛していたから泣いてしまったのだと気が付いた。
好きな男が自分を憎いと言われ哀しまない人間等存在しないだろう。
だからこそあの城にいたくなかった。
何の価値もない自分が疎ましかった。後もう少しでイヴンが意識を失う寸前、何かが鈍くかける音が聞こえてきた。
それはちょうどイヴンの前で止まり、誰かがイヴンを抱き上げた。
何かを仕切に話し掛け、涙を流しているようだ。それから苦しいくらいに水を飲まされてイヴンは完全に意識を手放した。
















「……ここは」

イヴンが再び意識を取り戻した時、そこは以前自分と男が隔離された、城の奥まった場所にある自分の寝室であった。
今までのはもしかして夢だったのかと思うほど、寝室は綺麗に整えられていた。
あの願った時間に舞い戻ったようで、うっすらとイヴンは笑みを浮かべた。
寝ていた寝台からおりて、室内を歩き回る。
何もかもが懐かしい思い出となっていた。窓から覗く景色も天気以外は変わらない。
寝室に誰かが入って来た。イヴンには気配で男だと分かった。

「イヴン様……」

「……私、いや僕はここでの生活が嫌じゃなかった。例え疎まれた瞳を持つ者であっても、僕には貴方がいたから……でも、貴方は僕を、王族を憎んでいると言った。正直堪えられなかった。少なくとも、僕は貴方を慕っていたから……」

後ろを向いたままイヴンは一人喋り続けた。
このままここから落ちて死んだら楽だろうかと考えて。

「僕はいつも一人だった。母は魔女と罵られ殺された。僕はただの不吉な生き物で、父にとっては珍しい見世物だった。唯一の話し相手は貴方だけで、無口だったどけ、それでも十分だった。なのに……」

続けようとした言葉は、男に強く後ろから抱きしめられ、無理矢理首を横に向かされて唇を塞がれた事によって消え失せた。
深く深く、何かを訴えるようにイヴンを求めて口付けしてくる。
名残惜しそうに唇を離す男は、イヴン耳元に唇をよせた。

「ん……」

「イヴン様。俺は貴方を……愛している」

「うそ、だ……」

「王が憎かった。その血を継ぐ人間も憎かった。でも貴方が、貴方の兄弟を殺せば悲しむと思ったから、殺しはしなかった。最初は、利用したら殺すつもりだった。だけど、貴方の事を知り、貴方の孤独を知り、俺はその孤独を埋めたくなった。いつしか無邪気に微笑んでくれる貴方が愛しくて仕方がなかった。だから、俺が王となっても、貴方を自由に出来なくて、貴方を苦しめる結果となってしまったんだ」

男の話を聞いていたイヴンはかすかに肩を震わせた。身体が歓喜に満ちていた。
自分を愛してくれる人間がいたのだと。

「もし、もし貴方が、俺を許してくれるのなら、俺は何でもしよう」

「……何でも?」

「貴方が俺の元から消えるのはもう嫌なんだ」

イヴンはそこで震えているのは自分だけではないと気がついたのだ。
男も震えていたのだ。ずっとイヴンが何を言うのか待っていた。
勇気を言葉を紡いだ。

「僕は……ここで貴方といたあの頃の時間に戻りたい。籠の鳥でもいい。貴方とただ前のようにいられれば……」

「イヴン様、貴方は本当にそれでいいのか? 他の王子のように自由になることが出来るのに?」

イヴンは男の方へ向き直り、微笑を浮かべた。

「僕も貴方を愛してる。だから、貴方の側にいさせて欲しい」

「……俺の名を、呼んでくれませんか?」

「…………アズリ、貴方もイヴンと僕を呼んで欲しい」

「イヴン……愛しています」











その昔、砂漠が広がる国で偉大なる王がいた。
その王は夜を印象つけるような容貌を持っていたという。
誰しもが最初は畏怖の念を抱くが、寛大かつ優しさを持つ王に、民は次第に尊敬の眼差しとで慕ったといわれている。
そしてその王の側には、美しいローズピンクの右目を持つ青年がいつも寄り添うようにいたらしい。





END









何だろう、他にもこの二人を書きたいかもしれない。
とにかく、気持ちはアラブ系な感じで書いてみました。






おまけ
#賢者____#_ギノル__#と夜



「貴様……何者だ?」

強い眼差しが身体を串刺しにしそうな程突き刺さる。
怖いなと肩を竦めてからその鋭い光を放つ青年を見て笑った。
首筋には青年が掲げた剣が当てられていたが、そんなもので今更自分がやられるなんて事はありえないから気にするはずもなかった。
流れる雲が一時月の明かりを遮り、真っ暗になってもその、印象的な瞳は自分から離れなかった。

「ならば逆に問おう。お前は何者だ?」
「…………」
「私は何者でもない。お前のように地位に縛られることもなく、前王のように籠に入れるわけでもない」
「……何を知っている」

警戒のみだった気配に殺気が込められ、笑みが濃くなる。
青年では自分を殺せはしない。
そろそろ夜明けも近くなり、こんな荼番は終わりにしようと、首筋に当てられたままの剣に鉄の扇を滑り込ませ、力を入れて首筋から遠ざけた。

「さて、優しい私が忠告してあげよう。お前が自分の野望のために捨てようとした者を殺してしまえば、この国はお前の故郷と同じ運命を辿り、お前はお前が殺した王と同じ末路を遂げるだろう」

一歩軽く下がり、青年―――今は薔薇の瞳を持つ王子の目付け役の男に別れを告げた。

「私の名はユラ。人はこんな私を賢者(ギノル)と呼んでくれているようだ。もう君に会う事はないだろうが、君は大切な人を亡くすなよ」

そういって、青年の前から姿を消した。
西の国イルサールを後にして、たまたまよった南の国ルビニアで不穏な動きを感じ、薔薇の瞳を持つ幽閉された王子の話も気になった。
物語に介入するつもりはなかったが、個人的に調べているうちに、彼に会わずにはいられなかった。
いつもはこんなお節介等しないのにと苦笑を浮かべながら、砂漠の道を歩き出した。




終わり





交差する月という話の受けユラと夜と薔薇の恋歌の攻めアズリ。

まだ交差する月は設定しかないのですが、夜薔薇のイメージは、この交差する月から派生してます。




20080501



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