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平凡ヒエラルキー 2

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平凡ヒエラルキー  2


あれから、俺の波瀾万丈な人生が始まった。
食堂で、悪口にいたたまれなくなった俺に、柏先輩はにこにこと殴った生徒を、そこら辺に投げ捨てて―――俺に悪口を特に言っていた可愛らしい少年達に向かってナイスコントロールでぶん投げていた―――先ほどの凶悪ぶりが嘘というくらい綺麗に微笑んで席について、何事もなかったようにメニューを広げた。
しん、と静まりかえる食堂で、俺はなんにするぅ?と聞いてくる柏先輩にガタガタと震えながら自分のメニューを開いた。

「あ、最中。それオススメだよ~」
「そ、そうなんですか?」
俺が先ほどの恐怖でいっぱいいっぱいの頭で考えながらいると、柏先輩が顔を近づけてきて、指を指した。そこには高い値段が書かれたハンバーグステーキ。こんなん頼めるか!と思いながら、俺はしつこく進めてくる柏先輩に逆らえず、そのままハンバーグステーキを奢ってもらうことにした。
ご機嫌な柏先輩はのんびりとした口調でじぃっとこちらを見つめてきた。

「きっと最中も美味しさでほっぺ落としちゃうよ~。お手頃価格で美味しいなんて凄いよねぇ。デザートにジェラートもつくんだぁ」

ふんふんと俺を見つめた後で、柏先輩は周りに視線を向けた。そこで、何かに気がついたのか目を輝かせ、それから大きく手を挙げて、声を出した。

「あ、あんちゃんだぁ~。やっほぉ!こっちおいでよぉ」

ぶんぶんと無邪気に手をふる柏先輩に、周りは可愛いとか色めき立っているが、俺は忘れない。数分前の鬼のような出来事を!
俺は頭の中で先ほどの光景を思い出さないようにしながら、視線を黒光あんがいるであろう方向に向けた。
そこにはきらびやかなご一行がこちらに近付いて来ていた。
黒光あんに同室者の柚井蓬(ゆずいよもぎ)、クラスメイトの茶豆中梅(ちゃまめなかうめ)。後ろには副会長の羊羹先輩と、書記のバニラ・C・塩見(えんみ)先輩、会計の藍住ちょこ(あいすちょこ)がいた。
眩しくて死にたい。何だか黒光あんはこちらを睨みつけているし、周りのおとりまきは殺気を放っているし、ただでさえ柏先輩を持て余して、逃げ出したいのを我慢しているのに、あの一行が加わったら、俺は社会的に抹殺されそうだ。
柚井達は黒光あんを、柏先輩のような危険人物に近づけたいとは思っていないだろう。気さくで優しいと評判の黒光あんが睨みつけてくる理由は皆目見当もつかないが。

「栗中、貴様はその痘痕もえくぼがいるだろう。いちいちあんに近づくな」
「え~?痘痕もえくぼってぇ、もしかして最中の事?俺の玩具をそんなふうに言うなんて、羊、死にたいの?それに、あんちゃんに近づこうが近づかなかろうが、関係ないでしょ~」
「おい、羹。最中をそんな風にけなすなんて最低だぞ」

痘痕もえくぼって・・・・・・さすがに面と言われると傷つくが、羊羹先輩の言葉にピリピリと、先ほどの殺気を放ち始めた柏先輩に冷や汗を出しつつ、俺は黒光あんに心の中で突っ込んだ。
お前、親しくもないのにいきなり名前呼びの呼び捨てって何なんだ。
一度も話した事がないじゃないか。
俺は険悪なムードになってくる食堂の中、バッドタイミングで運ばれてきたハンバーグステーキを食べようかどうしようか悩んだ。
いわば現実逃避だ。だいたい、どうすればいいというんだ。
無力な俺にはどうしようも出来まい。

「・・・・・・あん。だが、栗中もこの庶民もお前にいい影響を与えないのは明朗だ。ならば最小限接触をしないべきだ」
「不本意だが俺も副会長の意見に同意だ」
「羹、蓬・・・・・・」
「あん君、君は今やこの学園の至上の存在なんだから、あまり下世話な奴らと会話もしない方がいいと僕は思うね」
「あ、僕もバニラにさんせぇ!」
「バニラ先輩も藍住も言い過ぎだとは思うけど、一利あるね」

くすりと俺を見下すように見て嘲笑う茶豆中梅。こいつは一生、俺は好きになれないだろう。家柄や容姿がイイヤツとして誇りをもっているせいか、茶豆中梅はよく庶民を見下すような物言いをする。
だから、俺達の中ではひそかに嫌われている。

「なぁんでそこまで言われなきゃならないのか分からないなぁ~」
「お前達・・・・・・」
「あ、それから、あんちゃん大好きなんだけどぉ。俺達の秘密の場所には近づかないでねぇ?最中が気にしてるみたいだからぁ」
「っ!・・・・・・俺はたまたまあそこに来て、たまたま居心地がいいからいるだけで、あんた達がいるなんて知らなかったよ」
「・・・・・・・・・・・・ふぅん。まぁいいけど、ちょっと妬いちゃうなぁ」

ナイフとフォークを使って、俺はもくもくとハンバーグステーキを食べ始めた。一口含むと肉汁がじゅわりと広がる。シンプルに塩コショウで味つけられているため、肉の旨味が最大限に生かされているなと、俺でも分かる。
最高に美味しくて、俺は柏先輩ににこりと微笑んだ。
しかし、顔を上げると、俺は笑顔から顔を瞬時に引き攣らせた。
いつの間にか、柏先輩は副会長とバニラ先輩、藍住と柚井と喧嘩をおっぱじめていた。
さすがは帝王と言われているだけはあって、四対一でも負けてない。負けてない分、どんだけ柏先輩が喧嘩が強くて狂暴なのかが改めて分かってしまい、恐怖が沸き上がる。
ガタガタして、ハンバーグステーキ所ではなくなってしまった。

「最中、大丈夫か?顔色が悪いぞ?」
「ひいいぃぃぃ!」

思わず叫んでしまった。なんでかって?それは黒光あんが俺の隣に座っていて、心配そうな顔をしながら覗いてきたと思ったら、額と額をくっつけてきたのだ。
たいてい中級な階級や上級の奴らなら喜んでいたが、悲しいかな、俺は下級の人権ない存在。今や学園全土で人気の黒光あんにこんな事をされたら、それこそ命が・・・・・・。現にうっすらとした笑みを浮かべた茶豆中がこちらを見ている。
確実に麗しいとかの次元ではなく、今からてめぇを抹消してやるという恐ろしい笑みだ。

「おやおや、皆お揃いでどうしたんだい?まさかこの私の美貌を拝みにきたのかい?いやぁ運がいい。今日はエステに行ってきたばかりだから、いつも輝くような玉のお肌が、さらに美しく、宝石のように輝いているんだ。嗚呼、なんて素晴らしいんだ私。さぁ、思う存分眺めるがいい!!」

阿保だあああぁぁ! 
突然乱入してきた人物。
いや、柏先輩にナルシストだって聞かされていたけど、実際見るともう唖然とするしかない。
なんか、酷い。人種的に酷い。
こんなんが生徒会長?
口に加えていた薔薇をどこぞに投げ、再びどこから取り出したのか新たな制服の胸ポケットに入れて、キラキラオーラを振り撒きながら叫んだ。
喧嘩をしていたはずの副会長が血相を変えて会長の首根っこを掴んでダッシュで食堂から去って行った。その後ろを慌てて追いかけるバニラ先輩と藍住。
あの性格、ひた隠しにしてたんだろうな~。流石に。

食堂中が見てはいけないものを見たような気分になっている中で、空気を読まないのか黒光あんが、衝撃的な出来事をなかったかのように俺から僅かに離れて首を傾げた。

「熱はないようだけど、ますます顔色が悪くなってる。最中大丈夫か?な、なんなら保健室にいくか?二人きりで」
「あん君、そんな奴に触れたら爛れてしまうよ!」
「ちょっとぉ~、最中を勝手にどこかに連れて行かないでよねぇ。あんちゃんでも怒っちゃうぞぉ?」
「決着がまだついてないぞ、糞風紀委員長!」


ああ、何たる混沌。
俺は現状について行けず、そのままブラックアウトしたのだった。








END





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