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1.ことのはじまり編
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「……う、ん……?」
目を開けると、窓から覗く日がすでに傾いていた。
(夕方……? そういや俺、昨日は朝まで飲んでほとんど寝てなかったんだっけ……)
そして早朝からスライムや暴漢どもと追いかけっこ、家に着いたら着いたで容赦なく犯される――そんな一日だったのだ、寝過ごしてしまっても仕方ないことだろう。
寝ぼけ眼を擦りながら今の状況を整理する。土やスライムで汚れた服は着替えさせられ、寝室のベッドへと転がされていた。体もすっきりとしているため、おそらくノエルが眠っているうちにグレンが洗浄魔法でもかけてくれたのだろう。気が利く男である。
「おう、起きたのか?」
むくりと起き上がると、傍らで本を読んでいたらしいグレンに声をかけられた。どうやら魔法書のようだがノエルに見覚えはない。そんな厚いもの持ち歩いているのかと少し呆れた。
「ん……はよ、」
「うわ、ひっでえ声。ほら、水」
「ん」
手渡されるがまま水を飲む。ひやりとした液体が喉に気持ちよかった。
コップ一杯のそれを飲み干すのも見届けたあと、グレンはあの首輪を懐から取り出した。「約束どおり、やるよ」そう言って、ノエルの首もとに手を伸ばす。
「苦しくないか?」
「ああ、だいじょうぶ……」
丁寧な手つきで、グレンはノエルの首にその首輪を嵌めた。
白く細い首に赤黒いそれはよく映えた。
自分の首元に首輪が通されたのを確認し、ノエルは少し意外だなと思った。グレンのことだから、これをだしにまだまだノエルに無理難題を押し付けてくると思っていたのだ。
もしかしたら、気を失い死んだように眠るノエルにやりすぎたと反省したのかもしれない。なんだ、こいつも人間らしいかわいいとこもあるじゃねえか、と口元に笑みを浮かべた。
この首輪さえ手に入れば、少なくともところかまわず襲われることはなくなる。まだ戦闘力がゼロだとか、元の体に戻るためにどうするべきかなど問題は多々あるが、さっきまでより事態が好転したことには変わりない。
「あ、レベル! もしかしたら上がってるかも!」
そこでノエルは、淫魔のレベル上げの方法について思い出した。
淫魔のレベルは他人から得た精気によって上がる。つまりはセックスだ。
不本意ではあるがグレンと事をなしたのだ、もしかしたら少しは上がっているかもしれない。
「レベル? なんで今レベルを気にすんだよ」
「あれ、言ってなかったっけ。女神にレベル100まで上げたら元の体に戻してやるって言われたんだよ。淫魔のレベルの上げ方、おまえも知ってるだろ?」
「――――そうだったのか」
ノエルの説明を聞くと、グレンは何かを考え込むように顎に手を当てた。
ノエルは少し首を傾げ、だがすぐに気を取り直してステータスを開いた。そしてそれを見た瞬間、驚きに目を見開いた。
【名前】ノエル・クルス
【種族】魔族(淫魔)
【レベル】5
「はあ!?!?!?」
予想外の数字に思わず叫んだ。
「な、なんだよ。まさかひとつも上がってなかったのか?」
「まさか、その逆だ。レベル5だって。一回で、一気に5も上がってる……」
「はあ!?」
グレンも驚いたように声を上げ一緒にノエルのステータスを覗き込んだ。
二度見三度見をしても、その数字は変わらない。
(一気に5も上がるって……こいつの精力どうなってんだよ……)
一度のセックスでこんなに上がるのはうれしい誤算ではあるが、そのすさまじさにノエルはそう思わずにはいられなかった。
(それにしても……これから先、どうするかなあ……)
一気に5も上がったとはいえ、女神の言ったレベル100には程遠い。
魔法が使えないのでは冒険者稼業も続けられないし、魔物のはびこる森のほど近くにあるこの家にも住んでいられないだろう。
首輪のおかげで王都に行っても問題はない、これを機会に転職するか――いや、そもそも魔法が使えないままでいるのは嫌だ。でも元の体に戻るにはレベルを100まで上げなくてはいけないし……。
将来を案じ考え込むノエルに、グレンが声をかける。
「おい、何考えてんだか知らねえけど、それよりまず首を貸せ。まだ終わってねえんだよ。仕上げに魔力を込めなきゃなんねえんだ」
「あ、そうなのか。頼む」
そういえばこの首輪はただの首輪ではなく魔道具だった。つけただけで効果が出るというわけではないのだろう。
そう思い、ノエルはなんの疑いもなくグレンに首を差し出した。
ぽう……っと魔力の光が灯り、首元があたたかい空気で包まれる。そして、詠唱が始まった。
「――【我、その名を縛る者。我、その身を縛る者。契約のもと、グレン・トレヴァーの名において命ず。汝、是を以て我が隷属のとなることを】」
「え、――ーーッ!」
詠唱の文言に疑問をいだくと同時に、ノエルの体がグレンの魔力によって包まれた。
キン、と首輪が光り、身体が何者かに【支配された】感覚がする。
「な、にを……?」
「――どうだ? 【隷属の首輪】に支配される気分は?」
「は――!?」
【隷属の首輪】――それは奴隷階級の人間を魔法で縛るための魔道具だ。
それによって【契約】された【従者】は【主人】の【命令】にいっさい逆らうことができなくなる。
今でこそ奴隷の数は減り今では罪人の強制労働くらいにしか使われていないと聞いたことがあるが、これがその【隷属の首輪】だと言うのか。
もしそうだというのなら、その【契約】によって支配された【従者】は自分で、【主人】はグレンということになる。
「な、だ、騙したのか!?」
「騙したなんて人聞きの悪い。これはたしかに【淫魔のフェロモンを抑える】首輪なんだぜ? ――ただし、【ご主人様以外には】、な」
曰く、これは奴隷用の首輪の中でも性奴隷のためにつくられた魔道具らしい。
淫魔を性奴隷とした際そのフェロモンを無駄に周りにふりまかないように、と開発されたものを、最近になって改良したものなのだとか。
「これを着けている限りおまえは男どもには襲われない――ただし、俺の【命令】にも逆らえないがな」
にっこり。天使のような笑顔を浮かべ、悪魔のようなことを言う。
(こいつ、まさか、最初からこれを狙って――?)
気づいたときにはもう遅い。【隷属の首輪】は自分では決してはずすことはできないのだから。
「この……変態色情魔―――――!」
「安心しろ、ノエル。俺だけでレベル100にしてやるからな」
「うるせーーーー!!!」
――森の奥深く、王都を見下ろす丘の上。結界に包まれた家の中に、悲痛な叫び声が響く。
強力な友人のおかげで、淫魔になってしまったノエルの先行きは明るい――かもしれない。
目を開けると、窓から覗く日がすでに傾いていた。
(夕方……? そういや俺、昨日は朝まで飲んでほとんど寝てなかったんだっけ……)
そして早朝からスライムや暴漢どもと追いかけっこ、家に着いたら着いたで容赦なく犯される――そんな一日だったのだ、寝過ごしてしまっても仕方ないことだろう。
寝ぼけ眼を擦りながら今の状況を整理する。土やスライムで汚れた服は着替えさせられ、寝室のベッドへと転がされていた。体もすっきりとしているため、おそらくノエルが眠っているうちにグレンが洗浄魔法でもかけてくれたのだろう。気が利く男である。
「おう、起きたのか?」
むくりと起き上がると、傍らで本を読んでいたらしいグレンに声をかけられた。どうやら魔法書のようだがノエルに見覚えはない。そんな厚いもの持ち歩いているのかと少し呆れた。
「ん……はよ、」
「うわ、ひっでえ声。ほら、水」
「ん」
手渡されるがまま水を飲む。ひやりとした液体が喉に気持ちよかった。
コップ一杯のそれを飲み干すのも見届けたあと、グレンはあの首輪を懐から取り出した。「約束どおり、やるよ」そう言って、ノエルの首もとに手を伸ばす。
「苦しくないか?」
「ああ、だいじょうぶ……」
丁寧な手つきで、グレンはノエルの首にその首輪を嵌めた。
白く細い首に赤黒いそれはよく映えた。
自分の首元に首輪が通されたのを確認し、ノエルは少し意外だなと思った。グレンのことだから、これをだしにまだまだノエルに無理難題を押し付けてくると思っていたのだ。
もしかしたら、気を失い死んだように眠るノエルにやりすぎたと反省したのかもしれない。なんだ、こいつも人間らしいかわいいとこもあるじゃねえか、と口元に笑みを浮かべた。
この首輪さえ手に入れば、少なくともところかまわず襲われることはなくなる。まだ戦闘力がゼロだとか、元の体に戻るためにどうするべきかなど問題は多々あるが、さっきまでより事態が好転したことには変わりない。
「あ、レベル! もしかしたら上がってるかも!」
そこでノエルは、淫魔のレベル上げの方法について思い出した。
淫魔のレベルは他人から得た精気によって上がる。つまりはセックスだ。
不本意ではあるがグレンと事をなしたのだ、もしかしたら少しは上がっているかもしれない。
「レベル? なんで今レベルを気にすんだよ」
「あれ、言ってなかったっけ。女神にレベル100まで上げたら元の体に戻してやるって言われたんだよ。淫魔のレベルの上げ方、おまえも知ってるだろ?」
「――――そうだったのか」
ノエルの説明を聞くと、グレンは何かを考え込むように顎に手を当てた。
ノエルは少し首を傾げ、だがすぐに気を取り直してステータスを開いた。そしてそれを見た瞬間、驚きに目を見開いた。
【名前】ノエル・クルス
【種族】魔族(淫魔)
【レベル】5
「はあ!?!?!?」
予想外の数字に思わず叫んだ。
「な、なんだよ。まさかひとつも上がってなかったのか?」
「まさか、その逆だ。レベル5だって。一回で、一気に5も上がってる……」
「はあ!?」
グレンも驚いたように声を上げ一緒にノエルのステータスを覗き込んだ。
二度見三度見をしても、その数字は変わらない。
(一気に5も上がるって……こいつの精力どうなってんだよ……)
一度のセックスでこんなに上がるのはうれしい誤算ではあるが、そのすさまじさにノエルはそう思わずにはいられなかった。
(それにしても……これから先、どうするかなあ……)
一気に5も上がったとはいえ、女神の言ったレベル100には程遠い。
魔法が使えないのでは冒険者稼業も続けられないし、魔物のはびこる森のほど近くにあるこの家にも住んでいられないだろう。
首輪のおかげで王都に行っても問題はない、これを機会に転職するか――いや、そもそも魔法が使えないままでいるのは嫌だ。でも元の体に戻るにはレベルを100まで上げなくてはいけないし……。
将来を案じ考え込むノエルに、グレンが声をかける。
「おい、何考えてんだか知らねえけど、それよりまず首を貸せ。まだ終わってねえんだよ。仕上げに魔力を込めなきゃなんねえんだ」
「あ、そうなのか。頼む」
そういえばこの首輪はただの首輪ではなく魔道具だった。つけただけで効果が出るというわけではないのだろう。
そう思い、ノエルはなんの疑いもなくグレンに首を差し出した。
ぽう……っと魔力の光が灯り、首元があたたかい空気で包まれる。そして、詠唱が始まった。
「――【我、その名を縛る者。我、その身を縛る者。契約のもと、グレン・トレヴァーの名において命ず。汝、是を以て我が隷属のとなることを】」
「え、――ーーッ!」
詠唱の文言に疑問をいだくと同時に、ノエルの体がグレンの魔力によって包まれた。
キン、と首輪が光り、身体が何者かに【支配された】感覚がする。
「な、にを……?」
「――どうだ? 【隷属の首輪】に支配される気分は?」
「は――!?」
【隷属の首輪】――それは奴隷階級の人間を魔法で縛るための魔道具だ。
それによって【契約】された【従者】は【主人】の【命令】にいっさい逆らうことができなくなる。
今でこそ奴隷の数は減り今では罪人の強制労働くらいにしか使われていないと聞いたことがあるが、これがその【隷属の首輪】だと言うのか。
もしそうだというのなら、その【契約】によって支配された【従者】は自分で、【主人】はグレンということになる。
「な、だ、騙したのか!?」
「騙したなんて人聞きの悪い。これはたしかに【淫魔のフェロモンを抑える】首輪なんだぜ? ――ただし、【ご主人様以外には】、な」
曰く、これは奴隷用の首輪の中でも性奴隷のためにつくられた魔道具らしい。
淫魔を性奴隷とした際そのフェロモンを無駄に周りにふりまかないように、と開発されたものを、最近になって改良したものなのだとか。
「これを着けている限りおまえは男どもには襲われない――ただし、俺の【命令】にも逆らえないがな」
にっこり。天使のような笑顔を浮かべ、悪魔のようなことを言う。
(こいつ、まさか、最初からこれを狙って――?)
気づいたときにはもう遅い。【隷属の首輪】は自分では決してはずすことはできないのだから。
「この……変態色情魔―――――!」
「安心しろ、ノエル。俺だけでレベル100にしてやるからな」
「うるせーーーー!!!」
――森の奥深く、王都を見下ろす丘の上。結界に包まれた家の中に、悲痛な叫び声が響く。
強力な友人のおかげで、淫魔になってしまったノエルの先行きは明るい――かもしれない。
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