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第七話
しおりを挟む学院に入学してすぐに婚約者のせいで面倒事に巻き込まれたわ。本当に最悪。あいつ、今まで見逃してやってたって言うのに、こうなれば徹底的に心を折ってやるわ。
幸いなことに、私が学院で入った部活にはあいつの息がかかった人物は居らず、噂は噂だから自分の目で見て判断すると言う人が多い。そのお陰でこうして馴染めているし、剣舞なのもあって皇族なのにと言われる心配もない。
「あの子、大丈夫かしら」
一つ気がかりなのは双子の妹であるルシア。気が弱くて人に自分の意見を言うのが苦手な子だから、一人にしたくないのよね。部活動に部員ではないルシアを連れてくることはできないから仕方がないわね。オルコス卿が付いているはずだし、信じるしかないわ。
「第一皇女殿下」
「どうかしたかしら」
「それが……」
部員の一人が声をかけてきて、視線の先には出入口のそばに居るとある令嬢が居る。あら、おかしいわね。彼女はここに来ないはずなのだけれど。何かありそうだし、部活動に迷惑をかけるのも嫌だし、呼び出しに応じるしかないわね。
「お呼びかしら?」
「帝国の小月の片割れ、ルーチェ皇女殿下にご挨拶申し上げます。エルピス伯爵家のイレミア・ルミナス・エルピスです」
エルピス伯爵家。特段目立った功績があると言うわけではない。けれども建国当時から皇族に仕えていて、領地は草木が生い茂り、毎年農作物も多く取れる。伯爵家だからと侮ってはいけない。エルピス伯爵家は過去幾度か皇族が降嫁したこともある程の実力だ。
「場所を変えましょうか。着替えますから、少しお待ちくださいませ」
急いで服を着替え、エルピス伯爵令嬢を近くのガゼボに案内する。この間見つけたのよね。人目にも付かないだろうし、こうした密会には最適よ。エルピス伯爵令嬢を座らせて、私も向かいに座る。
瑠璃色の髪が揺れ、水色の透き通った綺麗な瞳が真剣にこちらを見てくる。しっかりと見る子は好きよ。芯をしっかりと持っている子もね。
「それで、どうかしたのかしら」
「…………第一皇女殿下は、あまり前置きはお好きではなさそうですね」
そうね。最初にグダグダと意味のない話をされて本題へ移るのは嫌いよ。時間の無駄だもの。お膳立てされてその調子のまま相手の思惑通りに、と言うのが嫌いなのよね。クリムはそれで落とされてるだろうし。
「そういうことですから、本題をどうぞ」
「…………第一皇女殿下、あなたは」
――転生者なのですか?――
* * * *
賭けではあった。もし予想が外れていれば、私は第一皇女殿下におかしなことを言った人間になる。お父様たちにも何かしらの罰が下される可能性があった。それでも、こうして二人きりになる機会を狙ったのは、私の知っている第一皇女殿下とは、全くの別人だから。
イレミア・ルミナス・エルピス。それが私の、今世の名前。
気が付いたらイレミアとして居て、どうやって死んだのかも分からなければ、前世なんてものは自分の空想だとも思った。けれど、この世界は確かに知っている。見たことがある。
学院に来て始めに持った違和感は、セフィド公爵子息の隣にいる第一皇女殿下にそっくりな女の子だった。その人が第二皇女殿下だと理解するのには時間がかかった。第二皇女殿下は滅多に社交界にも顔を出さなくて、身体が弱いと専ら噂。それに、ゲームでも第二皇女殿下はまだ出てこないから。
扇子を閉じて、こちらに鋭い目を向けられる。一瞬身体を硬直するけれど、怯えてるだけじゃダメ。しっかりと聞かないと、確認しないといけない。第一皇女殿下はこちらをしばらくの間見つめるとため息をつき、防音魔法を発動する。
第一皇女殿下の魔法技術は人並み程度と聞いていたけれど、これが人並み? 指先だけで魔法陣を生み出して即座に発動させる方が? これが人並みなはずがない。普通の人ならば魔法陣の生成に時間がかかるどころか魔法陣構築のために魔力を練るのにも時間を割くのに。
「これで話ができるわね。エルピス伯爵令嬢?」
「そうですね」
「それで、何が聞きたいの?」
これは、許されたってことで良いのか? 情報を交換して齟齬がないようにするのは最適。知っていることを全て話してからでないと信用してもらえないと思っていたけれど、話ができる方みたい。
「失礼を承知で、お聞きします。第二皇女殿下は、何故」
「学院に来ているのか?」
「…………はい」
前世の私は「乙女ゲーム」と言うものをやっていた。そして、恐らく死ぬ前にやっていたゲームがこの世界を題材とした乙女ゲーム【精霊の愛し子と七つの子】。伯爵令嬢であるイレミアが十五歳の時に入学する魔法学院アルティミアで七人の攻略対象と出逢い、困難を乗り越えて恋愛へと発展させていくと言うベターなもの。
そして、目の前にいる第一皇女殿下は、攻略対象の一人であるクリム・ストム・ヴェルメリオ侯爵子息のルートで妨害をしてくる悪役キャラ。性格は横暴で、自分が一番でなければ気が済まない。そんな第一皇女殿下に呆れていて、困っているヴェルメリオ侯爵子息とある時出逢い、交流を経て恋愛に発展していく。ヴェルメリオ侯爵子息ルートは、簡単に言えばこんな感じだ。
それだけを考えれば、問題はない。第一皇女殿下も転生者で、そうならないように頑張っているのだなと思えるし、干渉せずに時々見守っているだけでいい。けれど、おかしな点が幾つかある。その一つが、第二皇女殿下の存在。
彼女は本来ならば、学院に来ることはなく、セフィド公爵子息との婚約も解消されているはずなのだから。
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