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第十一話
しおりを挟む魅了系統の違法薬物が流れてきている。何千年も前から魔塔が取り締まっています。それを使うということは、魔塔に喧嘩を売っているようなもの。その人たちはよほどのバカか、自信があるのか。どちらにせよ、警戒しなければいけませんね。
「それで、一応この学院を見て回ってきたんだけど」
……いたんですね。この学院に、違法薬物に手を出している人が。そうでなければ、【時詠み】様が私にこの話をするとは思えません。
「……それで、そのだね。使っているのか、使われているのかは分からないんだが」
「はい?」
「…………君の姉、第一皇女殿の婚約者の侯爵子息。彼が服用している可能性が高い」
ヴェルメリオ様が、ですか? そんなはずは。あの方はそういう違法なことを嫌っています。違法薬物に手を出すなんてこと、あるはずがないです。【時詠み】様の勘違いとかはないのですか?
「ちゃんと確認したよ。違法薬物特有の魔力。それが彼から感知できた」
「感知できたのはヴェルメリオ様からだけですか?」
「いや、もう一人いた。彼の隣にいた女子生徒」
ペルクシム男爵令嬢から、ですか? ……もし、もしもです。彼女がヴェルメリオ様に違法薬物を混ぜたものを渡していたら? ヴェルメリオ様は知らない間に薬を摂取させられている状況が続いていることになります。
「とにかく、気をつけなよ。君たちには敵が多いからね」
【時詠み】様は乱暴に頭を撫でてきたかと思えば、クスリと笑って魔法で消えてしまいます。気分屋で自由な人なのは重々承知していますが、少しは落ち着きを持ってほしいです。というか、あの方普通に来てましたけど、大丈夫なんですかね? 受け入れてた私が言うのもあれですが、関係者でもないのに。…………考えても、あの方のことなので意味ないですね。あの手この手で無理やり隠すか、丸め込めるかのどちらかに決まっています。
ガゼボから出て、歩いていれば、走ってくる音が聞こえてきます。振り返れば抱きつかれて、思わず後ろに倒れ込んでしまう。……これは、シグニですね。この大きさで私に抱きついてくるのはシグニしかいません。たぶんですが、【時詠み】様といるところを見たんでしょう。シグニは私が【時詠み】様と一緒にいるのを嫌がりますし、一緒にいるのを見るとこうして場所などお構いなしに抱きついてきます。とって失礼なのは分かっていますが、こういうときのシグニは可愛い大型犬に見えます。ルーチェには狂犬の間違いではと言われましたが、これのどこが狂犬なんでしょうね。
「大丈夫ですよ」
「…………分かってる。けど、怖いんだ」
シグニは私が一回り以上歳が離れている方といるのを嫌います。それはきっと、あの日のことが、脳裏に焼きついて、忘れられないのでしょう。私たちの記憶に深く刻まれたあの日のこと。それがなければ、少しは私も、今と違ったのかもしれません。シグニの隣に、自信を持って、立つことができたのかもしれないです。たらればの話なんてしたくはないですが、もし、もしもです。あのとき、私がしっかりしていれば、シグニにこんなに心配させることも、ルーチェやお兄様に迷惑をかけることも、なかったのに。
「シグニ……」
声をかけますが、ダメそうですね。しばらく離れそうにありません。こういうときは大人しくシグニが満足するまで待つか、ルーチェが来て取ってくれるのを待つしかありません。私の力ではシグニを剥がせませんからね……。この後、たまたま通りかかったエルピス伯爵令嬢にルーチェを連れてきてもらいましたが、まさか二十分近く粘られるとは思いもしませんでした。
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