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第十三話
しおりを挟む……なんででしょうか。あんなこと言われるのは、分かっていたはずなのに、中庭まで逃げてきてしまいました。周りが私のことをどう見ているかなんて、分かっていたじゃないですか。当たり前です。皇族としてやるべきことを、一度も果たしていないのですから。
「……何してるんでしょうか」
こうやって逃げて、隠れて。いつも私は逃げてばかりです。嫌なことから逃げて、それでも周りが良いのだと言ってくれるからそれに甘えて。どう思われているか、考えようとしても怖くて、顔を背けて、見ないフリをして。そうしていたから、こうして現実を受け止められない。そうやって逃げてばかりだから、弱いんです。今だって、自業自得なのに、涙が溢れてくる。
「ルシア」
呼ばれて顔を上げれば、シグニがいました。なんでここに? どうして、私がいる場所が分かったんでしょうか。そんな疑問の後に、自分の顔を見せられないと思い出して顔を隠します。ダメです。今見られたら。きっと酷い顔をしてます。シグニに見られたくないんです。
「……大丈夫だよ」
そう言って、抱きしめてくれて。いつもそうです。私が嫌なことがあって、泣いてるとき見つけてくれるのは、必ずシグニです。みっともなく、いつもみたいにシグニに甘えて、泣いてしまいます。もう泣かないと決めていたのに、私の決断はこうも簡単に崩れてしまう。弱いですね。本当に。
「怖かったよね。もう大丈夫だからね」
シグニの声が、とてもすんなりと入ってきて、落ち着けます。昔から、シグニの声を聞くと安心するんです。とても懐かしい、まるで、ずっとずっと前から、そばにいてくれていたような感覚になります。きっと、シグニが私の胸の内を聞いたら逃げてしまいます。こんな気持ち悪いもの、誰も聞きたくなければ、知りたくもないでしょうから。それでも、いまはまだ、シグニは私の婚約者なんです。
もしも、ヴェルメリオ様とルーチェが婚約を破棄して、ルーチェがシグニを望むのなら、その時私は、大人しく引けるのでしょうか。二人のために。それとも、自分の欲のためだけに、二人の邪魔をするのでしょうか。それではまるで、ペルクシム男爵令嬢が言っていたように、悪女ですね。
* * * *
勉強会に誘われて、城に向かうとそこには私の予想通りと言うべきか、私の天使とルーチェ、二人の友人であるエルピス伯爵令嬢がいた。ルシアは物覚えが良いため、私は基本的にルーチェに教えて、聞かれれば二人にも教える。本当ならばルシアと二人きりが良いけれど、皇太子殿下が許さないだろう。あの方は分かりにくいが、二人のことを大切にしている。表情が変わらないこともあって、二人から誤解されているが……。
ルシアがどこか上の空で、疲れているのかもしれないとルーチェが休憩を提案したら逃げるように部屋を出て行ってしまった。どうするかと視線を送れば、早く行けと言われる。ルシアの敵は城内に多い。誰かに悪意を向けられる前に、見つけないと。
「セフィド公子も気の毒だな。皇族との関係を持ちたいがために、あんな欠陥皇女と婚約を継続しなければいけないのだから」
不意に、そんな声が聞こえてきた。欠陥皇女。それは、一部の貴族が呼ぶ、ルシアの蔑称だ。人前に出ない皇女。何か病を患っているワケでもないのに、城に引きこもり、我が儘を言い、好き勝手にしている皇女。誰が言い始めたのか、そんな噂が広がっていた。
事実無根だ。ルシアは確かに、見て分かる病気を患っていない。けれど、確かにあるのだ。ルシアの心に巣食う闇が。昔、私が、私たちが、防げなかったせいでルシアは心に傷を負った。そのせいで、ルシアは人を信じることができなくなった。ルシアとの婚約を継続したのは、皇族と関わりを持ちたいからではない。皇族の弱みを握ろうとしているワケでもない。ただ、ルシアの力になりたい。あの子の笑顔を、もう一度見たいのだ。無理に作っているあの笑顔じゃない。昔見せてくれた、太陽のように眩しい、ルシアの笑顔。
あいつらを今すぐ殺してやりたい。けれど、その前にルシアだ。お菓子を取りに行くと言っていたから、ここを通ったはず。会話も耳にしたはずだ。きっと傷ついている。
急いで中庭に出た。ルシアは隠れる時、中庭に来る。ここは植物が好きな皇后陛下のためにたくさんの花が咲き誇っていて、ルシアは昔からここに隠れる。ルシアも植物が好きなため、きっと落ち着くのだろう。
「ルシア」
ようやく見つけて声をかけると、涙で顔がぐちゃぐちゃになったルシアがいた。やはり、あいつらの会話を聞いたようだ。大丈夫だと言って抱き締めてあげると、涙がまた溢れてしまったようだ。しばらく抱きしめて、「大丈夫」「心配しないで」と繰り返してあげると、安心したようで、眠りについてしまった。
「可愛い私のルシア」
大丈夫だよ。私の天使。もう誰にも、君を傷つけさせないから。例え相手が神だろうと悪魔だろうと、私は君のためなら戦う。そして、勝利という栄光を、君に捧げる。
「愛してるよ。俺の愛しい人」
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