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第二十八話
しおりを挟む魔塔に来てから早三日。明日には帰国するのに写しは終わらなかった。第二皇女殿下は数日で終わる量ではないから大丈夫だと言っていたけど、申し訳ない。
夜に目が覚めてしまって、どこからか歌が聞こえてきた。なんとなく、行くべきだと思った。それがどうしてかは分からないけれど。借りている部屋から出て歌が聞こえてくる方へ向かうと、第二皇女殿下の研究室から聞こえてくる。ゆっくりと、音を立てないように扉を開ける。少しだけ音が出たけれど、大丈夫かな。歌が途切れた様子はない。
扉を開けた先には、窓が開かれ星空を見上げながら何かを歌う第二皇女殿下がいた。周りには色とりどりの小さな光が浮いている。ただの光じゃない。一つ一つが、莫大な魔力を有している。…………この光、精霊だ。
精霊。大昔には人間と共に暮らしていた上位種族。数千年前は、【精霊の愛し子】相手ではなくとも、力を貸してくれていた存在。今となっては、【精霊の愛し子】にしか見えないらしい。少なくとも、そう教えられてきた。
「……眠れませんか?」
「あ、いえ……。その」
バレてたか。第二皇女殿下に近づいていくと、精霊が寄ってきた。多いのは水色系統の光。たぶん、私の魔法属性である【水】の精霊なのだろう。ゲームでも【水】の精霊がそばにいて、【精霊の愛し子】だと認められていた。他には確か、【光】の精霊が寄ってきていたっけ。
「……第二皇女殿下も、【精霊の愛し子】だったんですね」
「すみません。隠していたワケではないんです。言う機会がなくて」
少し困ったように笑う第二皇女殿下に、いつものオドオドとしているときとは違った印象を受けた。前に第一皇女殿下から聞いた。第二皇女殿下は人と関わることが苦手なだけで、人が嫌いなのではないと。それはこの数ヵ月でよく分かった。分かったつもりでいた。
精霊たちと楽しげにしている今を見ていると、こっちが本当の第二皇女殿下なんだろうと思う。隠しているワケではないのだろう。ただ、昔あったという事件のせいで、人を信用できないだけ。だから、精霊たちの方が必然的に信用できて、親しげにしている。それがどうしてか、空しいと感じた。
「第二皇女殿下は、寝ないんですか?」
「……暗闇が怖いんです。眠れるのですが、突然目が覚めてしまうことが多くて。子どもっぽいですよね。皇族なのに、魔術師なのに、暗闇が怖いだなんて」
そんなことはない。誰だって怖いと思うものはある。そう言いたいのに、言葉が音になる寸前で止まる。私が言っても、説得力なんてない。立場が違いすぎる。
ただ運良く第一皇女殿下と同じ転生者で、仲良くしているだけの伯爵令嬢の私。対して第二皇女殿下は、生まれながらに皇族としての責任を背負っていて、魔術師としての責任も負っている。そんな人に、私が何を言っても意味なんてないんじゃないの……?
「……精霊たちは、第二皇女殿下が大好きなんですね」
「え?」
第二皇女殿下を安心させるためにこうしてそばにいる。私にはそんな風に見える。まるで、子どもが安心して眠れるようにずっとそばにいてくれる母親みたいに。それは、精霊たちが第二皇女殿下のことを、心の底から大好きだからなんじゃないかな。
「……はじめて言われました。そんなこと」
くすりと笑う第二皇女殿下は、いつものような作られた笑顔ではなく、本当の笑顔に見える。少しでも第二皇女殿下の気持ちが軽くなったのなら、いいかな。
「もう遅いですし、寝ましょうか」
「大丈夫なんですか?」
「はい。今日はよく眠れそうです」
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