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「それで・・・浮気の証拠は見つかったの?」
馬鹿ね、声が震えてしまったわ?
侍女の顔が歪んでしまった。
毅然と対応するのよ。現実に戻ってしっかりしなければ。
恐らく黒だと感じる、それを聞いてしまったら、私の中で離縁はしないという選択肢などなく、離縁は決定事項になる。
ソファに座り、ドレスを乱れてもないのに整えるフリをした。
「申し上げます。旦那様は浮気をされておりました。確定です。証拠品は魔道具で撮影された“写真”というものになります。婚姻から3ヶ月後に初めての浮気をされたようです。お相手は旦那様の過去の婚約者候補の令嬢です。
令嬢は旦那様と婚約間近に突然の解消になり、別の殿方に嫁がれたようです。旦那様はその後にお嬢様に出会い、婚姻を結ばれました。」
婚約者候補で、正式な婚約間近になっての解消の令嬢・・・
アンドレ様は、心を残しておられたんだろう。
侍女は続ける。
「接触してきたのは、その令嬢からだそうです。その時既に以前嫁いだ相手とは離縁されていたようです。始めは度々見かける令嬢に、旦那様もそっけない対応をされていた様ですが、偶然にしては回数が多い。目撃者も多数いることから、わざわざ見られやすい場所を狙って何度も偶然を装っていたのでしょう。ウソの偶然も続けば、示し合わせて会ってる様に周りは判断して、そこから面白おかしく噂になりました。
過去、婚約者候補の令嬢で正式に婚約もほぼ決定していた様ですから、記憶にある方もいるのでしょう。
そのうち情でも湧いたのでしょうか、旦那様自らも令嬢との逢瀬の場所を用意して、頻繁に逢うようになりました。令嬢の語るウソ不遇話でも聞かされたのかもしれませんね。旦那様は人が良いようですから。」
強かな令嬢の作戦に乗せられて、ほいほいと逢う様になったのね。
「そのご令嬢が離縁された理由は?何なのかしら」
侍女は口をへの字にして、うんざりとした表情を浮かべた。
「令嬢の浮気が離縁理由です。元々、旦那様との婚約者候補時代から浮気癖があり、その後、何があったのかは不明ですが、結局婚姻したのは浮気相手だった貴族とですし。懲りないんでしょう。人の物を取る事に喜びを感じる人間は一定数居ます。」
――――私はいつからこんなにも弱くなったのか。
侍女の話に耳を傾けながら、ここ数ヶ月の独り寝を思い出す。
うわの空のあの時既に逢瀬を重ねていたのかもしれない。
優しくされて尊重された日々、結婚当初のあの幸せな日々が臆病にさせるのかもしれない。
今から聞く話によって真実が詳らかになり、婚姻の条件の破棄になる。
「浮気はしないという結婚の条件は破棄されましたわ。離縁して下さいませ」
この言葉を投げつけて去ってしまおう。
私の顔は母譲りで美しいかもしれないが、アンドレ様に抱いて貰えないなら美しさに何の価値があるのか。
アンドレ様が私の条件に喜び、証明書まで作ってくれるまで厭っていた結婚後の浮気行為。
かつて婚約者になる筈だった令嬢が、他の男に嫁いだ事で、嫌っていたのだろう。
昔から貴族間での政略結婚後の悪習として、次代の後継者を妊娠し出産したら、お互い愛人を作って自由恋愛をするというのが許される。
勿論、余計な後継争いを作らぬ様避妊は徹底された上で。
妻以外の女が孕んでも、この国では認知はされても跡目としては認められない。
認められる例外としては、妻との子供が亡くなってしまい、その後生まれず跡継ぎを必要になった時のみ。
妻が愛人の子を妊娠した場合は、離縁か養子に出すかになる。
離縁の場合は、今いる子供は連れていけない。旦那の家に取られてしまう。
女だけに厳しい世界はどこも一緒。厳しい現実に怯えても、旦那だけ他に愛人作って自分は寂しく屋敷に1人は耐えられないのだろう。避妊薬は飛ぶように売れる。売れる商品は改良が進むのだろう。
この世界の避妊薬は高性能で副作用もなく、前世の日本よりも素晴らしい性能になっている。
私は日本の価値観で受け付けないけど、あの最初の時、浮気を厭うアンドレ様は何て高潔な方なんだろうと思っていた。だけど、ホントはアンドレ様は自分の経験でのトラウマから嫌っていたんだと思う。
その自分が嫌っていたトラウマの元が傍に戻ることによって、浮気肯定派にでもなったのだろうか。
余程その令嬢が大事なのだろう。
結局は、浮気男だというのに、三ヶ月の婚約期間や結婚してすぐの頃のアンドレ様の優しさを思い出す度に、鉛を飲む様な暗澹たる気持ちになる。
あの時の思いやりに満ちたアンドレ様は、私との未来を築こうとされていたアンドレ様は、もう居ないのだろう。
そして、このままアンドレ様と離縁すれば「妻と別れたよ、結婚しよう」と、サッサと浮気女と再婚するのかもしれないと思うと――――胸が痛い。
私は二人からすれば、きっと邪魔者なの。
アンドレ様は帰りも深夜になる程遅く、朝もとても早い。
私の睡眠を邪魔するからと、耳障りの良い言い訳を述べて、私と同じベッドで眠る事すらしてくれなくなった。
忙しくなり始めた頃は、毎朝一緒に摂っていた朝食も、王城へ行くアンドレ様の私の見送りも・・・今は何もない。
しっかり掴んでいた未来が指の隙間からポロポロ溢れ落ちていくようだ。
私がアンドレ様の妻として望まれる事は、もうほぼ無いようなものかもしれない。
お義母様(公爵夫人)が亡くなって居るので、このお屋敷の管理くらいかしらね。
アンドレ様ではなく、お義父様に頼まれてる仕事だけど。
どちらにしろ、邪魔者になった私が居なくなっても、そう困らないだろう。
アンドレ様と再婚するであろう浮気女も、元はアンドレ様の婚約者候補だった女だ。
貴族としては最高位の公爵家に嫁ぐのだ、淑女教育も完璧な令嬢に違いない。
下半身はだらしないみたいだけど。
股の緩い女の行動の結果が解消になり、その緩い女を嫌悪した結果で私との証明書も喜んでサインしたアンドレ様、そんな女だと分かっていて、もう一度引っかかるなんて。
「あれは本意じゃなかった。無理やりなの」とでも言われて絆されたのかしら。
それとも欠点は分かっているけど、自分の愛で更生させると思ってるとか・・・
不毛な考えをアレコレ考えても、結論は「離縁」一択なのに、おかしなものね。
婚姻前はあれほど「浮気されたら即離縁よ、私ならそんな旦那に触られるのも嫌だわ」と思っていた。
浮気する男はいつまで経っても浮気するのだ。
そんな男に今回だけは許すなんて言って許すなんて時間の無駄にしかならないと。
さっさと見切りをつけて、次へ行くのだと。
それなのに、ああ・・・嫌だわ。未練たらたらだ。
離縁する理由をいくつもあげて自分で自分を納得させようとしている。
今夜、証拠を突きつけてアンドレ様と話をつけたら、明日は家を出よう。
「王城の“転生者”管理室の室長に手紙を出すわ。お願い出来る?」
侍女はハッとして私を見た。
「皆、侯爵家の頃から分かっていたでしょう?私が転生者だって。」
私のためだけに黙っていてくれた、使用人の皆。
「は、はい・・・・お嬢様が知られたくない事は口が裂けて様とも、命を奪われる事になろうとも、漏らすなと。使用人一同、同じ思いです。」
きっと、侍女長の私の乳母だろう。
「そう・・有難う。もし王家に囲われる事になっても、着いて来てくれる?」
乳母や使用人の皆を思い出して、きゅうっと胸がせつなくなる。
イルヴァの言葉に侍女の目が見開かれた。
「はい!勿体なきお言葉・・いつまでもお側に」
侍女の肩が震え、深くお辞儀をする。
「私こそ。王家が転生者の私をどう扱うかは分からないけれど、貴方が居るのは心強いわ。有難う。」
侍女から上質な紙と万年筆(転生者のアイディア)を受け取り、書き始めた。
馬鹿ね、声が震えてしまったわ?
侍女の顔が歪んでしまった。
毅然と対応するのよ。現実に戻ってしっかりしなければ。
恐らく黒だと感じる、それを聞いてしまったら、私の中で離縁はしないという選択肢などなく、離縁は決定事項になる。
ソファに座り、ドレスを乱れてもないのに整えるフリをした。
「申し上げます。旦那様は浮気をされておりました。確定です。証拠品は魔道具で撮影された“写真”というものになります。婚姻から3ヶ月後に初めての浮気をされたようです。お相手は旦那様の過去の婚約者候補の令嬢です。
令嬢は旦那様と婚約間近に突然の解消になり、別の殿方に嫁がれたようです。旦那様はその後にお嬢様に出会い、婚姻を結ばれました。」
婚約者候補で、正式な婚約間近になっての解消の令嬢・・・
アンドレ様は、心を残しておられたんだろう。
侍女は続ける。
「接触してきたのは、その令嬢からだそうです。その時既に以前嫁いだ相手とは離縁されていたようです。始めは度々見かける令嬢に、旦那様もそっけない対応をされていた様ですが、偶然にしては回数が多い。目撃者も多数いることから、わざわざ見られやすい場所を狙って何度も偶然を装っていたのでしょう。ウソの偶然も続けば、示し合わせて会ってる様に周りは判断して、そこから面白おかしく噂になりました。
過去、婚約者候補の令嬢で正式に婚約もほぼ決定していた様ですから、記憶にある方もいるのでしょう。
そのうち情でも湧いたのでしょうか、旦那様自らも令嬢との逢瀬の場所を用意して、頻繁に逢うようになりました。令嬢の語るウソ不遇話でも聞かされたのかもしれませんね。旦那様は人が良いようですから。」
強かな令嬢の作戦に乗せられて、ほいほいと逢う様になったのね。
「そのご令嬢が離縁された理由は?何なのかしら」
侍女は口をへの字にして、うんざりとした表情を浮かべた。
「令嬢の浮気が離縁理由です。元々、旦那様との婚約者候補時代から浮気癖があり、その後、何があったのかは不明ですが、結局婚姻したのは浮気相手だった貴族とですし。懲りないんでしょう。人の物を取る事に喜びを感じる人間は一定数居ます。」
――――私はいつからこんなにも弱くなったのか。
侍女の話に耳を傾けながら、ここ数ヶ月の独り寝を思い出す。
うわの空のあの時既に逢瀬を重ねていたのかもしれない。
優しくされて尊重された日々、結婚当初のあの幸せな日々が臆病にさせるのかもしれない。
今から聞く話によって真実が詳らかになり、婚姻の条件の破棄になる。
「浮気はしないという結婚の条件は破棄されましたわ。離縁して下さいませ」
この言葉を投げつけて去ってしまおう。
私の顔は母譲りで美しいかもしれないが、アンドレ様に抱いて貰えないなら美しさに何の価値があるのか。
アンドレ様が私の条件に喜び、証明書まで作ってくれるまで厭っていた結婚後の浮気行為。
かつて婚約者になる筈だった令嬢が、他の男に嫁いだ事で、嫌っていたのだろう。
昔から貴族間での政略結婚後の悪習として、次代の後継者を妊娠し出産したら、お互い愛人を作って自由恋愛をするというのが許される。
勿論、余計な後継争いを作らぬ様避妊は徹底された上で。
妻以外の女が孕んでも、この国では認知はされても跡目としては認められない。
認められる例外としては、妻との子供が亡くなってしまい、その後生まれず跡継ぎを必要になった時のみ。
妻が愛人の子を妊娠した場合は、離縁か養子に出すかになる。
離縁の場合は、今いる子供は連れていけない。旦那の家に取られてしまう。
女だけに厳しい世界はどこも一緒。厳しい現実に怯えても、旦那だけ他に愛人作って自分は寂しく屋敷に1人は耐えられないのだろう。避妊薬は飛ぶように売れる。売れる商品は改良が進むのだろう。
この世界の避妊薬は高性能で副作用もなく、前世の日本よりも素晴らしい性能になっている。
私は日本の価値観で受け付けないけど、あの最初の時、浮気を厭うアンドレ様は何て高潔な方なんだろうと思っていた。だけど、ホントはアンドレ様は自分の経験でのトラウマから嫌っていたんだと思う。
その自分が嫌っていたトラウマの元が傍に戻ることによって、浮気肯定派にでもなったのだろうか。
余程その令嬢が大事なのだろう。
結局は、浮気男だというのに、三ヶ月の婚約期間や結婚してすぐの頃のアンドレ様の優しさを思い出す度に、鉛を飲む様な暗澹たる気持ちになる。
あの時の思いやりに満ちたアンドレ様は、私との未来を築こうとされていたアンドレ様は、もう居ないのだろう。
そして、このままアンドレ様と離縁すれば「妻と別れたよ、結婚しよう」と、サッサと浮気女と再婚するのかもしれないと思うと――――胸が痛い。
私は二人からすれば、きっと邪魔者なの。
アンドレ様は帰りも深夜になる程遅く、朝もとても早い。
私の睡眠を邪魔するからと、耳障りの良い言い訳を述べて、私と同じベッドで眠る事すらしてくれなくなった。
忙しくなり始めた頃は、毎朝一緒に摂っていた朝食も、王城へ行くアンドレ様の私の見送りも・・・今は何もない。
しっかり掴んでいた未来が指の隙間からポロポロ溢れ落ちていくようだ。
私がアンドレ様の妻として望まれる事は、もうほぼ無いようなものかもしれない。
お義母様(公爵夫人)が亡くなって居るので、このお屋敷の管理くらいかしらね。
アンドレ様ではなく、お義父様に頼まれてる仕事だけど。
どちらにしろ、邪魔者になった私が居なくなっても、そう困らないだろう。
アンドレ様と再婚するであろう浮気女も、元はアンドレ様の婚約者候補だった女だ。
貴族としては最高位の公爵家に嫁ぐのだ、淑女教育も完璧な令嬢に違いない。
下半身はだらしないみたいだけど。
股の緩い女の行動の結果が解消になり、その緩い女を嫌悪した結果で私との証明書も喜んでサインしたアンドレ様、そんな女だと分かっていて、もう一度引っかかるなんて。
「あれは本意じゃなかった。無理やりなの」とでも言われて絆されたのかしら。
それとも欠点は分かっているけど、自分の愛で更生させると思ってるとか・・・
不毛な考えをアレコレ考えても、結論は「離縁」一択なのに、おかしなものね。
婚姻前はあれほど「浮気されたら即離縁よ、私ならそんな旦那に触られるのも嫌だわ」と思っていた。
浮気する男はいつまで経っても浮気するのだ。
そんな男に今回だけは許すなんて言って許すなんて時間の無駄にしかならないと。
さっさと見切りをつけて、次へ行くのだと。
それなのに、ああ・・・嫌だわ。未練たらたらだ。
離縁する理由をいくつもあげて自分で自分を納得させようとしている。
今夜、証拠を突きつけてアンドレ様と話をつけたら、明日は家を出よう。
「王城の“転生者”管理室の室長に手紙を出すわ。お願い出来る?」
侍女はハッとして私を見た。
「皆、侯爵家の頃から分かっていたでしょう?私が転生者だって。」
私のためだけに黙っていてくれた、使用人の皆。
「は、はい・・・・お嬢様が知られたくない事は口が裂けて様とも、命を奪われる事になろうとも、漏らすなと。使用人一同、同じ思いです。」
きっと、侍女長の私の乳母だろう。
「そう・・有難う。もし王家に囲われる事になっても、着いて来てくれる?」
乳母や使用人の皆を思い出して、きゅうっと胸がせつなくなる。
イルヴァの言葉に侍女の目が見開かれた。
「はい!勿体なきお言葉・・いつまでもお側に」
侍女の肩が震え、深くお辞儀をする。
「私こそ。王家が転生者の私をどう扱うかは分からないけれど、貴方が居るのは心強いわ。有難う。」
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