5 / 38
05
返信に何日か掛かるだろうと思っていた王城へ送った手紙は、午後には返事が届けられた。
予想より早い。
執事が首を傾げながら「奥様宛てです。この封蝋はあまり見かけぬ物ですね。」と室長からの手紙を持ってきた。
あまり見かけないのは、転生者関連にしか使用されないからだろうが、独特の紋様である。
この国の崇拝する男神が中央に描かれ星と月が背景に重なる様にある。
普通の貴族が使用する封蝋には、家紋と貴族名の頭文字を重ねてある物が主流だったと思う。
執事が立ち去るのを待ち、封蝋をじっくり眺めた後に開封する。
やはり室長からであった。
イルヴァ・ヘルグレーン様から始まる文章は、分かりやすく簡潔にしたためてあり、読みやすい。
室長はサッパリした性分なのかもしれない。
内容は、手紙にびっくりした事と、それが事実ならば明日にでも王城に来て頂きたいこと、質疑応答の他に魔道具での転生者である確認をするが、問題はないだろうか?出来れば今日中に返事を頂きたい。との事である。
旦那様と夜に離縁の話をして、明日にでも公爵家を出るつもりだったので、どちらにせよ都合がいい。
転生者だと決定するのは間違いないし、前例から見ても王家は即囲うであろう。
後日まとまった荷物を取りに来て、いよいよ王城へ・・を想定していたが、帰らせて貰えない予感がした。
午前中に使ったばかりなので、まだ机に万年筆と上質な紙が置いてある。
『素早い返事助かります。感謝致します。明日、午後にお伺いします。魔道具の確認も質疑応答も全然問題ありません。充分にお調べ下さいませ。』と、したためて、申し訳なく思いながらも、また侍女にお願いした。
この家の者に頼むと、お義父様とアンドレ様に筒抜けな気がする。
先程の王城の手紙も首を傾げていたし、すぐ返事を私が書いたとなれば、尋ねて来るかもしれない。
何も悪い事する訳じゃないけど・・・明日無事に王城に着くまでは、誰にも何も尋ねられたくない気持ちなのだ。
――――夜の10時、夫婦の寝室。
夕食を部屋で頂いた後、湯に入り身を清めた。
侍女二人が明日の王城入りに張り切って、湯から上がると、頭のてっぺんから足のつま先まで磨き上げてくれる。
侍女達の手入れのおかげか、ここ最近の悩みと今日の浮気報告で顔色の悪かった顔が随分明るくなっている。
いつも寝る前のひと時飲んでいる侍女が調合した特性のハーブティーを飲みながら、深夜に旦那様との会話の流れを頭の中で整理していた。
感情的にならず、事実のみを述べて、離縁をお願いする。
私が慰謝料請求もしなければ、簡単に同意するだろう。
昔望んだ愛する女を、妻として手に入れる事が出来るのだから。
「まだ、お帰りになられていない様です。帰宅されるまで少しばかりお休みになられますか?帰宅されてから起こしますので。」
今日の話の内容に打ちのめされた私を見た侍女は、少しでも休ませたい様だ。
心配性なんだから・・・
こうやって心配して貰って、甲斐甲斐しく世話をやいてくれる存在は疲れた心に優しい。
だけど・・・寝てしまったら、この胸に灯る闘志の様なメラメラした物が落ち着いてしまう気がした。
「大丈夫よ。起きて待つわ。有難う」
「はい・・・私も起きていますので、何かあればすぐお呼び下さいませ」
「分かったわ」
侍女を下がらせ、自分以外の気配がない部屋。
夫婦の寝室の他に、私だけが使う寝室もある。旦那様だけの寝室も。
一緒に眠らない夫婦も居るので、元から用意されていたものだ。
独り寝になってからも、私はそちらへ移ることなく夫婦の寝室を使っていた。
早く帰って来れた時、もしかしたらアンドレ様が来てくれるんじゃないか・・・って。
淡い期待の様なモノだ。
ここを使うのも最後になるだろう。
始めの頃、共に朝を迎えたあの日、朝に弱い旦那様の寝顔をいつまでも眺めていた。
そっとアンドレ様の頬に指を滑らせると、震える様に睫毛が揺れ、旦那様の透き通ったシルバーグレーの瞳に笑う私が映っていた。
囁く様に「おはよう」というアンドレ様の笑顔が眩しくて、慎重に「おはようございます、起こしてしまいましたね」と言葉にした声が恥ずかしいくらい掠れていて。
熱さが増す頬を隠す様に両手で抑えたっけ。
旦那様が喉の奥を鳴らす様に笑う声をいつまでも聞いていたいと思っていた。
そんな甘い朝があの頃はいくつもあった、この部屋。
――――私、アンドレ様の事、既に好きになり始めていたのね。
今夜、アンドレ様に離縁を申し出る。
明日は、この公爵家を出て、アンドレ様との関係も切れる事だろう。
あの甘い日々を思い出しても、心は凪いだままだった。
何の痛みもせつなさも感じなくなっていた。
それでいい。それがいい。
あの頃の私に、私も今夜さよならしよう。
予想より早い。
執事が首を傾げながら「奥様宛てです。この封蝋はあまり見かけぬ物ですね。」と室長からの手紙を持ってきた。
あまり見かけないのは、転生者関連にしか使用されないからだろうが、独特の紋様である。
この国の崇拝する男神が中央に描かれ星と月が背景に重なる様にある。
普通の貴族が使用する封蝋には、家紋と貴族名の頭文字を重ねてある物が主流だったと思う。
執事が立ち去るのを待ち、封蝋をじっくり眺めた後に開封する。
やはり室長からであった。
イルヴァ・ヘルグレーン様から始まる文章は、分かりやすく簡潔にしたためてあり、読みやすい。
室長はサッパリした性分なのかもしれない。
内容は、手紙にびっくりした事と、それが事実ならば明日にでも王城に来て頂きたいこと、質疑応答の他に魔道具での転生者である確認をするが、問題はないだろうか?出来れば今日中に返事を頂きたい。との事である。
旦那様と夜に離縁の話をして、明日にでも公爵家を出るつもりだったので、どちらにせよ都合がいい。
転生者だと決定するのは間違いないし、前例から見ても王家は即囲うであろう。
後日まとまった荷物を取りに来て、いよいよ王城へ・・を想定していたが、帰らせて貰えない予感がした。
午前中に使ったばかりなので、まだ机に万年筆と上質な紙が置いてある。
『素早い返事助かります。感謝致します。明日、午後にお伺いします。魔道具の確認も質疑応答も全然問題ありません。充分にお調べ下さいませ。』と、したためて、申し訳なく思いながらも、また侍女にお願いした。
この家の者に頼むと、お義父様とアンドレ様に筒抜けな気がする。
先程の王城の手紙も首を傾げていたし、すぐ返事を私が書いたとなれば、尋ねて来るかもしれない。
何も悪い事する訳じゃないけど・・・明日無事に王城に着くまでは、誰にも何も尋ねられたくない気持ちなのだ。
――――夜の10時、夫婦の寝室。
夕食を部屋で頂いた後、湯に入り身を清めた。
侍女二人が明日の王城入りに張り切って、湯から上がると、頭のてっぺんから足のつま先まで磨き上げてくれる。
侍女達の手入れのおかげか、ここ最近の悩みと今日の浮気報告で顔色の悪かった顔が随分明るくなっている。
いつも寝る前のひと時飲んでいる侍女が調合した特性のハーブティーを飲みながら、深夜に旦那様との会話の流れを頭の中で整理していた。
感情的にならず、事実のみを述べて、離縁をお願いする。
私が慰謝料請求もしなければ、簡単に同意するだろう。
昔望んだ愛する女を、妻として手に入れる事が出来るのだから。
「まだ、お帰りになられていない様です。帰宅されるまで少しばかりお休みになられますか?帰宅されてから起こしますので。」
今日の話の内容に打ちのめされた私を見た侍女は、少しでも休ませたい様だ。
心配性なんだから・・・
こうやって心配して貰って、甲斐甲斐しく世話をやいてくれる存在は疲れた心に優しい。
だけど・・・寝てしまったら、この胸に灯る闘志の様なメラメラした物が落ち着いてしまう気がした。
「大丈夫よ。起きて待つわ。有難う」
「はい・・・私も起きていますので、何かあればすぐお呼び下さいませ」
「分かったわ」
侍女を下がらせ、自分以外の気配がない部屋。
夫婦の寝室の他に、私だけが使う寝室もある。旦那様だけの寝室も。
一緒に眠らない夫婦も居るので、元から用意されていたものだ。
独り寝になってからも、私はそちらへ移ることなく夫婦の寝室を使っていた。
早く帰って来れた時、もしかしたらアンドレ様が来てくれるんじゃないか・・・って。
淡い期待の様なモノだ。
ここを使うのも最後になるだろう。
始めの頃、共に朝を迎えたあの日、朝に弱い旦那様の寝顔をいつまでも眺めていた。
そっとアンドレ様の頬に指を滑らせると、震える様に睫毛が揺れ、旦那様の透き通ったシルバーグレーの瞳に笑う私が映っていた。
囁く様に「おはよう」というアンドレ様の笑顔が眩しくて、慎重に「おはようございます、起こしてしまいましたね」と言葉にした声が恥ずかしいくらい掠れていて。
熱さが増す頬を隠す様に両手で抑えたっけ。
旦那様が喉の奥を鳴らす様に笑う声をいつまでも聞いていたいと思っていた。
そんな甘い朝があの頃はいくつもあった、この部屋。
――――私、アンドレ様の事、既に好きになり始めていたのね。
今夜、アンドレ様に離縁を申し出る。
明日は、この公爵家を出て、アンドレ様との関係も切れる事だろう。
あの甘い日々を思い出しても、心は凪いだままだった。
何の痛みもせつなさも感じなくなっていた。
それでいい。それがいい。
あの頃の私に、私も今夜さよならしよう。
あなたにおすすめの小説
蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
【今さら遅い】毒で声を失い公爵に捨てられた私。妹では精霊が応えず国は滅びへ。ですが隣国皇帝に溺愛される私に、今さら縋ってきても遅いです
唯崎りいち
恋愛
国一番の歌姫だった私は、妹に毒を盛られ声を失い、婚約者に捨てられた。
すべてを奪われた私を救ったのは、隣国の皇帝。
「お前の歌がなければ国は滅びる」と言われた私の歌は、精霊に届く“本物”の力を持っていて――
一方、私を追放した国は偽物の歌では加護を失い衰退。
今さら元婚約者が縋ってきても、もう遅い。
【完結】チャンス到来! 返品不可だから義妹予定の方は最後までお世話宜しく
との
恋愛
予約半年待ちなど当たり前の人気が続いている高級レストランのラ・ぺルーズにどうしても行きたいと駄々を捏ねたのは、伯爵家令嬢アーシェ・ローゼンタールの十年来の婚約者で伯爵家二男デイビッド・キャンストル。
誕生日プレゼントだけ屋敷に届けろってど〜ゆ〜ことかなあ⋯⋯と思いつつレストランの予約を父親に譲ってその日はのんびりしていると、見たことのない美少女を連れてデイビッドが乗り込んできた。
「人が苦労して予約した店に義妹予定の子と行ったってどういうこと? しかも、おじさんが再婚するとか知らないし」
それがはじまりで⋯⋯豪放磊落と言えば聞こえはいいけれど、やんちゃ小僧がそのまま大人になったような祖父達のせいであちこちにできていた歪みからとんでもない事態に発展していく。
「マジかぁ! これもワシのせいじゃとは思わなんだ」
「⋯⋯わしが噂を補強しとった?」
「はい、間違いないですね」
最強の両親に守られて何の不安もなく婚約破棄してきます。
追伸⋯⋯最弱王が誰かは諸説あるかもですね。
ーーーーーー
ゆるふわの中世ヨーロッパ、幻の国の設定です。
約7万字で完結確約、筆者的には短編の括りかなあと。
R15は念の為・・
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】愛されないと知った時、私は
yanako
恋愛
私は聞いてしまった。
彼の本心を。
私は小さな、けれど豊かな領地を持つ、男爵家の娘。
父が私の結婚相手を見つけてきた。
隣の領地の次男の彼。
幼馴染というほど親しくは無いけれど、素敵な人だと思っていた。
そう、思っていたのだ。
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!