【書籍化予定】どこからが浮気になるんだ?と、旦那様はおっしゃいました。

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カルロッテ・ベンヤミンはこうして作られた。2(番外編)

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「ここへ座ろう」と白いアイアン製のベンチにハンカチを敷いてくれたので、そこへ座る。
美しい見目で紳士的な事をされると王子様みたいで胸が増々高鳴った。


カルロッテの隣に腰をおろしたアントンが、カルロッテの片手を取り手の甲を撫でた。

「もうすぐ正式に婚約を結ぶ君に黙っているのは卑怯だと思うから、正直に言うよ。」
と、アントンが言ってきた。

「えっ……? アントン様、何を………」
戸惑うカルロッテだったが、取り敢えずアントンの話を聞こうと静かにすることにした。

「僕には二人の恋人がいる。」

「こ、恋人……?」

「ああ、1人は13才の時からお付き合いさせて貰ってるから、もう5年の付き合いになる。
平民の子なんだ……。」

「平民ですか……」

頭の中が真っ白で、アントンの言葉に全てオウム返しになるカルロッテ。

そして、ふとカルロッテは思う。
男爵家なので平民とも頑張ればどうにかなったかもしれないが、婚約していない事を考えれば親か親族に反対されたのだろう。
愛があればで婚姻が出来るのは、貴族でも次男三男だけだろう。
嫡男では厳しいのが普通だった。どうしてもしたければ弟に爵位を譲るしかないのだ。
そこまでしても欲しい相手でなければ、平民は愛人にするのが普通だ。
だから、平民の愛人が居る事は貴族の間では珍しくも何ともない。

アントンはまだ告白を続けるようで、話しだした。

「もう一人は、同じ男爵家の子なんだけどね。その子とは1年前に知りあって、それから恋人になった。」

「あの…その方であれば婚約が出来たのではないのですか?」

「うん。それがね?彼女は幼い頃から家同士で決められた婚約者が居るそうなんだよ。
だから、婚約は出来ない。
それに、彼女と僕は婚約する相手としては合わないと思うんだ。だからこのままの気楽な関係を続けていくつもりだ。」


「という事は、私と婚約後もその二人との関係をお続けになるという事でしょうか?」

「勿論そのつもり。カルロッテ嬢いいよね?」

「……ええ。貴族では普通の事ですし否やはありませんが。私も嫡子を産んだ後はそのような相手を見つけるつもりでしたから…」

今の今までそんなつもりは毛頭なかったのに、どうしてなのか胸が痛みそんな言葉を口にしていた。

「……それは認められないな。カルロッテ嬢。確かに嫡子を産んだ後は自由にしていい風潮ではあるけれど、
僕は自分の物を他人と共有する趣味はないんだよ。
彼女達二人は共有されていても何とも思わないけれど、カルロッテ嬢は僕の妻になる人でしょう?
だから、僕のものだ。
僕のものを他人が触る事に耐えられない。絶対に許すつもりはないよ、カルロッテ嬢」


カルロッテは唖然とする。
自分はいいが妻は駄目とは……互いが愛人を作るのは公然の秘密ではあっても、許されているではないか。
アントンは何人もの女と共有するし、その女も他の男と共有されてもいいとアントンは言っている癖に、
カルロッテだけは許されないのだ。
カルロッテだけが我慢させられる。


アントンは麗しい微笑みを浮かべ、カルロッテの頭を撫でてきた。

「分かってくれるね?」

と耳元で甘く囁いてくる。


カルロッテは、アントンが分からなくなった。

『お父様に相談した方がいいのかしら……もうリッテ子爵家にはお断りを入れてしまったわ。
まだ婚約は結んでいないわ。結ぶ前に相談してみよう。
お姉さまにも聞かなければいけないわ。
今はもう侯爵家へと嫁いでしまったお姉さまなら、良いアドバイスが貰えるかもしれない。』


金色の柔らかそうな巻毛が風に揺れている。
色気を放つ甘い瞳の奥に退廃的な物を感じて、カルロッテは背筋がゾクリとした。
カルロッテの髪を一房取るとその髪に口付けをして甘い笑みを向けるアントン。
『この方は甘い毒だわ……啜り続ければ私は壊されてしまう。』
アントンに作り笑いを返しながら、カルロッテは恋心だったものが少しずつ溶けていく気がした。
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