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カルロッテ・ベンヤミンはこうして作られた。1 (番外編)
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カルロッテ・ベンヤミンは、ベンヤミン伯爵家の次女としてこの世に生を受けた。
両親は十二年ぶりの我が子の誕生を殊の外喜び、手放しで可愛がった。
カルロッテには優秀な兄と、美しく知的な姉がいる。
後継は優秀な兄が育っており、貴族の義務としての家の為の政略結婚は姉が居た為、
厳しい教育はほぼ免除されていた。
淑女教育で必要な基本的な事は勉強させられたが、少しレベルが上がった淑女教育になると癇癪を起こし手がつけられないと教師が匙を投げ辞めて行く為、
格上に嫁がせる為に必要な教育を諦めた。
カルロッテの癇癪を教師から訊いていた為、婚約の段階で揉める前に言い聞かせるつもりで、カルロッテと話し合いをした。
「カルロッテ、今のお前では格上の貴族に嫁ぐには能力が足りない。伯爵家以下の爵位に嫁ぐ事になっても不満はないかい?
今ここで諦めるとしたら、恐らくは懇意にしているリット子爵家かマガト男爵家なるだろう。
この二家には男の子供がそれぞれいるから、長男に嫁がせてやる事が出来れば、貴族の爵位は無くならないで済むよ。
それでも、いいかい?」
カルロッテは淑女教育の難しい所などしたくはない。
そんなことを頑張るなら、殿方の好きな仕草や化粧を研究していた方がマシである。
それに、爵位は下であっても、醜男であれば婚姻後にでも見目の良い愛人を作ればいいだけだ。
贅沢をさせてくれる金を作ってくれる相手なら、どの爵位であろうが気にしない。
「ええお父様。私は高位貴族夫人になる器ではありません。
そんな私などを娶って頂けて、苦しい生活にならぬ程度の資産をお持ちな方なら喜んで嫁ぎますわ。」
殊勝な態度を取るカルロッテに父親は『教師と相性が合わなかっただけで、カルロッテは頑張れるんではないか?』と誤解と期待をしてしまう。
「教育を頑張れば、高位貴族にもツテがあるし…お前の愛らしい容姿なら見初めて頂く事も可能だろう。
今だったら遅くない。頑張ってみないか?」
と、言ってしまったのだった。
「まぁお父様。私は堅苦しい所は無理だわ。子爵か男爵くらいが私の性分には合ってると思うの。」
と頑なに断った。
それから数年後、デビュタントを控えたカルロッテは適齢期を迎える前に婚約する事になる。
リッテ子爵家嫡男のマルクス・リッテ子爵子息と、マガト男爵家嫡男のアントン・マガロ男爵子息との顔合わせの場が設けられた。
マルクス子爵子息は焦げ茶の髪に緑色の瞳をした穏やかな青年だった。
エスコートも優雅で丁寧で、まだ正式なエスコートの経験の無いカルロッテは胸をときめかせた。
しかし、十七歳になったばかりの真面目なマルクスは、今まで恋人も作る事なく、女遊びで遊び惚ける事もしなかった為、
女性の扱いが分からず、そういう方面において不器用だった。
そんな所をカルロッテはつまらなく感じてしまう。
リッテ子爵家が運営しているリッテ商会が中々繁盛しているとの事で、そこはとても魅力的だった。
わざわざ男爵家の嫡男に会う前に、面倒なのでマルクスに決めてもいいかなと思うカルロッテ。
しかし父親が「もう男爵家にも話を通してしまったのだ。会うだけでも会いなさい」と言うので、渋々男爵家嫡男とも会う事になる。
金髪の巻毛に、タレ目の青い瞳、目元には小さな黒子がある男爵家嫡男アントン・マガロ。
彼は所謂美男子だった。
カルロッテは一目見て恋に落ちてしまう。
女性の扱いにも長け、挨拶の際の手の甲への口付けにカルロッテは頬を真っ赤に染めてクラクラしてしまう。
色気のあるタレ目の青い瞳に見つめられるだけで思考が真っ白になり、ただ見つめるだけで言葉が出ない相手だった。
『子爵家の商会は魅力的だし贅沢が出来ないけれど、マガロ男爵家も子爵家に負けない資産家とお父様は言っていたわ。
子爵家程羽振りは良くなくても、毎朝この人の横で目覚められたら、なんて素敵な事なのかしら。』
恋する少女になったカルロッテは、マガロ男爵家と婚約を結ぶ事にした。
『マルクスはとてもいい人だったけれど、ときめけない相手の子供を産むのは苦痛よね。』
結構な上から目線のカルロッテだった。
婚約の書類を作る前に少し期間があったので、何度かデートをしようとアントンに誘われたカルロッテ。
初めてのデートに胸を高鳴らせながらその日を迎えた。
気に入ったアクセサリーを買って貰って幸せな気分でいると、アントンに少し歩こうと手を引かれ公園へと足を運んだ。
元々貴族達のデートコースのひとつなのか、チラホラと紳士淑女が寄り添いながら池のそばを歩いているのを見かけた。
アントンが歩くだけで、女性の視線が集まった。
『この人は本当に見目麗しいわ。』
ますます胸が高鳴るカルロッテである。
貴族の令嬢達の視線が突き刺さり、ほどよい優越感を感じていた。
アントンはここにいる誰よりも素敵な男性だわ。
両親は十二年ぶりの我が子の誕生を殊の外喜び、手放しで可愛がった。
カルロッテには優秀な兄と、美しく知的な姉がいる。
後継は優秀な兄が育っており、貴族の義務としての家の為の政略結婚は姉が居た為、
厳しい教育はほぼ免除されていた。
淑女教育で必要な基本的な事は勉強させられたが、少しレベルが上がった淑女教育になると癇癪を起こし手がつけられないと教師が匙を投げ辞めて行く為、
格上に嫁がせる為に必要な教育を諦めた。
カルロッテの癇癪を教師から訊いていた為、婚約の段階で揉める前に言い聞かせるつもりで、カルロッテと話し合いをした。
「カルロッテ、今のお前では格上の貴族に嫁ぐには能力が足りない。伯爵家以下の爵位に嫁ぐ事になっても不満はないかい?
今ここで諦めるとしたら、恐らくは懇意にしているリット子爵家かマガト男爵家なるだろう。
この二家には男の子供がそれぞれいるから、長男に嫁がせてやる事が出来れば、貴族の爵位は無くならないで済むよ。
それでも、いいかい?」
カルロッテは淑女教育の難しい所などしたくはない。
そんなことを頑張るなら、殿方の好きな仕草や化粧を研究していた方がマシである。
それに、爵位は下であっても、醜男であれば婚姻後にでも見目の良い愛人を作ればいいだけだ。
贅沢をさせてくれる金を作ってくれる相手なら、どの爵位であろうが気にしない。
「ええお父様。私は高位貴族夫人になる器ではありません。
そんな私などを娶って頂けて、苦しい生活にならぬ程度の資産をお持ちな方なら喜んで嫁ぎますわ。」
殊勝な態度を取るカルロッテに父親は『教師と相性が合わなかっただけで、カルロッテは頑張れるんではないか?』と誤解と期待をしてしまう。
「教育を頑張れば、高位貴族にもツテがあるし…お前の愛らしい容姿なら見初めて頂く事も可能だろう。
今だったら遅くない。頑張ってみないか?」
と、言ってしまったのだった。
「まぁお父様。私は堅苦しい所は無理だわ。子爵か男爵くらいが私の性分には合ってると思うの。」
と頑なに断った。
それから数年後、デビュタントを控えたカルロッテは適齢期を迎える前に婚約する事になる。
リッテ子爵家嫡男のマルクス・リッテ子爵子息と、マガト男爵家嫡男のアントン・マガロ男爵子息との顔合わせの場が設けられた。
マルクス子爵子息は焦げ茶の髪に緑色の瞳をした穏やかな青年だった。
エスコートも優雅で丁寧で、まだ正式なエスコートの経験の無いカルロッテは胸をときめかせた。
しかし、十七歳になったばかりの真面目なマルクスは、今まで恋人も作る事なく、女遊びで遊び惚ける事もしなかった為、
女性の扱いが分からず、そういう方面において不器用だった。
そんな所をカルロッテはつまらなく感じてしまう。
リッテ子爵家が運営しているリッテ商会が中々繁盛しているとの事で、そこはとても魅力的だった。
わざわざ男爵家の嫡男に会う前に、面倒なのでマルクスに決めてもいいかなと思うカルロッテ。
しかし父親が「もう男爵家にも話を通してしまったのだ。会うだけでも会いなさい」と言うので、渋々男爵家嫡男とも会う事になる。
金髪の巻毛に、タレ目の青い瞳、目元には小さな黒子がある男爵家嫡男アントン・マガロ。
彼は所謂美男子だった。
カルロッテは一目見て恋に落ちてしまう。
女性の扱いにも長け、挨拶の際の手の甲への口付けにカルロッテは頬を真っ赤に染めてクラクラしてしまう。
色気のあるタレ目の青い瞳に見つめられるだけで思考が真っ白になり、ただ見つめるだけで言葉が出ない相手だった。
『子爵家の商会は魅力的だし贅沢が出来ないけれど、マガロ男爵家も子爵家に負けない資産家とお父様は言っていたわ。
子爵家程羽振りは良くなくても、毎朝この人の横で目覚められたら、なんて素敵な事なのかしら。』
恋する少女になったカルロッテは、マガロ男爵家と婚約を結ぶ事にした。
『マルクスはとてもいい人だったけれど、ときめけない相手の子供を産むのは苦痛よね。』
結構な上から目線のカルロッテだった。
婚約の書類を作る前に少し期間があったので、何度かデートをしようとアントンに誘われたカルロッテ。
初めてのデートに胸を高鳴らせながらその日を迎えた。
気に入ったアクセサリーを買って貰って幸せな気分でいると、アントンに少し歩こうと手を引かれ公園へと足を運んだ。
元々貴族達のデートコースのひとつなのか、チラホラと紳士淑女が寄り添いながら池のそばを歩いているのを見かけた。
アントンが歩くだけで、女性の視線が集まった。
『この人は本当に見目麗しいわ。』
ますます胸が高鳴るカルロッテである。
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