私、諦めが悪いんですの。

iBuKi

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04話

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王命程の強制力は無いとはいえ、王家からの打診(王命とまでは言わないが察しろよ?)によって結ばれた婚約は、婚約解消へと舵を切る事になったヴァレンタイン公爵家。

お父様は「100回約束を反故にした場合は婚約解消を認めて貰おう」と陛下と約束したという。
陛下も苦笑していただろう。
いくら政略での婚約とはいえ、流石に100回まで反故にされないだろうし、100回も通う事もなく話し合いが設けられ、互いに改善出来ない場合は双方の家で話し合いの末に破棄か解消になるだろうから。
そこまで拗れる事は、普通はないだろうけど。
貴族の子息令嬢は幼い頃からの教育で、政略結婚の重要さを説かれているだろうし、それが家の為に出来る最善の事だと納得している。
そして子を成した後に、本当に好きな相手と愛人関係を持ったりするのだ。
だから、婚姻関係を結ぶ相手が少々気に食わなくとも、家の為に我慢して交流するのが常である。
政略結婚とはいえ、相手に対して尊敬出来る所などを見つけて、相手を尊重する気持ちを持つように努力するのだ。

が、あの王子は――
真っ向から拒否しており、会う事すらしない。
何が気に食わないのか語りもしなければ、周囲に漏らしもしない。
エスコートの際、私の事を冷たい目で見つめるばかり。
私の何が気に食わないのか何の情報も無いから分からないけれど、仲良くしていた頃にやらかしたんだろうか。
全く覚えていない。

王族なんだからサッサと婚姻解消を申し出てくれれば、2年の時間が無駄にならなかったんだけど。
私だって馬鹿みたいに100回も待たなくて済んだというのに…。
意地になって100回待ってみたけど、結局何も変わらなかった。


――我慢して我慢して我慢した後の開放感は味わえた気がする。
私はやりきった。
周りから「忘れられた婚約者」と馬鹿にされようとも、やりきったのよ!
そんな気持ちでいっぱいで、解消後の事は考えていないのよね。
お父様やお母様は私が引く手数多とか勝手に妄想して喜んでるけど、王子の心を留め置く事が出来ない令嬢である私が、そんな素敵な扱い受けるかしら?
年寄りの後妻か、どっかの金持ちの第二夫人がいいとこじゃない?
あ…でも、私は曲がりなりにも公爵家の令嬢だから、他国の王族に輿入れもありそう。
他国なら国内の噂も届きづらい。

第一王子の婚約者は大々的に発表はされないものね。
皇太子に即位された後だったら、大々的に公布されるから不味かったかもしれないけど。

家に迷惑かけるのは申し訳なかったから、家に利のあるまともな嫁ぎ先があるなら安心だ。


そんなことを考えていると、ふとアルフィアス王子の事をまた思い出してしまった。

何の前触れもなく、アルフィアスは冷たくなった。
先週は普通だったのに今週いきなり何故!? くらいの突然っぷりだった。

それでも、数ヶ月に一度王家主催のお茶会では必ずお顔を見る事になり、会場に入るまではエスコートしてくれる。

会場の中に入った後は、勤めは果たしたとばかりに、すぐに側近候補の子息達の元へアルフィアスは向かってしまう。
エスコートする最初に「今日はよろしく」と一言だけサラッと発言され、後はエスコート時に「手を」とだけ呟かれる。そして、無言のままに会場入りし、その後はずっと放置され、居ないものとして扱われてしまうのだ。


何故、急に、どうして? (というか、何あの態度…凄いムカッときますわぁ)何度も何度も思った。



しかし、人間とは慣れる生き物らしい。今では、冷たい態度は見慣れてしまい、私への扱いがどうであろうが、もうどうでも良くなってきている。

ただひとつ我慢出来ない事があった。
それはアルフィアス王子が会場入りしてすぐに婚約者をほったらかしにして側近候補達の所へ向かう所が良くない。
一応まがりなりにも婚約者である私を放置するのは、外聞的にも悪いというのが分からないのか。


想像力の無さにとても腹が立つが、それでも今は私の婚約者だ。良くない噂を撒くのは本意ではない。
嫌味のひとつでも言いたいのをグッと堪え、側近と仲良く談笑するアルフィアスの元へと足を運び、話しかけたりもした。

何で私がこんなフォローを…!と苛立ちつつ声をかけた。
冷たい目をしたアルフィアスは目線だけを私に寄越し、すぐに側近候補達との談笑を続ける。

――態度悪いわぁ…面倒くさい…
と思いつつ、もう一度声をかけるも無視。

その時の周りの可哀想なものを見る同情の眼差し…いたたまれない。
私の本意ではないのです! この人のフォローですよ! と言いたい。

側近候補達が王子と私を交互に見ながら目配せをし合う気まずげな空気に、周りの目線が突き刺さる。
これを繰り返せばもっとよくない噂になるだろうと思い、慌てて遠ざかるしかなかった。

勿論、何のフォローもないアルフィアス。
貴方、自分の評判とか気にしないの? 王子なのに? と思うが、腹が立つので深追いはしない。

それを何度か繰り返し、人が変わった様な王子の態度に、王子と関係を築く努力を漸く諦めた。
私だけが頑張るなんて理不尽だもの。


お茶会中に近づくのは止めたけれど、あんな態度の王子には絶対負けたくなくて、週に一回の約束の日はしつこく待ち続けたのだ。
ちょっと冷たくされたからって、すぐ諦める根性の無い人間だと思われるのは看過出来ない。

今日こそ王子が来たら何か言ってやろうと思い続け、100回目を迎えてしまった。
あの退屈な時間を1人で乗り切ってきた私に奇跡が起こるなら、100回目の今日起こると信じていた。

けれど、結局アルフィアス王子が来る事はなかった。

いい加減、この無駄に約束ごとも見切りを付けるぺき時が来てしまっただけなのだ。
王子が何があってあんな態度になったかは分からないままだけれど、訊ねようとはもう思わない。
解消するのだから王子の事は忘れるに限る。
そして時が来たらサッサと別の人間と婚約する方が懸命だ。


父が急に青褪めたので気になり訊ねようと思ったけれど、嫌な予感がして止める。

もう余計な荷物は背負いたくないと思った。

どうみても父の顔には「特大の荷物だけどどうする?」と書いてある。

(半年程は何も考えず自分の為だけに時間を使いたい。)

スッとお父様から視線を外し俯いた。


「半年間だけお時間を下さい。今は何もかも忘れたいのです…。」

その期間で心の傷を癒やし前を向く。そうすれば、新たな政略相手に素直に嫁げるのですというように、儚げに微笑んでみた。

「ああ、ゆっくりしてきなさい。」

お父様がとても優しい声で許可を出してくれた。


(こんなウジウジするのも今日で終わりよ。)

勝負に勝って試合で負けた気持ちになるのは何故かわからないまま。


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