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06話
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――――そろそろ婚約解消を陛下が告げてる頃かしら。
アリアは公爵邸の庭を散策中にふと思う。
陛下へ謁見し即解消を申し出ると言って登城したお父様。
「陛下はアルフィアス殿下をすぐにでも呼び出して告げるだろう。とても気の早いお方だから。」
苦笑いをしながら父は馬車に乗り込み出掛けて行った。
陛下に直にお会いしたのは3度。
王家から婚約の申し入れがあった父が、向こうから引いて欲しくてのらりくらりと明言を避け続けた結果、
業を煮やした陛下に取り敢えず顔合わせだけでもさせて欲しいと請われ、婚約を受ける事を強制しない事を条件に、
王子との顔合わせの為、父は私を連れて一緒に登城した。
その時、初めて陛下とお会いしたのだった。
―――精悍なお顔立ちはとても凛々しく、王としてではなく、お父様の長年の友人の優しいおじ様の顔で微笑んで下さった。
その後、アルフィアス王子との顔合わせをし、嫌がる父とは反対に王子と私は仲良くなった。
陛下は至極満足そうにしていた。
父の不貞腐れた顔見て「お父様、公爵としての顔を忘れていらっしゃるわ。」と心配になったのを覚えている。
仲よさげな私達を見た陛下の行動力は凄まじく、気付けば婚約を結んでいた。
後日、お母様から「お父様はね、貴方の王家との婚約に物凄く抵抗したけれど、色々詰められてとうとう諦めたみたいですよ。
お父様は、貴方に政略ではなく本当に好きな殿方との婚約を望んでいたようなの。
身分などどうとでもなると仰ってね。
事実、お父様はどうとでも出来る方なの。
でも、貴方と殿下が仲良くなさっていたから、漸く首を縦に振ったんですって。」
「私とは政略結婚だったというのに、そこはいいのかしら。」と笑っていた。
外では威厳に満ち、王からも信頼され頼られる非情に有能なイメージのお父様は、天真爛漫なお母様には頭が上がらない。
貴族社会は男尊女卑だ。夫の意見は最優先され妻はそれに従うのが良しとされている。
けれど、公爵家当主だというのにお父様はそういった偉ぶった所が一切無く、むしろお母様がお父様をいろいろからかって遊んで楽しんでる節がある。
うちは余所と違う家なのだなとは、随分と小さい頃すでに理解していた。
それが初めてで、その後に一度非公式で陛下と王妃様と第一王子に私と両親だけのお茶会の時と――――
そして…アルフィアス殿下がずっと約束を反故にしている時にフラリと来て、一緒にお茶を共にして下さった。
そこで色々質問されて答えたりしたけれど、あれは何だったのかしら。
時々、楽しそうに大笑いされていたし……
陽気な春の陽射しを受けすくすくと育ち、庭の花々は百花繚乱とばかりに咲き誇っている。
花を眺めるのは好きだ。
心がとても穏やかになる。汚れた物などこの世界には無いと思わせてくれる。
白いクレマチスの花びらを撫でいると、ふと誰かのアリアを呼ぶ声が聞こえた気がして手を止め振り返る。
――そこには誰も居ない。
訝しげに思いながら、恐らく陛下の事を思い出していた事もあり、陛下の高笑いが聞こえたような……
「お父様、もう一度仰って下さいませ。」
「アリア、殿下との婚約解消は保留となった。」
「……お父様、もう一度……」
「何て事だ! 耳が聞こえなくなる程にショックだったのかい!?」
「いえ、聞こえております。申し訳ございません。幻聴であったならと確認の為に何度か訊いてしまいました。」
保留する意味が分からなくてお父様に何度か訊いてしまったが、父が取り乱したので冷静になる。
――保留とはどういう事なのか。
「何故、保留なのでしょう。陛下とお約束されていたのではないですか。」
「成人の儀と立太子の儀があり、大々的に婚約者として発表はしていないが、国内の貴族にはお前が婚約者だというのは周知の事実なのだよ。
婚約解消するには今は時期が悪い。との事であったが………」
「それならば仕方ないですわ。契約解消はしていないだけで実質は解消したようなもの。
時期を見てひっそりと解消させる。という事ならば、私には否やはありません。」
お父様が嫌で仕方ないというように歪んだ表情をする。
「――陛下の話では、殿下に、解消を、伝えた時に、殿下が、殿下が!拒否なさったそうだ。
信じられない話だが、真実と陛下は仰る。正直、どの面下げて拒絶してるのだと――」
この話を伝えるのが嫌で仕方なかったのだろう。
やけに区切りつつ、食いしばった歯の隙間から声を出し話している。
そして、段々とお父様の言葉が少し荒くなってきた。
「あの小僧、私の天使を所望した癖に蔑ろにしたあげく、手放さざるを得なくなれば惜しくなったとでもいうのか…!
私も、舐められたものだな。」
「お父様、時期が悪いというだけで、解消はされるのですから。あまり興奮なさってはお体に毒ですわ。
私は大丈夫です。もっと早くに解消を願い出るべきでしたのに…諦めが悪くご迷惑をおかけしてしまいすみません。」
意地とほんのちょっぴりの惰性で続けていた100回目までの日々。
突然に冷たくなり意味も分からないまま避けられ続けたというのに、解消を拒否するとか嫌がらせなのだろうか。
アルフィアス殿下の冷たい眼差しを思い出し、嫌がらせとか好きそう……と思ったのだった。
アリアは公爵邸の庭を散策中にふと思う。
陛下へ謁見し即解消を申し出ると言って登城したお父様。
「陛下はアルフィアス殿下をすぐにでも呼び出して告げるだろう。とても気の早いお方だから。」
苦笑いをしながら父は馬車に乗り込み出掛けて行った。
陛下に直にお会いしたのは3度。
王家から婚約の申し入れがあった父が、向こうから引いて欲しくてのらりくらりと明言を避け続けた結果、
業を煮やした陛下に取り敢えず顔合わせだけでもさせて欲しいと請われ、婚約を受ける事を強制しない事を条件に、
王子との顔合わせの為、父は私を連れて一緒に登城した。
その時、初めて陛下とお会いしたのだった。
―――精悍なお顔立ちはとても凛々しく、王としてではなく、お父様の長年の友人の優しいおじ様の顔で微笑んで下さった。
その後、アルフィアス王子との顔合わせをし、嫌がる父とは反対に王子と私は仲良くなった。
陛下は至極満足そうにしていた。
父の不貞腐れた顔見て「お父様、公爵としての顔を忘れていらっしゃるわ。」と心配になったのを覚えている。
仲よさげな私達を見た陛下の行動力は凄まじく、気付けば婚約を結んでいた。
後日、お母様から「お父様はね、貴方の王家との婚約に物凄く抵抗したけれど、色々詰められてとうとう諦めたみたいですよ。
お父様は、貴方に政略ではなく本当に好きな殿方との婚約を望んでいたようなの。
身分などどうとでもなると仰ってね。
事実、お父様はどうとでも出来る方なの。
でも、貴方と殿下が仲良くなさっていたから、漸く首を縦に振ったんですって。」
「私とは政略結婚だったというのに、そこはいいのかしら。」と笑っていた。
外では威厳に満ち、王からも信頼され頼られる非情に有能なイメージのお父様は、天真爛漫なお母様には頭が上がらない。
貴族社会は男尊女卑だ。夫の意見は最優先され妻はそれに従うのが良しとされている。
けれど、公爵家当主だというのにお父様はそういった偉ぶった所が一切無く、むしろお母様がお父様をいろいろからかって遊んで楽しんでる節がある。
うちは余所と違う家なのだなとは、随分と小さい頃すでに理解していた。
それが初めてで、その後に一度非公式で陛下と王妃様と第一王子に私と両親だけのお茶会の時と――――
そして…アルフィアス殿下がずっと約束を反故にしている時にフラリと来て、一緒にお茶を共にして下さった。
そこで色々質問されて答えたりしたけれど、あれは何だったのかしら。
時々、楽しそうに大笑いされていたし……
陽気な春の陽射しを受けすくすくと育ち、庭の花々は百花繚乱とばかりに咲き誇っている。
花を眺めるのは好きだ。
心がとても穏やかになる。汚れた物などこの世界には無いと思わせてくれる。
白いクレマチスの花びらを撫でいると、ふと誰かのアリアを呼ぶ声が聞こえた気がして手を止め振り返る。
――そこには誰も居ない。
訝しげに思いながら、恐らく陛下の事を思い出していた事もあり、陛下の高笑いが聞こえたような……
「お父様、もう一度仰って下さいませ。」
「アリア、殿下との婚約解消は保留となった。」
「……お父様、もう一度……」
「何て事だ! 耳が聞こえなくなる程にショックだったのかい!?」
「いえ、聞こえております。申し訳ございません。幻聴であったならと確認の為に何度か訊いてしまいました。」
保留する意味が分からなくてお父様に何度か訊いてしまったが、父が取り乱したので冷静になる。
――保留とはどういう事なのか。
「何故、保留なのでしょう。陛下とお約束されていたのではないですか。」
「成人の儀と立太子の儀があり、大々的に婚約者として発表はしていないが、国内の貴族にはお前が婚約者だというのは周知の事実なのだよ。
婚約解消するには今は時期が悪い。との事であったが………」
「それならば仕方ないですわ。契約解消はしていないだけで実質は解消したようなもの。
時期を見てひっそりと解消させる。という事ならば、私には否やはありません。」
お父様が嫌で仕方ないというように歪んだ表情をする。
「――陛下の話では、殿下に、解消を、伝えた時に、殿下が、殿下が!拒否なさったそうだ。
信じられない話だが、真実と陛下は仰る。正直、どの面下げて拒絶してるのだと――」
この話を伝えるのが嫌で仕方なかったのだろう。
やけに区切りつつ、食いしばった歯の隙間から声を出し話している。
そして、段々とお父様の言葉が少し荒くなってきた。
「あの小僧、私の天使を所望した癖に蔑ろにしたあげく、手放さざるを得なくなれば惜しくなったとでもいうのか…!
私も、舐められたものだな。」
「お父様、時期が悪いというだけで、解消はされるのですから。あまり興奮なさってはお体に毒ですわ。
私は大丈夫です。もっと早くに解消を願い出るべきでしたのに…諦めが悪くご迷惑をおかけしてしまいすみません。」
意地とほんのちょっぴりの惰性で続けていた100回目までの日々。
突然に冷たくなり意味も分からないまま避けられ続けたというのに、解消を拒否するとか嫌がらせなのだろうか。
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