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07話
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「お久しぶりです、アルベルティーナ様。」
涼しい顔をして挨拶するのは、ヴィレムス皇国の第2王子。
1年経っても変わらぬその様子に、
第1王子が次期皇帝ではあるが、特別に優秀なのは弟の第2王子というのが、ヴィレムスに送った密偵の報告に上がっていた。
ライネリオ・バレリオ・ヴィレムス。ヴィレムス皇国第2王子は容姿端麗、文武両道、おまけに女性との噂も全くない。
非常に失礼な物言いだが、完璧過ぎて気持ち悪い…が、アルベルティーナの感想だ。
「ライネリオ様…お久しぶりです。」
――ご健勝のこと。如何お過ごしでしょうか?
ライネリオ様が非常に優秀だというお噂は、他国に留学していた私の耳にも入る程でしたわ。
と、続けるつもりだった。
…が、真正面から顔をしっかり見て挨拶をと思い目を合わせた途端、話す言葉を失った。
最後に会ってから、また野性が増しました? と聞きたくなる程に捕食者感が増している。
黄金色の瞳がアルベルティーナの挙動を一切見逃さないと言わんばかりだ。
恐ろしいくらい顔が整っているせいで、真顔で見つめられると非常に怖い。
アルベルティーナの背筋は危険を知らせる様に悪寒がしている。
(…野生の王国でも行ってました? なんて質問したらどんな顔するかしら)
ビクビクとなりそうな己を鼓舞する様にくだらない事を考えるアルベルティーナ。
くだらない事を考え続けていないと、愚かな振る舞いをしそうだ。
例えば走ってこの場を逃げ出す…とか。
「アルベルティーナ様、何処へ逃げられても私は貴方を見つけますから。」
温度のない冷たい声でライネリオが告げる。
(えっ、読心術の心得とかあるタイプ!? )
王女として張り付けた仮面が思わず外れ、目だけギョッとしてライネリオを見る。
「心の声など読めませんよ。」
(いや、今読んだでしょ…? 私の心の声と会話成立してるよ?)
「ふふふ、何のことでしょう。それはさておき、ライネリオ様。
ヴェーゼル王国との婚約が駄目になったから、ヴィレムス皇国とだなんて…
ヴィレムス皇国の皆様はとても不快に思われた事でしょうね。
この度の婚約解消はヴィレムス皇国には関係ないというのに、申し訳なく思っています。
女王である私の母が、恐らく強引に申し込んだ婚約打診かと思います。もしお嫌でしたら――――」
「いいえ、私が、強く、強く、望んだ婚約です。
私にとって大変幸運な事に、陛下は私の切なる願いを慮り、叶えて下さいました。
アルベルティーナ様、私は誓いましょう。
これからどの様な事が起ころうとも、私から婚約を破棄する事も、解消する事も、有り得ないと。」
「…………」
ライネリオの瞳はギラギラと輝き、捕食対象を決して逃さないと訴える。
目を逸したら喰われる…!嫌な気配が漂った。
(こ、怖い……やっぱりこの皇子には王配などというサポート役は似合わない。食物連鎖の頂点に立つ百獣の王じゃないの!?)
「そ、そう…ですか。もし無理矢理でしたら申し訳ないと思っただけですのよ。
私としてはこの婚約…………んんっ、否やはありませんわ。」
婚約に……で言い淀んだ時、ライネリオの目が語っていた。
突如として醸し出された妙な色気を含んだ視線が、アルベルティーナの瞳を捉え潤む。
アルベルティーナは鈍感なタイプではない。
人の心の機微に疎くもない。
だから分かったのだ。
ライネリオの視線は語っていた。
“発言如何によっては、古い手ではあるが有効的な既成事実というのもありますよ”と。
アルベルティーナは正確に瞳が語る言葉を受け取り戦慄し、慌てて言うつもりだった言葉と違う言葉を口にしていた。
(だって、瞳孔まで開いた様に見えて、とても怖い顔するんだもの………)
我が身可愛さに主導権を手放した気がしたアルベルティーナである。
涼しい顔をして挨拶するのは、ヴィレムス皇国の第2王子。
1年経っても変わらぬその様子に、
第1王子が次期皇帝ではあるが、特別に優秀なのは弟の第2王子というのが、ヴィレムスに送った密偵の報告に上がっていた。
ライネリオ・バレリオ・ヴィレムス。ヴィレムス皇国第2王子は容姿端麗、文武両道、おまけに女性との噂も全くない。
非常に失礼な物言いだが、完璧過ぎて気持ち悪い…が、アルベルティーナの感想だ。
「ライネリオ様…お久しぶりです。」
――ご健勝のこと。如何お過ごしでしょうか?
ライネリオ様が非常に優秀だというお噂は、他国に留学していた私の耳にも入る程でしたわ。
と、続けるつもりだった。
…が、真正面から顔をしっかり見て挨拶をと思い目を合わせた途端、話す言葉を失った。
最後に会ってから、また野性が増しました? と聞きたくなる程に捕食者感が増している。
黄金色の瞳がアルベルティーナの挙動を一切見逃さないと言わんばかりだ。
恐ろしいくらい顔が整っているせいで、真顔で見つめられると非常に怖い。
アルベルティーナの背筋は危険を知らせる様に悪寒がしている。
(…野生の王国でも行ってました? なんて質問したらどんな顔するかしら)
ビクビクとなりそうな己を鼓舞する様にくだらない事を考えるアルベルティーナ。
くだらない事を考え続けていないと、愚かな振る舞いをしそうだ。
例えば走ってこの場を逃げ出す…とか。
「アルベルティーナ様、何処へ逃げられても私は貴方を見つけますから。」
温度のない冷たい声でライネリオが告げる。
(えっ、読心術の心得とかあるタイプ!? )
王女として張り付けた仮面が思わず外れ、目だけギョッとしてライネリオを見る。
「心の声など読めませんよ。」
(いや、今読んだでしょ…? 私の心の声と会話成立してるよ?)
「ふふふ、何のことでしょう。それはさておき、ライネリオ様。
ヴェーゼル王国との婚約が駄目になったから、ヴィレムス皇国とだなんて…
ヴィレムス皇国の皆様はとても不快に思われた事でしょうね。
この度の婚約解消はヴィレムス皇国には関係ないというのに、申し訳なく思っています。
女王である私の母が、恐らく強引に申し込んだ婚約打診かと思います。もしお嫌でしたら――――」
「いいえ、私が、強く、強く、望んだ婚約です。
私にとって大変幸運な事に、陛下は私の切なる願いを慮り、叶えて下さいました。
アルベルティーナ様、私は誓いましょう。
これからどの様な事が起ころうとも、私から婚約を破棄する事も、解消する事も、有り得ないと。」
「…………」
ライネリオの瞳はギラギラと輝き、捕食対象を決して逃さないと訴える。
目を逸したら喰われる…!嫌な気配が漂った。
(こ、怖い……やっぱりこの皇子には王配などというサポート役は似合わない。食物連鎖の頂点に立つ百獣の王じゃないの!?)
「そ、そう…ですか。もし無理矢理でしたら申し訳ないと思っただけですのよ。
私としてはこの婚約…………んんっ、否やはありませんわ。」
婚約に……で言い淀んだ時、ライネリオの目が語っていた。
突如として醸し出された妙な色気を含んだ視線が、アルベルティーナの瞳を捉え潤む。
アルベルティーナは鈍感なタイプではない。
人の心の機微に疎くもない。
だから分かったのだ。
ライネリオの視線は語っていた。
“発言如何によっては、古い手ではあるが有効的な既成事実というのもありますよ”と。
アルベルティーナは正確に瞳が語る言葉を受け取り戦慄し、慌てて言うつもりだった言葉と違う言葉を口にしていた。
(だって、瞳孔まで開いた様に見えて、とても怖い顔するんだもの………)
我が身可愛さに主導権を手放した気がしたアルベルティーナである。
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