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第四章 クラウディアを得んと暗躍する者達。
嫌じゃないけど困ります。
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「お兄様……。」
「ん? 何、ディア」
「私、もうそれなりに成長したレディですけど……。」
「嫌か?」
「嫌……といえば嫌ではないといいますか、
かと言って、良いです! と、諸手を挙げて喜ぶのも違うといいますか……。
どちらにしろ、このような幼子の扱いは嫌です……けど。」
「ディア、このような状態は幼子だけではなく、思い合う男女でもしている普通の事らしいぞ。」
クラウディアの頬に落ちた髪をスルリと撫でて耳の後ろにかけてやる。
「……思い合う男女ではありますけど、意味が違うような……」
「意味は同じだ。俺とディアは間違いなく思い合う男女、だろう?」
「え、ええー……。」
「俺はディアをこの世の何よりも大切に思っている。ディアは違うのか?」
クラウディアの頬を指先で擽り、俺から目を逸らすなと言わんばかりに注意を向けさせる。
「大切に思っています。」
(思っているけど……何かが食い違っている気がするんですけど)
「なら、このように俺がディアを膝に乗せる事は決しておかしい事でもなければ、幼子扱いをしている訳でもない。」
「そう……ですかね?」
「ああ、大切だから一番傍に置くんだ。誰にも何にも奪われる事がないように。」
(これどうしたらいいんですか……)
「この世界で一番強い者の傍が一番安全だからな。」
「お兄様は一番強そうというか、強いですからね。」
「だから、この状態がディアにとって一番安全で、俺が一番安心できる。」
クラウディアの瞳を覗き込むようにして顔を寄せると、パパラチアサファイアの瞳が強い意志を秘めて見つめてくる。
「ソウデスネ」
クラウディアは屈した。
と、言う事がさきほどの馬車内であったんですよー。
なあーにーやっちまったな!
どこかのコメディアンの台詞を頭に浮かべつつ、クラウディアは伯爵邸の部屋でぐったりとベッドに横たわっていた。
間違いなくやっちまった。
きっとこれから何処でも膝上抱っこ状態になる可能性がある。
(だってあの瞳で見つめて来て、肯定以外の返事は聞く気が無いって顔してたもん。
皇帝だけに……って。はは……笑えないわぁ)
「姫様、心中お察し致しますが、そろそろ晩餐の準備を……」
ベッドに突っ伏しているクラウディアに、アンナが気まずそうに声をかけてくる。
いつもなら「姫様、だらしがないですよ!」の小言くらい飛んできそうなのに。
部屋に入って即ベッドに飛び込んだクラウディアを見ても何も言ってこなかった。
馬車内の会話が恥ずかし過ぎて伝えていないというのに、アンナには全て筒抜けのようが気がするクラウディアであった。
晩餐の時間までに何とか準備を終える事が出来たクラウディア。
きっとまた来る。
シュヴァリエが……!
物凄く気まずい。
しかし避けようものなら、もっとヤバイ事になると第六感が告げている。
「姫様、そろそろ……」
とアンナが言ったタイミングで部屋の扉がノックされた。
アンナが扉を開ければ、外で待っているのは意地悪そうな笑顔を浮かべたシュヴァリエ。
「ちゃんといい子で待ってたな。偉いぞ。」
意地悪な顔で余計な一言を言ってくる。
「お兄様、私、新作の刺繍がありますの。でも――――差し上げる事は出来ないかもしれませんわね。意地悪を仰る方には差し上げたくありませんもの。」
「……。」
ツンと顔を上げるクラウディア。
刺繍マニアには、どうせ勝てない舌戦をするよりも、刺繍を取り上げるだけでいいのである。
シュヴァリエは刺繍マニアというよりも、クラウディアの手製の物は全て自分が所有したいだけなのだが。
「意地悪を言って、ワルカッタ。」
「分かれば宜しいのです。」
ツンモードを継続しながら、エスコートを受ける。
薔薇色の唇を尖らせ、シュヴァリエとは反対側に顔を向けて歩く。
シュヴァリエはそんなクラウディアをチラリと確認すると、
「そうやってツンツンしてても可愛いだけだが。」
と、呟く。
「お兄様?」
「いや、今日の晩餐はクラウディアが頑張って収穫した人参が出るといいな。」
「あ! 忘れてました! 頂いたのでしたね。楽しみです。」
ツンツンしていたのを忘れ、嬉しそうに笑顔をシュヴァリエに向けた。
シュヴァリエは、そんなクラウディアを眩しそうに見つめる。
頭を撫でたいがまた怒りそうだな、と思うと自然と顔に笑みを浮かべるのだった。
晩餐に人参が入っていた。
クラウディアは大喜びである。
皇女殿下が収穫した人参を前に伯爵以外の者は「冷酷だと言われた陛下には溺愛され、楽しそうに農民体験をしたりして、色々と規格外な方なのだな」と思った。
そんな事を思われているとは露知らず、
自分で収穫した人参は甘くて美味しくて、クラウディアは大満足なのだった。
晩餐後、伯爵家の姉妹達に明日お茶をしないか誘われてクラウディアは快諾する。
男性陣はまた昨日と同じ様にテラスへ移動し、女性陣は食後のお茶を……であった。
クラウディアは「これもお茶よね?」とまた思いたくなるが、違うようだった。
お昼におもてなしを兼ねてしっかりとテーブルセッティングされた状態でするお茶の事をお茶会というらしいから。
明日は視察へは出かけないらしいので、一日ゆっくりできる。
シュヴァリエは仕事があるらしいが、皇帝陛下なのだから頑張って頂きたい。
いつもならちょっと労ってあげている所であるが、何か今日は意地悪ばかりされたので、罰として何もしてあげない事にする。
夜半過ぎ、シュヴァリエが宛がわれている部屋にアンナが訪れた。
シュヴァリエの目の届かない場所でのクラウディアの報告をさせられる為だ。
「――――という事でした。陛下、強引に距離を詰められ過ぎて姫様が混乱しております。手心を加えて下さらないと、拗ねられて口を利いて貰えなくなりますよ。」
「そこまで追い詰めてるつもりではないのだが、箍が外れているんだろうな。
もしかしたら……とは思っていたけれど確証はなくて、そう思わないようにしていたのに、確証を得て血が繋がっていないと分かった時から、自分でもどうかしていると思う時がある。」
「そうですか。」
これが陛下の本音なんだろうと思うが、アンナもクラウディアが大切なので、応援する等と余計な事は言わないでおく。
「日毎にディアが可愛くて仕方がなくなっていくんだ。そういう時はどうすればいい?」
惚気か。
「知りませんよ。追い詰めない程度に自制して下さい。」
アンナは塩対応で報告を終え、退室したのだった。
「ディアがもう少し年が上ならな……それならば……」と、シュヴァリエが零すのはスルーした。
「ん? 何、ディア」
「私、もうそれなりに成長したレディですけど……。」
「嫌か?」
「嫌……といえば嫌ではないといいますか、
かと言って、良いです! と、諸手を挙げて喜ぶのも違うといいますか……。
どちらにしろ、このような幼子の扱いは嫌です……けど。」
「ディア、このような状態は幼子だけではなく、思い合う男女でもしている普通の事らしいぞ。」
クラウディアの頬に落ちた髪をスルリと撫でて耳の後ろにかけてやる。
「……思い合う男女ではありますけど、意味が違うような……」
「意味は同じだ。俺とディアは間違いなく思い合う男女、だろう?」
「え、ええー……。」
「俺はディアをこの世の何よりも大切に思っている。ディアは違うのか?」
クラウディアの頬を指先で擽り、俺から目を逸らすなと言わんばかりに注意を向けさせる。
「大切に思っています。」
(思っているけど……何かが食い違っている気がするんですけど)
「なら、このように俺がディアを膝に乗せる事は決しておかしい事でもなければ、幼子扱いをしている訳でもない。」
「そう……ですかね?」
「ああ、大切だから一番傍に置くんだ。誰にも何にも奪われる事がないように。」
(これどうしたらいいんですか……)
「この世界で一番強い者の傍が一番安全だからな。」
「お兄様は一番強そうというか、強いですからね。」
「だから、この状態がディアにとって一番安全で、俺が一番安心できる。」
クラウディアの瞳を覗き込むようにして顔を寄せると、パパラチアサファイアの瞳が強い意志を秘めて見つめてくる。
「ソウデスネ」
クラウディアは屈した。
と、言う事がさきほどの馬車内であったんですよー。
なあーにーやっちまったな!
どこかのコメディアンの台詞を頭に浮かべつつ、クラウディアは伯爵邸の部屋でぐったりとベッドに横たわっていた。
間違いなくやっちまった。
きっとこれから何処でも膝上抱っこ状態になる可能性がある。
(だってあの瞳で見つめて来て、肯定以外の返事は聞く気が無いって顔してたもん。
皇帝だけに……って。はは……笑えないわぁ)
「姫様、心中お察し致しますが、そろそろ晩餐の準備を……」
ベッドに突っ伏しているクラウディアに、アンナが気まずそうに声をかけてくる。
いつもなら「姫様、だらしがないですよ!」の小言くらい飛んできそうなのに。
部屋に入って即ベッドに飛び込んだクラウディアを見ても何も言ってこなかった。
馬車内の会話が恥ずかし過ぎて伝えていないというのに、アンナには全て筒抜けのようが気がするクラウディアであった。
晩餐の時間までに何とか準備を終える事が出来たクラウディア。
きっとまた来る。
シュヴァリエが……!
物凄く気まずい。
しかし避けようものなら、もっとヤバイ事になると第六感が告げている。
「姫様、そろそろ……」
とアンナが言ったタイミングで部屋の扉がノックされた。
アンナが扉を開ければ、外で待っているのは意地悪そうな笑顔を浮かべたシュヴァリエ。
「ちゃんといい子で待ってたな。偉いぞ。」
意地悪な顔で余計な一言を言ってくる。
「お兄様、私、新作の刺繍がありますの。でも――――差し上げる事は出来ないかもしれませんわね。意地悪を仰る方には差し上げたくありませんもの。」
「……。」
ツンと顔を上げるクラウディア。
刺繍マニアには、どうせ勝てない舌戦をするよりも、刺繍を取り上げるだけでいいのである。
シュヴァリエは刺繍マニアというよりも、クラウディアの手製の物は全て自分が所有したいだけなのだが。
「意地悪を言って、ワルカッタ。」
「分かれば宜しいのです。」
ツンモードを継続しながら、エスコートを受ける。
薔薇色の唇を尖らせ、シュヴァリエとは反対側に顔を向けて歩く。
シュヴァリエはそんなクラウディアをチラリと確認すると、
「そうやってツンツンしてても可愛いだけだが。」
と、呟く。
「お兄様?」
「いや、今日の晩餐はクラウディアが頑張って収穫した人参が出るといいな。」
「あ! 忘れてました! 頂いたのでしたね。楽しみです。」
ツンツンしていたのを忘れ、嬉しそうに笑顔をシュヴァリエに向けた。
シュヴァリエは、そんなクラウディアを眩しそうに見つめる。
頭を撫でたいがまた怒りそうだな、と思うと自然と顔に笑みを浮かべるのだった。
晩餐に人参が入っていた。
クラウディアは大喜びである。
皇女殿下が収穫した人参を前に伯爵以外の者は「冷酷だと言われた陛下には溺愛され、楽しそうに農民体験をしたりして、色々と規格外な方なのだな」と思った。
そんな事を思われているとは露知らず、
自分で収穫した人参は甘くて美味しくて、クラウディアは大満足なのだった。
晩餐後、伯爵家の姉妹達に明日お茶をしないか誘われてクラウディアは快諾する。
男性陣はまた昨日と同じ様にテラスへ移動し、女性陣は食後のお茶を……であった。
クラウディアは「これもお茶よね?」とまた思いたくなるが、違うようだった。
お昼におもてなしを兼ねてしっかりとテーブルセッティングされた状態でするお茶の事をお茶会というらしいから。
明日は視察へは出かけないらしいので、一日ゆっくりできる。
シュヴァリエは仕事があるらしいが、皇帝陛下なのだから頑張って頂きたい。
いつもならちょっと労ってあげている所であるが、何か今日は意地悪ばかりされたので、罰として何もしてあげない事にする。
夜半過ぎ、シュヴァリエが宛がわれている部屋にアンナが訪れた。
シュヴァリエの目の届かない場所でのクラウディアの報告をさせられる為だ。
「――――という事でした。陛下、強引に距離を詰められ過ぎて姫様が混乱しております。手心を加えて下さらないと、拗ねられて口を利いて貰えなくなりますよ。」
「そこまで追い詰めてるつもりではないのだが、箍が外れているんだろうな。
もしかしたら……とは思っていたけれど確証はなくて、そう思わないようにしていたのに、確証を得て血が繋がっていないと分かった時から、自分でもどうかしていると思う時がある。」
「そうですか。」
これが陛下の本音なんだろうと思うが、アンナもクラウディアが大切なので、応援する等と余計な事は言わないでおく。
「日毎にディアが可愛くて仕方がなくなっていくんだ。そういう時はどうすればいい?」
惚気か。
「知りませんよ。追い詰めない程度に自制して下さい。」
アンナは塩対応で報告を終え、退室したのだった。
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