王家の影である美貌の婚約者と婚姻は無理!

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第24話 シルヴァンの苦手なアレ。

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「来週、帰国するらしいぞ」
「ん? ガルレス国の担当はローレルだろう? 帰国は三ヶ月先じゃなかったか?」
「ローレルだったらどんなにいいかと思うが、アレだよアレ」
「アレ……?」

 書類から目を離さず、ペンを走らせる手も止まらずに会話をするいつもの二人。

「アレ……とは、誰だ?」
 クリスティアンは誰なのか思い浮かばない。頭の中で近日中に帰国する者リストを浮かべるが、シルヴァンが「アレ」呼びで済ませたくなるほどの存在の者はいなかった気がする。

 そんなクリスティアンをスルーしてシルヴァンは会話を続ける。
「女にモテモテのおまえに対して腹立つオレでもさ、アイツだけは羨ましいと感じたことないわ。女として……いや人間としても……無理」

 シルヴァンの愚痴モードだと考えクリスティアンはまだリストを浮かべていた。 

「仕事内容がちょっと被ってるから接点全く持たないで済むって訳でもないし。アレは能力だけはあるから担当を移動させられないってのもな……でも、今までのおまえに対するやらかし内容を考えると、婚約者が出来たことで警戒してもう一度他国の仕事を押し付けて国から出すかもな」

 ブツブツ言いながら次々と書類仕事を処理していくシルヴァン。
 クリスティアンは「誰か思い浮かばないが、シルのストレスが減るといいな」と呑気に返答した。

「おまえ正気か? アレっていえば、あの女しかいないだろう!  あの女に何度も媚薬を盛られそうになってたおまえをオレが助けてやっただろう!」
「媚薬? 俺に媚薬は効かないが。そんなことあったか?」
「あの媚薬はあの女の特別製だぞ!! そこらで手に入れられる代物じゃないのを盛ってたんだからな? それを回収して鑑識したのはオレだ」

 シルヴァンは手を止め顔を上げてクリスティアンにキャンキャンと小型犬が吠えるようにがなる。

「ああ……あの媚薬か。鑑識して性能が抜群に良くて諜報で使ってた薬リストに採用されたよな。あー、クリスタ・バートランドか思い出した。そういえばそんなこともあったな。確かそれで不問にされて外国での諜報に回され―――」
「そいつだよ! 性能が良かったから不問にされたっていうのが意味わかんねーわ。公爵家嫡男に媚薬盛って赦されるとかないだろう。いくら未遂とはいえ」
「父が決めたことだ。それに媚薬を盛られるのは何もバートランドが初めてでもない。それをひとつひとつ罰していたら、結構な数の令嬢が社交界からいなくなる」
「……最後ちょっとモテ自慢入ってね?」
「シルは毎回そういうが。どうでもいい女たちにモテたところで嬉しくも何ともない。仕事上邪険に出来ないから上手く立ち回ってるだけで、トラップ系の仕事に携わることがないなら一言も話したくないくらいだ」

 恨めしげな視線を寄越してくるシルヴァンに鼻を鳴らして応え、思わず手を止めてしまっていた書類仕事を再開する。
 シルヴァンはイラッとしたが、そのまま作業を続けるクリスティアンを見つめたまま元々話そうと思っていた話を口にする。

「アレの帰国って半ば無理やりらしいぞ。それもおまえの婚約を知ってから動いたらしいから、面倒なことを起こすつもりかもしれない。そんなに悠長に構えてたらおまえの婚約者に何かされるか分かったもんじゃないんだから対策しとけよ」
「今度、夜会等に帯同させる護衛や侍女を紹介する。俺の信頼する部下から選ぶつもりだ。夜会だけではなく屋敷でも誰か選んでおいた方が良さそうだな」
「実績は詰んでる女だからな……万が一内部に手駒が居た場合が厄介だからその方がいいと思うぞ」
「父や母もプルメリアを大層気に入ってるから、実績を詰んでいようが手を出せば今度は排除されるかもな」
「バートランドの怖くて気持ち悪いところはな、立ち回りの上手さなんだよ。おまえが何しても靡かないから媚薬耐性のある相手にも効く薬をわざわざ自分で作って盛ろうとしてオレにバレて明るみになっただけで、それまでは上手いこと立ち回ってたからな。一時期、おまえの婚約者にって推す話も出たくらいだ。それもアレが上手く立ち回って扇動させてたの知ってるか?」

 いつもなら書類を捌きながらの会話も、よほどシルヴァンは苦手としてるのか手が止まりがちである。
 今も自分の両腕を体に巻き付けてブルブル震える仕草をしている。

「ああ、報告は受けたな。情報操作の根回しや望む答えを引き出す為の画策は諜報の初歩ってわけで、ある一定ラインを侵さないなら父は寛容だからな。俺に実害がないならと泳がせてたらしい。俺が相手に興味を持てればもしかしたら娶る選択肢もあったかもしれないが……ああいうのは然程珍しくないから興味も無かったな」

「実害がないってあらぬ噂で実害被ってるじゃねーか……お前と寝ただの何だの吹聴されてたし。諜報の深い仕事も担当してたから処女じゃねーのは分かってる癖にバカどもが寝たなら責任をとか言われてたんだぞ。おまえ自分のことなのに放置しすぎだからバカどもが騒ぐってのに。公爵夫人が噂や責任問題の話は私どもが把握する事実はないって一言ぶった斬って終わったらしいけど」

「あー、母は女のあざとい小手先とか姑息な手段とかそういう類を嫌うからな。惚れた男には正々堂々を好むらしい。仕事では小手先とか姑息なことも山程使うだろうから仕事関係ないところでは、そういうのと無縁な日常を俺の生活にも望むんだろう」

「ふーん……まぁアレを遠ざけてくれたんだからどんなでもいいさ。オレもアレはおまえの隣には相応しいと思えないし。あんなんが次期公爵夫人の座に座った日にはろくでもないことしかしでかさない気がするからな」

 顔を歪めて嫌がるシルヴァンを見てクリスティアンは笑い声を漏らす。

「なんだよ」
「はははっ。いや、何だかんだ心配してくれるんだなと思って」
「おまえじゃねーよ、オレの勤め先の公爵家の心配だよ。オレの積年の恨みは晴れてないんだからな? 自惚れんな」

 カッと目を剥いて否定するシルヴァン。
 おまえじゃないと強調しながらも、実は色々と調べてくれていたのをクリスティアンは上がった報告から全て知っている。

「とりあえず!! アレが戻ってくるんだ警戒しろ!!」
「分かってる分かってる。プルメリアには傷一つつけさせるつもりはないよ。心も体にもね」

 なんだよニヤニヤしやがって。とブツブツ文句を言いながら書類仕事に戻るシルヴァン。

 昔は守るものも守りたいものなかったから放置していた。
 バートランドのような女はクリスティアンの今までの人生の中で腐るほどいた。
 同じ諜報に属する者の中にも、社交界の中にも。
 もっというならクリスティアンが初めてお茶会に参加した時にもいた。
 処理するのはいつでも出来た。
 一定のラインさえ越えなければほっとくことにしていた。
 だが、今は守るものも守りたいものも―――
 以前のクリスティアンと同じ様に考えて侮り大切にしようと思うものを害そうとするなら手加減はしない。

「シル、おまえの女性のタイプって色気のある?」
「何だいきなり……色気? まさかアレを押し付けようとしてるんじゃないだろうな。色気のある女は好きだがアレは無理! オレに押し付けて楽しようとしないで自分で処理しろ!!」

 シルヴァンの怒声が二人だけの執務室にいつものように響き渡ったのだった。


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