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世話焼き侍従と訳あり王子 第一章
1-1 オウゴンマサキの男
「ヘインズ公爵でしょうか」
オウゴンマサキの新芽みたいな金髪とヒスイカズラを思わせる青い瞳に見下ろされたのは、エリオットがまさに平穏な日常から逸脱した結果だった。
一応言いわけしておくと、宅配業者だと思ったのだ。きょう届く予定の荷物があり、いつもなら宅配ボックス届けにするものを、タイミングよくトイレに降りてきたところで呼び鈴が鳴ったものだから、ついでに受け取ってもいいかと玄関を開けたのが間違いだった。
くしを入れていないぼさぼさの髪に、ろくに手入れをしていない土と毛玉まみれのジャージと言うダメ人間代表みたいな格好で、エリオットは唸る。
「新聞、配置薬、宗教お断りだ」
「お待ちを」
秒で閉めかけたドアに、靴の先が突っ込まれた。
慣れていやがる。
数センチの隙間からでも、上等な燕尾服を張り付けた厚い胸板が押しの強さを主張してくる。ぴかぴかに磨かれた革靴のつま先を蹴り出すより早く、低く通る声が告げた。
「王太子殿下の遣いの者です」
なお悪いじゃないか。
「名前は?」
「失礼いたしました。侍従を務めております、アレクシア・バッシュと申します。殿下より書簡をお預かりしてまいりました」
「アレクシアって……あんた、女?」
「まことに申し訳ございませんが、男でございます」
そうでございましょうとも。
こんながたいのいい男に、アレクシアなんてかわいい名前をつける親の顔が見てみたい。
まぁ、名付けたときはこんな成長するとは思っていなかったのかもしれないが。それにしたって男として生まれたんだから、もう少し考えてやってもいいだろうに。
まったく引く気のない男に顔をしかめ、エリオットはドアノブから離した手を握りこむ。
「一般的でない親を持つと苦労するな」
「お気遣い感謝いたします」
お気遣ってねーよ。
名前に関してはさんざんからかわれて来たのだろう。開いたドアからふたたび現れた男の顔が、くっと口の端を上げて笑みを作る。業務用の、見事なまでの愛想笑い。
上等なのは服だけではなかった。
わずかに斜めを向いた顔は嫌味なくらい高い鼻が輪郭の頂点を極め、髪を上げてさらされた広い額は知性的だ。それぞれ完ぺきな造形のパーツが、しかるべき場所に収まっている。世の芸術家どもがジャンルを問わずモデルに請いそうな外装だ。オークション形式にしたらさぞ高値が付くに違いない。さすが、小国と言えど王宮。使用人まで一級品である。
ダビデ像のモデルですと言われても頷いてしまいそうな男は、分度器でも内蔵しているのかきっちり三十度のお辞儀をし、タイル張りの玄関に足を踏み入れた。
「ご明察の通り、少々障りのある名前でございます。アレク、もしくは単にバッシュとお呼びください」
やけに余裕ぶった態度。ただのメッセンジャーボーイの名前を呼ぶ必要なんて、どこにあるのか。
舌打ちして差し出された白手袋から目をそらし、少しでも広いリビングへと逃げ込む。「どうぞおあがりください」と招き入れたわけでもないのに、侍従はリビングの戸口まで遠慮なく侵入してきた。
オウゴンマサキの新芽みたいな金髪とヒスイカズラを思わせる青い瞳に見下ろされたのは、エリオットがまさに平穏な日常から逸脱した結果だった。
一応言いわけしておくと、宅配業者だと思ったのだ。きょう届く予定の荷物があり、いつもなら宅配ボックス届けにするものを、タイミングよくトイレに降りてきたところで呼び鈴が鳴ったものだから、ついでに受け取ってもいいかと玄関を開けたのが間違いだった。
くしを入れていないぼさぼさの髪に、ろくに手入れをしていない土と毛玉まみれのジャージと言うダメ人間代表みたいな格好で、エリオットは唸る。
「新聞、配置薬、宗教お断りだ」
「お待ちを」
秒で閉めかけたドアに、靴の先が突っ込まれた。
慣れていやがる。
数センチの隙間からでも、上等な燕尾服を張り付けた厚い胸板が押しの強さを主張してくる。ぴかぴかに磨かれた革靴のつま先を蹴り出すより早く、低く通る声が告げた。
「王太子殿下の遣いの者です」
なお悪いじゃないか。
「名前は?」
「失礼いたしました。侍従を務めております、アレクシア・バッシュと申します。殿下より書簡をお預かりしてまいりました」
「アレクシアって……あんた、女?」
「まことに申し訳ございませんが、男でございます」
そうでございましょうとも。
こんながたいのいい男に、アレクシアなんてかわいい名前をつける親の顔が見てみたい。
まぁ、名付けたときはこんな成長するとは思っていなかったのかもしれないが。それにしたって男として生まれたんだから、もう少し考えてやってもいいだろうに。
まったく引く気のない男に顔をしかめ、エリオットはドアノブから離した手を握りこむ。
「一般的でない親を持つと苦労するな」
「お気遣い感謝いたします」
お気遣ってねーよ。
名前に関してはさんざんからかわれて来たのだろう。開いたドアからふたたび現れた男の顔が、くっと口の端を上げて笑みを作る。業務用の、見事なまでの愛想笑い。
上等なのは服だけではなかった。
わずかに斜めを向いた顔は嫌味なくらい高い鼻が輪郭の頂点を極め、髪を上げてさらされた広い額は知性的だ。それぞれ完ぺきな造形のパーツが、しかるべき場所に収まっている。世の芸術家どもがジャンルを問わずモデルに請いそうな外装だ。オークション形式にしたらさぞ高値が付くに違いない。さすが、小国と言えど王宮。使用人まで一級品である。
ダビデ像のモデルですと言われても頷いてしまいそうな男は、分度器でも内蔵しているのかきっちり三十度のお辞儀をし、タイル張りの玄関に足を踏み入れた。
「ご明察の通り、少々障りのある名前でございます。アレク、もしくは単にバッシュとお呼びください」
やけに余裕ぶった態度。ただのメッセンジャーボーイの名前を呼ぶ必要なんて、どこにあるのか。
舌打ちして差し出された白手袋から目をそらし、少しでも広いリビングへと逃げ込む。「どうぞおあがりください」と招き入れたわけでもないのに、侍従はリビングの戸口まで遠慮なく侵入してきた。
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