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訳あり王子と秘密の恋人 第二部 第四章
4.ごめんなさいは明確に
スタッフたちが仕事に戻り、ライブラリーにはキャロルとイェオリ、エリオット、それにバッシュの四人だけが残った。それから、一喝されて落ち込んだけど、ふたりで慰めて撫でてやったらすぐ甘えたに戻ってくれたルードも、エリオットの足元に寄り添っている。
「誓っていうけど、あなたが『苦手だ』っていったこと、忘れてたわけじゃないの」
まだショックから抜け切れていないのか、ベージュのトレンチコートを膝に抱えたまま、キャロルは弁解した。
もちろんそのはずだ。サイラスも以前、「苦手」と聞いて思いつくのは、潔癖症くらいだといっていた。彼女もそう思っていただろうし、エリオットもあえて訂正はしなかった。こんなことになるとは想像もしていなかったから。いい加減、「ひとが怖いので触れないでください」という札でも作って首にかけておくべきかもしれない。
「分かってるよ。これはおれの問題だから、キャロルのせいじゃない」
「いいえ。起こすなら声をかけるだけでよかったのに、これくらい大丈夫だろうってあなたの問題を真剣に考えなかった、わたしがいけないの」
初めてこの屋敷へ突撃してきたとき、わざと触れようとした人物とは思えない言葉だ。この数ヶ月で、エリオットに友情を感じてくれているらしい。
しかしだ。そもそも、アポなしで尋ねてきた彼女がひとりでライブラリーにいた理由は、エリオットがした「お客さまが来たら通せ」という指示を、クレイヴが正しく遂行したからだった。エリオットが想定したのはバッシュだったが、そこまで伝えていなかった自分が悪い。つまり自分で蒔いた種だ。事情を聞いたイェオリにも、「スタッフへの指示は正確に願います」と叱られた。
エリオットとしては、むしろ「起こしてくれてありがとう」といいたいくらいなのだが。
どうしたもんかな。
困り果てて頬をこする。
「レディ・キャロル」
口を開いたのは、エリオットの隣に座ったバッシュだった。
「率直にお話ししても構いませんか?」
「……えぇ」
キャロルの視線が、一瞬下がる。パニックの発作が落ち着いてからも、エリオットはずっとバッシュの手を握っていた。ふたりの関係は語るまでもないだろう。
「ご自分でおっしゃる通り、あなたは軽率でした。いくら彼の許可があろうと、侍従の同行を願い出るべきでしたし、彼に触れてはいけませんでした。『友人』であろうと、あなたは部外者であり、レディとしての節度があります」
「その通りだわ」
「おい」
思わず口を挟みかけたエリオットへ、バッシュが目を向ける。
「そしてお前は、相手の気遣いに甘えず、自分の問題を話しておくべきだった。『苦手』なんてあいまいな言葉ではなく、パニック発作を起こすくらいの『恐怖症』だと」
「あんた『一族だろうと信用するな』っていっただろ!」
「彼女と親しくなってからもお前が話さなかったのは、問題が起きていなかったからで、おれの忠告に従っていたわけじゃないだろう」
うっ、鋭いな。
エリオットはぼそぼそと口の中で反論した。
「でも、全部を話さないことが誠実じゃないと言えないって……」
「顔見知り程度ならそうだ。けどな、友人にランチに誘われたら『アレルギーで食べたら死ぬからエビ料理以外で』くらいいうだろう。そういうことだ」
「そんなんどこからがランチ友達レベルなんだよ。キャロルとランチなんて、行ったことないからな」
「どこってお前……あぁ、まったく。お前の対人スキルの低さときたら……」
「あ?」
ケンカ売ってんのか。売ってんだな?
「ちょっといいかしら」
額を突き合わせて睨み合うふたりに、キャロルが割り込んだ。頭痛でももよおしたような顔をしている。
「まず手を繋いだまま痴話げんかするの、やめてくれる?」
真面目な話が全部バカバカしくなるから。
大きなため息をついたキャロルは、腰かけた椅子で腕を組んだ。
「あなたのこと知ってるわ。サイラスの侍従よね?」
「アレクシア・バッシュです」
「そう。わたしのことは知ってると思うけど、一応名乗っておくとキャロル・ジェナ=バジェット」
「では以後お見知りおきを、レディ・キャロル」
「キャロルでいいわ」
お互い、いい感じに偉そうな挨拶を交わしたあと、キャロルはエリオットに向かっていった。
「彼のいう通り、わたしは軽率だった。そしてあなたは、重要なことをわたしに黙っていた。今回の原因はそのふたつで、どちらも非を認めて謝罪する気持ちがある。そうよね?」
「うん」
「じゃあ、この話はこれでおしまい。わたしは今後、自分からあなたに触れたりしないようにする。あなたも、危ないときは避けてちょうだい」
「そうしよう」
それでいいよな? とバッシュを窺うと、頼りがいのある頷きが返ってきた。
「誓っていうけど、あなたが『苦手だ』っていったこと、忘れてたわけじゃないの」
まだショックから抜け切れていないのか、ベージュのトレンチコートを膝に抱えたまま、キャロルは弁解した。
もちろんそのはずだ。サイラスも以前、「苦手」と聞いて思いつくのは、潔癖症くらいだといっていた。彼女もそう思っていただろうし、エリオットもあえて訂正はしなかった。こんなことになるとは想像もしていなかったから。いい加減、「ひとが怖いので触れないでください」という札でも作って首にかけておくべきかもしれない。
「分かってるよ。これはおれの問題だから、キャロルのせいじゃない」
「いいえ。起こすなら声をかけるだけでよかったのに、これくらい大丈夫だろうってあなたの問題を真剣に考えなかった、わたしがいけないの」
初めてこの屋敷へ突撃してきたとき、わざと触れようとした人物とは思えない言葉だ。この数ヶ月で、エリオットに友情を感じてくれているらしい。
しかしだ。そもそも、アポなしで尋ねてきた彼女がひとりでライブラリーにいた理由は、エリオットがした「お客さまが来たら通せ」という指示を、クレイヴが正しく遂行したからだった。エリオットが想定したのはバッシュだったが、そこまで伝えていなかった自分が悪い。つまり自分で蒔いた種だ。事情を聞いたイェオリにも、「スタッフへの指示は正確に願います」と叱られた。
エリオットとしては、むしろ「起こしてくれてありがとう」といいたいくらいなのだが。
どうしたもんかな。
困り果てて頬をこする。
「レディ・キャロル」
口を開いたのは、エリオットの隣に座ったバッシュだった。
「率直にお話ししても構いませんか?」
「……えぇ」
キャロルの視線が、一瞬下がる。パニックの発作が落ち着いてからも、エリオットはずっとバッシュの手を握っていた。ふたりの関係は語るまでもないだろう。
「ご自分でおっしゃる通り、あなたは軽率でした。いくら彼の許可があろうと、侍従の同行を願い出るべきでしたし、彼に触れてはいけませんでした。『友人』であろうと、あなたは部外者であり、レディとしての節度があります」
「その通りだわ」
「おい」
思わず口を挟みかけたエリオットへ、バッシュが目を向ける。
「そしてお前は、相手の気遣いに甘えず、自分の問題を話しておくべきだった。『苦手』なんてあいまいな言葉ではなく、パニック発作を起こすくらいの『恐怖症』だと」
「あんた『一族だろうと信用するな』っていっただろ!」
「彼女と親しくなってからもお前が話さなかったのは、問題が起きていなかったからで、おれの忠告に従っていたわけじゃないだろう」
うっ、鋭いな。
エリオットはぼそぼそと口の中で反論した。
「でも、全部を話さないことが誠実じゃないと言えないって……」
「顔見知り程度ならそうだ。けどな、友人にランチに誘われたら『アレルギーで食べたら死ぬからエビ料理以外で』くらいいうだろう。そういうことだ」
「そんなんどこからがランチ友達レベルなんだよ。キャロルとランチなんて、行ったことないからな」
「どこってお前……あぁ、まったく。お前の対人スキルの低さときたら……」
「あ?」
ケンカ売ってんのか。売ってんだな?
「ちょっといいかしら」
額を突き合わせて睨み合うふたりに、キャロルが割り込んだ。頭痛でももよおしたような顔をしている。
「まず手を繋いだまま痴話げんかするの、やめてくれる?」
真面目な話が全部バカバカしくなるから。
大きなため息をついたキャロルは、腰かけた椅子で腕を組んだ。
「あなたのこと知ってるわ。サイラスの侍従よね?」
「アレクシア・バッシュです」
「そう。わたしのことは知ってると思うけど、一応名乗っておくとキャロル・ジェナ=バジェット」
「では以後お見知りおきを、レディ・キャロル」
「キャロルでいいわ」
お互い、いい感じに偉そうな挨拶を交わしたあと、キャロルはエリオットに向かっていった。
「彼のいう通り、わたしは軽率だった。そしてあなたは、重要なことをわたしに黙っていた。今回の原因はそのふたつで、どちらも非を認めて謝罪する気持ちがある。そうよね?」
「うん」
「じゃあ、この話はこれでおしまい。わたしは今後、自分からあなたに触れたりしないようにする。あなたも、危ないときは避けてちょうだい」
「そうしよう」
それでいいよな? とバッシュを窺うと、頼りがいのある頷きが返ってきた。
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