箱庭の子ども〜世話焼き侍従と訳あり王子〜

真木もぐ

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訳あり王子と秘密の恋人 最終章

2.またね

 スマートフォンに保存された最新のペット写真自慢まで話が及んだころ、いよいよ搭乗の時間が来た。そのあいだ話に加わるでもなく傍にいたバッシュに、キャロルは花束を持っていないほうの手を差し出す。

「迷惑をかけて申し訳なかったわ。色々とありがとう」
「幸運を」

 バッシュが握り返すと、彼女はエリオットの方へ頭を傾けた。

「最後に少しだけ、あなたの恋人を借りてもいいかしら」
「すぐに返してくださるなら」

 おれは貸出品じゃねーぞ。

 エリオットはバッシュの靴を踏みつけたあと、手招くキャロルと一緒にガラス張りの壁際に寄った。

「ずっと聞きたかったんだけど」
「なにを?」

 キャロルは突き出たステンレスの手すりにもたれた。脇を通り過ぎていくスーツケースが雷のようにゴロゴロと床を鳴らし、雨粒がこびりついた強化ガラスから見える空には憂鬱な薄曇りが広がっていたが、彼女はレンズの奥で好奇心に輝く瞳を瞬かせる。

「彼」
「彼?」
「どういう馴れ初めなの? たしかにありえないくらいいい男だけど、王子さまと付き合うようなタイプには見えない」
「そんなこと?」
「最後なんだからいいでしょ」

 キャロルは身を乗り出しかけ、エリオットが大きく一歩下がったのを見て、慌てて手すりを掴みそれ以上の接近を自重した。

 エリオットは両目をぐるりと回す。

 女子って本当に……。

 帽子の上から頭をかいて、エリオットはため息をついた。

「ラスの結婚式で、選帝侯をやっただろ。久しぶりの公の場だったから、調整役で来たのがあいつ」
「サイラスの結婚がきっかけの、運命の出会いってわけね」

 もし国民に公表するときが来たら、それが公的な馴れ初めになるだろう。

 穏当で、もっともらしい理由。

「でも本当は、子どものころに箱庭で会ってたんだ」

 エリオットが続けると、キャロルはロマンスをかぎつけた少女のように頬を上気させたが、慎重さを忘れてはいなかった。

「わたしは早いうちからレッスンを始めてたから、箱庭へは頻繁に行ってないんだけど……彼、貴族じゃないでしょ?」

 彫像のように佇むバッシュを、エリオットは横目で見た。話には入らないくせに、じっとこちらを見つめている視線とぶつかる。
 自分のことが話題にあがっていることに気付いているが、軽く顎を傾けただけでなにもいわなかった。キャロルがもう、「警戒しなければならない親戚」ではないと判断したのだ。

「外交官の息子で、箱庭にいたのはほんの少しの間だけだったよ。それきり会ってなくて、この夏に再会した。向こうはぜんぜん覚えてなかったけど──」

 エリオットはキャロルへと目を戻し、秘密を握った手を開いて見せた。彼女が美術館でそうしたように。

「おれはずっと好きだった」

 キャロルは息をのみ、胸の前でブーケを握った。あまりに力を入れるものだから、透明なセロファンと赤色の不織布がくしゃりとゆがむ。滞在先までバラがもつだろうかと、エリオットは心配になった。

「つまり初恋で、身分違いで、再会して付き合ってるってこと? 本当に運命ね! ニコラス・スパークスじゃない!」

 ひそひそ声で、キャロルがまくしたてた。

 あぁ、「きみに読む物語」の原作者だっけ?

 恋愛を主題にした映画はあまり見ないから、若い頃のライアン・ゴズリングが出てたことくらいしか知らないけど。

 キャロルのはしゃぎっぷりを見ると、再会物語もウケるかもしれない。

「想像以上にいい話が聞けてよかったわ」
「守秘義務契約の残り期間で忘れてほしいな」
「心配なら、また延長してもいいわよ」

 キャロルが茶化していい、エリオットは「いや」と答えた。

「その先は『友達』を信じてる」

 キルトのスカートを翻して保安検査のゲートに向かいかけた彼女は、数歩進んだところで振り返る。この数か月、エリオットが知っているなかで一番の笑顔だった。

「わたしたち、いい友達でいましょうね」
「そう願ってるよ」

 送り出すのにふさわしいものであるように願いながら、エリオットも笑って手を振った。

「またね」
「えぇ、また」
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